明日、初めての沖縄旅行に行って来ます!
そのせいで更新が遅れるかも……もしそうなったらすみません(汗)
キバの拳がシェールの顔面を突き刺される。
とある一流大企業の本社ロビーを舞台に繰り広げられるのは、キバとゲールⅡ。そしてシェール
による三つ巴から構成される戦闘の光景。
現状では、やはり2体1という図式の為かやや劣勢に陥っている。
「ハアァッ!」
「ぐっ!」
ゲールⅡのパワーとスピードは前回の戦闘データを基に改良され、今では申し分ないスペックに
なっている。加えてテクニックも損失していないので厄介だ。
ゲールⅡは位相状態である銀製の槍と同じく銀で出来た十字架を半実体化させ自在に操り、キバ
へ猛撃を行使する。
振り下げられた十字架を手の甲で防ぐキバだが、やはり銀製の為か十字架に接触している手の甲
の一部から腐食するような音と共に煙が上がる。
「むふふふ~! やっぱさすがにキバの鎧を着てても、銀の効力は強過ぎるんだね~?」
「ほざくな。この程度、問題はない!」
空いたもう片方の手で十字架の横棒部分の尖端を掴み、ゲールⅡへと投擲する。
しかしゲールⅡの支配下にある為か寸前のところで時間そのものが止まったかのように停止し、
再び銀槍と同様ゲールⅡの手の内に戻る。
「わ~お、本当すごいよね君。さすがは次代を担う王様ってことかな?」
いちいち声挟んで来るが、キバはそんなPsの言葉に目もくれずシカトを決め込む。
『おのれェェ……フンッ!』
顔面に少しダメージを残しながらもシェールは剣を天へと掲げ、頭上に黄色のエネルギー球体
を幾つも精製する。
その一個一個がキバへ向けて放たれ、同時に近くにいたゲールⅡも巻き込まれる形で被弾して
しまった。
「あっ、ちょ、ちょっと~! 貴重な僕の作品に何してくれんだよ!?」
『フン! キバを倒せれば分身体の一体如き、どうでもいいだろう!』
Psの焦り声をそう言って一蹴し、今度は自らの音速に匹敵するスピードでキバの身体を切り刻
んでいく。対し何とか防御してはいるキバだが、やはりそれでもダメージは半減されるだけで、
決して無くなるわけではない。
「ぐっ!」
『そこだっ!』
音速による攻撃を止め、背後に回り込んだシェールはエネルギーの斬撃を形成。一気にキバへと
放つ!
「ぐああっ!」
強力な斬撃を喰らい、何回か転げ回るキバに追い討ちをかけるようにゲールⅡの操る銀槍の尖端
が背中へと食い込む。そして凄まじい激痛がまるで迸るかのように襲いかかった。
「ぐっ、ゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!」
『クッ、ハハハハハハハハッ!! 半分は人間とは言え、やはりもう半分は魔族の血…ならば!
銀が弱点なのも当然だなァ!』
もがき苦しむキバを嘲笑い、何度も剣で斬りつけ、さも当然と言わんばかりに蹴りを入れる。
『お遊びはここまでとしよう。死ぬがいい!』
散々甚振ったシェールはまるで飽きでも来たかのような口調でそう告げ、振り翳した剣を一気に
キバの心臓めがけ落とす…
キィィンッ!
