【1ノ章―白刃のプレリュ―ド―】
『んー……きゅう…』
大木の窪みの中で仮面をつけた6、7歳ほどの幼い少女は寝返り、コツ…と彼女の顔を覆う様に被せられた仮面が木に当たる。
猫耳を模した物がついた濃い桜色のフ―ド付きパ―カ―。
動きやすいジャ―ジにも似た黒いハ―フパンツ。
靴は黒いスニ―カ―。
そして白い獣を模したような顔を覆う仮面。
目が覚めたのか身体を起こして窪みから顔を出した。
『朝?』
仮面越しから空を見ると森の葉で太陽の光は遮られてはいるが、キラキラと何枚もの木の葉の隙間から光が溢れていた。
『わぁああ!キラキラしてる!』
年相応にはしゃぐ少女―ヒカル―。
窪みから身を乗り出しヒカルは空を見上げた。
『うん!今日もいい天気だね!』
これは、獣や竜、精霊に愛された絆紡ぐ光の物語の始まりである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
―〔あぶない!〕―
『うきゅ?』
聞こえた声に不意にヒカルは自分の足元を見る。
そこは空中、大木の窪みの外は…地面から5mも高い位置にあるのだ。
外の景色に目を奪われていたヒカルはそんなことを忘れていた為…。
足を踏み外し窪みから外へ落ちてしまった。
『きゅううう!?』
すると、したから突風が起こりそれはヒカルが落下するスピ―ドを落とし…。
『ぷきゅっ!』
ベチャッという効果音がつくように突っ伏すようにして落ち、そのまま地面にぶつかってしまう。
落下スピ―ドは抑えていたとはいえ痛いものは痛い。
起き上がりその場に座り込んでヒカルは仮面が割れていないかペタペタと触り確認した。
『よかった、割れてない』
〔ふふぅ?〕
〔ふぅ…ふふふぅ?〕
ヒカルが着ている桜色のパ―カ―についた土汚れを払っていると彼女の周りに2匹の
『心配してくれてありがとう。ボクは平気だよみんな』
〔ふふぅ♪〕
〔ふぅ♪〕
それらをヒカルの前に置きヒカルを見つめる。
『これくれるのかい?』
〔きぃ♪〕
〔ききぃ~♪〕
『ありがとう!いっぱいあるしみんなも一緒に食べようよ!』
ヒカルの言葉を聞いて
みんなが食べ始めているのを見てヒカルは赤い果物を取ってかぶりつく。仮面をつけたまま。
口の中に広がる果物の甘い果汁がヒカルは仮面越しでも分かるほど美味しいらしく果物を食べていく。
すると…精霊たちが何かに気づきヒカルの前に出てそれぞれの魔法を使い飛んできた矢を弾き飛ばし、弾き飛んだ矢はそのまま地面に突き刺さった。
『あ、ありがとうみんな。これ…矢?なんで…』
地面に突き刺さる矢を見ていると、近づく足音に気がつき目線を上げる。
その先には1人の男性が立っていた。
「精霊たちが人間を守るとは、な…。不思議なこともあるものだ」
『お兄さん、誰だい?』
木の影から現れたのは長い耳が特徴的で、長く薄い金色の髪をしたエルフ族の男性がいた。
ヒカルの問いかけに「人間に名乗る名前などない」と矢筒から矢を取り出し、弓を引き…構える。
「忠告する人間、即刻この森より立ち去れ。精霊たちよ、今すぐそのものから離れ…」
〔ふぅ!!〕
「っ!?なにをするケフィア!」
1匹の
〔ふぅ!ふふぅ、ふぅ!〕
「なに?なぜあの人間を……!」
改めてヒカルを見て男性はハッとした。
他の精霊たちが集まりヒカルを守ろうとしていた。
『みんな…危ないよ?はやくボクから離れたほうがいいよ?いいよ?』
それでも退こうとしない精霊たちに彼は弓を下ろす。
「人間、お前はここに何しに来た」
『薬草を探しにきたんだよ。お母さんの怪我に効きそうな薬草。【月光草】って知らないかい?知らないかい?』
「……そのような薬草は【銀の森】には自生していない。子ども、精霊たちになにをした?」
『それは、わからないんだ。みんなが守ってくれるのはいつものことだけど…この森に来てからずっとついて来るんだ』
エルフ族は弓を下ろし、ボソリと…「精霊たちが人間に…」と呟いた。
その言葉にヒカルは首を傾げ、彼を見ていると。
弓を元の武装型アーティファクトであるブレスレットに戻してエルフ族の男性は踵を返す。
「気が変わった。精霊たちがお前を歓迎している。ついてこい、私が知る限りの事で良ければ薬草の場所を話してやろう」
『ホント!』
目をキラキラと輝かせるヒカルはエルフ族の男性へ駆け寄り、ケフィアはヒカルに近寄り甘えるように顔をヒカルの顔に擦り付けた。
『あはははっ♪ありがとう!お兄さん!
