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「よかった、警備ドローンに車差し止められてなくて…」
舞白の低層マンションの脇に停められた1台の車。
思ったより長く停めていた為、差し止められたらどうしようかと、内心ヒヤヒヤしていた。
「言ってくれれば、お兄ちゃんのところ空いてたから使えばよかったのに」
「…まさか、舞白があんな状態で出てくるなんて思ってなかったからよ…」
車のエンジンをかけ、少し涼しくなるのを待とうと、2人で車に寄りかかる。
ふと、霜月は舞白の容姿を横目で見る。
いつもはパンツスーツで私服はあまり見なれていなかった。
シンプルな白いTシャツ、細いスキニージーンズに、白いスニーカー。
ボーイッシュな黒いキャップを被り、首には珍しくネックレスを巻いていた。赤いハートが付いた…
「舞白って、あんなによく食べるのに細いわね…」
丈が短いTシャツからは、腹筋が割れた細い腹部が露になる。
しかしよく見ると、手術痕があることに気づく。
「確かによく食べるけど、その分動いてるし。
出勤した時は、大体スパーリングロボでトレーニングもしてるんだよ?これでも」
「相変わらずストイック…
…それにその傷…」
腹部の手術痕、それは過去に泉宮寺豊久と対峙した時に傷ついたものだった。傷跡は薄くはなっているものの、痛々しく感じる。
「私、気づいたら色んなところに傷が出来てるんだよね。
…ほら、新疆ウイグルの時の傷もあるし。私昔っからよく怪我をする子なんだよね…」
特に深刻そうでもなく、むしろ呑気に振る舞うその姿に、若干哀しさも感じる。
あくまでも舞白は女の子だ。多少は傷ついている面もあるはずだと、霜月は考えていた。
「そろそろ冷えたんじゃないかな?」
「…ぁ…、うん、そうね?」
2人は車に乗り込み、ササッと舞白が行き先を設定するために、助手席からナビが表示されたモニターに手を伸ばす。
行き先をどことも言わずに住所を打ち込む。
今日の行先は、舞白がどうしても行きたい場所だとずっと口にしていた。
しかし、着くまで秘密らしい。
「ねぇ。ちなみにその場所って、どこで知ったの?」
商業施設なのか、水族館や動物園なのか、はたまた遊園地なのか。
一切場所のヒントを明かさない舞白に疑問を持つ。
舞白は行き先を設定し終わると、その問いかけに答えた。
「雑賀譲二さん…、覚えてる?
確か聞く話によると、少しだけ刑事課の分析官を務めてたんだよね?」
まさかの人物の名前に、霜月は驚きの表情を向ける。
雑賀譲二…、霜月が苦手としていた人物…。
「雑賀先生がね、凄くいいところだよって教えてくれたの。
だからどうしても行きたくて…」
「待ちなさい、そこは何も害はない場所?安全?」
「…美佳ちゃん。雑賀先生をなんだと思ってるの?」
あまりにも否定的な雰囲気を持つ霜月を、細い目でジーッと見つめる。どうやら信頼はしていないらしい。
「だって、怖すぎるでしょ?あの人が言う、いい所って…」
「大丈夫大丈夫!私も行ったことは無いけど、絶対いい所だから!」
運転席に座る霜月の肩を、ぽんぽんっと叩く。
全く説得力のない舞白の言葉に、深くため息を吐く。
「…もし何かあったら、全部あんたの責任よ?
