吸血姫絶唱シンフォキバ   作:イビルジョーカー

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沖縄サイコーでした!

そして遅くなってすみません(汗)

今回はまぁ、閑話という形です。ではどうぞっ!


第16話 閑話/インタールード1

 

魔界の辺境。

 

それは対して珍しくも無い。

 

人間界とて辺境と言われる場所など、いくらでもある。しかし数多ある魔界の辺境でも通常のダークフリークスでは立ち入ることさえ敵わぬ聖地がある。名を『チェイテ』。その意味は魔界言語で『高貴なる血族の集い』を意味し、今現在において存命している歴代ファンガイアの集会場となっている場所である。

 

「さて、来てみたはいいが相変わらず不気味だな~おい」

 

『ここはキングの座を退きながらも存命し、魔界の維持に貢献せし貴方様の先達者が集う場所。故にあまり無礼な振る舞いは…』

 

「はいはい、分かった分かった。その話はここまで来る道中に30回は聞いてるっつーの」

 

そんな場所に1人と一匹。現在のファンガイアを束ねるキング『紅夜音夜』と、盲目の紫蛇『プルーネス』。6匹いたプルーネスは死なない程度に音夜が伸ばし、見事このチェイテへと行く許可を得た。ここにいるプルーネスは倒した中の一匹であり、念の為『監視』と『警護』という理由で音夜と同行しているのだ。

 

「では、参りましょうかね」

 

来る者全てを威圧するかのように屹立するそれは、まさしく中世の西洋で見るような『城』。権力者であることを誇示するそれを前に音夜は別段、怯えるといった様子はなく、開かれた城の大門へと足を踏み入れる。

 

中に入って数歩程度進んだ際、門はゆっくりと閉じ、暗闇に包まれていた空間にいくつもの火が点ると同時に闇を払う。音夜の目に入って来たのは装飾品以外の全てが真っ赤に染め上げらた大階段のある居間。そして、そんな場所に佇む1人の執事。

 

「紅夜音夜様。よくぞ、チェイテへといらっしゃいました」

 

「4代目キング『巌龍』殿。また会えて嬉しいですよ」

 

「ほっほっほ。敬語など無用ですぞ。今の私はしがない執事ですからな」

 

音夜と親しげに話す執事の名は『紅夜巌龍』。音夜や響からすれば、近い先祖に当たる人物だ。同時にかつては4人目のキング継承者でもあったが、現在では本人希望で執事をやっており、先代キングたちの身の回りの世話や諸々を担っている。

 

「そういうわけにはいきませんよ。他のキングはどちらに?」

 

「大部屋の一室にて既に待機を。プルーネス。任を良く果たしてくれた」

 

巌龍が腕を前へ…プルーネスに向けると彼はスルスルと音夜の腕を伝って巌龍の腕へと巻きついた。

 

『お褒め言葉。ありがとうございます』

 

頭を下げ、礼を述べる姿から察するとこの蛇の飼い主は巌龍らしい。

 

「やっぱそいつ、貴方の蛇だったか」

 

「ええ。自慢且つ信頼における部下です」

 

そんな談笑を交えながら両者は、城の上階へと足を運び歴代キングたちが待っているという大部屋の一室へと向かう。城内の雰囲気は豪華で優雅さに満ち溢れてはいるものの、薄暗く不気味な空気を作り出している為か、あまり良い印象を受けないのが残念なところだろう。

 

だが、それはあくまで人間だったらの話に過ぎない。

 

魔族…特にファンガイアはこういった雰囲気を比較的好む傾向があり、これはそれに合わせた仕様となっている。

 

「着きましたよ」

 

その一言を合図に両者の足は歩みを止め、眼前の扉を見据える。一見すれば、特に変わった所はない普通の両扉だ。しかしその向こう側から発せられる重い空気は、まるで音夜自身に絡み付いていくかのような…そんな錯覚を抱かせてしまうものだった。

 

そして。まるで二人が来たことを察知したかのように、両扉は誰の手ということもなく、ただ独りでに開かれた。

 

「随分と遅かったな。我が子孫よ」

 

