レイジは夢を見た。
あの日、クラントールで起きた事を…思い出すかのように。
「…うっ…」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
背後には海、目の前にはドラゴニア帝国の兵士。そして黒いドラゴンの面をつけた男―バルドルによって取り押さえられている紅い鎧を見に纏ったレイジと同い年ほどの銀髪の少女―ローゼリンデ。
断崖絶壁まで追い詰められ、レイジは足を少し後ろに下がると石が崖へ落ちていき、レイジは横目で後ろを見た。
荒れ狂う海、崖の岩壁に打ち付けるように押し寄せてくる波。それを見てレイジの額に嫌な汗が流れる。
「レイジ!」
ローゼリンデがレイジの名前を呼ぶ。
呼ぶというが、その声はまるで叫ぶような…悲しげな声だった。
目の前にいる彼を救いたい、でもそれを許さないのが自分を捕らえているバルドルの手だ。
抑えられているローゼリンデは悔しくて俯き、下唇を噛んだ。
「どうした若造。もう後がないぞ?ちょっとでもその者たちが剣を突き出せば…。ふふふ、どうなるかな?」
そんなこと、言われずとも結果は目に見えている。
バルドルはレイジの表情、ローゼリンデの表情を見て面白がっていた。
いま目の前にいるのは伝説の勇者、それを追い詰めているのだ。
バルドルの言葉を皮切りに、剣を持ったドラゴニア兵士がジリジリと剣を向けレイジへ迫る。
「…ちくしょう…」
何もできない、力があれば、もっと自分に力があれば、ローゼリンデを助け出せるのに。
友だちを助けられない虚しさが、苛立ちに変わり、レイジは雪姫を握る手に力を込めた。
「全くしつこいヤツだ。いい加減に諦めたらどうだ?」
「そんな事が出来るか!オレは約束したんだ!絶対に守るって…必ず守ってみせるって…!」
「レイジ!いいの!逃げて!お願いだから、逃げてっ!」
「ダメだ!諦めるんじゃない!ちょっとだけ待っててくれ、今、お前を助けだして」
「それは無理な相談だな!やってしまえ!
バルドルの声が聞こえたと同時、バルドルの後ろから大砲の音が響いた。
「なに?!」
「勇者殿!巫女殿!」
「み、みんな!」
クラントール兵士たちが敵を剣、盾、槍と言った武装した武器でドラゴニア兵士をなぎら払い、足場を利用し崖へ落としていく。
「ま、まだ抵抗する力があったか!」
「ローゼリンデ!!」
レイジが声を上げ目の前のドラゴニア兵士を雪姫を使いなぎ払う。
走り、バルドルに近づいていき、レイジは腕を伸ばしローゼリンデを助けようとしたが…。
「ぎゃぁああああああっ!!!」
1人の兵士の声が響いた。
バルドルもレイジも、その声の方を見た。
そこには、血に濡れた戦輪を2つ持った16歳ほどの、毛先に向かって桜色をした銀髪の少女がいた。
紺色のドレスのような服に、ドラゴニア帝国の紋章が刻まれたマントを羽織り…何より、彼女の目はまるで濁った血のような緋色をしていた。
彼女の足元にはクラントール兵士であった刻まれた肉塊があった。
「出た!出てきたぞ!」
「死神姫だ!!」
兵士の声を聞き、少女はクスリと口角を上げ微笑んだ。
直後。
その場を飛び、クラントール兵士の上に降りるなり甲冑ごとその戦輪で切り裂き、戦輪を投げて兵士たちの胴体と脚を切り離す。
クラントール兵士だけではなく、ドラゴニア兵士も巻き込んでだ。
その光景はただの殺戮だった。
その場にはバルドルとレイジ、ローゼリンデだけが残り、少女は服を血に濡らし、頬には血がつきぬぐいもせずバルドルの元へ歩いてくる。
彼女に怯んでいるのかバルドルは一歩後ろに下がった。
「バルドル卿、彼が?」
「そ、そうだ!コイツが勇者とかいうやつだ」
