黄昏と天秤の組曲   作:剣 紅夜

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【1ノ章 ― 白刃のプレリュード ―】


5話 ― 漆黒の騎士団と祝福せし天使(魔獣) ―

 

 

 

祈りを済ませ、ヒカルは立ち上がりアルティナの元へ戻って来る。

 

 

『ねえ、アルティナお姉さん聞かせてほしいことがあるんだ』

 

「な、なに?」

 

 

考え事をしていたアルティナはヒカルに呼びかけられ、ハッと我に返りヒカルの方を見た。

 

 

『どうして、ケンタウロスさんが来たのがルーンベールって国からなんだい?アルヴィンお兄さんはドラゴニア帝国って疑っているじゃないか』

 

「だって、ケンタウロスなのよ?」

 

『うきゅ?わからないよ、わからないよ』

 

「2回も同じ事を言わないの。いい?ルーンベールという国は、人間とケンタウロスが作った国なの」

 

 

ヒカルにそう話すアルティナ。

人間とケンタウロスが築いた国がルーンベール。

そして森にやってきたのはケンタウロス。

 

アルティナの考えはこうだ。

ケンタウロスがやってきた方ということは、フォンティーナを今侵攻しようとしているのはルーンベールなのではないか?と…。

 

 

『そんな理由?』

 

「だって、ケンタウロスが」

 

『「かくしょうがない」って言うんだよね?そういう事。アルティナお姉さん、ルーンベールの今どうなっているか知ってるの?知ってるの?』

 

「わ、私は……森から出たことがないから」

 

『ほら知らない。ケンタウロスさんが作った国だからルーンベールが悪者さんって決めるのはよくないよ。ちゃんとお話しすればいいんだよ。勘違いしたままのケンカはボク反対!』

 

 

仮面の猫の目が若干上がり怒っているような顔になる。

アルティナの考え方にどうやら腹を立てているようだ。

 

 

『とにかくお話してどうして森に来るのか話し合ってよ!』

 

「そんな事言われても…。相手は異種族で…」

 

―「マスター。レイジとアルヴィンがいる方角から別の闇の力の反応が」―

 

 

地面に刺していた剣が光り、剣からアルトリアの声が響く。

声と共に呼応するように刃も光を放つ、まるで刀の姿をしたユキヒメと同じように。

 

 

『わかった。こっちはもういいから、行った方がいいよね。ね、アルティナお姉さん』

 

 

地面から剣を引き抜き、背中に背負うヒカルはアルティナの方を向きながら聞いた。

 

 

「はあ、わかったわ。もう好きにして、さっきの戦いであなたが戦えることはわかったから」

 

『えへへ、ありがとう、アルティナお姉さん♪』

 

 

嬉しそうに身体を揺らすヒカルの仕草に、アルティナはどこか安心したように息をついた。

身体が大きくなった、成長したからと言ってヒカルはヒカルのままなのだと言う事を再認識したからだ。

 

 

「でも無茶はしちゃだめよ?あなたは姿は大きくなったからって子どもなのは事実なんだから」

 

『ええぇぇ…』

 

 

嫌そうに返事を返すヒカルに、アルティナはヒカルを睨んで「返事は?」と聞き返す。

アルティナの睨みに怯んだのか『はぁい…』と渋々返事を返し、「素直でよろしい」とアルティナはヒカルの頭を撫でた。

 

2人はアルトリアの案内を頼りに森を走る。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

鎧を身にまとったケンタウロス―スレイプニルがいた。

漆黒の骸骨に似た甲冑と右手にあるのは血のような赤黒い槍。

その近くには手下であろうアンデッドの戦士―ボーンファイターたちがいた。

 

蹄を鳴らし、森の中心部へやってきたスレイプニルは何かを探すように辺りを見回す。

 

 

「いないな……。先ほどの小娘、いったいどこへ逃げたのだ……?」

 

 

舌打ちし、槍を掲げスネイプニルは声をあげる。

 

 

「皆の者!草の根分けても捜し出すのだ!よいな!」

 

 

ボーンファイターにそう指示を飛ばす。

武器を持ち、人が隠れられそうな生い茂った茂みを見つけるなりボロボロの剣を使って切り裂いていく。

 

