年越しでお待たせしてしまい、申し訳ございません(汗)
何とか後編が出来たので投降します! どうぞ!
日本には一騎当千、という言葉がある。1人でありながら千人の戦力に相当する者を指す言葉だが、まさにルークの戦いぶりはそれに見
合った光景と言えるだろう。
強制的に氷のゲートで転移させられたのは何処か遠い場所…ではなく、キバがネフシュタンの鎧を纏った少女『雪音クリス』と激しく交
戦している場所から10mほど離れただけで広場から出たわけではない。
しかし周りを見てみればゴーストとノイズのオンパレード。完璧に囲まれてしまっていた。
≪貴方のお相手は私たちが務めましょう。このコールド・ラビットとゴースト&ノイズの大群そして……≫
コールド・ラビットの言葉を遮るかのように地面を割り、何かが突出した。更に空からも何かが降り注ぐ。
天と地、その二つから召喚された何かは共通して『25m』と『30m』という差はあれど『巨体』を有していた。地面から現れたそれは、赤黒い不気味な体色にブヨブヨと皺が弛んだような分厚い皮膚。身体は蛇のように長く、頭部に位置する部分には体色よりも不気味な
人間の赤ん坊のような顔が、まるで埋め込まれているかの如く張り付いていた。
続いて空から降り注いだそれは、ぱっと見は翼竜その物だった。しかし首が二つあり、胸の部分からは少し太く筋肉で引き締まった両腕が生えていた。体色は暗さを濃くした深緑色で極彩色の瞳を持った目が左右と額部分にあるという風貌で、生物学に基づく翼竜の姿とは大きく逸脱した感じである。
≪強烈な電気と毒ガスを放出する『デスワーム』と堅牢な巨岩をも削り取る風と全てを焼き尽くす地獄の炎を操る『コアトルス』。実力は
結構しますよ? 無論、私もですが!≫
二体のダークフリークスの説明をしつつ、密かに口から生成した氷の礫をいくつか放ちルークの両足を封じる。これで移動と回避ができなくなり、ノイズとゴーストはルークへと彼女を押し潰さんばかりに殺到した。
≪あっ、ちなみにノイズは貴方に触れても炭化しませんよ? ノイズの炭化能力は何故か我々には効きかず、むしろ我々の魔皇力で逆にノ
イズが炭化してしまいますが……そのノイズたちの身体の表面には私の冷気が張ってあり、よほど強力でない限りあらゆる魔皇力を完全にシャットアウトしますから……って、言っても遅いですかね?≫
見ればゴーストやノイズがルークをあっという間に取り囲み、もはや山のようになっていた。体重の圧力+身体を喰らい千切られ、抉れられているのだろうと。そうコールド・ラビットは内心思う。
しかし、その考えに至るなら否や思考の外側へと破棄捨てた。
何故か? 仮にもルーク……しかも元はシンフォギア装者だった少女。それなりの修羅場を潜った戦士に違いからだ。そしてそれは見事的中した。
凄まじい質と量の魔皇力が集束されていき、同時に解き放たれた。それは衝撃波と化してゴーストの『殻』である人間の死体を損壊させ、ノイズを炭化させ吹き飛ばしてしまった。攻撃せずに待機していた為に無事だったゴーストたちは同胞がそんな死に様を晒す光景に恐怖し、ノイズの方に至っては感情こそ無いがその強大なる力を察知し、動きを止めてしまっていた。
「見くびってんじゃねぇぞ。こんなザコどもを相手じゃ準備体操が関の山だろーが」
≪エクセレント! 氷冷なる私には合わない言葉ですが……熱く滾って来ましたよ!≫
両腕に氷を纏わせ、纏わせた氷塊を左右共に剣と三本の鉤爪に形成。それらを巧く繰り出してルークの命を取ろうと迫るコールド・ラビット。
「させるかよ!」
ルークが吼え、対するルークは自身の体組織から棍棒を召喚。それでコールド・ラビットの攻撃を防ぎ受け流していく。だが相手は彼だけではない。まだ残っているノイズとゴースト、加えてデスワームとコアトルスの相手もしなくてはいけない。