『なにっ!?』
寸前。一本のナイフに近い短刀がシェールの剣を弾く。
短刀が飛来した方角へ振り返ってみれば、そこにいたのは気絶状態から覚醒した風鳴翼だった。
『貴様ァ……』
「はぁ。はぁ。はぁ。その子は……やらせない!」
マインドコントロールによる身体的負荷の影響のせいで呼吸が荒く、酷い頭痛や眩暈が生じてい
る今の状態ではどう見ても戦闘の続行は無理だろう。しかし、それでも自分が剣を手に取りやら
なければならない状況なのは、傍から見ても否定できなかった。
『そんな状態で何ができる!』
シェールは再びその手に剣を出現させ翼へと斬りかかる。翼はシェールの攻撃を受け流すと同時
にその身を斬りつけ、ダメージを与える。
『うぐっ!』
「はあああああああああああーーーーッッッ!!!!」
これを好機と見た翼は尚も追撃を繰り出すが、シェールもやられてばかりいるほど脆弱ではない
。
『図に乗るな!』
青紫の火炎弾を手から放出したシェールは、その劫火をもってして翼を焼き尽くそうと図る。
しかし、それを阻むかのようにキバが手の甲で容易く払い退けた。
「はぁ。はぁ。助かったぞ、風鳴翼」
「くっ……お互い様よ」
互いにダメージが残っているものの、そんな会話を交わすキバと翼。
しかし当のシェールは怒り心頭と言った様子だ。
『くそっ! 揃いも揃って私をコケにするとは……ムゥゥン! ハアアアアアアアアアアッッッ
!!!!!!』
掛け声と同時にシェールは一瞬の内に変身を遂げた。
よりスピード戦に特化した、下半身が山羊その物となった『疾走形態』と化したのだ。
『もういい! これで纏めて殺してやる!!』
シェールは四本の蹄の付いた脚で駆け抜け、キバと翼に強力な前足のキックを喰らわせる。
「ぐあァッ!」
「うわあっ!」
キバはそのまま吹っ飛ばされ、翼は吹っ飛ばされる直前にシェールの手で首を掴まれてしまい、
せいで苦悶の声を上げる。
「ぐっ…がはっ!」
『もうお終いだ。死ね』
そう言ってシェールは剣の刃の部分を翼に首皮を切らないよう押し付け、そこからゆっくり離す
。そして確実に狙いを定め、今度は首を切る死の勢いを以ってして剣を振り下ろす。
その間、それこそ一瞬に過ぎないが、そのたった一瞬で全ての思いや記憶が走馬灯のように駆け
巡った。早くに両親を失い、その才をもってして聖遺物である天羽々斬を発動させ己がアームド
ギアにしたこと。ぎこちながらも着々と戦闘技術を身につけ、戦場に出たこと。弱々しくも自分
を今まで支えてくれた二課の面々。そして…奏に出会い、彼女と唯一無二のパートナーとなった
こと。
何より一番に思い出したのがあの雨の日、大型ノイズに危うく殺されかけたところを助けてくれ
た……天羽奏という1人の戦士の勇姿。それは翼にとってどうしようもなく忘れられない、忘れ
たくない記憶の一片。
両目の瞼を閉じる。様々な思いが逡巡と駆ける中、剣の刃という死神は翼の首へと無慈悲に到達
した。
ギィィィィンッ!
「……?」
だが、いつまで経っても意識が喪失することはなかった。それに聞こえた妙に甲高い金属音。
現状を確かめる為に翼は瞼を大きく開き、そして見た。
シェールの剣を棍棒のような物が妨害し、首筋への到達を阻止していた。そしてその棍棒のよう
な武器を操る人物の姿は翼が最も良く知っていた。
「よう、翼。遅くなってゴメンな」
優しく。頼もしく。勇気が湧いて来るかのような凛とした声……紛れもない、翼の最愛の相棒で
ある天羽奏だった。
「か、奏ぇぇッ!」
『なっ、何だ貴様は!』
歓喜極まったかのように名を叫ぶ翼とは対照的にシェールは困惑した様子を伺わせた。
