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ガタガタと揺れる車体。
整備されていない地面を進んでいく度に霜月の表情が曇っていく。
そして暫くすると車両は停止。
ナビで指定された場所。
駐車場など見当たらず、木々覆われた、細い獣道のようなものが見えるのみ。様子を見る限り、恐らく何年も人が近づいていない雰囲気を醸し出していた。
「…ねぇ、本当にここで合ってるの?」
あまりにも怪しすぎる場所なのに、助手席からその様子を眺めている舞白はワクワクしている様子だった。
「あの道を進んでいけば目的地のはず。ほら行くよ、美佳ちゃん」
「…何かあったら本当に責任取らせるわよ…」
ここまで来たなら腹を括るしか無い、と覚悟を決めた霜月は、文句を口にしながらも車を降り、舞白の後をついていく。
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歩き続けて5分ほど。
舞白はデバイスのマップを確認しながら進んでいく。
環境ホロも一切何も使われていなければ、もちろんスキャナーなども無い。システムから一切遮断された場所、そこはまるで大昔の日本の姿そのものだった。
美しい水が流れる川、本物の鳥の鳴き声、柔らかい木漏れ日。
全てが新鮮に感じる2人は、その景観に目を奪われていた。
「…私、こういうところ初めて来たわ。一切ホロに侵害されてない場所…」
「私も久しぶりかも。」
「久しぶり?」
「うん、昔はよくお兄ちゃんと雑賀先生の家に行ってて…。先生の家の周辺ってこんな感じなの。環境ホロを一切使ってなかったから」
「あの人、そーいうの嫌いそうだもんね…」
あの雑賀なら、確かにそうかも。と、霜月は妙に納得していた。
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更に進んで10分ほど。
時たま川縁などで休憩を挟みつつ、進んでいく2人。
すると、舞白は目的地周辺だと分かれば、突然その場で足を止める。
同じように霜月も足を止めると、舞白へ視線を送る。
「もう目的地?」
「…そうだね、この先。
という事で…」
くるっと、舞白は背後の霜月に振り返ればニコニコと満面の笑みを向ける。その様子に、ギョッと後退りする霜月。その表情を見る限り、何か嫌な予感がすると察知する。
「はい!ここからは目を瞑って?
地面の状態も悪くないし、私がしっかり手を掴むから。」
「はぁ!?意味わかんない。目的地がどんな所かも教えてくれない癖に、そんな事しないわよ。」
「まあまあ、別に拘束する訳じゃないんだし。本当に怖くなったら目を開けてくれればいいから。…開けて欲しくないけど…」
嫌だと言わんばかりに両腕を組み、顔を背ける。
頑なに拒否する霜月に、舞白はニヤリと笑みを浮かべれば、デバイスに触れ、とある写真を見せつける。
デバイスから映し出された写真。
「なっ……あんたこの写真…」
どうやら以前、舞白と仕事終わりに飲みに行った様子の写真。
机に突っ伏して、明らかに酔っ払った状態の霜月だった。
「本物のお酒を飲みに行った記念(しかも廃棄区画の飲み屋)で酔っ払って突っ伏して顔真っ赤にした美佳ちゃんの写真♪」
「………いつの間に…」
相変わらずの行動に頭を抱える霜月。
そしてその写真をとある人物に送ろうと操作する。
「えーっと…朱さんに…」
「ちょっと!あんた何するつもりよ!」
クスクスと意地悪そうに笑う舞白。
「ほら、私を信じて目を瞑って、歩いてくれるだけでいいの。どうする?」
「…本当にあんたって、たまにやること最低よね…」
子供っぽい行動を見せる相手に呆れたため息を吐く。こんな事には慣れていた霜月だが、さすがに常守にその写真は見せる訳にはいかなかった。
「………分かったわよ。ただし、少しでもあんたの誘導に異変を感じたらすぐに目を開けるから」
「大丈夫大丈夫。怪我ひとつさせませんよ〜」
その瞬間、ガッと両手を掴まれる。霜月は少し怯えながらも、ゆっくり瞼を下ろす。すると舞白は本当に見えていないか?と顔の前で手を振ってみたり、じっと顔を覗き込む。
「さっさと連れていきなさいよ!ほら」
「へへへっ、了解です」
幸いにも地面の状態は悪くない為、なんの障害もなく足を踏み出せる。時折、舞白が声をかけながら順調に進んでいく様子だった。
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数分後、再びピタリと2人はその場で足を止める。
先程より風が全身に吹いてくる感覚。
目を閉じている霜月はもちろんその場の状況は一切分からないが、どこか広い空間に辿り着いたのだろうかと予想していた。
「美佳ちゃん、目的地です。
あ!でもまだ目は閉じたままね?」
「……やっと着いたわね…」