「ふーん。まあいいです、人間なら、簡単に斬れちゃいますし、楽です」
スタスタとレイジの方へ歩いていく、レイジにはゾワリと、何か気持ち悪い黒い影のようなものが纏わり付いた感覚に陥り、後ろへ下がってしまう。
「あー、でもこれ以上服を汚してしまってはお父様に怒られてしまうわ……仕方ない」
少女は踵を返し帰ろうとした。
「え?」
「ど、どこへいくのだ!ルーチェ!!」
「帰ります。だって、ミカエルが来ましたから」
ミカエル。
その名前を聞いてバルドルはローゼリンデを離し慌てて逃げ出した。
そしてローゼリンデを代わりに少女が魔法で拘束し、ローゼリンデを自分の方へ顔を向かせ…少女は不気味に目を光らせる。
光を見たローゼリンデは気を失い、レイジがローゼリンデの名前を呼ぼうとしたとき。
遮るように。
―〔グルルル…〕―
獣の唸り声がした。
それは真上からだ。
レイジが咄嗟に空を見上げると灰色のドラゴンが飛んでいた。
真上に降りてくるドラゴニアを避ける為、後ろへ下がる。
「ぐっ!」
ドラゴンが着地した際、翼を羽ばたかせたことにより風が起き、巻き上げられた砂埃がレイジの視界を遮った。
「さあ、さっさと死んでもらいましょう。やりなさい、ミカエル」
ミカエルと呼ばれるドラゴンは咆哮をあげ、口からは赤い炎が見えた。
レイジはすぐ雪姫を構えるが、ミカエルは尻尾でレイジの身体を海へ投げ出させる。
「がはっ!!」
腹部に当たる強烈な打撃にレイジは血を吐いた。
気持ち悪い浮遊感、遠のいていく意識…咄嗟に崖へ手を伸ばすも、薄らとしていう意識の中で…。
銀髪の少女は崖の上からレイジを見て笑っていた。
とても、楽しそうに。
不気味なほどに。
次に身体を、灼熱の炎が襲い掛かろうとしたが、寸前…。
レイジは海に落ち…遠のいていく水面を海の中から眺めた。
「(オレ、このまま…死ぬのか?)」
目を閉じていく中、レイジの手を掴んだ誰かがいた。
薄れていく意識の中…声が聞こえた。
―「あなたに死なれると困るの」―
女性の声が聞こえ、レイジは意識を手放した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「だりゃぁあああ!!」
声を上げ、レイジは木剣を持ちアオイへ斬りかかる。
が、「遅い!」とアオイが指摘するなりレイジの手首を掴み後ろへ投げ出した。
上手く受け身を取れずレイジは背中を地面に打ち付けてしまう。
「げほっ!げほっ!げほっ!」
背中を打ち付けた衝撃によりレイジは仰向けの状態のまま咳き込んだ。
「ちゃんと受け身を取りなさい。どんな姿勢でも受け身を取れるようにする鍛錬だと何度言えばわかるの?」
朝。
レイジは木剣を持ちアオイに稽古をつけてもらっていた。
ここ3日間レイジは朝はアオイの元で稽古、その後はアルティナと共に銀の森の見回り、その後はまた夕方までアオイとの稽古と続けていた。
「ちょ、待ってください。いっ、一旦休憩、させて、ください…よ。さ、すがに…ぶっ続け…で、に、2時間投げ、飛ばされるの、きついっ、すよ」
息が絶え絶えに、レイジは仰向けのままアオイにそう言った。汗も尋常じゃない程に体から溢れ出ており、レイジが「み、みず…」と言った。
直後。
『レイジお兄さんがんばれ~』
「もがががが!!」
ヒカルはレイジの口に向かって桶の中いっぱいに入っている水をぶっかけた。
文字通りぶっかけたのだ。
ヒカル本人はレイジの言葉を聞いて気を利かせ、水を持って来たのだが…水のあげ方がよろしくなかった。
咽せたレイジは飛び起き、上体を起こした状態でヒカルの頭を鷲掴んだ。