どうやら本当に天羽奏のことを知らないようだ。
「んまぁ、自己紹介は後だなっ!」
棍棒に力を込めて剣を振り払い、そのまま強烈な蹴りでシェールを吹っ飛ばす奏。
そして拘束から逃れた翼を落とさないよう両手で抱える。その格好は何処をどう見ても俗に言う
『お姫様抱っこ』そのものだ。
「あっ、そ、その……」
色々な思いが頭の中を逡巡としている為かどうにも定まった言葉が出せない翼に対し、奏はそっ
と床へ下ろしたかと思えば、その手で優しく翼の頭を撫でた。
「今は何も言わなくていい。状況が状況だしな。まぁ、後はアタシと響に任せろ」
「その通りだ」
突如として頭上が声が降り掛かる。見ればシャンデリヤに足をかけ、まるで蝙蝠のように宙吊り
になっているキバの姿があった。そしてキバは引っ掛けていた足を離しそのまま落下。着地した
瞬間凄まじいパンチとキックの応酬でシェールを吹っ飛ばす。
『ガァァッ!』
「お返しだ。………クッ、まだ頭がクラクラするな」
どうやら、ついさっきまで頭を…それも打ち所の悪い部分を打って意識が朦朧としていたらしく
、そのせいで少々足取りがおぼつかないでいた。
「大丈夫かよ」
「ああ、問題ない。このまま負けっぱなしも癪だ!」
気合を持ってして集中力を高め、意気揚々と熱気を放つキバに奏はにかっと笑みを浮かばせる。
そして両目の瞳と、顔の顎から下がステンドガラスのような色彩の模様に包み込まれ、奏の姿を
獅子を彷彿とさせるファンガイア『ライオンファンガイア』へと遂げさせる。
『へっ、それでこそキバだ! 行くぜ!』
「おう!」
互いに息を合わせる両者。奏は棍棒、キバは拳でシェールの斬撃をかわしつつ、攻撃を流すよう
相手へと加える。
このままでは拙いと判断したゲールⅡは銀製の十字架と槍を2人に向け投擲するが、ルークが手
を前へ翳した瞬間。見えない何かの力場に拘束されたのように静止する。
「!?ッ あれって……まさか!」
「磁力さ。アタシの属性は『宙』なんだから、当然だろ?」
宙の属性には『氷』、『雷』、『風』の三つの派生属性が存在し、奏は雷の属性を保持している
。雷は単に電気そのものを操るだけでなく、そこから連なる事象も行使することができる。
その一つこそ『磁力』だ。磁力の特性は特定の金属を引き寄せることだが、奏の場合は磁力その
ものを精緻にコントロールすることが可能で、こうして一時停止のように止めることもやっての
けてしまう。
『これでテメェの武器はアタシの制御下だ』
奏は磁力を操ることで十字架と槍の双方を奪取することに成功。それを完全に制御下に置くこと
でゲールⅡへと挑む。一方でキバは、屋外へと単身出てシェールとの戦闘を展開した。
『いい気になるなよ小娘がッ!』
とは言え、先程の戦いによるダメージ+疾走形態となったシェールのスピード戦によって戦況は
キバにとって不利な状勢となっている。
「はァ、はァ、チッ、厄介な……だが適任の奴がいる」
そう言って取り出したのは、緑色のフエッスル…すなわちバッシャーを召喚する為の専用フエッ
スルだ。それをキバットに装着し吹かせる。
『バッシャー・マグナム!』
緑色の魔方陣を用いて召喚された彫像形態のバッシャーを掴み、エメラルドが瑞々しく輝くバッ
シャーフォームへと変身するキバ。
『その姿…ビータスを葬った奴だな』
「うん♪ そんでもって君も同じ運命を辿るのさ!」
軽快溌剌な口調と共にバッシャーマグナムのトリガーを引き、水の弾丸を発射する。放たれた弾
丸は計3発。それらは正確にシェールを狙うが、鼻で笑い余裕をもって回避に成功する。
『中々良い攻撃だと評価してやるが…我がスピードの前に銃など効かぬわ!』