「アルヴィン」
『きゅ?』
「私の名前だ。その
『そっか。ボクはヒカルだよ』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アルヴィンの案内でヒカルは森の中にある家を見つけた。
『アルヴィンお兄さんのお家かい?』
家の中に入りヒカルは辺りをキョロキョロと見て回る。
入るとすぐにリビングがあり、自室と思われる部屋が2つあった。
リビングには食料や薪、暖炉…椅子が数個に難しそうな本で埋め尽くされている本棚があった。
ヒカルの問いかけにアルヴィンは答える。
「仮だがな」
「あ、兄さん、ケフィア。おかえりなさ……ど、どうして人間を連れてきたの?!」
部屋の奥から出てきたのは銀髪の女のエルフ。人間から見た見た目は16歳ほどの少女だ。
「森で拾った。精霊たちが歓迎していたのでな、年齢はわからんが人間の歳ならば10にもならんだろう。仮だが保護した」
「いや、そうじゃなくて…異種族嫌いな兄さんが…どうして人間を連れてきたのかって…」
「ケフィアがうるさかったからだ」
〔ふふぅ!!〕
アルヴィンの言葉が聞き捨てならないのかヒカルの腕の中にいたケフィアは両手を上げてプンスカと怒っていた。
アルヴィンは本棚から本を探して全くケフィアを見ようとしない。
「紹介しようヒカル。彼女は私の末妹のアルティナだ。今は2人でこの森を守っている…。近頃、ドラゴニア帝国のケンタウロスたちの動きが不穏だからな」
『ドラゴニア帝国って、なんだい?』
ヒカルの質問にアルティナは目を丸くしてヒカルを見た。
「知らないの?今ヴァレリアの脅威となっている反逆国家よ?」
『うん、知らない。ボクはずっと精霊さんの声を聞きながら薬草探しをしていたから』
ヒカルにアルヴィンはため息をつき、さらに眉間にシワを寄せる。
「人間が精霊の言葉を理解出来ただと?……ますますわからないな、お前は」
それにまたカチンと来たのかケフィアはヒカルの腕の中から出てきてはアルヴィンに〔ふぅ!〕と怒りがこもった鳴き声を上げる。
「わかった、そう怒るなケフィア。手助けはするさ…」
アルヴィンは本日2度目の深いため息をついた。
「【月光草】についてだが、それは確かに自生する場所がある」
『ホント!?』
「でも待って兄さん。この子が探してるあの薬草は手に入ることができないわよ?」
「だからだ」
アルヴィンは本棚から1冊の本を取り出し、その薬草のペ―ジを開いてテ―ブルの上に置いた。
「似たような貴重な薬草で【満月草】というものがある。月煌竜 ガイルナ―スや月の精霊王の魔力に当てられた薬草が突然変異した薬草だ」
『ガイルナ―ス?月の精霊王?』
「ガイルナ―スがいるのはここから離れた国クラント―ル。だが、クラント―ルは今ではドラゴニア帝国との戦線の中…残念だが諦め………」
「えっと、兄さん?」
アルティナの声でアルヴィンは顔を上げ、アルティナを見たが…彼女の表情は曇っている。
不意に向かい側に座っていたヒカルの姿を確認しようとしたが…。
いない。
そして後ろの外に通じる扉は開けっぱなしで…風がピュ―…と通り抜ける。
わなわなと肩を震わせるアルヴィンを見てケフィアは長い耳を小さな手で塞ぎ、それを見てアルティナも同様に耳を塞ぐ。
「人の話は最後まで聞かんか馬鹿者がぁああっ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『ふふ―ん♪やっぱり人に聞いて正解だった!満月草を探せばお母さんのケガが治るんだ!』
鼻歌まじりにご機嫌にヒカルは走る。
薬草がある、そうすればヒカルの母親の怪我を完治することができる。
ふと思い、ヒカルはキキィ!とブレ―キをかけたように急停止する。
『あれ、でも満月草…ガイルナ―スさんのところに生えてるっていってたけど…。ガイルナ―スさんってクラント―ルのどこにいるんだろう』
大事なことを聞かなかったのでコレである。
銀の森のどこかもわからないところで…ヒカルは迷子になっていた。
『まあ、歩けばつくさ!』
―〔じゃあ連れて行ってあげる!〕―
―〔僕たちが連れて行ってあげる!〕―
『きゅ?』
響いた声にヒカルは空を見てまた一歩歩こうとしたが。
ボコ!ボコ!ボコ!ボコ!ボコ!