だが、それでも彼女の戦いの動作一つ一つに停滞が無く、僅かな隙もない。コールド・ラビットを相手にしつつ迫るノイズやゴーストを
空いた手の鋭く伸びた爪による一撃一撃の動作で瞬殺していき、時折遠距離から来る『空』の派生属性である『雷』と『風』の二重属性によるエネルギー弾をかわして行く。
≪ふむ。少し戦法を変えましょうか≫
さすがにこれでは無理かと悟ったコールド・ラビットは、今度は自分を退避させコアトルスとデスワームの直接攻撃させ、自分とノイズそしてゴーストらは支援部隊として遠距離から攻撃というスタンスに変更。
単純に立場が逆転しただけが、それでも効果が皆無というわけではなかった。
「■■ーーーーーーーーーッッッ!!」
「チィ! あたしは芋虫が嫌いなんだよッ!!」
デスワームの放つ毒ガスは草を枯らすどころか融解させ、有害な汚染土壌へと変えていく。それを回避したルークは棍棒を両手で逆回転させ、毒ガスを払い除ける。
しかしそれを妨害するかのようにコアトルスが高度を下げ、その鋭い鉤爪のある両足でルークを掴み上げて上昇。そして足に力を込めてルークを上空879mの高さから一気に落とした。
「ガァァァァッッッッッ!!!!」
地面に激突した衝撃で口から空気を漏らし、苦悶の声を上げた。いかに人間よりも遥かに頑丈なファンガイアと言えども、800m以上
からのスカイダイビングから地面への激突は相当来るものがある。更に自由落下ではなく威力をつけたものであれば尚更だ。
ダメージでうまく身動きが取れないルークにめがけて凄まじい勢いの竜巻が迫る。コアトルスの口から発生した竜巻の威力は非常に強力で、高層ビルをたったの2~3秒で瓦礫にしてしまう程だ。高速落下に竜巻と言う、まさに最悪コンボの方程式。しかしそれを妨害しようといくつもの火炎弾が竜巻に衝突。見事に相殺せしめてしまった。
「あれは……」
「ま、まさか……キャッスルドラン?!」
西洋風の威厳に満ちた城に竜の首を含めた頭部。そして前後両足が生えたような姿を持つ、ファンガイアが保有する最大移動拠点。それが『キャッスルドラン』に他ならない。
しかしキャッスルドランはキバが持つ専用フエッスルで無ければ召喚することはできない筈……今現在キバはあのネフシュタンの鎧を身に纏った少女『雪音クリス』と交戦中であり、フエッスルを使用できるだけの暇さえない切羽琢磨の状況。
ならば何故? と疑問に思うルークだが、彼女は一つ失念していた。
今現在のファンガイア王であり、キングである男の存在を……。
「ハイパー・ウルトラダイビィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーング、パンチ!!」
≪べぶらァッ!!≫
キャッスルドランの頂上。すなわち『天守閣』の屋根から一気に跳躍し、見事な『普通のキック』をコールド・ラビットにかまして見せる男『紅夜音夜』。その後で綺麗に着地を果たし、二カッと不敵に白い歯を見せながら爽やかな笑みを浮べるその姿は何と言えばいいのか……非常に腹が立つ事この上なかった。
「お、音夜の旦那!」
「おう、奏嬢。息災そうで何よりだが結構大変だったろ。だが俺が来た以上は何も問題ないぜ!」
キラリと白い歯が笑みと共に輝く。音夜の言動に苦笑しか浮かばないルークだが、コールド・ラビットは頬をヒクヒクと引きつらせ、怒り心頭とも言うべき顔を張り付かせながら重い巨体を起こした。
≪これは、これは。かの現ファンガイア王の音夜様ではありませんか。やはり貴方も1人の父親…差し迫る娘の危機には居ても立ってもいられず……ですかな!≫
「まぁ~そうだな。テメェみたいな変態ウサギなんぞにうちの娘を食わさせるわけにはいかねぇよ。そんなに喰らいたいのなら、俺のハイパーテクニシャンな技をたっぷり喰わせてやる。遠慮はいらんぞ?」
≪おやおや……あまり良い食のご趣味ではありませんね!≫