部屋の中にあった、大きな円卓テーブル。それを取り囲むように『巌龍』を除いた歴代キングの面々が指定の席へと腰を下ろしていた。

 

そして、丁度音夜と対峙するような位置で玉座のようなイスに座する漆黒の鎧…『闇のキバ』を纏う初代ファンガイア王『ウラド・ドラキュラ』が音夜をその視界にて捉えていた。

 

「お久しぶりです。歴代ファンガイア王の皆様。私めの招聘の声に集い頂き、感謝の極み」

 

普段の調子の良い陽気さを沈め、真面目な対応でそう礼を取る音夜。そんな彼に1人のファンガイア王が一声を上げる。

 

「随分と堅ッッ苦しいじゃねェェか! 音夜の坊主! テメェーもキングの1人なんだからよ~~、もうちっと気軽になれよォッ!」

 

髑髏を模したフルフェイスの仮面で顔を隠し、レザーのコートとブーツを身に纏った3代目ファンガイア王『スカル・ツェペシ』。

 

「スカル。あまり品の無い発言は控えなさい」

 

そんな彼を窘めるように注意するのは、初代ファンガイア王の息子にして2代目ファンガイア王『アルカード』。金髪をオールバックにした髪型と、血のように赤く染まった白目に獣のような瞳の異形の目が特徴的だ。

 

「さて、そろそろ話の路線を戻そう。我等歴代キングを招聘した理由を聞こうか」

 

鎧から発せられる厳格な男性の声音。あまりのプレッシャーに人間はおろか並大抵のファンガイアでさえ、思わず失神しかねない勢いだが音夜は臆することはなかった。

 

「お力添えを貰いたく、参上致しました。魔界と人界、双方の秩序と安寧の為に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではっ! 奏さんの現場復帰と翼さんの無事を祝って~乾ッッ杯!」

 

『乾杯~っ!』

 

Psストーカー事件は無事幕を閉じ、翼は早くも現場復帰できるほどの回復を果たした。そして奏も、チェックメイトシックスの1人『ルーク』としての業務を2年間で無事に終え、改めて人界においてのルークの責務が可能となったのだ。

 

そして今日この日、奏と翼の復活祝いという名目で二課や響たち面々総出のパーティーを催していた。

 

「いえ~い! もう一曲行くぜ~~ッッ!」

 

『イエェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッ!!!!!!』

 

普段のワイルドさは何処へやら…デロンデロンな状態になるまでビールやワインなどの酒類をかっ喰らうよう飲み尽くし、更にハイテンションでパーティーのステージに上がり何曲か歌う状態に陥っている一夏の姿。一方でマカはオペレーターのあおいを含めた何人かの女性職員とガールズトークに盛り上がり、明久は静雄と男性オペレーターである藤尭朔也とで、色々談笑しながら料理を食べている。

 

それぞれが和気藹々とパーティーを楽しむ中で、翼は今回のパーティーの主賓の1人と言うこともあってか、少し緊張した面持ちでテーブルを彩るご馳走を咀嚼していた。

 

「つ~ばっさ! なに緊張してんだ~?」

 

「あっ、か、奏!」

 

「にゃはは。そうやって慌てふためく翼見るの久しぶりだな~」

 

少し酒を飲んだらしく、赤みを含んだ顔でニシシと笑いながら翼が据わっているソファーへと、自分も座る形で翼の隣へと腰を下ろす。そして、少しばかり暗い雰囲気を孕みながら彼女は口を開く。

 

「アタシがいない間……頑張ってくれてあがりとう。そんでもって……ごめん」

 

礼と謝罪。それらは今まで、たった一人でノイズと戦い、防人としての使命を全うしてくれた翼へ向けたものだった。この2年間、いかにルークとしての責務を全うする為だったとは言え、生きていることを報告せずにいた奏。その理由は単に怖かったからだ。異形なる存在となった自分が、かつての仲間に受け入れられるのか……恐れ拒絶されてしまうのではないか。そんな不安があったのだ。

 

しかし、それは結局のところ無駄に終わった。

 

