仮面ライダードライブ、いよいよチェイスが仮面ライダーに!
そして剛は……何だかんだで楽しみに見てるドライブです。
『フランケン族』。
13魔族の一柱として数えられるものの、その歴史は他の13魔族と比較して浅いものだった
。当然といえば当然だろう。何せ最初から13魔族として讃えられていたわけではなく、戦魔
大乱の真っ只中に後から入って来た新参者であるからだ。
誕生の起源は1人の科学者から始まる。
『ヴィクター・フランケンシュタイン』。18世紀にその名を知らしめた生物学者の1人で、
彼の功績は生物学の欠片も分からない凡人も首を揃えて認めるほどだった。
ところがある日、彼は最愛の母を失ってしまった。
自分が生物学者になることを支え、その為の応援や寄付を惜しまなかった母の存在は非常に大
きい物で、暖かな光でさえもあった。
そんな人が死んだ。死因は馬車に撥ねられるという、左程珍しくもない事故死だった。
深い悲しみの中でヴィクターは悟った。『人は脆い。永遠ではない。必ず生ある者に死は訪れ
、残るのは無だけだ』と。
そして彼は、ダークフリークスの存在を知った。
それはあまりに魅力的だった。人よりも丈夫で多種多様な力を保有する彼らに憧れ、羨望し、
やがてこう思い始めた。
『創造しよう。私自身がそうなろう。人という殻を脱ぎ捨て、私は有象無象に遍く人類唯一の
進化を成し遂げるのだ!』
まさしく狂気の結論だった。
その日を境に彼は大きく激変した。病や事故、あるいは殺人などで命を落とした人間の死体を
用いて数々の実験と研究を繰り返し行っていった。様々な難関に当たり、あらゆる挫折に陥り
ながらも探求をやめなかった彼の努力は、ついに報われる形となった。
『私は名も無き者。されど、我が力の前に名は伏すほどに意味を成さん』
この言葉を込め、彼は自らを『ノーネーム・モンスター(名も無き怪物)』と称し魔界へと進出
。自らの眷属らと共にその名を知らしめたという。
「く・た・ば・れェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」
そのフランケンシュタインの怪物の実子である力島静雄の『暴力』は伊達などではない。
自らの電気を纏わせた道路標識を振るい、素早く、しかし凄まじいパワーを秘めた一撃一撃は
シェールに『回避』以外の行為選択を取らせなかった。
『ぐうゥゥッ!!(な、なんだこいつは。人間態のままで、こ、この俺を追い詰めているだと
?! こんな……こんな醜態などもっての他だっ!)』
シェールは背中の両翼を展開させ、空中へと舞い出る。どうやら空中からの攻撃で自らの不利
を逆転させようと図っているようだ。しかし。
「おいおい。俺がフランケン族だって忘れたのか? 確かにフランケンは飛べねぇけどなァァ
……」
怒り最頂点な凶暴性。それを嫌と言うほど刻み込んだ不敵な笑みを絶やさず、静雄は静かに道
路標識を天へ向けるかのように掲げる。
「『天辺から降って来るもん』を操れるんだぜぇ?」
閃光。それは光り輝きながら迸る一閃でシェールを捕らえ、その自由を奪いながらも攻撃性を
余すところなく発揮し彼にダメージをご馳走する。
その正体は、さして珍しいものではない自然現象の一つ『落雷』だ。
フランケン族が13魔族として数えられた理由は『ルークに匹敵する怪力』だけではなく、『
雷やそれに連なる事象を自由自在に操れる』という点にもあった。
更に落雷や電気エネルギーを吸収することで魔皇力を増幅・生命維持にも活用できるなど、フ
ランケン族がいかに『電力』という力を己が物として扱いこなせているかが伺い知れる。
『ぐっ……くそっ!』