互いに冗談を交わすという雑談を終えた後、先手を仕掛けて来たのはコールド・ラビット。口から氷の礫を吐き出すと同時に音夜の周囲
に氷のゲートを顕現。そこから氷柱が飛び出し音夜を刺し貫こうとする。だが音夜はそれを自身が持つ魔皇力を発した際の衝撃波で粉々に砕き、氷の礫を腕一本で払い除ける。
初代キングであり黎明のファンガイア王『ウラド・ドラキュラ』に匹敵する天性の才能と、それに見合うだけの実力を持っている。そんな彼からして見れば……いや、彼のみならず他からしてみれば差があまりにも有り過ぎて話にならないだろう。
無論そんなことはコールド・ラビット本人が一番良く知っている。それを把握し理解できないほど彼は愚かではない。
だが、それでも不敵且つ下卑た不気味な笑みは消えはしなかった。
「随分と余裕綽々だな、おい」
≪余裕? ええ、そうでしょうな。私は勝てない相手に挑むほど愚者ではありませんから≫
「んん? それだとまるで、俺をぶっ殺せるみたいに聞こえるんだが……聞き間違いか?」
「いいえ、至極事実ですよ!」
そう言ってコールド・ラビットは『ある物』を取り出す。それは円筒状のガラスケースで、上下には金色の装飾が施された蓋と底が付いている。
だがそこは気にする部分ではない。肝心なのはガラスケースに何が入っているか、だ。
「そいつは……『殺生石』か」
≪ご名答。かつて中国・インド・そしてこの日本と三国を又にかけ、災厄に陥れた強大なダークフリークスにしてレジェンドルガが、この国の平安時において高名な魔術師と先代ビショップによって封印された際に生じた石……正確に言うなれば、そのレジェンドルガの凶悪な魔皇力と陰気且つおぞましい思念が凝固した物と考えて貰えれば幸いですね≫
「んで? そんなもん使ったからって勝機があるとでも?」
≪それは、論より証拠としてお見せしましょう≫
腕に力を込め、ガラスを地面へ投下し叩き割る。そして中に入っていた黒紫に輝く鉱物を一気に飲み込んだ瞬間コールド・ラビットの魔皇力が強まり、白かった冷気がどす黒く変色。更に氷が彼の足下に発生するも、その色は白みがかった透明ではなく、透明の欠片もないほど妖しい紫色になっている。
≪おお、この身に染み渡るかのレジェンドルガの魔皇力! それが私の魔皇力と絡み溶け合い……なんというパワーでしょうか!≫
「へぇ~へぇ~すごいこったな。そっちが本気で行くなら、こっちもこっちで本気で行くぜ」
音夜はそう言うと、頭上に手を翳しキバの紋章が刻まれた魔方陣を出現させる。更にそこから何かの柄の様な物が伸び出して来た。しかし音夜はそれを臆することなく引き抜き、その正体が露となる。
≪ほう! 魔皇剣ザンバットソード。ファンガイア王が代々受け継いで来た、キバの鎧と同じ『王の証』≫
「さすがに変態ウサギでも、こいつがどういったものか解るか。ならついでに斬れ味も味見してみな。代金はお前の命で良しとしてやるよ!」
言葉と共に一閃。急速的に迫る黄金の魔皇力刃はコールド・ラビットの命を刈り取ろうと迫る。万事窮す……の状況だが、コールド・ラビットは冷静に紫色の氷の剣と鉤爪を両腕に纏わせ、その内の剣で豆腐でも裂くかのように切り払った。
≪ふむ。今の魔皇力刃……まだ全身全霊の威力とはいかないものの、そこそこは良い感じですね≫
「随分とやるじゃねぇか。伊達に殺生石もただの石ころじゃなかったってことかよ」
≪ククッ……もちろんですよ。貴方達が人間との共存と言う、そのような心底下らない道理などの為に大半を滅ぼされた挙句に封印されたレジェンドルガ……その怨念が、嫌と言うほど詰まった代物ですからねぇ≫
「……何にせよ、お前はここで潰す」
いつもの茶目っ気のあるふざけたような雰囲気を取り払い、真剣にザンバットソードを構える音夜。ルークもできれば加勢したいところ