そんな1体のボーンファイターへアルヴィンは矢を放ち、頭蓋骨を矢が貫き、ボーンファイターは倒れる。

近くにいたもう1体のボーンファイターの視線がアルヴィンへ向かっている隙にレイジは木の上から雪姫を振り下ろしながら降りボーンファイターの骨を砕く。

2体のボーンファイターがただの骨の残骸へと変わり果てた。

 

 

立ち上がりスネイプニルへレイジは雪姫を構えた。

 

そこへ更にヒカルとアルティナが駆けつける。

アルティナはアルヴィンの隣へ、ヒカルはレイジの隣へ移動する。

 

 

「アルティナ、そちらは片付いたのか?それと…」

 

「話は後にして兄さん!今は目の前のケンタウロスよ」

 

 

スネイプニルを睨み、アルティナは矢筒から矢を取り出して弓を引き構える。

ヒカルも背中に背負った剣―星剣 ペンドラゴンを引き抜けるように持ち手を右手で握り、スネイプニルを仮面越しに睨む。

 

 

「え、お前、ヒカル?」

 

『帰ったら話すよ』

 

 

隣に立つヒカルに困惑するレイジだがヒカルの一言で「お、おう」と返した後気を緩めてしまった為、再度レイジは構え直した。

 

 

「誰を捜してるかは知らないけど……。森の中で勝手な事はさせないわ!さっさと立ち去りなさい!さもなければ、この弓で……!」

 

 

スレイプニルは体の向きを弓を構えるアルティナとアルヴィンの方を見た。

 

 

「…森の番人どもか。貴公らには用はない。早々に立ち去るがいい」

 

『それはボクたちのセリフだよ!』

 

「おう!出ていくのはお前の方だろ!これ以上、森を荒らすんじゃねえ!」

 

 

2人の目に映る闘争心を感じ取ったのか「ふん…」とスネイプニルは嘲笑うように笑う。

 

 

「あくまでも逆らうつもりか。よかろう、ならば相手になろう」

 

 

片手に持っていた槍を頭の上で回転させ、レイジとヒカルへ(きっさき)を向け名乗りを上げた。

 

 

「我はスレイプニル!闇に仕える、ドラゴニア帝国の騎士!光の者を滅さんと、流血の誓いを立てし者!愚かなる者共よ!我が槍にかかって果てるがよい!」

 

 

ブゥン!とスネイプニルは槍を振り払うと共に、ボーンファイターたちもカタカタカタ…と顔を震わせ骨を威嚇のように鳴らし、武器を構え近くにいたレイジとヒカルへ向かってくる。

 

 

 

 

―「来るぞレイジ!」―

 

 

「おう、行くぜ!」

 

 

―「マスター」―

 

 

『うん!』

 

 

迫ってくるボーンファイターは飛び、両手で剣を持ちレイジへ飛びかかる。

 

 

―「零式刀技《砕》!」―

 

 

雪姫の刀身の峰でボーンファイターの骨を砕き、それが致命傷だったのかボーンファイターはバラバラに散らばり塵へ変わる。

 

技を出し隙が出たレイジを狙って、クロスボウを持ったボーンファイター―ボーンアーチャーが引き金を引こうとした瞬間。

 

ヒカルがいつの間にかボーンアーチャーの後ろにいた。

バッ!と振り返りヒカルへ矢を打とうとしたが…ボーンアーチャーの視界は縦2つに分かれてしまう。

 

 

―『見様見真似 陰陽一刀流《一閃》』―

 

 

なにもわからずボーンアーチャーは真っ2つになりバラバラに崩れる。

気が抜けたのか、ボーン兵がいただろう塵の山にヒカルはお辞儀をした。

 

 

『成仏してください』

 

 

その背後を狙い木の上からヒカルへボーンファイターが剣を突き立て降りてくる。

が、素早く飛んできた矢に寄って武器は射抜かれそのまま矢は剣を握っていた腕ごと木に突き刺さる。

 

何事かとボーンファイターは自身の無くなった腕を見ているうちに、今度は2本の矢が頭蓋骨と首の骨貫きボーンファイターはなにが起きたかもわからず塵となった。

 

 

 

「ふん…所詮は骨に魔力を込められたガラクタか」

 

 

 

『ひどい言い方するんだね。えっと、えと…スネイプおじさん?』

 

 

 

「スレイプニルだ!!仮面の小娘!!」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

スレイプニルが槍を不気味に赤黒く輝く。

すると、塵となったボーン兵士たちの身体がみるみるうちに戻っていく。それだけでなく、その身体の一部よりまた新たなボーン兵士たちが現れた。

 