地面へと強制的に落とされ、うまく身体を立てずにいるシェールの手を、静雄の革靴が食い込
むようにグイグイと圧迫する。
『ぎィィッ?! や、やめろ! 手が…うがアアアアアアーーーーーーーッッッ!!!!!』
「おいおい、あんまし喚くなよ。楽しい楽しい祭りは、こっっからだ!」
一方。クイックシルバーのゲールとガルルの戦況はクイックシルバーに不利が生じていた。
『このっ!』
『はっ、遅いぞ!』
俊足を生かしたガルルの荒々しくも速いスピード戦は、スピードとパワーの双方が芳しくない
ゲールにとって分が悪いものだった。
だが、それは単純なパワーとスピードの不足から生じる欠点であり、それ以外でさえガルルに
負けるということは早計に他ならない。
『【我が幻夢は現と成りうる(ミラージュ・ザ・リアルム)】』
紡ぎ出すのは、ゲールがオリジナルとして運用する固有術式『ミラージュ・ザ・リアルム』を
起動させる為の言の葉。クイックシルバーやポルターガイスト、または『シェイプシフター(
変身幽霊)』など。
その他諸々を総じ含め、ゴーストと同じように『霊現象』や『幽霊』に纏わる伝承の元となっ
た魔族『スペクター』。
彼等が種族間で持つ魔法術は『心霊夢幻界(スピリアルド)』と呼ばれるもの。
その特徴は自分自身を現実世界の次元から別の次元へと位相し、あらゆる攻撃並び干渉を無効
化するというもの。一般的なイメージである『幽霊は物理的事象を受けつけない』というのも
、これに由来する所がある。
一見すると無敵に見えるが実はそうでもない。
ファンガイアなら次元に干渉する術式さえ使ってしまえばどうにもなるし、何よりこの術式が
発動している際は自分から相手に対しての干渉ができない。
相手が自分に対して攻撃不可能であれば、自分も相手に対しての攻撃が一切出来ないというの
がこの術式のデメリットだ。
しかしそれをゲールは、自らの術式アレンジを既存の術式に組み込むことで少し…それこそ雀
の涙程度だが、欠点克服の技を見出した。
それが【我が幻夢は現と成りうる(ミラージュ・ザ・リアルム)】であり、この術式の特徴は、
自身が触れたものを生物・非生物問わず自分と同じように別次元の位相状態にすることができ
るという点だ
これだけだと戦闘に関しては役に立たないように聞こえるが、重要なのは『位相状態にした物
が調整次第で半実体化できる』という所にある。
実体化状態ならば、例え半分だけだったとしても相手に攻撃すること自体は可能だ。加えて、
強度も半分が位相状態である故にその物に対するダメージは軽減される。
そして今、ゲールは事前に位相状態にしていたものを半実体化させる。
それは……。
『がはァっ! がっ……あっ……こいつは、銀製の槍か?!』
完全に死角だった背中から気配も無くガルルの背中を穿ち、腹部と胸部の境界線から突き出た
それは銀で構成された一本の槍だ。
『くっ、ふふふ。魔族にとって、この世界における有害な物質こそが【銀】。耐性を持っちゃ
う奴もいるみたいだけど、所詮は高が知れてる。そして数ある魔族の中でもウルフェンやファ
ンガイアは銀による毒性を受け易い!』
『グルァァッ!』
ガルルの背中から銀の槍を抜くと同時にガルルの顔面を殴りつけるゲール。ウルフェンは他種
族…それこそファンガイアでさえ上回るほどの『再生能力』を持っている。
それが13魔族に数えられた最大の理由でもあるのだが、銀に宿る効力がそれを阻害してしま
い、傷を癒すことができなくなってしまっていた。
『いかに13魔族に数えられしウルフェンでも銀の効力は強力な毒その物。あと、何十分……
いや何分持つのか楽しみだよっ!』
『ガァァッ!!』