「ふふん、そいつはどうかな?」
ここでキバットは不敵に笑い、同時にキバも含みのある笑みを見せる。
そして自らが立っている地面に赤い魔方陣を出現させ、魔皇力共鳴を行使する。
「バッシャー、バイトッ!」
キバである響自身とバッシャーである明久の魔皇力が互いに相殺することなく、見事な調和をも
って共鳴し、より一層と力を強める。
更にバイトによる上乗せ効果も相成ってその力は未知数と化す。
『!! これは…水?!』
シェールはここで気付く。自分の足元がコンクリートの大地ではなく、水の大地と化している事
を。これこそバッシャーバイトすることで発動される擬似水中環境領域『アクア・フィールド』
で、その範囲に明確な基準はないが、時に最長で半径20mにも達するという。
いつの間にか昼間だった筈の空は漆黒の夜の闇に包まれ、遥か上空に半月が浮かび上がる。そし
て、アクアフィールドを形成していた一部の水がキバを中心に巻き起こり、水流の竜巻と化す。
水流はやがて緑色の水弾丸としてバッシャーマグナムの銃口に集束。そして……危機を察知して
全速力で逃げるシェールを捉え、放たれる。
これがバッシャーフォームの必殺技『バッシャー・アクアトルネード』だ。
『な、なんでだ! 俺のスピードに追い…』
最後まで言葉を発することができず、水弾丸が直撃したシェールの身体は全身が麻痺し、そのま
まの態勢で停止してしまう。
『ガ……ァ…』
「動こうとしても無駄だよ。王水とは違うけど、麻痺効果の強い『麻水』で形成した水の弾丸だ
からね。それと……バッシャーマグナムの力で肉体の組織を精細なレベルにまで破壊したから、
今ちょっと突付く程度でも」
人差し指を出し、ゆっくり。
ゆっくりと、亀の歩みとも取れるほど遅く、蟻を潰すにさえ至らぬ力でシェールに触れる。
瞬間。何もかもが崩壊しシェールは炭素と化して消えた。
「こうなる♪」
キバはバッシャーマグナムをクルクルと回し、そう呟きながら笑みを浮かべた。
一方、ゲールⅡとルークの戦いは両者が互角の戦闘を繰り広げていた。
「ふんっ!」
『………』
ルークが操る銀製の十字架と槍が左右から交錯しゲールⅡの首を掻こうとするが、それを瞬時に
下にしゃがみ込むことで回避し、後方へバックする形で跳躍。無言で間を開けるのだった。
「チッ! 中々やるじゃねぇか」
忌々しく舌打ちするものの、純粋にゲールⅡの戦闘能力に感心するルーク。ガルルの時のように
テクニックだけに力を回していたならば、こうは互角にいかなかったかもしれない。しかし今の
ゲールは『パワー』と『スピード』の二点において確実に強化されている。
おまけに性格のプログラムを外したことで、より冷静に状況を把握。実行することができるよう
になったのだ。
「むふふふ! 成り立てのルークとはいえ、ここまで互角に渡り合える作品を造れるなんて……、
やっぱ僕って天才じゃん!!」
自らが生んだ作品の出来倍に歓喜に満ち溢れるPs。
そんなことなど露知らず、ルークとゲールⅡの戦闘はより過激さを増していく。
だがそれも、やがては終局が打たれることになる。
「うおりゃああッッ!!」
ルークは槍と十字架を投げ付けるが、それをゲールⅡは容易く避ける。あまりに単調だったから
だ。いかに威力があろうと動きそのものが酷く単調であったのなら、まったくもって話にならな
い。
だからこそ、Psは不審を抱いた。
先程まで鋭く冴えのあった攻撃が、急に単調的な攻撃に変わる。ヤケクソになったのだと捉える
こともできる。が、天羽奏のような戦いの修羅場を潜り抜けて来た戦闘のプロが、そんな短気に
ヤケを起こしたとは考えにくい。
ならば、何故?