もう一度スレイプニルの槍が不気味に輝き、ボーン兵士たちの手には新たな武器が握られていた。

 

 

「復活しやがった!」

 

『しかも増えてるよ!?増えてるよ!?』

 

「恐らくあの槍が原因だろう。あの槍、闇の魔法によって鍛え上げられた呪具の一種だ」

 

 

アルヴィンの言葉に「その通り」とスレイプニルは槍の鋒をアルヴィンに向け、語る。

 

 

「この槍は竜の爪より作られ、負のエネルギーにより鍛えられた武具。このように動かなくなった兵をもう一度動かす事も出来るのだ」

 

「馬鹿な…。それほどの呪具を生み出せる錬金術師がこの世に存在するものか…」

 

「ふん、貴公らには理解できまい…もっとも、理解する前にこの場で朽ち果てるのだからな!!」

 

 

スレイプニルが槍を高く挙げる。

それを合図にボーンファイターたちはレイジとヒカルに襲いかかり、アルティナとアルヴィンの元へ。

 

 

『行かせない!』

 

 

ヒカルは礼装として武装していたマフラーをまるで鞭のように操り、アルティナとアルヴィンの元へ向かったボーンファイターの脚をマフラーで拘束した。

 

しかしアルティナとアルヴィンを狙い、2体ボーンアーチャーがクロスボウで狙撃してくる。

気がついた時には遅くアルティナ目掛け、矢は放たれる。

 

痛みを覚悟しアルティナは目を瞑るが、アルヴィンが素早く矢を放ち、放たれた矢はボーンアーチャーの矢で軌道を変える。

軌道を変えられた矢は明後日の方向に飛び木に突き刺さり、もう1本の矢がアルティナの腕に当たりそうになるがアルヴィンが弓で弾き飛ばした。

 

 

「私の妹を狙った罪、万死に値するぞ」

 

 

静かな怒りをアルヴィンは見せた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

1体のボーンファイターがレイジへ剣を向け走る。

振り下ろされる剣を雪姫を使い、レイジは防ぐ。

 

鍔迫り合いになる前にボーンファイターの胴体を蹴り飛ばし、よろけている隙にレイジは一太刀浴びせ、攻撃の手を止めず連続でボーンファイターを切り刻みボーンファイターは再び塵となった。

その勢いをつけたままレイジはスレイプニルへ斬りかかる。

 

 

「うらぁああ!!」

 

「ふん!」

 

 

ガキンッ!と、槍と刃がぶつかり合い金属音が鳴り響き、ぶつかり合ったことにより威圧同士がぶつかりビリビリと空気を震わせる。

 

ヒカルはマフラーを使い拘束したボーンファイターの攻撃、斬りかかってくるボーンファイターの攻撃を身軽にひょいひょいと飛び回避していく。

その隙を狙いアルティナとアルヴィンが矢を放っていく。

 

矢に気を取られればヒカルの攻撃に気を配る隙を与えない。

矢が飛んできた先を一斉に見たボーンファイターたちにヒカルはペンドラゴンを両手で握り横に身体を回転させ、回転斬りでボーンファイターたちを一掃する。

 

その間を2本の矢がアルティナとアルヴィンの弓から放たれ、的確にボーンアーチャーの眉間を射抜き。

復活したボーン兵士たちは再び塵へ変わる。

 

それと同時にふらふらとヒカルはその場に座り込んでしまい、光りに包まれ元の子どもの姿に戻ってしまう。

 

 

「ヒカル!」

 

『うきゅー……。魔力、きれたぁ…』

 

 

ヒカルは幼いが故に、まだ魔力の消費コントロールがうまく出来ないのだろう。

 

 

余談だが、サーヴァントとの融合― 同契(React)と呼ばれる術式は相当の魔力を消費してしまう。

1つ1つの動きにサーヴァントの力を制御するのに合わせ身体を変化、成長させて動かしているのだ。

 

せいぜい魔力コントロールが出来ていない今のヒカルが同契(React)を使える時間は10分もないだろう。

 

 

 

「ヒカル。大丈夫?」

 

『大丈夫…だよ。でも、すごく…眠い…』

 

「典型的な魔力不足による症状の1種だ。あと残るはあのケンタウロスのみ、私とレイジでどうにかしよう。アルティナ、ヒカルを任せたぞ」

 

「ええ」

 