こうしてパーティーを開いて、人も魔も関係なく、皆が楽しみ笑い合っている。普通ならダークフリークスは、魔族は。人間に恐れられる存在だ。神が光だとすれば魔は闇…人は古の頃から闇を恐れ、自らの文明をもって光を獲得し、照らし出すことで闇を払って来た。

 

そして今、自分達の前に闇の顕現者たるダークフリークスがいる。

 

だが二課の人々は恐れを抱かず、むしろ友好的な好意を向けていると言うのだ。

 

それはまさしく混沌としていながらも美しい光景だった。

 

「二課のみんな、相手が怪物だってのに全然普通にしちゃってさ。もう無駄骨だったていうか、考えてた自分が馬鹿馬鹿しかったって言うか……本当、色んな意味で嬉しいよ」

 

「奏…」

 

「奏しゃ~ん、翼さ~~ん、なぁ~に暗い顔してんれすかぁ~?」

 

シリアスな空気を、まるで意にも介さないが如くぶち壊すように二人の間に入って来たのは、酒を飲みデロンデロンに酔ってしまった響だった。

 

「え、ちょっ、貴方…うわっ、お酒臭い……」

 

「おいおい響。お前、なんで酒なんか飲んだんだ?」

 

「だって~~、せっかくだからって~~、一夏に進められちゃって~~ムフフフッ!」

 

どうやら一夏が原因らしい。とりあえず何だか嫌な予感がした為に少し休むように説得しようとした奏だが、そうするよりも早く近くにいたキバットを捕まえ、強制的にキバへと変身する響。

 

「えっ、おっ、お前こんなところで何変身…」

 

「さぁ、飲め。遠慮することはない」

 

両手に持った、ワインの入ったグラスを見せつけながら一歩。また一歩と迫るキバ。このままでは色々と拙い! そう判断した奏と翼だったが、ここで響に制止の声をかける者がいた。

 

「はいはい、そこまで。あんまり度を越した戯れはダメだよ響」

 

「酒は飲んでも飲まれるなって、言うでしょ?」

 

明久と未来だった。この二人のおかげで響の暴走は止まると思われたのだが……。

 

「そう言うな。えいっ!」

 

「むっ…ッッ!」

 

なんということか。左手に持ったグラスの中のワインを全て一滴残さず口に含み、そのまま口付けという形でそのまま未来に飲ませてしまった。その百合的な光景に思わず翼、奏、明久の3人は顔を真っ赤にし呆然となってしまう始末だった。

 

「………………うふっ」

 

ワインを口付けという強制的な形で飲まされた未来は、即効的なまでに完全に酔ってしまった。そしていつの間にか手に持ったジャコーダーの刀身を鞭のように撓らせたジャコーダービュートを振るい、どいうわけか、明久の身体を駿河問いのような縛りで拘束してしまった。

 

「えっ? あの、え? どういう…ことですかコレ」

 

「ウフフ……いい声で泣き喚いてよ」

 

その顔に貼り付かせるのは、つい先程までの平常時とは程遠い…まるで獲物を見つけた、いや、もっと適切な言葉で表現するのであれば、自分を悦ばせてくれる新しい玩具を見つけた、真性たるSの笑みを浮べていたっ!!

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「あっはっはっはっは! いいよォっ! もっと、もっともっともっと! 回って回りまくりなよ!」

 

「ははははははっ! いいぞ未来~もっとやってしまえ~~!!」

 

空中からブンブンと洒落にならない位の高速回転地獄を明久は味わい、その悲鳴に未来はSが活性化したのかハイテンションになり、キバは明久の無様な姿を見て笑い煽る煽る。もはや収拾がつかなくなってしまった。

 

「……翼、なんかゴメン」

 

「……ううん。気にしないで奏」

 

混沌とした光景を見て、そんな脱力的会話をする他に術がないツヴァイウィングの二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お力添えを貰いたく、参上致しました。魔界と人界、双方の秩序と安寧の為に」

 

