吸血姫絶唱シンフォキバ   作:イビルジョーカー

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 かなり遅くなってしまいました(汗)

 今回のバトルテーマは『雲の上での空中戦』。やっぱ平成のライダーは空中戦も醍醐味ですから(昭和でもスカイライダーがいますけど)、こういうのも自分的には有かなって思います。

 そして語られる一夏の胸の内……それをどう受け止めるのか。も、この話のストーリーにおけるテーマです。

 あと、新キャラも登場しますのであしからず。






第20話 浪漫飛行/雲の上の決戦 前編

 

 

 

 空高く上空を舞う一つの影……それは竜の城たる存在『キャッスルドラン』。

 

 本来ならば都会のビルの一部に擬態していたり、あるいは深い森の中などでその身を潜めているのだが、今回はいつもと勝手が違う状況だった。

 

 次代のファンガイアの王となるべき少女が危機に瀕しているのだ。

 

 一応とある専門医による応急処置で何とか最悪の状況は避けられてはいるものの、完全な治療が必要で有る為、かの竜の城はある場所へと向っていた……。

 

 そしてキャッスルドランの天守閣。

 

 そこはキングとキングが認めた者でなければ、足一歩でも入ることは許されない神聖な場所。その中央には衣一つない、まさに生まれたままの姿の状態でシーツを被せられ、仰向けに寝かされる響の姿があった。

 

寝かされているベッドは薔薇の一本一本で構成された特異な風貌のベッドの上で眠りに就き、その乙女の美しき裸身は薔薇の花弁の上で有る為、薔薇の棘で傷を付けられる心配は無い。

 

 一見すれば何故薔薇?と思うかもしれないが、これは只の薔薇ではない。

 

 魔皇力が含まれた特殊な薔薇なのだ。古来より薔薇は魔性の魅力を司るというその性質上、魔を害する銀とは対極の位置にある。

 

薔薇に僅かでも魔皇力を注げば、それは通常の物よりも質良く変化しダークフリークス限定だが、あらゆる傷や病に絶大な回復効果を齎すことができる。

 

 それこそ、死に瀕しかねないものでも、だ。

 

「先生! 響の容態は?!」

 

 天守閣の扉が勢いを付属した状態で豪快に開かれ、慌てた様子で入室して来たのは7代目キングたる音夜と響きの側近達。そして奏と翼の両名だ。

 

「静かにしな。気持ちは分かるが、少しは落ちつけってんだよクソ王。次同じような事したらシバくぞ」

 

 薔薇のベッドに横たわる響の裸身を隠す為のシーツを交換し終え、容態診察をしていた蒼海を彷彿とさせる色彩に染まった、癖毛交じりの長髪をした一人の女性。

 

 魔界にその名を轟かせる名医の家系『フーリン』の一族の現当主『メディー・フーリン』。

 

 瞳は鮮血の如く紅く、黒いスーツに白衣と言う風貌はまさに科学者的雰囲気を醸し出し、同時に知的な麗人と錯覚させるに十分な美しさを持っている。

 

 しかし上記の台詞からも分かる通り……彼女は口調が荒いばかりか行動面が結構大雑把(仕事は別)。その辺は非常に残念な所だが、名医としての腕は凄まじく、その医療技術は他の追随を許さぬと謳われるほどだ。

 

「す、すまんメディー。俺ともあろう者が少々取り乱しちまったな……いや本当に少々だけどな」

 

「訂正しなくても事実は変わりないだろバカ。まっ、とにかく朗報しかねぇから安心しろ。今のところ響は安心できる状態だ。コレと言った後遺症もない。けどあくまでこれは応急処置に過ぎないから、本格的に治療させる必要がある。その間は絶対に騒ぐなよ?」

 

 患者を思う医師としての鋭い視線。それをギロリと音夜へ向けて睨むメディーに対し、一切頭の上がらない音夜は『肝に銘じます! サー!!』などと口走っていた。

 

 そんな光景に大半は苦笑。一部は無表情にスルーする中、奏は丁度隣にいた一夏にあの女性について聞いてみた。

 

「あの人って誰なんだ? まさか……音夜の愛人か何んかか?」

 