 

アルヴィンはアルティナにヒカルを任せ、アルティナの持つ残り矢を矢筒ごと受け取る。

ヒカルを抱き上げたアルティナは、出来るだけその場から離れようと連れて行く。

 

 

『ボク、まだ…戦える、戦えるよ…!』

 

「そんな状態で戦わせられないわ!あなたは十分やってくれた、後は兄さんたちに任せて!」

 

『うきゅぅ…』

 

 

眠気で遠退いていく意識の中、ヒカルはレイジとアルヴィンの背中を見つめ…。

やがて眠りに落ちた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「どうした小僧。ふらついているぞ?」

 

 

余裕の表情でレイジを見下すスレイプニル。

レイジは悟った。こいつは今までの敵とは力が違いすぎる。

 

アオイから鍛錬を受け、多少の体力は戻ったものの…。

実戦的な感を取り戻すにはまだほど遠かった。

 

今のレイジでは、スレイプニルを倒すことはできない。

 

 

―「おい、レイジ!しっかりせんか!!」―

 

「うっ……わかってる!!」

 

「レイジ、援護は任せろ」

 

 

そう言いアルヴィンは矢を放つも、それはスレイプニルが槍で矢を振り落した。

スレイプニルの視線はアルヴィンに移る。

 

 

「貴公は邪魔だ」

 

 

スレイプニルが槍を構える。

鋒を向ける先は…

 

 

「騎士の槍、受けるがいい!」

 

 

スレイプニルの槍が不気味に赤黒く光る。

 

 

―「《デスランサー》!」―

 

 

突き放たれた魔力の槍がアルヴィンへ向かう。

 

アルヴィンは精霊の魔力と自分の魔力を合わせた魔法の矢を放つ。

 

 

―「《カオスショット》!」―

 

 

槍と矢がぶつかり合うが、矢は槍に込められた闇の魔力によってかき消される。

 

 

「なに!?」

 

 

槍はアルヴィンの腹部を貫く。

咄嗟に身体を逸らし、致命傷を回避するが、横の腹を貫かれた。

 

 

「ぐっ…」

 

 

嫌な汗が噴き出た、腹部の傷から流れる血を抑えようとアルヴィンは右手で傷口を強く抑える。

とめどなく溢れる血、脈打つような痛みにアルヴィンはその場に膝をつく。

 

 

「アルヴィン!」

 

 

レイジがスレイプニルから視線を外した、その好機を逃さんとスレイプニルはレイジへ槍を振りかぶる。

 

 

―「レイジ!」―

 

 

ユキヒメの声でレイジは目の前にいたスレイプニルに完全に遅れを取ってしまう。

 

 

「死ねぇい!!」

 

 

眼前にまで槍の鋒が近づいた。

レイジの脳裏に、1人の少女がよぎる。

 

 

(ローゼリンデ…ごめん…)

 

 

刹那。

 

ガトリングの銃撃に似た魔力弾がスレイプニルに向かって飛んでくる。

咄嗟に気づき、スレイプニルはその場を後ろに飛びレイジから距離を開けた。

 

 

「何者だ!」

 

 

―チリン…。

凛とした、綺麗な鈴の音が森に響いた。

 

〔シャー!!〕と威嚇する雪を思わせる白い体毛、尻尾に鈴付きのリボンを付けた子猫。

その子猫を肩に乗せ刀を手に持ったアオイがそこにいた。

 

 

「教えてくれてありがとう、アマネ」

 

〔なーぅ〕

 

「さて、私の生徒になにをしてくれているのかしらね?ドラゴニア帝国」

 

 

刀―霊剣月桜の鋒をスレイプニルへ向けた。

 

 

「その刀…その猫…そして、吸血種特有のその容姿……そうか、貴様が伯爵の言っていた吸血姫か」

 

「ふーん?伯爵から私の話を聞いていたのね。なら…話は早いんじゃないかしら?死にたくなかったらさっさとこの場から立ち去りなさい」

 

 

アオイは微笑むも、その視線はとても冷たく殺気を放っていた。

「笑止!」とスレイプニルは槍を構え直し、アオイへ向かい走る。

 

 

「アオイさん!逃げてください!!コイツ、ほかのケンタウロスや魔物とは全然違う!」

 

 

レイジが叫ぶが、アオイはレイジの声が聞こえ、焦る彼の表情を見て…。

とても穏やかに笑みを浮かべた。

 