ヒカルの周りを囲むようにドリルのような角が生え、ゴ―グルのようなグルグルした大きな目をしたモグラのような生き物、
〔ぐ~もも~〕
一斉に鳴くノ―ムたち。
直後…。
ズボ…。
『きゅ…?』
足が膝まで地面にめり込み。
そのまま沼に飲み込まれるようにして地面へ引きずり込まれ…
『うきゅううううう!?』
ヒカルほどの子どもが入れるほどの地下トンネルを時速にして約60キロのスピ―ドで滑り落ちていく。
もちろんそのトンネルを作っていくのは
〔ぐ~もも~♪〕
〔ぐ~もも~♪〕
〔ぐ~もも~♪〕
上機嫌で自慢のドリルを使ってものすごいスピ―ドで穴を掘る
『目が回るぅううう!?』
目がギャグ漫画の渦巻きになりヒカルは抵抗できず滑り…もはや転がり落ちていく。
いったいどこへ連れて行かれるのだろうか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
どこかの洞窟の岩壁に穴が開き、その穴からヒカルは投げ出された。
顔面で岩壁に激突しゴチ―ン!といい音が鳴り、ヒカルはそのままズルズルと落ちて地面の上に倒れた。
『い、いひゃい…』
仮面は無事でも岩壁に激突したのだ、当然痛いものは痛い。
仮面の目の部分から流れる涙をぐしぐしとパ―カ―の袖で拭い、顔を上げた。
『ここ、どこ?』
あたりを見渡すと真っ暗だった。
明かりが欲しいが残念ながらヒカルは魔法を習得していない為、暗闇の中を恐る恐る歩き始める。
『真っ暗でなんにも見えないや。あっちがあっちだか、どっちがどっちだか分からないよ…』
両手を前に出して壁にぶつからないようにウロウロと歩き回る。
だんだん行き先もわからず歩いているせいか、イライラが膨らんできたのか…。
『むぅ…ガイルナ―スさん!出ておいで―!じゃないと目玉をほじくるぞ―!』
某アニメの言葉を言ったヒカルに直後。
―〔ほう?私の目玉をほじくるだと?〕―
『きゅ?』
―〔聞こえるか?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『いまの声、だれだい?』
―〔先程私の名を呼びながら目玉をほじくると言っていたではないか〕―
『うきゅ…いや、そんなこと言われても…真っ暗で見えないから…キミがガイルナ―スさんかわからないよ?』
―〔ほう?姿が見えぬか…。無理もないか、ここは暗い洞窟だ……では、見えるようにしてやろう〕―
『どうするんだい?』
―〔魔力感知は出来るか?周りの岩、草、そして私が発する魔力を感知することを考えれば自然と暗視のフォ―ススキルを身に付けることができる〕―
『ふぉ―すすきる?』
―〔なんだ、フォ―ススキルも知らないのか。まあいい、それは後で教えよう…先ほど言ったことをやってみると良い〕―
頷いてヒカルは目を閉じて、自分の魔力を少しだけ出して周りの魔力を感知しようとした。
『(なんか、キラキラしている。これが石や草の魔力かな?)』
― フォ―ススキル《暗視》発動 ―
目を開くと、そこには真っ暗だった洞窟はなく…昼間のように明るい洞窟が広がっていた。
魔力を帯びた魔鉱石や魔草などをヒカルは見つけた。
『見える!見える!見える―♪』
嬉しそうにきょろきょろと辺りをひとしきり見渡したあと、ヒカルは近くにある月明かりに似た優しい光を放つ花を見る。
『満月草って、これかな?』
―〔どうだ?見えるようになったか?〕―
『あ!うん、ありがと……』
ヒカルは固まった。
声の主の方向を向いたからだ。
その姿を見て思考が一瞬固まったがすぐに驚愕したのか身体がビクゥ!と跳ねさせる。
当然だろう、なにせ…ヒカルの目の前にいたのは…。
白銀の鱗に金色の2本角
淡い紫色の目
背中には強靭な刃のような翼
幼いヒカルにとってはあまりにも巨躯な体躯をした
ドラゴンがいた。
『ど、ドラゴン!?』
―〔どうした?よもや忘れたとは言わせないぞ?私の目をほじくるとか言ったことは〕―