厳粛な声で、音夜はそう告げた。音夜が歴代のキングたちを招聘し、集いの機を設けた理由こそ彼が予想する中で『史上最悪な未来』を回避すること。そしてその為には、歴代のキングたちの力が絶対的に必要になる。それを見越した上での申し出だった。

 

「顔を上げろ音夜。我等はキングの称号を持ちしファンガイア王。退役した身であれど、今尚この魔界と人界を守る意志は曲げてなどいない」

 

初代直々による、肯定の言葉。

 

確かに彼等は王の座を次代へと託し、自らを退かせた。だが現役であろうと、そうでなかろうと、彼等が王たる者の1人であることは揺るがない。

 

「音夜。きみも薄々感づいているとは思いますが、人界における世界各地のディヴィルムによる被害件数は異常な数を記録しています。それどころか、この魔界でもディヴィルムが暴走し我々ファンガイアもそうですが、13魔族の領地内を荒らしている。何とか鎮圧はしてはいますが……抑えてもまた発生してしまい始末に終えない」

 

「加えて、5代目と6代目の墓がどっかの身の程知らずに荒らされちまってやがる」

 

「!っ 親父と爺さんの墓が?!」

 

驚愕の念を隠さず顔に刻み込む音夜。彼が驚くのも無理はならなかったし、その情報は聞き捨てならないものでもあった。かつて、人間を家畜化し人界を植民地化しようと目論んだファンガイアの一派と、人類との共存を無価値であり、あってはならぬものと断じたゴブリン族とレジェンドルガ族。

 

彼等は利害一致の目的から連合軍を結成し、人と魔の共存を肯定し目指すチェックメイトシックス率いる王族軍を打ち倒すべく立ち上がった。

 

戦魔大乱の次に魔界史に刻み込まれたその戦いは、後に『人魔戦争』と呼ばれ、戦魔大乱に匹敵しかねない大規模の犠牲者を生んだ。連合軍と王族軍は熾烈極まる戦いを互角に繰り広げたが連合軍が徐々に追い詰められる形となり、最終的に音夜の祖父『5代目ファンガイア王 バードリック』が、完成したばかりの『黄金のキバ』を纏い自らの命を引き換えに発動させる究極奥義をもって、レジェンドルガ族

の王『アーク』を打ち倒した。

 

だが、肉体を失って尚も己が野望を果たそうとするアークを止める為、音夜の父『6代目ファンガイア王  紅夜陽炎』が相打ちとなる形で封印。人魔戦争は二人のファンガイア王の犠牲をきっかけに終結。王族軍の勝利となった。

 

そしてその後、二人の遺体は猛毒の魔皇力と獄炎が絶えることなく吹き出す『毒炎の谷』に建てられた墓に収められ、同時にアークの封印の鍵である魔工器の一つが厳重且つ、強力な結界に守護される形で奉られている。

 

その墓が、荒らされた。

 

音夜にとって二人は偉大な師であり、愛するべき家族の一員だった。そんな彼等が安寧の下に眠る墓を荒らすなど、一体何処の愚か者なのか……そう思うだけでハラワタが煮え繰り返るほどの怒りに駆られそうになる。

 

「どういうわけか、幸いにも荒らされただけでアーク封印の鍵である魔工器は無事だ

った。墓を荒らした下手人の詳細は不明だが、墓に残留していた魔皇力を調べた結果『ゴースト族』であることは間違いない……そして他にもあった……レジェンドルガだ」

 

ウラドの口から、直々に告げられた言葉に音夜は否定の声を上げた。

 

「レジェンドルガは、親父とアンタの結界術式で完全なまでに封印された筈! あの

強力な二重封印を解くことは不可能な筈だろっ!!」

 

「それは重々承知の上だ。だがそれでも、レジェンドルガの魔皇力があったのは揺るがぬ事実だ。両者が手を組んだ、と判断するのが妥当だろう」

 

至極当たり前のように言ってのけるが、もし、そうだとすれば事は単純且つ些細などと無視はできない。ゴースト族が実体の掴めない何らかの計画を実行しようとしているのは、ツヴァイウィングのライブ会場やノイズゴーストの件から察するに否定はできない。

 