 

―「陰陽一刀流」―

 

 

アオイの胸に、スレイプニルの槍が突き刺さる。

レイジは息を飲んだ…が、それはスレイプニルも同じだ。

 

 

全く手応えがなかったのだ。

 

 

アオイが立っていた場所にいたはずのアオイの姿はグニャリと影のように曲がる。

 

 

―「《水鏡ノ影(みかがみのかげ)》」―

 

 

油断したスレイプニルはどこにアオイが消えたか探るうちに、槍からビシリ…という嫌な音が聞こえたのに気がつく。

 

槍を見ると、スレイプニルの武器は真っ二つに割れた。

 

 

「なに?!」

 

 

呆気に取られているスレイプニルの近くで「残念だけど」と、アオイの声がした。

スレイプニルは背後の声に気がつき振り向いた。

 

振り向いたと同時にスレイプニルの首に霊剣月桜の鋒を向けられる。

 

 

「弱者を痛ぶる趣味はないの、さっさと消えなさい。目障りよ」

 

 

アオイから向けられる殺気。

アオイから浴びせられた屈辱的な言葉。

スレイプニルに脳裏に思い出される過去の記憶がスレイプニルの怒りをふつふつと沸き立たせた。

 

 

「吸血姫め…!!」

 

 

睨み合う2人。

静寂が辺りを支配する。

 

だが、長くは続かなかった。

 

森の奥からまるで血のように赤く染まった大きな戦輪がアオイ目掛けて飛んできたのだ。

飛んできた戦輪をアオイは霊剣月桜は弾き飛ばす。

弾き飛ばされた戦輪は真っ直ぐ別な方向へ飛び、そのまま持ち手の部分を受け止める少女がいた。

 

背丈から16か17ほど。

髪はヒカルと同じく銀色で毛先に向かっていくほど桜色が目立ち、その目は……ひどく濁った…濃い緋色をしていた。

 

レイジは彼女を知っていた。

治りかけていた傷が嫌にズキズキと痛む。

 

 

「探し物は見つかりましたか?スレイプニル卿」

 

「ふん、なんのようだ…」

 

 

クスクス笑いながら彼女はスレイプニルに近づき、1枚の羊皮紙を手渡した。

 

アオイは現れた少女を見て絶句していた。

変に汗が浮き出て顔に髪が張り付いた。

 

 

「嘘でしょう?どうして、あなた…」

 

「アオイ、さん?」

 

 

アオイの異常に気がついたレイジは、ただ疑問を抱くことしかできなかった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「これはなんだ?」

 

「転移魔法の陣を描いた羊皮紙です。クラントールに通じておりますので、これを使い撤退してください」

 

「我に逃げろというのか?ルーチェ」

 

「捜索を中止してくださいスレイプニル卿。私が放ったソウルイーターがこの森で何者かに殺されています。そしてこの森は精霊の力が強い、故に脅威となります…この森は私の天使で破壊します」

 

 

ニコニコと変わらぬ笑顔で少女―ルーチェはスレイプニルへそう告げる。

「だいたい」とスレイプニルの手にある破壊された槍を指差しした。

 

 

「武器がなければ犬死にですよ?」

 

 

ルーチェの言葉にスレイプニルは舌打ちし、羊皮紙へ魔力を込める。

羊皮紙の魔法陣がスレイプニルの魔力に反応して魔法が発動し、スレイプニルはその場から姿を消した。

 

 

「さて、と」

 

 

ルーチェは振り返り…変わらぬ笑顔は、何処か残酷表情にも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

― 祝福せよ……ラファエル ―

 

 

 

 

 

 

 

直後。

巨大な藍色の光を放つ魔法陣が空に現れた。

 

8本の足。

球体のような身体の中央には目玉のようなモノがギョロリと動く。

身体の上にあるだろう球体の顔には4つの目玉。

藍色の身体をした蜘蛛にも似た魔獣がいた。

 

 

 

「さあ、蝕みなさいな。ラファエル」

 

 

 

ルーチェの命令を聞き、天使の名を持つ魔獣は動く。

魔獣の身体から紫色の光を帯びた、藍色の霧が放出される。

 

アオイは着物の袖で口元を覆う。

 

 

「これは、毒!?」

 

 

眼を見開いた後、離れた大木の木の上からラファエルを楽しそうに見ているルーチェを睨む。

霊剣月桜を握り魔獣を操っているルーチェへ向かおうとしたが、身体が思うように動かず、足が動かず倒れてしまう。

 