「かかったな!」
槍と十字架から何かが迸り真っ直ぐゲールⅡへと駆け抜けた。それは『電気』。より明確に言っ
てしまえば、奏が人為的に発生させた『雷』だ。
「!っ 槍と十字架を避雷針にしたのか!?」
「ちっとばかり違うな! 銀の特性を利用してより増幅させたんだよ!」
銀は魔にとって害なす物質だが、何もデメリットばかりではない。
電気系統の術式や技を増幅させより強化させる性質もあり、それらに通じるダークフリークス達
からは結構な値打ちで重宝とされていたりするものだ。
「(遠距離での術式発動は意外と難しい。熟練のダークフリークスでも、誤差が生じるのは当然
なくらいに。でも、彼女は正確に槍と十字架の近くに発生させ、纏わせることで増幅させる事
に成功した! 何という所業だ! 是非ともじっくりと詳しく調べてみたいところだが……)」
そうも言ってられなかった。
何せ先程の電撃でゲールⅡは全身を炭化させ戦闘不能の状態。更にシェールの生命反応が途絶え
たことも相成ってキバがこの場に戻って来るのは明白であり、時間の問題でもある。
「残念ながら、ここは撤退するしかないみたいだね」
「……おいおい。ここまでのことしといて『はい、さよなら』が通じるとでも思ってんのか?」
手の指をパキポキと鳴らし、ついでに肩も回して鳴らす。
傍から見ても怒り心頭なのは分かるが、Psはそんなこと露知らずと言った顔で奏を見る。
「いやいや、君の気持ちとか意見なんて聞いてないし。逃げたいから逃亡させてもらうってだけ
の話さ…ああ、そうそう。風鳴翼に施したのってさ、何も暗示催眠だけじゃないんだよねぇ~~
これが」
「なにっ?! そいつは一体どういう…」
「?!ッ う、うわあああああああああああああああーーーーーーーーーーッッッ!!!!」
奏の問いを遮り、翼の苦悶に満ちた叫びが響き渡る。
そして……徐々にその姿を異形の物へと変質させいく。
「マインドコントロール以外にもう一つ、ちょっと細工をさせてもらったんだよ。『人体改造』
ってやつさ。まぁ、正確に言えば宿主に劇的な変化を齎す魔界産の寄生虫を色々と改造して埋め
込んで、それを今起動させたって具合。対処法は寄生虫を取り出すことなんだけどさ、あんまし
時間を喰っちゃいけないよ? 絶対の確率で戻れなくなるから♪」
Psが長々と説明している間に翼は異形へとその変質を終わらせた。
全身に棘のような物体を生やした、刺々しく硬い緑色の外骨格。頭部には青い触手のような髪の
毛を生やし、目は蜘蛛のような四つの複眼。
完全に異形と化し、もはや翼本来の意思が存在しない怪物の複眼はルークを捉えた。
『ガルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!』
吠える異形の翼。それに対し、ルークは何とか取っ組み合う形で押さえつける。
『クソッ! おい翼! 頼む、元に戻ってくれ!!』
『ガァ、アアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!』
しかし必死の懇願も虚しくルークを突き飛ばし、追撃を容赦なく繰り出ていく翼。
パンチとキック。それにクローや口から放つ硫酸のような体液をかけられ、何の抵抗もしない奏
…いや正確に言えばできないのだ。寄生虫の位置が分からない。下手に間違えて致命傷をつける
ような事態に陥れば、それは命に関わることだ。
最悪の結果だって有り得る。だからこそルークはされがままになるしかないのだ。
『ちっ、くしょう……一体どうすれば……』
その時だった。一直線に何かが遠方から飛来して来る。凄まじい速度をもって宙を突き進むそれ
をルークは視覚に捉え込み、そして瞬時に把握した。
『水の弾丸』。
水が不定形ながらも半球体の形状となっており、それが翼の両腕と脇腹辺りに5発命中。かなり
のダメージによる痛みなのか、そのまま倒れ込み悶絶するかのように蠢く。
「大丈夫ですか?! 奏さん!」
水の弾丸を放った張本人であるキバは、バッシャーフォームを解除していない状態で奏へと駆け
寄る。どうやら、シェールを倒してすぐ奏の援護へと駆けつけて来たようだ。
「?!っ あ、アレって……」