そのゴースト族がレジェンドルガ族と手を組んだ。もはや未曾有の災いが現実の物となってもおかしくはない。だが、そんなことはファンガイア王たちも分かっている。

 

「無論。事実だからといって放置するなどもっての他。既に手は打ってある」

 

「ゴースト族の居所を掴みました。奴等が拠点とする場所……それは『冥府』です」

 

「『冥府』……地球の中に存在する位相次元空間のことでいいんですよね?」

 

古来において、地球上に生きる種の生命を司る『ライフエナジー』と、精神を司る『ソウルエナジー』はその死後、肉体から離れ地球にあるとされる二つの位相空間へと送られる。一つは地中深くに存在する『冥府』。もう一つは遥か上空に存在する『天界』。

 

ライフエナジーは地へと還り、ソウルエナジーは天へと還る。

 

そして二つのエネルギーは地球を支える動力源たる『マナ』や『エーテル』となり、幾星霜と長い年月をかけ、その使命を全うする。やがて終えたエネルギーの残滓は再び一つの種として生まれ変わる。

 

そうやって地球の命の連鎖は紡がれている。

 

そんな場所を種族の拠点としているだから、ゴーストの考えはやはり常軌を逸しているとしか言い様がない。

 

「しかし冥府は我々でも干渉できない、言わば鉄壁の城も同然ですよ? どうやって……」

 

「時間は掛かるが、何とか冥府への干渉を可能とする空間干渉系の魔工器を製作中だ。同時進行で突入部隊の編成も進めている」

 

「まぁ~よっ! 奴等の壊滅も時間の問題ってなわけだぜ、ヒャッハー!」

 

「スカル。口を閉じて黙りなさい」

 

初代と2代目、そして3代目ファンガイア王たちの言葉に少し安堵を覚える音夜だが、まだ不安が拭えない。何せ相手は自分達ファンガイア族の技術をもってしても干渉できなかった位相空間『冥府』への干渉を可能としている。それほどの技術を保有した魔族が何故戦魔大乱の時代から知られず、明治以降の時代になってから表舞台に出てくるようになったのか。

 

疑念は尽きないが、とりあえず『元』に対する決定打は見出せた。残る問題は増加するデヴィルムの対

策になるだろう。

 

「音夜。ここで一つ君に聞きたいことがある」

 

そう言ってアルカードはテーブルに手を翳す。するとテーブルの一面が翡翠色に光り輝いた。無論それだけで終わる筈もなく、光はまるで生き物のように揺らめき動きを一つ一つ変えていきながら、何かを構築していく。

 

やがてそれは一つの地図となり、同時に地球の大陸全土を示した世界地図であることが分かる。

 

「地図に示されている赤い点はデヴィルムが発生し被害を齎した場所。しかし日本を見て欲しい…何か

違和感を覚えませんか?」

 

「……日本だけ、少なすぎる」

 

それは妙な話だ。地図に示されている世界各地においてのデヴィルムの被害件数は1500にも及んでいる。

 

対して、日本は全国でたったの8件。あのオクトラーケの件を含めてだ。

 

「誘導…ですかね? 何らかの大掛かりな計画を行う為に邪魔な存在である我々の戦力を分散させよう

としている風に見えますね」

 

「やはり君もそう思いますか」

 

「問題は、奴等が何を仕出かそうとしているのか、だな」

 

初代の言葉は、重要なものだった。ゴーストが暗躍し何をしようとしているのかを知る事は今後の戦いを左右する貴重な情報には違いない。しかし今ここで考えたところで、奴等の真意を明確に得る事などできはしない。

 

「まぁ、とにかく今は成すべきことをやるしかない。例え相手がこちらの戦力を分散させる気でいても、所詮は『量』に過ぎん。『質』なら人界でも頼りになる盟友等が日本を守っているのだろう? 我が子孫である『紅夜響』と共に」

 

大胆不敵な笑みと共にそう断言してみせるウラド。それに音夜は同様の笑みをもって答える。

 

「ええ。間違いなく。あいつはアンタを超える気満々ですからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん、いいですねぇ。やはり紅茶はアールグレイに限りますよ」

