4ヶ月もの間、更新できず本当にすみません。
実は少しこの作品に関してスランプ気味だったのですが、何とか
立ち直せそうにはなりました。
今回のように今後は遅くなるかもしれませんが、最後まで書き通したい
と思います。
絢爛豪華と言わんばかりの調度品の数々が、食事を楽しむ空間内を彩り、煌びやかにする。
高級レストラン『シャルティーン』は、入店するのに条件がつけられる、隠れた名店。
条件をクリアできなければどれほど金を積もうと、その門を潜ることは許されない。その条件とは、『この店を見つけること』。方法はどんなものでも構わない。ただ、見つけさえすれば、その店でしか味わえない『神の料理』と称せずにはいられない逸品をその舌で堪能できる。
そんな場所を思念鑑定という、まぁ、正直ズルな方法ではあるが見つけ出すことに成功。
一夏。明久。静雄。マカの4人に加え、響と奏が客を装い『潜入捜査』という目的の為に来店していた。
「我が店へようこそいらっしゃいました。本日は見事この当店を探し当てたお客様に、我が店でしか味わえない最高の、そう。他に類を見ない至福の一時を味わって頂きたく存じます」
そんな謳い文句言いつつ、深く深く礼を取るタキシードを身に纏った初老の男性。彼こそがこの店『シャルティーン』のオーナーであると同時に一流シェフ『北岡正樹』。
その彼が自らの手で至高の芸術作品のように創り上げたフルコースの料理の数々は、響たちの舌を唸らせるには十分な代物だった。
「……な、なにこれ」
「!ッ こいつは……」
料理を口にした響と奏が声を上げる。その声音には、何かに対する困惑と驚愕が見え隠れしていた。
「……どうしたの?」
少し心配気味にマカが2人に問う。だが、その心配は杞憂に終わる。
「すっごい美味しいよコレ!」
「ああ、こいつは美味い!」
ただ予想以上に美味しかっただけの反応だった。思わずガクッと気落ちしてしまったマカだが、とりあえず今のところは大丈夫か、と料理を口に運ぶ。
一方で一夏と明久、静雄の3人の内、一夏と明久は思わぬ料理の味に涙を流していた。
「まろかやでコクのある……素晴らしいィィ!」
「こ、このオマール海老の料理なんか、もうアレ、海産物の味の叡智が凝縮されているかのような味わいとしっとした食感……素晴らしいィィ!」
「……そうかよ」
某欲望一心な会長と同じ台詞を迸りながら料理を口にしていく2人を、呆れた様子で見る静雄。
しかし静雄からして見ても、超美味いと感心させてしまうような味の破壊力を秘めていた。何か特別、危険なものを含んでいると言うわけでもない。それは静雄の持つ『分析の能力』をもってしても明白だ。
と言うことは、ここは事件と何ら関係ないのでは? そんな考えが浮かぶものだが、静雄はそれを否定した。
本当に極僅かだが…あるのだ。
『どこか陰湿さを帯びた、魔皇力の残滓』が。
そしてこの店のオーナーであり、シェフの北岡正樹と溶けた男性は知り合いだった事から鑑みれば関係ないとは到底思えなかった。
しかしそれは静雄だけでなく、響と奏も同じだった。
とにかく、このまま味を堪能するだけでは何も得られないと悟った二人は徐に席を立ち、他の4人に目で合図を送ると、そのままトイレへと向かった。
何気なく入った女子トイレ内に誰もいないことを確認した二人は、すぐさま互いの意見を交換し合った。
「すげぇー微弱だけど、魔皇力があったって事は…」
「はい。それも、前に見たあの人影の魔皇力とほぼ同じ……このお店はやっぱり、事件と無関係じゃなかったってことですね」
響の確信めいた言葉に対し、奏は肯定の意で首を上下にコクリと頷く。今回における潜入調査は、このレストラン『シャルティーン』の裏の実態……それを暴くことにある。
そんな事情で響達は客として潜入してはいるが、魔皇力以外に店内に怪しい所はない。そこで響と奏が店の裏側へと更に深く潜入する役目を担い、マカたち4人は店側の動向の監視を含め、何かあった場合の時の補助要員。このような分配で事に当たる事にしたのだ。
しかし無論を承知で言えば、そのまま入ろうとすれば『関係者以外立ち入り禁止』として入る事ができなくなるのは、既に見え透いた事。その為今回は秘策を用意していた。幻術を得意とするチェックメイトシックスの1人『ビショップ』こと、蝶塚アゲハの真の姿『スワローテイルファンガイア』の鱗粉を材料として用いて作り上げた強力な幻惑の秘薬。
小さな布袋に粉状になって入っているそれを自身と奏にかけた響は、徐々に自分の身体が消えて行くのを見て、思わず驚きの声を上げる。
「すごい……完璧に見えない」
「本当すっっげぇなコレ! しかも互い見えてないのに位置や距離とかが分かるぜ!」