『ごごご、ごめんなさい!ボクまさかドラゴンさんとは思わなくて!』
―〔はっはっはっ!ドラゴンさんか、先程私の名前を呼んでいたではないか…まあ、人間がつけた呼称だがな〕―
『ほんとうに、月煌竜 ガイルナ―スさん?』
―〔いかにも。しかし、こんな小さな客人は初めてだな〕―
嬉しそうな声色で話すガイルナ―スにヒカルはビクビクしながら『へ、へぇ』と返す。
『え、えっと、ボクはヒカル。ここには満月草を探しにきたんだ』
―〔満月草?ああ、私の魔力と精霊王の魔力で突然変異した薬草だな。そこにたくさん生えている、好きなだけ持っていくといい〕―
『いいのかい?!』
キラキラした目でヒカルは聞き返した後すぐに生えていた満月草をブチブチと音を立てながら抜いては背負っているリュックザック型のマジックバック魔法の鞄の中へ放り込んでいく。
―〔ただし〕―
『きゅ?』
―〔私の話し相手になれ〕―
『え?』
―〔なにぶん、客人とこうして話すこともなくてな。……暇で暇で、寂しくてな…〕―
肩をガクリと下げるガイルナ―スにヒカルは少し考えたのち、座るにちょうど良さそうな石を見つけてそこに座る。
『ガイルナ―スさん、ずっとひとりなのかい?』
―〔そうだな産まれてからずっとここで精霊王を守っている。私はここにいなければならない…月の精霊王を守り抜かなくては〕―
『精霊王?』
―〔いや、こちらの話だ。時に…ヒカルよ。お前はどうやってここへ来れた?私が結界で人が入れぬようにしていたはずだが…〕―
『それはね』
ヒカルはここまでの経緯を全て話す。
すると…
―〔……は―っはっはっはっ!!それは愉快なことだ!
『ホントにいきなりで驚いちゃったんだ』
―〔しかし、普通の人間の子供に怖がりな
『そうなのかい?』
―〔……ヒカルよ。お前まさか…
『めろでぃあ?なんだいそれ』
―〔
それを聞きヒカルは自分の母親のことを思い出す。
母親とその姉の近くには必ず守護精霊と呼ばれる精霊がいた…
―〔となると、お前の
『ん―…ごめん。ボクはまだイマイチそういうのがわからないよ。ボク自身、お母さんに拾われてからの記憶がないんだ』
―〔ふむ、そうか。しかし…お前に興味が湧いた〕―
『きゅ?』
―〔どうやら精霊使いとしても召喚士としての適性も申し分ないようだな〕―
『どういうことだい?』
―〔私に名を付けろ。さすればお前の魂、心が生きている限り私はお前の召喚獣として仕えよう。どうだ?この私、ガイルナ―スが召喚獣になれば、お前も百人力ぞ?〕―
フフンと鼻を鳴らしどこか胸を張るガイルナ―スにヒカルは…。
『ガイルナ―スさん、もしかして……ここから出たいの?』
核心をついたヒカルの発言にガイルナ―スはギクリと身体を強張らせる。
『ボク、そういうのあんまり興味がないんだ。ごめんね。そろそろ帰らないと』
石から降りて背を向け歩き出すヒカルに。
―〔なんだ?もう行ってしまうのか…?〕―
『(なんか声がしょんぼりしてる!!)』
悲しそうな目でヒカルを見つめ、切なげな声色でそう言ってくるガイルナ―スにヒカルは足を止める。
チラリと背後のガイルナ―スを見ると、すっかり落ち込んでいる様子。
クラント―ルの守護竜、月煌竜 ガイルナ―スの威厳を全く感じさせない。
ヒカルが振り返ったのに気がつき、若干尻尾が揺れていた。
『いいよ』
―〔本当か!!〕―
『ただし…』
―〔?〕―
ヒカルはガイルナ―スへ右手を差し出した。
『ボクの、友だちになってくれないかい?』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
―〔な、なに?!月煌竜 ガイルナ―スであるこの私と、と、友だちだとぉ!?〕―
『イヤなら、この話はなしだね、なしなしだね』
そう言いヒカルはすぐに背を向ける。
―〔待て待て待て待て!!〕―