 

「っ……」

 

「おやおや?どうかいたしました吸血姫様?」

 

 

アオイの様子にクスクス笑うルーチェに、アオイは苛立ちルーチェを睨む。

 

 

(チッ……身体が、痺れる。こんな毒をくらうなんて何百年ぶりかしらね…)

 

 

霊剣月桜を地面に刺し、痺れる身体に鞭打ちアオイは立ち上がる。

 

 

「アマネ」

 

〔んにゃ〕

 

 

アマネはアオイの影の中へ入り、アオイの影の中から《解毒の術》を使う。

身体が多少楽になったのを感じ霊剣月桜を構える。

 

その間にもラファエルは腹の眼玉から青白く発光する蜘蛛糸を出し、木から木へ糸を巻き付けていく。

ラファエルの糸に巻きつけられた木はみるみるうちに枯れ始め、木に隠れていた精霊たちを捕まえ蜘蛛の巣に捕える。

毒にやられたのか、精霊たちはぐったりと力無く項垂れていた。

 

アオイは走り、ラファエルに向かって飛び、霊剣月桜を右に振りかぶる。

 

 

 

―「陰陽一刀流《影風車》!!」―

 

 

 

霊剣月桜をまるで手裏剣の様に投げ、霊剣月桜は回転しラファエルの足を切断する。

 

〔キシャァアアアア!!〕と悲痛な声を上げるラファエルだが、切断された足からは毒霧と同じ色をした血が流れる。

 

手元に戻ってきた霊剣月桜を持ち、アオイは再び着地し着物の袖で口を覆う。

 

 

「レイジ!呼吸を最低限抑えて!あの魔物は霧だけでなく血自体が毒よ!!」

 

「どう、りで…変に、身体が、痺れて」

 

 

レイジはフラフラと立っているのがやっと、アオイが後ろで傷口を抑えてるアルヴィンを見る。

恐らく、この状況下では…もう…。

 

 

(完全に私以外詰みじゃない!!とんでもない召喚獣を持っているものね!ドラゴニア帝国!!)

 

 

下手に動いたせいか、毒が身体に回ったのか、アオイは「ごほっ!」と血を吐いた。

 

 

「流石は吸血姫、ラファエルの毒血でも死しませんか。ですが、彼らはダメでしょうね」

 

 

楽しそうに笑うルーチェだが、一瞬にしてその表情は変わる。

座っていた木の枝から立ち上がり、別の方角を見る。

 

するとニィイと不気味に笑う。

 

 

「すごいわ!すごいわ!あなた、ソレを手に入れていたなんて!!」

 

 

自分を抱きしめ、興奮する身体を抑えるルーチェ。

その表情は頬を火照らせ、高揚した高ぶりを抑えきれず現していた。

 

 

 

― 切り裂け!! ―

 

 

 

声が響いたと同時に、空は暗転。

夜空となり満月が浮かぶ。

 

そしてアルティナとヒカルが逃げた先から淡い紫色の巨大な魔法陣が空に浮かぶ。

 

魔法陣から、紫色の眼光が…輝いていた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

記録。

 

 

ハートレスの魔獣の毒により【銀の森】の7割が毒霧に侵された。

その影響は精霊、妖精だけにとどまらず、対峙していた吸血姫及び勇者、森の番人たちにも被害が及んだ。

 

しかし、これは我々にとって好機となった。

カレが記録対象へ問いかける、そして、彼女は魂に刻まれたその力の1つを解放する。

 

 

実験第2段階。結果。

記録対象が【召喚】を成功させる。

 

 

 

 

 

 

 

―パタンッ―

 

誰かが本を閉じた。

 

ラファエルが魔法陣から感じた殺気を放つナニカを睨みつける。

 

その様子を1人の女性は双眼鏡から覗いていた。

 

 

「彼女が目覚めてからの記録時間。1年5ヶ月28日16時間29分35秒。記録を続行します」

 

 

双眼鏡を外し、丸眼鏡越しに彼女は笑う。

 

 

「あなたのココロが命じた先…ですか」

 

 

近くに置いていた大きなトランクを持ち、彼女はその場から姿を消す。

 

 

 






次回

【1ノ章―白刃のプレリュード―】

【6話】
― 月煌招来、ルーンベールの少女 ―

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