色相が濁らない、免罪体質者の舞白には何も怖いものはないと思うけど…」
「だから、大丈夫だって。
むしろ色相が良くなる場所かも…」
行き先がどんな所か分かっている舞白は、必死に霜月に言い聞かせるように肩を叩く。
さすがにここまで来て、むしろ行きたがっている舞白の意向を踏みにじる訳にも行かず、車を動かし始める。
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車を動かし始めて、10分後。
2人は早めに昼食を摂ろうと、ファストフード店のドライブスルーに駆け込む。
「えーっと…、
チーズバーガーに、テリヤキチキンバーガー、
あとポテトと、オニオンリング、飲み物はアイスコーヒーで!」
ありえない量を注文する舞白に驚きつつも、いつもの事だと分かっていれば何も口出しはせず。
霜月も普通のハンバーガーセットを頼む。
「こうやって、誰かとドライブスルーでランチなんて久しぶりだなぁ…」
「久しぶり?誰かと来たの?」
「2ヶ月前くらいに、花城さんに連れられて、それ以来」
「…あぁ、花城フレデリカね…」
心の中では"いけ好かない金髪"と唱えていた。
そして、支払いも無事済ませると、再び運転再開。
自動運転に切り替えると、2人は車内で食事を始める。
「ハンバーガー代、私の分までありがと、舞白」
「車も出してもらってるのに、これくらい払わせてよ」
「あんたって意外と、そーいうところ律儀よね?」
いつもは呑気で、ヘラヘラしてるような様子だが、
なんだかんだちゃんとしている所や、この姿からは想像できないほどの能力に関心していた。
恐らく、そういう所が霜月は気に入っているのかもしれない。
「何よ、意外って。親しき仲にも礼儀あり、
親しいからこそ、私はちゃんとしたいの、そーいう事は」
ふんっ、と口を尖らせながらも、パクパクと食べ進めていく。
その食べっぷりを見るだけで、十分空腹が満たされていく気がする霜月。
「ちょっと聴きたい曲があって、少しだけ流していい?」
急に何を口にするかと思えば、何やら聴きたい音楽があるらしく、霜月もそんな舞白に興味を示す。
「別に構わないわよ?」
「ありがとう、美佳ちゃん。
…昨日出たばっかりの新曲で…」
舞白は何やらデバイスを操作し、車のオーディオに曲を転送する。
そして流れた曲は…
アップテンポな曲。
そして、女性の美しい声が響き渡る。
「あんた、小宮カリナなんて聴くの?意外なんだけど」
流れた曲は、アイドルの小宮カリナの新曲だった。
舞白がそんなものに興味がある事が意外すぎて、驚きを隠せない。
「えー?だって可愛いし、昔からモデルとかしてたでしょ?」
「確かに、シビュラ適性で選ばれてるわけだから、そりゃ可愛いしキレイだし…。
…でも知ってる?噂によると、政治家に転身するとか」
その言葉に、ポロッと手からポテトを落とす舞白。
どうやらショックだったらしい。
「…え?嘘でしょ?
政治家?だってそうなったら…もうアイドル活動とかしなくなるでしょ…」
「そりゃそうだと思うわよ?詳しくは分からないけど…」
ガックリ肩を落とす舞白に、"たかがそんな事で"と可笑しくてついつい笑ってしまう。
「ちょっと!笑わないでよ!
…やっと日本に帰ってきて、小宮カリナが歌って踊ってるのを見て、すごく嬉しかったのに…」
「まあまあ、政治家になれば、運がよければ関われる日が来るかもよ?
そう考えれば悪くないんじゃない?」
「…確かに…」
パッと顔を上げ、直ぐに気持ちが切り替わる。
どうもそれがツボに入ったらしく、霜月はケラケラと笑い始める。
「そうだよね?確かに!
…でも外務省ってあんまり関係ない気が…。
でも最悪、美佳ちゃんにサインを頼めばいいか?」
ポンッと手のひらに拳を打ち付け、閃いたような表情を浮かべる。
その様子に、霜月は未だに笑い続けていた。
「そんなに笑わないでよ!
…もう恥ずかしいから、やっぱり曲止める!」
「別に聴いたらいいじゃない!」
車内はギャーギャーと盛り上がる。
仕事の時では考えられないほど、穏やかな光景。
同い歳だからこそ、そして全くキャラが違うからこそ、ここまで仲良くなれたのかもしれない。
2人はそう考えていた。
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