「なにすんだ!窒息させる気か!!」
『うきゅー!!だって水って言ってたじゃん!!言ってたじゃん!!』
「限度ってもんがあんだろうが!!」
ジタバタと動いてレイジの手から逃げたヒカルに「逃げんな!!」とレイジは立ち上がってヒカルを追いかける。
これもアオイの修行の一環なのだ。
ヒカルの体力向上とレイジの体力向上の為の鬼ごっこだ。
ヒカルはコウゲツがいた洞窟で長く彷徨い酸素が薄い洞窟の中でヒカルは鍛錬をしていたことになり今の体力はレイジよりも上なのだ。
つまり。
『鬼さんこちら~♪手のなる方へ~♪』
「こ、このやろ…ちょ、ちょこまか…はぁ、はぁ……うごくなよ…」
1時間も続ければレイジも流石にバテたらしい。
ヒカルはもっと遊びたいのかレイジの近くで自分の手を叩きながらレイジの体力回復を待った。
レイジ本人からすればもう勘弁してもらいたいだろうが、お構いなしなのがヒカルなのだ。
そんな様子を遠目からアオイはケラケラ笑いながら、ユキヒメは呆れながら見ていた。
「全く、子どもに負けるとは情けない」
「あらー?あの子を普通の子どもと同じにしちゃダメよ?確かに魔法も戦術も初心者以下だけど…仲良くなる事だけはズバ抜けているもの」
そう言いアオイが指を指す方向をユキヒメは見ると、木の影からこちらを見ている銀の森の精霊たちが見えた。
「ということは、ヒカルは
「恐らくね。まだ力は弱いから、守らないと…ドラゴニア帝国は
「……なるほど、あの時ドラゴンを使役していた者も
「あくまで私の仮説」
アオイはスタスタ歩いて行き、レイジの首根っこを掴み持ち上げる。
はっきり言おう、体格の良いレイジを、明らかに身長がレイジより低いアオイが持ち上げたのだ。
「ほらレイジ、休んでる暇ないわよ」
「アオイさんスパルタ過ぎますよ!」
「ヒカルも。アルトリアと模擬戦」
『えええ!?ボクじゃアルトリアに敵わないよ!』
「模擬戦であるから以上、私は手加減しませんよ!マスター」
『手加減しらないだけじゃーん…』と呟きながらアルトリアから短剣の木剣を受け取り渋ーヒカルは構え、アルトリアも木剣を構える。
「レイジは私とね。あ、雪姫を装備してね、私も武装するから」
「げぇ!?」
真剣同士と言うことを知りレイジは真っ青になる。
やりとりを遠目で見ていたアルティナは呆れてため息をついた。
見回りを終えて戻って来たようだ。
「3日もよくまあ耐えるわね。あんな無茶苦茶な鍛錬に」
〔ふふぅ~〕
「アルティナ、戻ったか」
外で薬草を乾燥させていたアルヴィンは妹が帰ってきた事に気がつき顔を上げる。
「ただいま、兄さん。森に異常はなかったわ」
「ならば良い。あと、夕方の見回りはやめておけ」
「え、どうして?」
「嫌な風が吹いている。雲の流れも早い、そして雲の色は少し黒ずんでいる」
空を見上げるアルヴィンにつられてアルティナも空を見上げる。
確かにアルヴィンの言う通り、雲はいつもより灰色っぽく、流れが早い。
「今夜は嵐になる。夕方の見回りは私とレイジで川辺の方を重点的に見てくる、酷くなるようならば
「わかったわ。気をつけてね?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夕方ごろになりバテバテなレイジはアルヴィンに連れられて森の見回りに向かった。
夕方となれば、外は夕焼け空で赤くなっている時間帯だが、暑く黒い雲が空を覆いポツポツと雨を降らせていた。
窓の外を見てヒカルは時折吹く風で窓が震え、ガタガタと音を立てるのを見てビクリと身体を跳ねさせる。
「すごい風…。兄さんが言ってた通り今夜は嵐になるわね」
ビシャァアアッ!!