「……いや、まぁ……女誑しのアイツなら十分ありえるかもしれないが全然違う。彼女は魔界が誇る名医の家系『フーリン家』の現当主『メディー・フーリン』。掻い摘んで説明するなら、名家の当主様にして現代に生きる魔女ってヤツさ」

 

 魔女。

 

 主に悪魔と契約を交わし、その力を得て人界に様々な災厄を齎すとされる存在を指す。名の通り『女性』だが、男性もいてその場合は魔術師か、あるいは魔法使いと呼ばれている。

 

 一般的な簡易的知識で語るならばこの程度に過ぎないが、魔界側で語るならばその細部は異なって来る。

 

 魔界側においての魔女とは、即ち人の女性の姿をしたダークフリークスの事になる。あくまでも外見だけでなく中身も生粋の女性たる彼女等は同性間でも子供を成す事が可能で、一時期は13魔族に数えられるほどだった。

 

 しかし、戦魔大乱時の後期にて状況は一変した。

 

 まだ若輩ながらも強大な実力を振るうフランケン族の出現と自種全体に及んだ大多数の弱体化が重なり、魔女の種族は13魔族の座から立ち退きざる得ない結果となってしまった。

 

 今では魔界や人界において目立たず。ただひっそりと暮らしているのが現状だが、少数ながらも弱体化を乗り越て更なる力と知を得た。

 

 その一つこそ、メディーの出身名家である『フーリン家』だ。

 

 フーリン家は、かのケルト神話に謳われる影の王国の女王スカアハを起源とする魔女の一族だ。

 

 名の由来はスカアハが最も愛したとされる弟子にして愛人『クー・フーリン』から付けられたもの。故にフーリン家の当主は代々に渡り、影の国の魔法魔術と古の魔槍『ボルグス』を授けられる。

 

「さて、そこの新米ルークちゃんと…かの歌姫様の2人は初めてだよな? 私の名は『メディー・フーリン』。そこの蒼狼の言う通り、現代に生きる魔女の端くれさね」

 

 カラカラとしながらも妙に妖艶さを漂わせるメディーに奏と翼は、不覚にもドキッと顔を紅くしてしまった。

 

「ついでに言えば、キングの専属医師でもあるな」

 

「専属……と言うと、ここに住んでるんですか?」

 

「もちろん。まぁ、ここしばらくは野暮用で留守にしてたけどな。用終えて帰って来たのが昨日で良かったよ」

 

 翼の質問にメディーは頭をボリボリと掻きながら本当に安堵の表情を浮べて溜息を漏らす。偶然とは言え、確かに今回は運が良かった。

 

もしメディーが不在だったのなら、今度こそ響の命は無かったのだから……。

 

「とにかく後は例の場所に到着するのを待つだけ…って事でいいのか?」

 

「ああ、そうとも音夜。みんなも安心しとけ」

 

 専属医師たる彼女の言葉を聞き、皆それぞれ安心した様子だった。

 

 しかしその中で唯一、一夏だけは『やり切れない』と言わんばかりの悔恨をその顔に滲み出しながら天守閣を後にし、去って行ってしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 そこはキャッスルドランの屋上区域に位置する『魔時計』と呼ばれる時計塔の屋根の上。そこで一夏は溜息を零しながら朝焼けに包まれた空の風を自分の身一つで感じていた。

 

「おい。こんな所でなに黄昏れてんだよ」

 

 後ろから声を掛ける者がいた。

 

 振り返って下を見て見れば、両手に二つのビール缶を持った燕尾服姿の執事…もとい、静雄が立っていた。

 

「ほら、飲めよ」

 

 そう言ってビール缶の一つを一夏に向け、大きく振るようにして投げ渡す。曲線を描きながら向って来る缶を取り逃がすことなくきちんと受け取る事に成功させた一夏はその場で『サンキュー』と。静雄に礼を言って蓋を開けた。

 

 さっきのような投げ方をしたせいか、炭酸の白い泡が少しばかり溢れ出す。一夏はもったいないから無駄にすまいと。すぐ口を付け、そのまま中身のビールの味に舌を満たした。

 

「ふぅぅ~。………で、俺になんか用か静雄」

 

「いや、特にねぇよ。ただお前がどうにも遣る瀬無いって後悔染みたような…そんな顔だったから、ちっとばかし気になっただけだ」

 

「……そうかよ」

 

 また一口。

 