『………翼だ。あんなになっちまったが……翼なんだ』
固く拳を握り締めながら奏は事態の状況を細かく分かりやすく、それでいて端的に説明した。話
を聴き終え、今の状況を理解すると共に把握したキバは奏に『ある提案』を持ちかけた。
「奏さん。僕がバッシャーマグナムで翼さんの体内にいる寄生虫を狙撃します」
『!?ッ ちょっと待ってくれ! 翼を殺すって言うのかよ!!』
「違います。翼さんの身体を傷付けず、寄生虫を狙撃する術が今の僕にはあります。この姿、バ
ッシャーフォームの力でなら可能なんです。でも、それを行使するには少し時間が要ります。な
ので奏さんはどうにかして時間稼ぎをして貰いたいんです」
『……できるのか、本当に』
不安を交えながら質問を口にするルークを前に、キバは平然と答えてみせた。
「例え無理でも、無茶だったとしてもやってみせます。それが僕の信条ですから」
『………はァ~、OKOK。お前のこと信じるよ。で、どんくらいまで時間稼げばいいんだ?』
「三分程度です。できますか?」
『余裕だねッ!』
再び動き始めた異形の翼を前に奮然と立ち向かい、相手役を務めるルーク。その間、キバは全身
に張り巡った神経を驚異的な集中力で研ぎ澄ませる。
バッシャーフォームの能力は『マーマン族の水の力』だけではない。五感などの身体感覚をより
向上させ、強化することだってできる。そして今回キバが利用するの感覚は『聴覚』。
すなわち聞き取ろうと言うのだ。
翼の中に巣食う寄生虫の動きを、その音を。
「(寄生虫がどんなものかは分からないけど、あのPsの言葉を信じるなら寄生虫が体内の何処か
にいて、その結果が今の翼さんの姿になってる。探せ、探すんだ。どんなに巧妙に隠れてたって
所詮異物は異物。翼さんの体内の動きの音とは違う独特の音が必ずある筈だ)」
人間を始め、多くの生き物は皆『体内活動』がある。心臓なら、鼓動を鳴らすことで血流を送り
出すポンプの役目を担い、肺は気管を通って来た酸素を体内全体に分配する役目を持つ。
各臓器には相応の役目があり、その役目を果たす為に動くものだ。
バッシャーフォームの力によって向上された『聴力』は、それらを精緻且つ正確に聞き分ける事
ができる。そして、彼女は見つけ出す。
翼の体内の音とは違う『何かが微かに蠢くような音』を。
「見つけた! そこぉぉッ!!」
銃口から放たれた弾丸は三つに別れ三日月のように湾曲した曲線を描き、再び翼のある一点と集
合する形となる。その一点とは『左肩』。そこに着弾した水の弾丸の一部は皮膚を通り抜け、血
管に侵入。迷路のように入り組んだ血管の中を、バッシャーマグナムの弾丸だった水分は一切の
無駄なく駆け抜ける。そして、心臓へと到達してすぐに目標のそれを見つけた。
風鳴翼に寄生していた虫は、小さいダンゴ虫のような形状のもので、心臓内の五つの部屋の一室
である肉壁にピタリと張り付いていた。発見してからの対応は迅速で的確だった。水分は瞬時に
寄生虫をアメーバのように捕縛。同時にそのまま残さずに溶かし尽し消滅させることに成功。
怪物化の元凶となった寄生虫が体内から除去されたことで翼は元に戻り、意識無く崩れる彼女を
ルークが抱き止め改めて異常がないかどうかを確認する。
「………大丈夫だ! 問題ない!」
「よかったぁぁ~!」
キバの鎧を解除して元の姿に戻った響は、そんな声を溜息と共に漏らし、思わずへたり込んでし
まう。やはり自信はあったとは言え、巧く成功できるかどうか不安だったようだ。
「とにかく一旦ここから離れようぜ。人避けの結界が解けたし、色々と事後処理とかもあんだろ
」
キバットの意見に響と奏は特に反対する意見は無く同意。すぐさま今いるビルを離れ、キャッス
ルドランへとその帰路を定めるだった。
「う…んん……っっ……ここ、は……」
重い瞼を開き、未だ少し頭が鉛のように重く感じながらも覚醒することができた翼は周囲を見渡
し、自分が今まったく知らない寝室のベッドで寝かされているという状況を何とか把握した。
「あっ、目が覚めたんですね翼さん!」
そんな彼女の顔を覗き込む少女の顔…間違いなく響だ。
「あの……翼さん……その…」