倒れて立ち上がれないガルルに更なる追撃として蹴りを何度も加えるゲールの顔は、邪悪極まり
ない嗜虐を秘めた凄惨なものと化していた。
『ふふふ。中々に楽しめたけど、僕は君なんかの相手より風鳴翼の方が大事なんでね』
それだけ言い残すと、ゲールは未だに気を失っている翼の下へゆっくりと歩み寄る。だが彼女は
ここで怪訝な表情を作り、歩み寄っていたその足を一旦止めた。
何故か? それは自分の腹部から有り得ない物……すなわち『ガルルの片腕』が飛び出していた
からだ。
『あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!』
怪訝から一変し驚愕と恐怖に彩られた顔は、まさしく絶望の体現。
それに対し、ガルルは荒い息遣いで腕を抜き、鋭い爪によるクローを一閃食らわせるという形で
応えた。
『がっ、あぁ……な、なんで……』
『……確かにダークフリークスにとって、銀は猛毒になる。だがお前は言ったよな? 耐性があ
る奴もいるって。俺の場合、普通より異常なほど耐性があったってだけの話だ』
ガルルの身体をよく見てみれば銀の槍で出来た風穴の傷は表面上とは言え、もう完全に塞がり、
治癒能力が正常に機能している状態だった。
『俺を殺すんだったら、一撃で心臓を仕留めるべきだったな!』
『ぐわあぁっ!』
ガルルの牙が槍の様にゲールの肩へと食い込み、その喰らいついた態勢でガルルは歯の一本一本
に魔皇力を注ぎ込んでいく。
そして、放つ。
『獰猛なる狼牙の浸礼(ガールル・フェン・テスプ)』
注ぎ込まれた魔皇力がゲーテルの魔皇力と食い合いを起こし、凄まじいまでのダメージをゲール
に与える。
『くっ、そうッ……!!』
屈辱と痛恨に塗れた顔でガルルを睨みつけるゲール。すると突然、何かが彼女の前へと降って来
た。随分とボロボロだが容易に何が降って来たのかは分かる。
紛れも無い自分のビジネスパートナーであるシェールだった。
『ウ、ウゥ、馬鹿……な』
「おいおい。どうしたんだよ、ア゛ア゛ァ? ま~だ始まったばっかだろがよ」
相変わらず凶悪犯罪者に引けをとらない恐面で止まれの道路標識を担ぎ、いつの間に出したのか
知れぬ一本のタバコを吹かしながら、彼はゲールと共に倒れているシェールを見下す。
『……とにかく、お前等はもう戦闘不能だ。大人しく降参することだな』
状況はゲールたちが詰んだも同然だ。しかし、彼等の運は尽きてなどいなかった。
突如として漆黒の影のようなものが湧き上がり、ガルルたちの視界を奪う。
それは発生から数十秒の内に晴れたものの、そこにゲールとシェールの姿は微塵も残されてはい
なかった。
そして最悪な展開が明らかとなった。
風鳴翼もまた、ゲールたちと同じようにこの場から消失してしまっていたのだ。
『!っ…………逃げられたか』
敵の逃亡を許し、あまつさえ、護衛対象を奪われるという失態。
それ故にガルルの片手は堅く深い、食い込みそうなほどに奮える握り拳が形成されていた。
「ふぅ~危ない危ない。せっかく僕が苦労して作った可愛い分身ちゃんなんだから、もうちょっ
とちゃんとしてくれないと困るよ」
シェールとゲールが命辛々脱出し、第三者の協力者を得て逃げ延びた先は何処とも知れぬ薄暗い
一室。広さは学校の教室程度はあり、様々な道具の数々が陳列または乱雑し合い、一部の機械的
要素を持った道具は怪しく稼動していた。
そんな場所で『ゲールの生首』を片手に持ち、彼女は陽気な笑みを浮かべる。
『うるさい! こっちはこっちで大変だったんだ!! それに高が分身体一つ。取るに足りんだ
ろうがっ!!』
彼女自らが作り上げた特性の治癒薬のおかげで、相当酷いダメージを負った身体が完全に回復し