その効果は使用者の姿を消し、体臭や気配さえも絶つことができる。
更に互いに視覚で姿形を捉える事はできずとも、秘薬を使った者同士の霊的なラインで繋がっている為、相手を感覚的に認識することが可能となっている。まさに至り尽くせりな代物だろう。
「これで容易に侵入できますね」
「だな。んじゃ、この店の秘密を暴きに行こうぜ!」
ただ欠点を上げるなら、『声』を含む音の類を完全に消すことができない。その為、移動の際の足音等の音には十分な注意が必要となる。ともかく、自分達の姿が一切見えないことを再確認した2人は、厨房への扉からボーイの1人が新しい料理を運んで来た隙に入れ替わるように侵入。当然姿も気配もなく、音に関しても注意を払っている為に気付かれることはなかった。
厨房は第一、第二、第三、第四と分け隔たれており、それぞれが『肉料理』や『海鮮料理』。
『野菜料理』と『デザート』を担当している。二人は各厨房で作業をこなすボーイやシェフに気付かれないよう、先程と同じ方法で侵入し徹底的に隈なく探す。そして四つ全ての厨房を手分け
して探索した結果、特に注意すべき異変もなく終わった。
「おっかしい~な。なんで何もないんだ?」
「そうですね~何かしら怪しい点は有る筈…うん?」
現在2人がいる場所は業務員用のトイレだ。あまり人がこない為、多少話しをするのに最適だと言う理由からに過ぎないが、ここで響はあることに気付いた。
「あの、奏さん……ここも魔皇力の感じがしません?」
「ん? そういや……飯食ってた時のより更に薄いけど、確かにあるな」
トイレ内にも、あの時とまったく同じ魔皇力の残滓が漂っていた。しかも更に薄まった感じだ。
「……一応ここも調べてみましょうか」
「えっ、マジで?」
「いや、ほら、何かあるかも知れないじゃないですか。そりゃあ……私も嫌ですけど」
2人が嫌そうな顔をするのも無理はない。ここの業務用トイレは、レストランとは思えないほどに汚ないからだ。さすがに客用トイレはそうではなく、むしろ清潔感が満遍なくしつこい位にあった。やはり客の目が見えないが故の怠慢なのだろうか。
だが何はともあれ、2人は何かないか捜索を始めた。
そして座るタイプの便座がある三つの個室の内、一番壁側の端の個室に隠し扉を見つけ出した。隠し扉の向こうからは、あの極薄い魔皇力をもう少し位に薄めたような魔皇力が漂っていた為、それがこのトイレ内に充満している魔皇力の原因であり、そのおかげで発見することができた。
「行って見ましょう」
「ああ」
隠し扉を開けてすぐ、彼女等二人を出迎えたのは地下へと続く階段。そこをゆっくりと派手な音を立てずに降りていく。やがて広い空間に出た。
「!っ」
「こいつは……ッ!」
壁や床、天井などの四方八方がコンクリートで包み込まれるようにして覆われた、その広い空間には貯水タンクのような形状のガラス水槽がいくつも綺麗に並んで設置されていた。
しかも、水槽全てというわけではないが、その中には男女問わず様々な体格や身長の『人間』が黄金色の液体の中に浸っていた。
「おいおい……レストランは人肉専門店だったのか?」
「……この水槽内の人達、意識を失ってるだけでまだ生きてるみたいです」
奏は冗談混じりに言い、対する響は冷静にそう分析したものの、その内に秘めた『義憤』と言う激情を2人は静かに燃え盛らせていた。
無論、それは人間の自由を封殺し食い物にしようと考える、下賎なデヴィルムの行為に対してだ。魔と人の均衡を崩すような真似を、道徳的にも法的にも許せるほどファンガイアの次期王は外道でもなければ、暗君でもない。
ただ、魔を統べる支配者として。
これを平然と行使した魔の罪人を裁くだけなのだ。
「ダメじゃないですか。ここは関係者以外の方は立入禁止ですよ?」
背後から突如としてかけられた、男性特有の低い声が織り成した言の葉。それに即座に反応した響と奏の2人は自分達のいる位置から後方へと身体ごと振り向き、声の正体を見極めようとする。正体は僅か一瞬一目で理解できた。
レストラン・シャルティーンのオーナー『北岡シェフ』その人であり、見間違いなどではない正真正銘本物のご本人だ。
彼は表面上こそ邪気のない穏やかな笑みで眼前の両者を見据えているが、それに驚きの声を発したのは奏だった。
「おい。まさかあのおっさん、あたし等のこと見えてんのかッ!?」
「!!ッ」
その言葉の意味は尤もだ。秘薬自体に制限時間はあるものの、持続時間は3時間。使って以降はたった10分程度しか経っていない筈。効果が切れている様子も伺えず、健全そのもので異常らしき点は見られない。
ならば何故、彼は自分達の存在を把握できた?