だが、それを邪魔するかのようにデスワームとコアトルスに、ゴースト+ノイズの軍勢に阻まれる。
まずはこれらを相手にしなければならないようだ。
「ちっ、あの冷凍ウサギなしの続行試合か……面白れぇ!!」
手に持っている棍棒を操り、ルークは再度彼らとの戦いに望んだ。
「そらァァッ!」
「ふんっ!」
一方、キバとクリスの戦いは熾烈さを増し続けていた。どちらも後退はない壮絶な戦い。
それはすなわち、両者がほぼ互角で戦っていると言う明確な事実に他ならない。
「貴様……雪音クリスと言ったな? 何故こんなことをする……我々ファンガイアに恨みでも?」
「ファンガイアだけじゃねぇ! てめぇらみたいな化け物全てに……そして、平気な顔して争いを始める奴全てを!! あたしは許さねぇ
! 全部ぶっ壊してやる!!」
まさに怨嗟。そう表現するしかない彼女の叫びに対し、キバは驚愕や畏怖よりも先に疑問と悲哀が心底から込み上げて来た。人間でありながら人外の力を身につけ、魔を滅ぼそうとする人種を彼女は知っている。
一般的には『祓魔師(エクソシスト)』と呼ばれる者達だが、彼等は魔を滅する力の扱いに長けている自らの特性を利用し、私怨や復讐の目的からファンガイアを含むダークフリークスを狩ろうとするのがザラだ。無論、全部がそうである者たちばかりとは限らないがそうでない者よりも、そうである者の方が断然多いのが事実だ。
つまり、今まさに雪音クリスはその祓魔師たちと同じ目をしているわけだ。
憎悪の念により燃え盛る私怨の炎……心底にある灰暗くおぞましいそれは、それを持つ当人でさえ計り知れないものがあるのだろう。
と、戦闘の最中に無数の小さな…しかし一つ一つだが、威力の強い殺傷力を秘めた刃がクリスめがけ降り注ぐ。それは間違いなく天ノ翼々斬を用いてこそ成せる技『千ノ落涙』だった。
そしてそれを扱える者は一人しかいない。
「ぐっ! 新手か!」
「防人(さきもり)だッ!」
「翼!」
魔と魔が混沌と殺し合う戦場において舞い降りたのは、かの歌姫にして戦姫。自らの愛刀である天ノ翼々斬を構え、雪音クリスへと迫る。
「しゃらくせェェッ!!」
「ぐっ!」
鞭が振るわれ、それを刀身で防いだ翼だが威力を完全に殺すことができず、そのまま数mほど吹っ飛ばされた。
「シンフォギア装者にキバかよ……クソッ!」
「ここは一旦我々に捕らえられるという選択肢をオススメするが、どうだ?」
「それにその身に纏う鎧についても聞きたい……それは2年前、私の不手際で大切な命と共に喪失したもの! 嫌と言おうが取り返させてもらう!」
キバはクリスに身柄の投降という提案を示し、翼はネフシュタンの鎧を返すよう言い迫る。
だが、二人の言葉に対し、容易く首を縦に振ることなどクリスにしてみれば有り得ないことだ。
「調子に乗るんじゃねぇッ!」
激昂と共に雪音クリスはその手に持ったノイズを召喚・操作を可能とする聖遺物『ソロモンの杖』でトーテムポールのような細長いノイズを二体召喚したかと思えば、その二体の鳥のような頭部の嘴部分から白い粘液のようなものが放出。2人を見事に拘束し捕らえる。
「ぐ! これは…」
「何故だ。半身とは言え、ダークフリークスの私ならこんなもの早々に炭化して…」
「特殊加工ってやつさ!」
身動きを封じられた2人にクリスはそう吐き捨てながら鞭を振るい、これでもかと一方的に攻撃を加えていく。
「ぐッ!」
「ああッ!」
「あたしの目的はキバ…テメェの命だ。これで一思いに殺してやるよ」
そう言って取り出したのは一丁の拳銃。銃自体は至って普通の代物だが、ある特殊な弾が装填されている。
「『銀製の弾丸』に弱いんだよな? お前等化け物は」
魔にとって銀は毒であり、ダークフリークス共通の弱点であるそれは半身のみファンガイアであるキバにとっても例外ではなく、下手を
すれば死に至る致死性を孕んだ毒物であることに変わりはない。