 今度は先程よりも少々多めに口に流し込み、また味で舌を満たす。それを見た静雄も蓋を開けてビール缶に一口…には留まらず、そのまま中身一滴残さず飲み干してしまっていた。

 

「響きの事、悔やんでんのか?」

 

 ビール一缶では大した酔いに等ならないらしく、酔っ払うような気配を見せず、ただ直球なまでに自分の思う疑問を一夏ヘと。投げるつける形で問い質す。

 

「……ああ。そうだ」

 

「……」

 

「響が何時までも俺達に守られてばかりなんて、いられないって事は分かってた。そんな事……響自身が一番望まないからな。だがな……俺もお前も、明久やマカも、俺達は側近としてあいつに忠義を貫き守るって誓った筈だ。なのに……守れなかったッ!」

 

 それは日々思い続けていた、側近としての主たる響への思い。

 

 溜まるに溜まって、そして吐き出した感情の叫び。故にその独白はとても重いものだった。

 

「静雄。お前も気付いてるだろ? 『あの日』以来、響は誰かの命を守る事に必死になってるって。必死すぎて……自分の命を軽視しやがってる。そりゃキングの道ってのは生半可な覚悟じゃ碌に進めないってのは分かってる。その時が来れば……その命を投げ出してでも果たさなきゃならねぇもんだってある。まさしく『茨の道』ってヤツだ。そんな道を平気じゃない癖して、平気ぶって突っ走る」

 

 響自身の命が危機に陥る事自体は、今に始まった事ではない。

 

 キングの証の一つたる『キバの鎧』を受け継いだ時点で…だ。

 

 その時から幾度も人を喰らい、魔の掟を破り犯す魔族やダークフリークスに断罪の鉄槌を下し、人と魔の均衡を守って来た。

 

 無論その間も一夏達は彼女の側近として。共に背中を預け合う仲間として。そして何より家族として。響の力となって彼女を支え続けて来た。

 

 だがそれでも、響の中に根強く巣食う一種の強迫観念は消えなかった。キングやキバとしての使命を傘に、ひたすら人や魔を救う事に心身を使い潰していく響の後ろ姿。

 

 それがいつか、響自身をも殺しかねない。

 

 断言できず、そんなことなど有り得ないなどと言う保証は何処にもない。その歪なまでに真っ直ぐ過ぎた『誰かを救い助ける行為』そのものが、彼女自身を殺す破目になるやもしれないという可能性は今の紅夜響という少女の行動全てが。

 

 如実にそう示し語っているも同然だからだ。

 

「……なるほど、な。お前の言い分は最もだ。けどな……響はやっぱそんな事お構いもなしに突っ走るだろうよ。俺達がどんだけ心配しようともな」

 

 それはあまりに素っ気無い言葉だった。

 

 ただ淡々と事実を述べる静雄の姿は他者から見ればどうでもいい事を客観的に口述している風に聞こえ、どうにも薄情者に見えてしまうだろう。そう取られてもおかしくなかった。

 

 だが、それだけで終わる筈がないと。

 

 こいつはそんな事だけを言う奴なんかじゃないと。

 

 一夏は何も言わず、そんな心中を孕んだ視線で静雄を捉えていた。

 

「だけどな。だったら俺達こそ、あいつが意地を張ったとしても……響の中にある、真っ直ぐ過ぎた信念っつー剣を少しひん曲げなきゃならねぇだろ。俺達は都合いい駒なんかじゃねぇだろ。紅夜響の側近にして家族で、そんでもってアイツのダチ公なんだからよ」

 

「……静雄…」

 

 本当……お前には適わないな。

 

 確固たる静雄の言葉に一夏は内心そう思い、また一口ビールを啜る。

 

 思えばこうして自分の懐を曝け出せるのは静雄だけだ。その理由は過去における2人のある決闘に関係しているのだが、それはまた別の話になるだろう。ともかく静雄のおかげで一夏はその胸にあった悩みと言うシコリは取れた。

 

 後はキャッスルドランが辿り着くであろう目的地まで向かい、その道中でいかなる厄からも響を守り抜くだけだ。

 

「静雄…」

 

「ああ。分かってる。どっかの敵が俺達を狙ってやがる」

 