そんな疑問を解消したのは北岡シェフだった。
「フフッ、非常に残念ながら、私の視覚、魔皇力を察知する感覚。嗅覚。この三つにおいて貴方たちの存在を認識することは到底出来ません。不可能なんです。ですが、私には優れた耳がおありでして……ね」
五感の内の一つである『聴覚』。三つの知覚機能をもってしても響と奏、この2人の存在を認識することができなかった秘薬の効果。
それに関しては誤りや偽りなどないと断言していい。
しかし、それを見破ったのは音を聴き取る知覚機能……すなわち『聴覚』だ。ビショップであるアゲハが自らの鱗粉を使用して製作した秘薬の効果は、確かに絶大的に優れている。だが上記にも有る通り『音』を隠すことはできない。
脈打つ心臓の鼓動。血液の流れ。生命としての活動から生じる、本来ならば聞こえる筈もない程微弱なそれらを聴き取り感知し、そうすることで奏と響の存在を認識したのだ。
「で、貴方達は何者ですか? まさか普通の人間などと仰られるつもりはございませんよね?」
虚言など許さない。北岡シェフの鋭い視線が如実に染み出ていた。
「奏さん」
「どうせ荒事は避けらんねぇさ、行くぜ!」
秘薬の効果を自らの意志で解除し、響は自分の手をキバットに噛み付かせキバに変身。奏はライオンファンガイアことルークへと変身を遂げて北岡シェフに襲い掛かる。
ルークの威力の篭った拳が北岡シェフの顔面に当たる瞬間、その背に氷の結晶で形成された歪な翼を生やし、一気に50mもある天井へと飛翔する形でかわす。
「なるほど。あの時ノイズどもを一掃していたキバとルークでしたか」
「と言うことは……あの人影は貴様だったか」
「ええ、そうです。邪魔な人間を処分する傍ら、失礼ながらついでとして見物させてもらいました」
キバの問いに北岡シェフは、いけしゃあしゃあと答える。
「あの男の人とは旧知の仲だったんじゃないのか?」
「ええ、彼は素晴らしい友でしたよ。しかし運悪く此処の事を知ってしまいましてね。ただ処分するには惜しい方だったので、料理させて頂きました。そこのガラス槽にいる人たちのように」
北岡シェフが視線を移す先にあるのは、黄金色の液体に入ったまだ生きている人々。
そして彼は、悠長に卑しく語る。
「私が独自に開発した『黄金のスープ』は、魔界にある素材『五百種類』と人間世界にある素材『三千種類』を出汁として調合し、数百年をもってようやく完成した逸品でしてね。このスープに一週間ほど浸された人間の味は格別です。ただ難点を上げるならば美味しくなる人間とそうはならない人間に分かれてしまいましてね。至高の味になれない人間は拒絶反応を起こして身体が骨も残さずドロドロに溶けてしまったり、体中から血を噴き出したりと。様々な状態で死んでしまうのですよ」
「貴様……やはり相当な下衆だな」
「心外です。私は只人間を美味しく頂きたいんです。これはその為の研究の一環に過ぎないのですよ」
「だまれッ!」
激昂と共に高く跳躍するキバ。
と同時に飛び蹴りを一発喰らわせようと迫るが、北岡シェフは自身へと向かって来る足を紙一重
、身体を横へ退け反らせることで回避。そして人間だったその姿を本来の形態である『異形』へと変貌させた。
茶色の毛に覆われたウサギのような姿。まんまウサギの体型のそれだが只一つ、普通の物と相違する点は人間の大人を少し越すほどに巨体だと言うこと。そして本来ならば両目のある部分に目がなく、代わりに顔の中央に大きなコバルトブルーの瞳をした縦目が配置されている。
『コールド・ラビット』。
それが北岡シェフだった、ダークフリークスの名である。
≪ここでは貴重な食材たちが危ない。ご一緒に来てもらいましょうか≫
エフェクトのかかったような声でそう告げたコールド・ラビットは、冷凍の息吹を口から噴出して天井に氷の次元ゲートを形成。その中へと入って行った。