「じゃあな」
撃鉄を起こし、引き金を引いた瞬間に銃口から音と共に吐き出される一発の弾丸。無情にもその軌道はキバの心臓へと到達してしまった。
「ぐぅッ! がっ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
耐え難い苦痛がまるで稲妻のようにキバの全身を駆け抜け、銀の効力が神経という神経を余さず蹂躙していく。これが並みのファンガイアやダークフリークスなら、まず即死だったに違いない。しかしキバである響はファンガイアの王族の血を受け継ぐ者であった事が幸いして即死という事態は避けられたものの、魔皇力の急激的な暴走によるダメージで変身が強制解除され、キバから響へと戻ってしまった。
ついでにその際、暴走した魔皇力が強力な余波となり、翼と響を拘束していた二体のノイズは特殊加工?虚しく炭素と化し砕けてしまっ
たが2人からすれば僥倖だったので特に問題はない。
むしろ問題は他にあった。
どうやら変身解除時に気を失ったらしく、響はその場に倒れ沈黙してしまった。無論生きてはいるが…それでも適切な治療を施さなければ死に繋がるのは変わりない。
「立花!」
「ぐっ、なんだ今の……イタチの最後っ屁のつもりか? こざかしい!」
一応は余波によるダメージを受け倒れた雪音だが所詮それは雀の涙に過ぎない。すぐさま立ち上がるとクリスタルの鞭を振るい、響に止めを刺そうと肉薄。
だがそれを翼が自身の愛刀の刀身に絡ませる事で阻止した為、命を取る事叶わず未遂に終わってしまう。
「やらせは……しない!」
「ちっ、くそが!」
どうにか振り解いた鞭を再度振るい肉薄する。しかし翼はそれを剣戟で弾き返す形で回避し、右足の太股の装甲の一部分に隠し持っていた短刀を投擲。その狙いは月に照らされたクリスの影だ。
「なっ! こ、こいつは……ッ!!」
影を映し出した地面に突き刺された短刀は有り得ない事にクリスの身動きを一切封じ込め、拘束してしまった。傍からればパントマイムにしか見えないが、紛れも無くクリスは身体を動かそうとしても、僅かに微動する以外の動作の実行が不可能なのだ。
「更にオマケ付きだ!」
と、ここで魔皇力の余波で今まで気絶していたキバットが目を覚まし、周囲にキバの紋章が描かれた魔法陣を形成。そこから封印鎖カテナを召喚。クリスの身動きを二重に封じ込めた。
「へっへ…どうよ! これで何もできやしねぇぜ!」
勝ち気に誇るキバットに対し、クリスの心内は憤怒のマグマがふつふつ煮え滾っていた。ここまでコケにされたも同然な状況で怒りを覚えるなと言うのは彼女の性根を鑑みれば完璧に無理な話だろう。
そんな彼女の心境など知る由もなく、翼はキバットに問いを投げた。
「キバット。立花の容態は?」
「……深刻だ。幸いにもファンガイア王族の血を引いたのと半分人間だったのが良かった。もしそれがなかったら……完全に逝っちまってたよ」
クリスに掛けた二重拘束が安全と見たキバットは、翼の問いに答えながら響の手に噛み付く。こうする事で今も暴走している響の魔皇力を鎮める為に制御下に置き、自己治癒を飛躍的に促進させているのだ。
このような真似はおそらく、同じく魔皇力の扱いに長けたビショップでもできぬ芸当だろう。
実際13魔族において最も魔皇力の扱う術に長けているのはファンガイアではなくキバット族なのだから。
「とりあえず応急処置は済んだから、何とか峠は越しただろう。だがまだ油断は出来ない。帰ったら早く手当てしねぇとヤバいぜ」
「そうか。……!ッ」
キバットの診断にまだ不安は残るも、とりあえずは響の危機に対する焦燥感は幾分和らいだ翼は安堵の吐息を零す。しかしその後、一瞬にして何かがノイズやゴーストの大群がいた方角から、吹っ飛ぶようにして倒れ込んで来た。巨体を有するそれの正体は身体のあちこちに切り裂かれた傷を負い、しまいには心臓のあった部分にぽっかりと風穴を開かせたデスワームの死体だ。