何処か歯切れ悪く、中々言い出せない響の心情を察したのか。翼はその顔に影を差しながら答え
た。
「覚えてるわ。おめおめと敵に捕まり、貴方に剣を向けたこと。それと……奏を……殺そうとし
たことも……」
怪物化し、理性と自我を一時的に失って尚、記憶はしっかりと焼きつくように残留していた。
忘れていた方がまだ良かったかもしれないが、現実はそれを許そうとはしなかったようだ。
「………本当に、ダメね。奏がいなくなってからもう……失いたくなかったから……守れないな
んて嫌だったから……だから、強くなろうとして……でも結局、私は弱いまんま。あの時から一
歩も進んでなんかいないっ!!」
それは、胸の奥底にしまい込んでいた独白。己を剣として、例え人としての何かを失なおうとも
信念を貫こうとした少女の情念だった。そして今翼が流している涙こそが、その証に違いないの
だろう。
「ていっ!」
「ふぎゅゥゥッ!」
しかし、響はそんな翼に対し脳天にチョップを決め込む。突然のことに翼は思わず裏返った素っ
頓狂な声を上げてしまった。傍から見ればまったく空気を読んでいない行為に見えるが……実際
は違う。
「翼さん。そんな風にウジウジウジ、引き摺ってたらキリがありませんよ? もう過ぎた事なん
ですし、とりあえずは前へと進むことが大切なんじゃないんですか?」
それと、と続けて自分の拳を翼の胸へと当てる。
「自分の弱さを自覚できてるんでしたら、翼さんは十分強いです。『弱さを知り、強きを見出せ
』……僕の大切な人からの受け売りです。まぁ~とにかく言えることは一つ、『何が何でもいい
から真っ直ぐ前へ進め』ですかね」
「は、はぁ…」
イマイチ釈然としない翼だが、不思議と重かった心が少しばかり軽くなった気がした。思えば目
の前にいる響という少女には色々と助けられていたと、翼は節々に思う。最初に出会った時は疑
念しかなかったが、一度ノイズ殲滅戦において共闘した際は他の誰よりも逸早く逃げ遅れた一般
市民を見つけ出し救出。
その際、ノイズの攻撃から彼等を守る為に自らが盾となって防ぐこともあった。
その光景を見て、翼は響自身が語らずとも彼女がどういった者なのか分かったのだ。響がどんな
覚悟を秘めて戦っているのか。口には出さずとも、キバとして戦う響の瞳に宿るそれはれっきと
した戦士であり、また守る者としての信念と覚悟の炎だった。
「あっ、僕用事がありますからもう行きますけど、まだ安静にしてて下さいよ? 結構ケガが酷
いんですから」
それだけ言うと響は急いで寝室を後にし、残された翼は再び横になる。
不思議と、顔に浮かんだ表情は何処か安堵の笑みを形作っていた。
「やれやれ。お前にも困ったものだな。今、俺達は表立った行動をすべき時じゃないんだぞ」
「左様。貴様の行為は我々の存在をファンガイアどもに露見されかねん」
夕暮れ時のビルの屋上。そこでは3人の『人の姿を成した人外の者達』が邂逅を果たしていた。
1人は響たちが戦った世界的に有名なストーカー殺人鬼『Ps』。もう1人は蛇柄の革ジャンを
纏った赤髪の青年。更にもう1人は狐の面をつけ、魔術師のような紫色のローブを身に纏った男
。その素顔は面を付けているだけでなく、頭にフードを目深く被っているので得体が知れなかっ
た。
「でもさ~、どうあれ『悲鳴』は必要でしょ? 今まで殺した連中から~結構集めたし」
「確かに必要だ。だがそれを踏まえるなら、より隠密に行動すべきだ。もしもの時に邪魔などが
入って来たら困るぞ」
しわがれた老人のような声で忠告する狐面の男に苛立ちが混じった視線を向けるも、Psは降参
とばかりに両手を挙げる。
「分かった、分かったよ! これからは『来るべき時』に備えて慎重且つ隠密に動くよ。これで
いいだろ?」
「本当だろうな?」
革ジャンの青年が疑念の眼差しを向けるも、必死にPsはウンウンと首を上下に振ることで肯定
の意を示す。その様子に狐面の男は少しばかり溜息を零してしまった。
「お前には期待しているんだ。くれぐれも頼むぞ……『ジャック・レジェンドルガ』」
「もう~。僕だってそこまで馬鹿じゃないよ。『ヨルムン・レジェンドルガ』」
互いに真名を呼び合う2人。夕陽に照らされたその影は、不気味に蠢く異形の形を作り出していた。