たシェール。そのせいかいつもながらに煩いのは否めない。
『あのフランケン族の男は色々な意味でおかしい! 本来の姿にならず人間の姿のままでこの私
を圧倒したんだぞ?! こんな屈辱は始めてだっ!』
心底忌々しい。そう言わんばかりの気迫で語るシェードだが、当の少女は意に介さずだった。
黒い色合いのゴシック調のロリータ系ファッション…すなわち世間一般で言うところのゴスロリ
衣装を身に纏い、髪は金髪。前髪に黒いメッシュを一筋入れ、その長い髪を二つに分け束ねたツ
インテールの美少女。
彼女こそが、世界的に有名な連続ストーカー殺人鬼『Ps』。
つまりゲールというダークフリークスは元々、彼女が犯行を実行する際のアバター(分身)の1体
に過ぎないのだ。
「ふむふむ。やっぱりスピードやパワーを省いてテクニック方面を生かし過ぎたのが敗因だった
かな~。でも~、あの狼男のスペックが通常より高めっていうのも敗因だったよね~確実に」
脳内の様々な情報を分析し、思案すると同時にそれらをその潤んだ唇から言葉を紡ぎ出す。語尾
が間延びしたような口調だが本人はそれを気にすることもなく、ただ淡々と独り言を吐き続ける
Ps。
彼女の眼前には、頭部のないゲールの身体がそこにあった。
Psは今、無機質な手術台の上へと寝かされた彼女の身体を切開し、前まではなかった機能諸々
を『身体改造』という形で付け足していく作業を行っている最中だった。
ゲールは意志も心も無い、ただ半自動によって遠隔操作されるだけの分身体だ。
一応人間世界の科学で言うところの『人工知能』を有し、Ps本人の性格をインストールしては
いる。だが、それを差し引いてもゲールその物に明確な意志や心など皆無だ。
あくまでも、Psの意思に沿って従い行動・判断・排除する存在に過ぎない。
「よし。次回からは、色々強化していくって方針でこの件は良しとしよう。残る課題はこっちだ
よね~やっぱ」
ふと視線をゲールから斜めに反らせば、手首と手足を鎖付きの腕輪足輪で拘束され、口元を札の
ような物で塞がれている風鳴翼の姿があった。
「ちょっと脳内の情報を色々見させてもらったけど…ふふっ☆ いいこと思いついちゃったよ」
そう言って、彼女は妖艶な深い笑みを浮かべた。
「翼さん……」
「落ち着け響。あんまし緊張してっと『心の音楽』が聞け取れないぜ?」
マシンキバーに跨り、見晴しの良い公園の夜景スポットから翼の心の音楽を聞き取ろうとする
響。ガルルたちからの連絡で翼が攫われたことを知ったため、急いでこの場所を訪れたのだ。
公園自体は、響が小さい頃から遊んでいた馴染みのある場所だ。そのせいかここで意識を集中
させ、誰かの心の音楽を聞きとろうとすると、例え雑音に塗れていようとも高確率で聞き取る
ことができる。
故に響はキバットの言われた通り不安から来る緊張を沈めようと意識を集中。そして翼の心の
音楽を感じ取った。
「見つけた。行くよキバット!」
「よっしゃ! ギャブッ!」
マシンキバーのエンジンをフルスロットルに吹かせ、すぐさま翼の下へ急行する。そしてキバ
ットはそれに付いて行くと同時に響の手に噛みつき、キバへと変身させた。
「ここか……」
マシンキバーを走らせて10分。結構な距離だったが、マシンキバーにかかればそう時間は掛
からないから便利なことこの上ない。
眼前に聳えるのは、日本有数の大手企業の本社ビルそのもの。
この中から翼の音楽が感じ取れたのであれば、間違いはない。
「なぁ、響」
「言わんとしていることは分かる。こんな真昼間の平日にも関わらず、人が誰もいない」
「人避けの結界か?」
「だろうな。どっちにしろ、相手は私達が来ることに関しては歓迎的なようだな」