困惑する翼だがまたしても何かが、今度は遥か上空から落ちて来た。
一方は両翼を食い千切られ、全身に炭化に近い火傷を負ったコアトルス。もう一方はその上で足で踏み付けるように圧し掛かっており、ファンガイアのキングに長く仕える居城竜『キャッスルドラン』だった。
どうやら先程まで空中戦に徹していたらしいが、ドラン族はリュプス同様『天空の覇者』たる魔族。更に言えばキャッスルドランはドランの中でも強豪種に位置する『グレートワイバーン』の出身。そんなものを相手に、多少強い程度の凡夫に等しきダークフリークスが立ち向かった所で結果は火を見るよりも明らか。まだ生きてはいるが、所詮は風前の灯火に過ぎず…ゆっくりその命を散らした。
「グルルルル……」
コアトルスから抜け出していく緑色と紫に彩られたライフエナジーの霧。ダークフリークスは命たるライフエナジーを持たない存在である事を正しく記憶しているだろうか? ならば死したその肉体からライフエナジーが出て来るなど決してありえない。だがそれが『外部から得たもの』であれば話は別だ。
そう、このライフエナジーの正体はこの世界の生き物なのだ。それもその殆どが人間で占められている。
そのまま放置しておけば残留思念の怪物と化し、人間や動植物に悪影響を及ぼす危険性がある為にこうしてライフエナジーを接収している。キャッスルドランとしてはあまり好ましい行為ではないが、仕えし王の配慮であれば否定する事はないのだ。
「翼! 来てたのか!」
デスワームが飛んで来た方角からルークが翼たちの下へ駆け寄って来る。どうやらデスワームの方はルークが始末したようだ。
「ちと梃子摺ったがこの芋虫の化け物とノイズどもは何とか倒し…って響! 大丈夫か!」
ファンガイア形態から人間形態へと変化した奏は仰向けに横たわる響に近付き介抱する。先程に比べれば状態的には良い方かもしれないが顔の血色は失われ、呼吸は酷く乱れている。そんな光景を見れば決してそうは見えないのが当たり前だろう。
「キャッスルドラン! 響を頼む!」
「ガアアアアアアアーーーーーーーー!!!!」
キバットの願いに応えるように咆哮を轟かせるキャッスルドランは、その口から光の玉を出した。光の玉は響に近付くと同時に彼女を包み込み、そのままキャッスルドランの口へと運んでいく。そして次の瞬間……。
バクッ!
顔の間近まで来た響を口を開け、パクリと飲み込んでしまった。
「え、………………お、おいおいおいおい!!!! なに食わせてんだよ!!」
あまりに突然的な出来事に動揺した奏は思わず、キバットを両手で鷲掴みにした状態で上下にブンブンと、尋常じゃない速度で揺するようにして問い詰める。一方のキバットはそんな状態を強いられては非常にたまったものではなく、すぐさま彼女の誤解を解こうと弁明を述べた。
「ぐえっ! ち、違う! あくまでも安全且つ治療できる場所に送っただけで胃の府に収まったわけじゃねぇよ!! キャッスルドランにはそういう場所があるんだよ!ちょ、本当待て、揺らすなって!」
説明を聞いてとりあえずはキバットを開放するも、何でそれをもっと早く言わないんだとジト目で睨む。
「と、とにかくだな! 敵はまだウサギ野郎の一匹が残ってる! 早くそいつを…」
「これの事か?」
ドシャッ。
何が落下するような音と軽快な男の声が全員の耳に入り、一同は音と声のした後方を振り向く。そこにはもはや虫の息に等しい位にズタボロ状態のコールドラビットと五体満足に掠り傷一つなく、つい先程まで戦闘をしていたとは到底思えない綺麗過ぎる風貌の音夜がザンバットソードで肩をトンと鳴らす動作をしながらコールドラビットを踏みつけていた。
「音夜の旦那! 無事だったか?!」
「当たり前だぞ奏。このパーフェクトマンの音夜様がこんなウサギ一匹に遅れを取ると思っているのか?」