と、外に閃光が走り外を眺めていたヒカルはビクゥ!!と先ほどよりも身体を震わせ、外を見ながらビクビクしながらアルトリアに引っ付いた。
「マスター?」
「怖いのかしら…」
『こ、こここ、怖くない!ボク怖くないよ!怖くないよ!』
またしても大きな音と共に閃光が。
割と近くに雷が落ちたのかヒカルは音に驚いて、耳を両手で塞ぎその場にしゃがみ込む。
『こわくなぃい…』
小さく震えた声で言われても説得力が全くない。
そんな主をみてアルトリアは苦笑する。
雷が鳴った後すぐさま雨は強くなり、窓を叩きつけるばかりに音を立てた。
しばらくして扉が開くと、雨避けようのマントをずぶ濡れに濡らしたアルヴィンとレイジが戻って来た。
「あー、ずぶ濡れだ…」
「兄さん、おかえりなさい」
「ああ」
〔レイジもおかえりなさい。大丈夫だった?〕
「ああ、良い気晴らしにはなったけど…こんなどしゃ降りになるとは思わなかったぜ」
マントを脱いで玄関近くの壁にあるフックにかけた後、アルヴィンはアルティナに報告をした。
「川の増水が起こるだろう。明日も雨が続くようならば
「今晩には止むと良いけれど…」
「確かにね」
そう言いアオイは外を見る。
目を細め「こんな感じだったわね」と呟く。そんな声がわかったのはリンリンだけだったが、リンリンはアオイの方を見て、何も語らなかった。
ビシャァアアッ!!
「うお!?」
―「また雷か…。良くないことの前触れでなければ良いが」―
「やめろよユキヒメ…そう言うこと」
霊刀モードのユキヒメに対してレイジはそう言い、それを『聞いてない、聞いてない』とブツブツ言いながらヒカルはアルトリアに抱きついたままだった。
「明日に備えて早めに寝ろ。全員で川の様子を見にいくぞ、人手が必要になるやも知れん」
アルヴィンの言葉で食事を早ーに済ませて一同は早くに就寝する為部屋に入った。
まだ聞こえる雷の音にヒカルは身体をびくつかせ、同じベッドで寝ているアルティナに抱きついた。
『きゅ…』
「大丈夫、明日には止んでいるわよ」
『ホントかな…ホントかな…。あ、アルトリア…ペンダントから出てきて…』
―「と、言われましても…マスターの魔力を使って朝まで現界するのは…」―
星形のペンダントから聞こえてくるアルトリアの声にヒカルはシュン…と落ち込んだ。
ヒカルにアルティナが抱き返して、まるで子どもを寝かしつけるように背中をゆっくりポン…ポン…と叩いた。
「大丈夫、大丈夫…。怖くないから」
アルティナに背中をゆっくり叩いてもらい、だんだん眠気がやって来たのか…ヒカルはいつの間にか眠りについた。
「……どうして寝る時もお面つけてるのかしら…。不思議と取れないし…」
「そりゃそうよ、そのお面は私がヒカルにあげたものだもの」
床で雑魚寝をしているアオイが目を瞑ったまま答えた。
アオイの言葉にアルティナは「え?」と返した。
「その子にとって、お面は盾と同じみたいなのよ。だから、何も聞かないでほしいし…取ろうとしないであげて。この子が本当の意味で、心を開くことにつながるから」
「……わかったわ…」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ビシャァアアッ!!
激しい雷鳴が木霊した。
雨が叩きつけられて痛かった…。
今でも覚えてる。
木の大きな窪みの中に隠れて、お母さんがあの女の子と戦っているのを、ずっと見てた。
ずっと、ずっと見てた。
あの丸い刃物の投げるやつ…戦輪っていうのかな。あの子はあんなに小さいのに、ボクと同じくらいだったのに…すごく強かった。
お母さんの身体からいっぱい血が出てきてた。ボク、何もできなくて、怯えてることしかできなかった。
「っく!」
「ふふふ、どうしました?お母さま。さあ、私の身体はどこですか?このままじゃ、私本当の…」
「黙りなさい!!!あなたはあの時死んだの!わかるでしょ!?ルーチェ!」
「……オカアサママデ、ワタシヲヒテイスルノ?」
あの時の女の子の顔が、すごく怖かった。
影からいっぱい変な黒いヤツを出してきて、それで…。
― 〔――――?――?〕 ―
ボクの目の前に、黒い何かと白いグニャグニャしたのが出てきた。
『ひう!』
びっくりして、怖くて…ボクは飛び出してお母さんに抱きついた。
「ヒカル!?どうして出てきたの!」
「ミィツケタ…私のカラダ♪」
「っ……」
「お母さま…ソコヲ…退いてクダサイな…」
お母さんはあの子に背中を向けて、ボクを抱きしめてくれた。
『お、お母さん…?』
「ヒカル…僕は、これから許されない詩を歌う………だから、あなただけでも生きて……っ」
お母さんの口から血が流れてた。
背中には、あの戦輪があった。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう!!