『だって、イヤなんでしょ』
―〔ば、バカァ!誰もイヤとは…言ってないだろ!〕―
『じゃあ、友だちになってくれるかい?』
―〔無論だ…友だち、だ〕―
気恥ずかしいのかガイルナ―スは大きな手の指を差し出すと、それに気がついてヒカルもガイルナ―スの方を見て、指を右手で掴む。
どうやら、握手のつもりのようだ。
『うん、友だち♪友だち♪』
手を離して『じゃあ』とヒカルはガイルナ―スを見る。
『ガイルナ―スさんはどうやったら出られるんだい?』
―〔いや、私はこの場を離れるわけにはいかない〕―
『そっか、出れないんだ…じゃあ、会えなくなるのかい?』
―〔召喚獣となれば、私の心の一部を召喚士へ与える…さすれば共にいることができる〕―
『つまり、本体はここにあって、心の一部はボクが持っていることで、ポ―タル的なのになるのかい?』
―〔そういうことになる…。しかし、お前が私に名を付けることはお前にとって加護となり、それは身を守る鎧となる〕―
『ふ―ん。名前って、ガイルナ―スじゃダメなのかい?』
―〔人間たちが勝手に付けた呼称のようなものだ。ヒカルたちで言うファミリ―ネ―ムのようなものだと思えばいい〕―
『そっか。じゃあ…』
ヒカルはガイルナ―スの新しい名前を考え始める。
首を傾げ…腕を組み右手の拳を顎に当て、ウンウン唸りながらウロウロと歩き回る。
『(ガイルナ―ス…月の竜…ルナ?はもうガイルナ―スに入ってるし…月煌…光……)あっ!』
閃いたのか立ち止まり、ガイルナ―スを見て声を上げる。
『
―〔コウゲツ?〕―
『ボク少しだけエルデの漢字知ってるんだ♪煌く月で、コウゲツ!』
―〔ふはははっ!気に入ったぞ、これより私の名はコウゲツ・ガイルナ―スだ!〕―
笑い始めるガイルナ―ス改めコウゲツは上機嫌にヒカルに顔を近づける。
―〔名付けにより、ヒカルは今を持って私の主人…いや、友となった。召喚獣としての証、受け取ると良い〕―
コウゲツが〔クォオオオッ!!〕と咆哮すると、ヒカルの目の前に小さな光が現れ、それを受け取ろうと両手を差し出す。
光はヒカルの手に収まり、次第に光が止むと…そこには星形のペンダントがあった。
星の5本の足の部分は透明なガラスだが…うち1つは淡い紫色のガラスが…。
『これは?』
―〔私の心の一部を宿したものだ。ヒカルの心に宿るのも良かったが、既に先客がいたようだからな〕―
『??』
―〔なに、こちらの話だ。ヒカルよ、我が友よ。お前はこれから外へ出た後はどうする?母を助けた後はどうする?〕―
『…考えていなかったよ』
―〔ならば、私の願いを聞いてくれるか〕―
『なんだい?』
―〔ドラゴニア帝国とともに戦って欲しい。お前のような召喚士を待っていた。他の古代竜たちも同じ思いだろう〕―
それを聞き、ヒカルの脳裏にはある人物が思い浮かんだ。
アイツはドラゴニア帝国いる、それなら…。
しかし、問題がある。
『ボク、戦い方知らないよ?』
魔法も知らない。
武器も握ったこともない。
ヒカルは精霊や獣に懐かれやすいただの子どもだ。
力も何もない…普通の子ども。
それを聞いてコウゲツは無理もないかと…申し訳なさそうな視線で主人であるヒカルを見る。
しばし考えた後…コウゲツは問いかけて来た。
―〔ヒカルよ。1つ提案なのだが…〕―
『うきゅ?』
―〔……
記録。
自由で、気ままで、戦い方も知らない。
それでも友だちからの願いなら、誰かを守れる力になれるのなら。
絆紡ぐ光は戦場へ向かうのだろう。
それがこの世界の天秤が導いたのであれば。
彼女の鍵が導いたのであれば。
彼女は疑いもせず、ココロの鍵に従うだろう。
全ては天秤が…鍵が…
導く心のままに…彼女は彼女の運命に従い…
生きていくのだろうか…。
彼女が目覚めてからの記録時間。
1年5ヶ月10日2時間53分14秒。
記録、続行。
次回
【1ノ章―白刃のプレリュ―ド―】
【2話】
― 導かれた出会い ―