 一夏は魔時計の屋根から屋上へ飛び降り、静雄と同じ立ち位置でキャッスルドランの後方を睨む。

 

 その鋭い視線の先にあるのは、一隻の海賊船。船体は暗黒そのものを貼り付けたかのように黒く染まり尽くされ、黄ばんだ穴だらけの帆のマストが不気味に風で揺らめいている。 

 

 俗に言う『幽霊船』を絵に描いた様な光景だった。

 

「おいおい。こいつはまた風情も無いな」

 

 魔時計の出入り口扉が開き、音夜達が出て来た。

 

 来て早々の開口一番を呟いた音夜はまるで醜悪なものを見るかのように顔を歪ませる。

 

「音夜。アレは何だと思う?」

 

「そりゃお前、幽霊船以外にねぇだろ。しかもゴースト族ご自慢の攻撃特化型のもんだな」

 

「いやさ音夜の旦那。幽霊船って普通は海に出るもんだろ?」

 

 苦笑する奏の言葉に音夜は『いいや』と返答し、頭をボリボリと掻く。

 

「別に海限定ってわけじゃねぇよ。アレはあくまでも『形』に過ぎないからな」

 

 ダークフリークスを相手に『形』だけで全てを知った気でいるのは命取りになる。彼等は己が正体を巧妙に隠蔽し、隠すモノ全てを捨て去ってその本性を現すと言う事は、それは相手が餌食と化すことを意味する。

 

 無論ながらファンガイアも同じだ。隠蔽戦術は全ての魔に通ずる本質的なものと言っていいだろう。

 

「しっかし……アレだな。もう仕掛けてこないと踏んだんだが……」

 

「あるいは偶然見つけて、襲い掛かって来たって事もありえるけどな」

 

 冗談混じりに一夏はそう言うが、ともかく敵の思惑はどうあれど、向って来るならこちらもそれなりに対応しなければならないのは事実だろう。

 

響という重傷患者がいるのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狼鳥様。大型ドランを確認。データから推察するにキャッスルドランかと思われます」

 

「なんだと!……フフッ、でかしたぞ。いいか絶対逃すなよ?」

 

 幽霊船内部はいくつもの部屋に枝分かれし、その各部屋ごとの役目がある。武器貯蔵室ならば武器が保管されていたりと。そして船の内部中心に位置するのはこの船における全てのコントロールを統制している大室で、10体程度の数の屍霊達が手に持った水晶で操作していた。

 

 そしてその玉座には……屍霊らよりも上の立場にある闇霊の1人『狼鳥式』が腰を降ろし、キャッスルドランの発見におぞましい笑みを浮べていた。

 

「このまま巧く接近しろ。そして攻撃を仕掛け落すのだ!」

 

「で、ですが、我々の任務はライフエナジーの輸送です。万が一の事があれば…」

 

「ふん! 輸送任務も達成し、尚且つキングの移動拠点を潰せば……相応の手柄になる。まさに一石二鳥の機会なのだ。それを無碍にしろと貴様は言いたいのか?」

 

 眼前に立つ屍霊の1体に向ける狼鳥式の殺気は尋常ならざるもので、周囲の屍霊達は言葉を介せず、ただ恐怖に震える以外になかった。

 

 それを直で受けている屍霊の1体は……周囲の者たちよりも遥かに凌ぐものを感じている事だろう。

 

「め、めめ、めっ、滅相もございませんんんッッ!! 私如きが……意見するなどと……」

 

「それでいい。分かったら早くしろ!」

 

 狼鳥の言葉を受け、屍霊達はその後の意見文句を一切言わず指示通りに操作した。

 

 この船は今、部類的に『戦艦』でありながら、大事な品物を届ける為の輸送船と化していた。

 

 ファンガイアの目を掻い潜り、人間から奪った大量且つ高密度に良質なライフエナジーをある場所まで輸送する。それが狼鳥式に与えら

 

れた任務だった。航路は極めて順調で、何の問題も無く行けれるかと踏んでいた矢先に偶然発見したキャッスルドランの存在。

 

 この機をもってすれば良い手柄になる。

 

 そう閃いた狼鳥式は輸送任務の途中でありながら並行して『キャッスルドラン陥落』と言う、完全に独断による作戦を実行してしまった。 

 

「ククッ……我が刃にキングの首が掛かる。まったくもって楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

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