『どうする?』
「行くしかない。一夏、聞こえるか? 助力要請だ」
キバは念話でガルルたちに事の顛末を説明し、ガラス槽に収入されている人々の救出を要請。
要請が承諾されたのを確認したキバとルークは互いに頷くと一気に跳躍。そして何処か別の場所
へと繋がっている、氷で形成された次元ゲートへと突入を果たした。
「着いたな」
『ここは……』
まるで氷で作られたかのような長い通路の異空間を通り抜け出して来た場所は、広い面積を持つ森林公園の芝生が生い茂る拓けた広場だった。
時刻は既に夜。シャルティーンに来店した時刻が丁度7時だった為、当然だろう。満天の星空が夜の空を飾る美しい光景なれど、これを素直に喜べるほど空気の読めない2人ではない。
ほんのすぐ目前には、コールド・ラビットがウサギとは到底思えない獰猛な犬歯を見せ、凶悪的な笑みを顔に滲み出しているのだから。
「命運尽きたな。ここなら思う存分、私達は全力を出せる。自分にとって被害のない場所に我々
を誘い込んだつもりだろうが、それはお前が自分の首を自分で締めるも同然だったわけだ!」
キバは嘲笑するようにそう宣言するものの、対するコールド・ラビットは笑みを更に濃いものへ
と変えた。
≪それはこちらの台詞です。次期キングにして次期ファンガイア王と新代ルークのお2人が相手
でも、私の勝利は揺るがない!≫
太くフワッとした毛並みに覆われた両腕を高らかに広げ、数多の星に彩られた夜天を仰ぐ。する
と彼の背後から数百のノイズ、更には同数のゴーストが出現した。
『ノイズ?!』
「それにゴーストだと? 馬鹿な…ゴーストは不思議ではないが、貴様がノイズを意図的に召喚
したとでも言うのか!」
驚愕を禁じえないキバとルークだが、当然だろう。ゴーストは召喚方法が存在し、魔術を熟練さ
せれば人間でも操ることは容易い。だがノイズは正体不明の未知の災害その物。謎が多く、解明
されていない部分があまりに多過ぎる。
そんな不明瞭な存在を召喚? 否、ありえない。
2人の中で否定の情念が導き出される中、それに同意するようにコールド・ラビットは言う。
≪いいえ、違います。ノイズは頼もしい協力者のおかげですよ≫
そう言ってコールド・ラビットは2人の背後に視線を向ける。すると何かが上空から降下し2人
のいる位置から後方へと着地を果たす。
それに反応して振り返った2人の目には、降って来た何かの正体が一目瞭然だった。
「よぉ、化け物ども」
それは、白く鋭利な鎧を着込んだ1人の少女。薄いライトグリーンのバイザーから覗く、その目
にはキバとルーク、更にはコールド・ラビットの異形たちに対する嫌悪と軽蔑、そして凄まじい
憎しみの情念が渦巻き燃えていた。
『あれは、まさか、ネフシュタンの鎧なのかよ!!』
「あの鎧が完全聖遺物……」
ネフシュタンの鎧。キリスト教で有名な旧約聖書に記された青銅の蛇。その名を冠した鎧の聖遺
物こそがネフシュタンである。
翼が所持している聖遺物との違いは、それがあくまで欠片の一部である天ノ羽々斬に対し、ネフ
シュタンの鎧は欠片ではなく文字通り完全であること。
故に性能に関しても、欠片だけの聖遺物を用いて造られたシンフォギアをも圧倒するほどの力を
秘めている。ネフシュタンの鎧に関しての情報は弦十郎から直接聞かされている為、謎の少女が
身に纏っているそれが何なのかと。特にキバは疑問に思うことはない。
しかしキバの目から見て、鎧に秘められた力に関しては嫌と言うほど感じ取れる。
その名に相応しく蛇のように敵対する者を執拗に何処までも追い詰め、長い胴で締め殺さんと息
巻くかのような陰湿で灰暗い殺意。同じ蛇でもサガとはまったく異なる雰囲気をネフシュタンの
鎧は発していた。
「増援ありがとうざいます。しかし遅いですよ? 一体何をしていたのですか?」
「うるせぇんだよ、クソウサギ。来てやっただけでも感謝しな」