人の気配が途絶え、無音の静寂が支配するビルの前でそんな会話を交わしながら、キバとキバ
ットの両名は自動ドアを潜り、内部へ堂々と侵入する。
さすが一流大企業とあってか、入口のホールは一際大きいもので、おそらく体育館の二つ分は
あるだろう。そんな場所の中心に1人。
響がよく知る人物にして、ここへ来た目的でもある人物『風鳴翼』だった。
ただ様子がおかしい。まず『格好』だが、何故かシンフォギアを纏った状態というのが一点。
続いて『目』。何処か正常ではない。簡単に言ってしまえばしっかりと対象を見ておらず、虚
を見据えているかのような目をしている。
だが同時に、己が怨敵と言わんばかりの異様な憎しみの炎を瞳に滾らせている。
「キバ……奏の…仇っ!」
天羽々斬の切っ先をキバへ向け、そのまま一気に肉薄する翼。キバは刺突が自分の身体に届く
のを回避するため、波動結界であるキバの紋章を用いて防ぎ、自らは跳躍。そして翼の背後に
回り込むと手刀で気絶させようとするが、それよりも先に天羽々斬の刃が首筋に届きかけたた
め、更に後進へと跳躍することで何とか間を取った。
「チッ。マインドコントロールとは、つくづく卑しく厄介なものだな」
キバは、翼が自分に襲い掛かったことに関しては別段驚いてはいなかった。
何故なら冷静に分析し、翼がPsの手によってマインドコントロールされているという結論に
至ったためだ。
とは言え、何とか気絶させようとすれば、翼もそれを阻止するため全力行使で来るのだ。
早々簡単には行かない。その事実がキバを少しばかり苛立たせた。
「……くっ、気は進まないが、ダメージでダウンさせるしかないようだな」
「やるからには気をつけろよ!」
「ああ、重々承知している!」
短い会話を合図にキバは翼に迫る。
彼女は天へ向かって、天羽々斬を放り投げることで無数の刃にして繰り出す技『千ノ落涙』を
発動。幾千に分れし刃一つ一つが確実な必殺を秘めた、この技を前にしてキバは一切動じる事
はなく、ただ冷静に回避しながら…あるいは手の甲と蹴りで防いでいく。
しかし、いくら間を詰めようと、彼女がその両手で自在に使いこなす天羽々斬の刃によって響
の手は届かない。
刃が響を切るなら、響は拳にてそれを防ぎ返す。
拳が翼を喰らい付くのであれば、翼は刃をもって受け流し、同時に切り裂こうとする。
まさしく両者は一寸も譲らない攻防戦の最中。もし仮に誰かが介入などしようとすれば、怪我
どころでは済まなくなる。それほどの覇気を孕んでいた。
だからこそ、響は『言葉』を武器にする。
「風鳴翼。いい加減目を覚ましたらどうだ?」
「………」
響の問いかけに翼は答えない。
しかし、響は語りかけるのを止めない。
「私がお前の仇……フッ、言い当て妙だな。確かに私は奏を守ることができなかった。絶唱を
使わせなければ……彼女は……人としての人生を歩めたかもしれん」
「………」
「そういう意味で鑑みれば、お前にとって私は仇とそう大して変わらないな」
「………」
「だが、お前の使命は何だ? お前は……防人(さきもり)の筈だ」
「ッッ……」
その言葉の瞬間、今まで反応のなかった翼の表情に初めて変化が生じた。
それは、戸惑いの色。
「お前がすべきことは、こんなところで大人しく敵の傀儡に成り果てることか? 違うだろ!
その力は常に力なき人々のためのものだろう!!」
「黙れ……お前は、奏の仇っ!」
自らが感じている戸惑いを切り捨てるかのように叫び、己が剣の刃を振るう翼。
しかし響はそれを回避していきながら尚も続ける。
「こうしている間にも、ノイズによって多くの人命が失われるかもしれない……それでも!