律儀に、言われるがまま、きちんと目を閉じ続けた霜月。絶対途中で嫌がって目を開けると思っていた舞白は、霜月のその行動に嬉しく感じていた。
「じゃあ、私がいいよって言ったら目を開けてね。」
離される舞白の手。
「いいよ、美佳ちゃん」
刹那、強い風が吹き荒れるとスカートの裾を反射的に押さえる霜月。そしてバット目を開けると、久しぶりの陽の光と目の前の光景に目を細める。
「…すごい……何この場所……」
一面に広がるヒマワリの花。
もちろん全て本物。大昔から誰の手も加えられず、自然に守られていた秘密の場所。
少し高台に位置する場所からの景色は圧巻だった。
「雑賀先生、こんな素敵な場所知ってるなんて、さすがだよね?」
「………まあ、それは認めるわ」
まるでこの世とは思えない、そんな場所。
広い建物がない分、青く澄んだ空が余計広く感じ、風に靡くヒマワリ達。
舞白はふと、6年前の麦畑を思い出す。
2人は暫く無言でその景色を見つめていた。
多事多端な日々を送る2人にとって、現実離れしたこの景色は心を浄化されるような気分だった。
「はぁ……、なんか疲れた」
ポツリと隣で呟いたのは霜月。
ここまで無理をさせたのかと、舞白は肩を落とす。
「…ごめん、やっぱり疲れたよね」
「違うわよ、そういう事じゃなくて。
…こういう景色見ると、毎日危険な仕事してるんだなって余計感じちゃって。」
霜月らしくない言葉。こんな事を口にするような人じゃないはずなのに、と舞白は考えていた。その霜月の表情は、寂しげで儚げで、かなりの若さでいつも悲惨な光景を目にしている彼女にとって、この景色は何か刺さるものがあった様子だった。
「なんだか、馬鹿馬鹿しく感じるわ。毎日必死にやってる事が」
「…珍しい、そんなこと言うなんて」
ぐーーっと体を伸ばす霜月。
舞白もつられるように体を伸ばす。
「でも、あんたと仕事してると、なんか楽しいって思えるようになったかも」
「楽しい?」
予想外のことを口にする霜月に目を向ける。
霜月は真っ直ぐヒマワリ畑を見つめ、言葉を続けた。
「今までは、マニュアル通りというか、"こうしなきゃ、ああしなきゃ"なんていつも考えてた。シビュラに監視された社会だと余計にね」
自分が正しくなければ、それだけしか考えられなかった。
「でも、あんたのぶっ飛んだ無茶苦茶な行動見てると、なんかそれでもいいのかなって。あんたって、マニュアル通りの事絶対しないじゃない?私と真逆で。というか本当にやることなすこと無茶苦茶…」
「あのー、それは私を貶してる?」
霜月は視線を舞白に移すと、微かに口角を上げる。まるで呆れたような表情だった。
「誰に対しても基本的に悪意を抱かない、すべての人に慈愛を持って自分の正義を固く守る感じ…。目の前の事を成し遂げるためにどんな事でも億さず突っ走る姿勢、私にとっては憧れよ」
「……美佳ちゃん」
ぼーーっと互いを見つめていると、急に我に返る霜月。一体私は何を口にしているんだと、頭を抱える。
「い…今のナシ!嘘嘘!」
「へ〜。そんな風に思っててくれたんだ?」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべる舞白に対し、前言撤回!だと言い張る霜月。どうやらその景色にやられて、本音を口出してしまったらしい。
そんな霜月を他所に、舞白も口を開く。
「でも私、美佳ちゃんの事、1番憧れの対象かも。」
舞白はそっと歩き始めると、ヒマワリの花へと手を伸ばす。
「私と同じ境遇で、接点も多いなって、改めて今日分かった。私は6年間自由奔放に生きてきたけど、美佳ちゃんは監視社会の中で、自分なりの正義を、そして考えを持って生きてる。マニュアル通りに生きないといけない、その気持ちは十分分かる気がする。
…そうしないと、自分が社会から外れてしまう感覚に陥っちゃうから」
長い期間自由に生きてきた舞白にとって、今置かれている監視社会は、正直とても生きづらさを感じていた。
「そんな中で、必死に生きてきた美佳ちゃんは、私にとって憧れだよ。」
ニコニコっと笑みを向けると、霜月も再び微笑を浮かべる。
「てか、写真撮ろうよ!せっかくここまで来たんだから、ほら!」
ちょいちょいと手招きをすると、嫌がることなく歩み寄る霜月。ヒマワリ畑バックにデバイスの写真機能を起動する。
「ちょっと!もうちょっと寄ってよ!」
「……仕方ないわね…」
ツンケンした態度だが、言われた通り更に寄る霜月。
舞白はいつも通りのテンションでピースをすると、霜月は特に何もポーズはせずとも、笑みを浮かべていた。
「はいっ!チーズ!」
写された1枚の写真。
その姿はまるで、刑事課の監視官とは思えない、普通の少女2人が写されていた。
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