傲岸不遜にも少女は、ダークフリークスであるコールド・ラビットに対して怖気づくことはなく
、鋭い眼光で射抜かんばかりに睨む。その態度は一般のデヴィルムなら憤怒を抱きかねないもの
だが、しかしコールド・ラビットはただ呆れを含ませて嘆息するのみ。
「やれやれ。まぁ、約束を反故することなく守ってくれたのはありがたい」
どうやら人間を餌として見ているものの、かと言ってデヴィルムにありがちな選民思想や人と魔
の力の差に対する差別意識などの類は皆無らしい。いや、あるいは持ってはいるものの比較的寛
大な方なのか。その辺りの詳しいところまでは分からないが、どちらにせよ、断罪すべき対象に
変わりないのは事実だろう。
「キバは私の獲物だ。絶対に手は出すなよ?」
「一体何の因縁故かは存じませんが、お好きにして結構です。ああ、遺体は五体満足に残してお
いて下さいよ? 多少の損傷は目を瞑りますが、彼女は私の報酬その物なのです。至高の食材は
できる限り傷の少ない方が好ましいですから」
そう淡々と言いつつ、顔に嬉々とした不気味な笑みを張り付かせて語るコールド・ラビット。
そもそも彼の目的は生死の有無を問わず、キバである響を確保することにあった。人と魔の間に
生まれた存在……それは響だけでなく、世界中で少数に限られるが確かにいる。そして彼らの血
と肉は唯一無二の至上の美味とされていて、古くから多くの魔族が狙って来た。
故に彼等は響を含めファンガイアの保護対象として守られている為、そうそうに手を出される事
はない。だがコールド・ラビットは違う。彼は人魔のハーフの中でも高貴なる魔の王族ことファ
ンガイア族の血を持つ、紅夜響に狙いを定めたのだ。
理由は単純。ただ食してみたいのだ。
美食家である彼はファンガイアの目を欺き掻い潜り、その成果として多くの人間を喰らって来た
。そして彼は人間をもっと美味しく食す為に『黄金のスープ』を開発。これの中に生きたままの
状態で漬け込まれた人間は個々によって異なれど、素晴らしい美味へと仕上がってしまう。
人間でさえこれなら、ハーフの中でも『レアな部類』に入る紅夜響と言う少女はどうなのか?
食べてみたい。じっくり味わいたい。美味に酔いしれたい。
味の欲求による欲望は、行動を実行させる原動力と成り得るもの。だからこそコールド・ラビッ
トは、ゴーストの幹部である闇霊たちに同盟を持ちかけ結託。今回のような『陽動作戦』を展開
したわけだ。
最高の料理になれない、出来損ないの失敗作である男性をあのタイミングで放ち、自身もわざと
魔皇力を発して存在を仄めかした点。店内に魔皇力を散布させていた点。全ては作戦通りだった
……というわけなのだ。
「チィッ! 期待すんなよ」
「ありがとうございます」
忌々しいと言わんばかりに舌打ちする彼女の言葉にコールド・ラビットは素直に感謝を述べると
同時に指をパチンと鳴らす。
するとルークの足下に氷のゲートが出現し、脱出も許さず飲み込んでしまう。
「ルークッ?!」
「テメェの相手はあたしだァァッ!!」
突然の事態に動揺するキバだが、そんな悠長な時間を与えずにネフシュタンの少女はショルダー
となっている、紫色に妖しく輝くクリスタルの一部である鋭利な鞭を振るい差し迫る。
「ぐっ! 貴様、人間のようだが……何故奴等に加担する!」
「好きで片棒担いでるわけじゃねェよ! けどなァ……ファンガイアは許さねぇ……あたしの名
は『雪音クリス』。くそったれなその脳みそに、これからテメェを地獄に送る奴の名を刻み込め
ェェェェェェーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!」
ネフシュタンの少女……いや、『雪音クリス』は怨嗟を交えた慟哭を叫び吼える。それは天をも
穿つばかり……の負の情念に燃え盛っていた。