「あはは……まぁ、そうだけどさ」
苦笑しか浮かばない奏と翼。翼に至っては今回が大分久しぶりに会うのだが、今は状況が状況だ。音夜の方も翼の存在を認識しつつ自分から声を掛ける事はなく、すぐさま今自分が足で踏みつけているコールドラビットへ冷たい視線を浴びせながら問いを投げた。
「おい、変態ウサギ。お前と手を組んでるゴーストどもの本当の目的は何だ? どうにも臭いし腑に落ちん。なんでわざわざお前と手を組む必要性があるんだ? お前と組んだところでゴースト共に確実的なメリットなんかない。お前程度の奴なら嫌と言うほどいるし、第一こ
の作戦自体が安易で温過ぎる。となると……裏でコソコソとしくさってんしかねぇって結論に至るわけだ」
音夜の推察では、ゴースト族がこんな物量戦で押し切るような力任せのみと言う単純な作戦を行使するとは到底思えない。ゴースト族は今世に至るまで時代を超え暗躍して来た技巧派だ。姦計なども労せずして読み通りに操ってしまう手腕は常にファンガイアの手を焼き、苦渋を飲ませ続けて来た。
そんな彼等が大して強くもない、言ってしまえば中位クラスの内の『小』に過ぎない戦力のコールド・ラビットやデスワーム、コアトルス。そして完全聖遺物を纏った雪音クリス並びその他小位程度の戦力で特に罠もない物量戦で挑むとは考え難い。
しかし『何かを行いやすくする上での陽動目的』ならば……こうした手で来た真意は理解できなくもない。
≪ク、クックックック!! そんな…事……私が知る訳ないでしょ。同盟を持ちかけて来たのは……私…ですが、今回の作戦における戦力のみを提供するよう……要求したまで……ですからね……彼等がどういった理由で私の同盟の件を受諾し、何を目的としてメリットだったかなど……正直どうでも良かったんですよ……私、自身の、目的を達成できれば……ね≫
呼吸を荒く乱し、もう絶え絶えと言った状態で嘲笑を滲ませながら語るコールド・ラビットの姿は何処までも不快の一辺倒だった。それに関して音夜は嫌悪感を隠そうともせず、その眉間に深い皺を寄せる。
≪惜しい……ここまでとは……ああ、喰えなくて残念だ……≫
それを遺言として置き去りにして、コールド・ラビットの肉体は氷の欠片と散って胡散。そのまま欠片は溶けてしまった。
≪死んだか。まぁ、囮としては上出来だったか≫
何処からともなく男の声が響き渡り、雪音クリスは自身の側に突如として現れたソレに驚愕と共に苦虫を噛み潰したような渋い顔を形作る。蛾のような翅と触角を有した神父服を身に纏う幽鬼の如き聖職者……ゴーストの上位に君臨する『蛾式』だ。
「お前…ッ!」
「おっと悪いな七代目キング。私の目的はここでお前等と戦う事ではなく、この小娘の回収だ」
音夜の鋭い一瞥を容易く流し、雪音クリスの頭に手を翳す。すると翼の影縫いとキバットの拘束は強制的に…それも容易く解除されてしまい、それを確認した蛾式は特に動作も起こさず、自分達の周囲に大量の鱗粉が混じった漆黒の大気を発生させた。
それを見た音夜は逃がさんとザンバットソードを横一閃に振るい、生じた大気を切り裂く。が、既に雪音クリスと蛾式…両名の姿は既に影さえもなく失せていた。
「クソッ……」
敵側の情報源に成り得るかもしれない少女を連れ去られ、音夜は思わず悪態を吐く。
結局のところ今回の事柄に関してのゴーストの真意は読めず、何の成果もないまま、あるのは戦いの証明たる爪痕と……その眼下を見下ろすかのように天に輝く月のみだった……。
ぜ、絶唱していない……だとォッ!
はい、そんなわけで今作の翼さんは絶唱しません!ww。
まぁ、原作に比べてみれば早期の段階から関係は良好でしたし、奏も生きているので
当然と言えば当然の結果ですね。
次回も亀更新だと思いますが、できるだけ数話分は溜めておきたいと思ってます。
それでは次回もウェイク・アップ!!