時刻は8時30分。
少年は普段、師匠の仕事を手伝っているのだが今日は何もない日だ。だからこそ、今から素材を集めに行こうと考えた。
杖の素材に必要なのは、木と石と魔力。もちろんすべてを集めなければいけないが、まずは木を探すことにする。少年は師匠と同じ色のローブを着ると、カバンを持って玄関へと向かう。
「弟子くん。お昼ご飯忘れてるわよ」
そういって師匠はパンと水筒の入った布袋を少年に投げる。少年は布袋を受け取ると鞄に詰め込んだ。
「ちゃんと味ある?」
「それは食べてみてのお楽しみよ」
あまり期待できないな、と少年は眉をひそめながら扉をひく。
「あと弟子くん」
「なに」
「契約は絶対守ってよね」
「…わかってる」
最後にそんな会話を交わして、少年は外へと出かけた。
〇
少年が街を少し歩いて向かったのは、市場だ。
レンガの地面の上に沢山のテントが無造作に建てられており、大きさも形も色も違う。どのテントも看板がでかでかと掲げられ、商品が無造作に机の上や地面に敷いた布の上に置かれている。そして店主が道行く人に話しかけており、市場のどこにいても会話が絶えることはない。
この市場の名前は、七色市場。
なんでもあるけど見つけれるかはあなた次第、がキャッチフレーズの迷路市場だ。
初めて来たなら、子供も大人も確実に迷子になるであろう場所だが、少年は落ち着いている。師匠と一緒に一度だけ来たことがあるのだ。そしてその時に、市場の人から地図をもらっている。
少年は鞄から小さな紙きれを取り出す。そしてその紙切れに水筒の水を一滴かけると、みるみるうちに膨らみ、文字が浮かぶと立派な地図になった。
少年は地図を見る。今日行く場所は木を取り扱っている場所だ。地図には場所と店名しか書いてないので、それっぽい商品が売ってる名前を探す。しばらくして少年の目がとまる。
「…魔法木材専門店『蜂蜜の木』」
名前だけで見るなら、一番ここが杖の木を売ってそうだ。少年はこの店を目指して地図通りに進む。
「目玉模様のテントを右」
「リンゴの木まで進んで右」
「カボチャ屋を左」
「90度に曲がった街灯を右」
「…いつも寝ている老人を右」
「……笑顔が可愛い子供店主を左」
「………イチゴのパイが好きな黒猫を右」
地図通りに少年が進むと、一つのテントの前に辿り着いた。少年は少し不安そうな顔でテントのほうを見ると、少年に気づいた店主が大声で叫ぶ。
「あなたのハートをぶっこわす! ブレイク・ブレッドにようこそ!!」
白いコック帽をかぶった褐色の女性がミュージカルのような動きで少年に手を指し伸ばす。少年は店主の手を取り、首をかしげる。
「…ここどこ?」
甘いパンの香りがする。
〇七色市場
たくさんの人が行きかう市場で、無数に並ぶテントの色がカラフルな見た目であることから、七色市場と呼ばれている。この市場の店と商品を完全に把握している人物は数人しかおらず、謎の多い場所。ここでは様々な商品が売られているが、店が多くあるので目的のものを探すのは難しい。探し上手な人なら品ぞろえ豊富な市場であるが、探し下手な人なら何もない場所だと感じるだろう。なお、商品も癖が強いが店主も負けないぐらいに個性的だ。訪れる者の能力が試される場でもある。