 

とある高層ビルの屋上。時間は深夜であり、例え昼間でも基本的に出入りが禁じられている為、誰かがそこにいるなどと言うことは本来なら有り得ない。しかし、そこには確かにいた。純白のタキシードを着こなし、豪華絢爛な白のアンティークテーブルに紅茶の入ったガラスのポッドを置き、セットのイスに腰掛けた1人の男性。

 

手には紅茶の入ったティーカップ。長い金髪を靡かせる姿は何処か雅な雰囲気を醸し出していた。

 

「ゴーストの皆々様も、どうですか?」

 

そう言って顔を横へと向き、眼前に立つゴースト族の闇霊『狼鳥式』と『鳥式』に敵意のない笑みを見せる。だが闇霊の両者は、そんな彼を嘲笑う。

 

「結構だ。『ギャラリートロット』。貴様等レジェンドルガの悪趣味さは反吐が出る」

 

「それに、その紅茶には人間の血が入っているのでしょう? 我々は人間の血液はあまり好きではない故に」

 

「ははっ、失礼しちゃいますね。確かに人間の血は含んでいますが……少々ですよ?」

 

まるで面白おかしそうに話す金髪の男性だが、人間からして見れば洒落に等ならない。しかも紅茶に含まれている血は……子供のもの。両親を目の前で惨殺し、死の恐怖と大切な家族を失った恐怖に苛まれた人間の子供を生きたまま一滴残さず搾り取った血なのだ。

 

「我等レジェンドルガの誇りは他者に恐怖され、その恐怖を原動力とすることにあります。恐怖の感情は実に良いものなのですよ。それが我等の力となるのですから、この上もありませんよ」

 

「……貴様の講釈はどうでもいい。それより、ちゃんと任は果たしたのか?」

 

「もちろんですよ。魔界でのデヴィルムの増加活性化と5代目、6代目の墓荒し。正直に言って退屈な任務でしたよ」

 

「そうか。それはすまなかったな。しかし、何故あの魔工器を盗まなかった? アレはお前達の主人の封印を解く鍵の筈だが?」

 

「ああ。それですか。別にアレは必要ありませんよ?」

 

「……なに?」

 

当然とばかりに答える金髪の男性…『ギャラリートロット・レジェンドルガ』の言葉の真意が掴めず、思わず疑念の声を漏らしてしまった狼鳥式。しかし、彼は尚も余裕且つ優雅さを崩さずに答える。

 

「もう必要なくなったんですよ。こちらに優秀な方が付いてくれましてね。その方のおかげで何とかなりそうなんですよ」

 

「……バカなことを。レジェンドルガの王『アーク』を封じた結界はウラド・ドラキュラが数多に保有する結界術式の中でも、特に強力な代物の筈だ。それを易々と解除できるなど…」

 

「その優秀な方が、かの秘境『暗黒大陸』出身の者だとしたら、どうでしょうかね?」

 

「!!っ そうか……ならば合点が行くな」

 

「ええ。アーク様を封印した結界の術式は、ウラド・ドラキュラが個人のみで創り上げたものではなく、ある『協力者』と共に協同で完成させたもの。で、あるならば、その末裔を引き入れただけのこと」

 

ふと、重い腰を上げるかのように立ち上がったギャラリートロットはティーカップの中の紅茶を飲み干すとカップを粉々に砕き、同時にテーブルが跡形も無く消え失せた。

 

「我々レジェンドルガがゴーストである貴方がたに力を貸すのはここまで。『地上奪還』の悲願、武運を祈ることと致しましょう」

 

最後に一礼を加え、後ろを見ず、高層ビルの屋上から何事もなく落ちるギャラリートロット。そんな彼の姿を忌々しく思うかのようにふと、狼鳥式の手に力が入る。

 

「せいぜい余裕をこいているがいい。最後に勝ち残り笑うのは我々ゴーストだッ!」

 

握り締められた拳から、一筋の黒い血が漏れて伝っていくのを鳥式は何も言わずに見つめた。

 

 

 

 

 

 








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