お前はこうして傀儡になってるだけか? 助けを必要としている者達の声が、叫びが、お前に
は聞こえないのか?!」
「黙れと言っているっ!」
再度剣を振るう翼が、その刀身は響の手によって掴まれた。
「風鳴翼。貴方の慟哭と哀しみ、そして最愛の友を守れなかった後悔。その全ての気持ちを私
が理解するなどおこがましいし、できはしないだろう。自分の気持ちは…他でもない自分自身
にしか理解できない。だが…そうだとしても、そうであったとしても! 貴方の心を私は知り
たいと思う。全てを理解できなかったとしても……知ることの出来る物もある筈だ」
響の手から鮮血が零れ落ちる。
だが、本人はまったく気に留めることなどなかった。
「本当の気持ちを私に教えてほしい、伝えてほしい。それで見えて掴めるものがあるんだった
ら……私はそれを掴んで見てみたい」
血に濡れる右手とは別に空いた、もう片方の左手でそっと翼の頬に添える。
触れた瞬間少しビクッと震えたものの、特に抵抗する様子はない。
「これ以上……誇りを穢すな。今まで自分が信じてきた防人としての信念……その誇りを……
下衆なんかにくれてやるな。何よりそれは、お前の最愛の友である奏にとって最大の侮辱だ。
だから…………」
添えていた手を離し、今度はその手を拳に作り変え……
「いい加減に、目を覚ませええええええええええええええええええええええええええええええ
ーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
一気に放つ。そして放たれた拳は、そのまま翼の頬へと突き刺った。
「ぐふゥゥっ!」
キバの拳をもろに喰らった翼は苦悶の声を上げ、そのまま仰向けの態勢で倒れ伏した。
何とか最悪的な結果に至らず、無事望んだ通りの解決化にできたのは嬉しいがその為に手荒な
手段を行使してしまったことに対してか、その表情は何処か暗い。
「ふぅ。なんとかなったが……やはり手荒かったのが癪だな……」
「仕方ねぇだろ。状況が状況じゃあ、こうする他にない」
ベルトにぶら下がるように装着している長年の相棒の言葉でも、やはりそう割り切ることので
きない響は傍から見れば『甘過ぎる』の一言で切り捨てられるだろう。しかし、そうだとして
も、彼女は己の行いを訂正する気はない。
何故なら、それが彼女自身が掲げる信念だからだ。
「………………で、貴様はいつまで場外の席で客を演じるつもりだ?」
少し興奮していた精神を沈静し、改めて顔を上げた響は、天井に吊り下げられた巨大なシャン
デリヤに向けて問い掛ける。
そして響の問いに答えるかのようにシャンデリヤの位置の空間が渦を形成するかのように歪み
始め、それは現れた。
「ふふふ、お見事。いつから気付いていたのかな?」
金髪のツインテールに貴族の令嬢を彷彿とさせる黒のゴスロリ衣装を身に纏った美少女こと『
Ps』だ。
「お前が…Psか? ガルルに聞いた人間態の容姿とは随分違うな」
「あ~アレね。アレは僕の操るアバターに過ぎないよ。今まで僕が君達ファンガイアの目と手
から逃れ、色々とできたのはそのおかげなんだ。結構そーいう工作活動って奴が得意なんだよ
僕って!」
妙にテンション高めで答えるPsに、キバは無言で何も答えずに戦闘の構えを取る。
「あれれ? もしかして無駄話は嫌いって奴ゥ? あっはは~ダメじゃんそんなの。こういう
無駄も楽しまないと人生損だよ?」
「貴様などと話している時間は最悪な意味で無駄だ。早々に討滅させてもらう!」
床を蹴り駆け、一気にパンチでPsを仕留めようとするキバ。だが寸前のところで横から飛び
出した手がキバの拳の手首を握った瞬間、そのまま投げ飛ばす。
「ぐっ!」
すぐさま態勢を整え着地し、横槍を入れた者の姿を確認する。
それはまさしく、あのガルルたちが交戦した相手であるゲーテ。その怪人形態だった。
「ふふっ、実はさっきの戦いを教訓に色々と改造したんだよ。この子はまさしく『ゲールⅡ』
と呼ぶべき逸品さ!!」
改造と言っても、その姿はあの巨大な注射器を装備した背中の両腕が無くなっただけで、他は
基本的なままだ。しかしその性能は内面的に向上され、戦闘能力は前と比べて格段に増してい
る。
「キバ……今度こそ貴様を討たせてもらうぞ!」
更に最悪なことに床から通り抜けるようにシェールが剣を携え現れ、数的に不利な状況の場が
構築された。
しかし、それでも彼女の表情は崩れない。
「いいだろう。来いっ!」
そして、第2ラウンドの火蓋が切って落とされた。
感想待ってます!