お母さんが死んじゃう!
涙が出てきたは、お母さんはボクの頭を撫でてくれた。
いつも見たいに、ニッコリ笑って…そして…。
― 優しい音色を奏でよう ―
Wee ki ra selena anw yasra wiene,
やめて…やめて!
お母さんが歌いながら、ボクを見てくる。
― 貴方の為の子守唄 ―
en chs Chronicle Key sos yor.
これ以上、見せないで!
思い出させないで!思い出させないで!!
お母さんは笑いながら、歌い続けてる。
目から、口から、耳から、鼻から
血を流しながら…
― この身の呪縛と引き換えに今この詩を捧げよう ―
Wee ki ra araus tes soare an giue mea iem.
「ユウキ!その詩を歌ってはだめぇええ!!」
あの人の声がした。
そうだよ、歌わないで…歌わないで!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『うわぁあああ!!』
ヒカルは飛びおきるなりパニックを起こしバタバタと手足を動かして暴れ始めた。
ただならぬ声にアルティナとアオイは飛び起きた。
「ヒカル?!どうしたの?ヒカル!」
アルティナがヒカルに声をかけるも聞こえないのか…
『歌わないで!!お母さん!!置いてかないで!ボクをひとりにしないで!!』
悲痛な声で仮面の目から涙が溢れ、ヒカルは叫んだ。
彼女自身まだ悪夢の中で叫んでいるようだ。
アルティナはヒカルを抱きしめ、ゆっくり優しく…背中をさすってあげた。
「大丈夫…」
『お母さん…お母さん……』
「大丈夫……大丈夫…1人になんかしないわ…」
『きゅぅ……きゅぅ…』
だんだん落ち着いて来たのか…ヒカルは寝息を立て始めた。
「大丈夫?アルティナ」
「はい……。落ち着いたみたいです…」
「ねえ、アルトリア。あなたも見たんじゃない?この子がどんな夢を見たのか」
アオイがベッドの脇にある小さな戸棚に置かれたヒカルのペンダントの中にいるアルトリアへ聞いた。
―「いえ…なにも。しかし、こんな風に夜泣きをするのは初めてです」―
アルトリアの言葉にアオイは「そう…」とだけ返した。
(……本当に、彼女といい、あなたといい……あの嵐の夜に…あなたたちに、なにがあったと言うの?)
アオイは窓からいつの間にか晴れ、赤い月が見える夜空を見た。
「あなたも、教えてはくれないわよね…」
ボソリと名前を呟いた…。
― サクヤ… ―
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
記録。
トラウマによる悪夢が彼女の記憶を無理やり呼び覚ます。
しかし、彼女自身が己の存在に気づくことはなく、翌日を過ごしている。
ココロに植え付けられたトラウマを消し去る事がカレならば出来るのではないのか?
と、思ったが…個人的な考察として、彼女には忘れてもらいたくないと望んだものと推測する。
危険感知。危険感知。
ハートレスが銀の森へ侵入。
記録対象への接触を企てている。
危険感知。危険感知。
ハートレスが銀の森へ侵入。
記録対象への接触を企てている。
ドラゴニア帝国のケンタウロス軍も感知。
1人の少女を追いかけているもよう。
これから先、記録対象への記録経路が進むものとする。
彼女が目覚めてからの記録時間。
1年5ヶ月28日0時間2分51秒。
記録、続行。
次回
【1ノ章 ― 白刃のプレリュード ―】
【4話】
― ケンタウロスの尖兵 ―