吸血姫絶唱シンフォキバ   作:イビルジョーカー

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 ※タイトルを変更しました。





 4月に更新できなった~~~!!

 そんなこんなで、どうぞ。





第22話 聖者の行進/top secret mission

 

 

 

 

「そう。やっぱり狼鳥式は死んだのね……」

 

「ライフエナジー運搬中にキング使役のキャッスルドランに遭遇。現キングである紅夜音夜と私情を含んだ交戦へと至り、運搬船を破壊されると共に倒されたようです」

 

 冥府。深海の底の底のような、一切の光が存在しない暗黒世界。

 

 そして地球上に生きとし活ける生物たちの生命力…『ライフエナジー』が還り集う場所でもある。

 

 そのような所に存在せしは、魔族の中で危険警戒種族としてファンガイアを始めとした魔界側勢力に認識されている『ゴースト族』。

 

 その実質『長』に値する仮面の少女『冥姫』は、眼前に足場無く宙に佇むゴースト族幹部『蛾式』からの報告に対し、悲哀を含んだ吐息を零しざる得なかった。

 

「まさか狼鳥式殿ほどの御方がやられるとは……これで我等幹部たる上位戦力は私と蛾式。そしてあと『もう1人』のみという減少的現状……これはもう、油断もミスもあってはなりませぬ故」

 

 蛾式同じく暗黒の宙に佇んでいた『鳥式』は思慮深く事の重大性を噛み締めつつ、ファンガイア勢力……特にキバと現キングに対し一層の警戒心を強めた。

 

「………既に起きてしまった事は仕方が無いわ。それよりもレジェンドルガの動向が気になるわ」

 

「確かに。アレ等はあの女以上に何を企み動いているのか、中々読めない連中ですね」

 

 冥姫の言葉に蛾式が少し嫌気が差すかのように眉間に皺を寄せて言う。

 

 無論、あのレジェンドルガという連中に対しての感情だ。

 

「そもそも解せないわね。

いくら協力者がいるからって、レジェンドルガ王の『アーク』復活を可能とする鍵を捨て置くなんて……確か、その協力者というのはウラドと共に結界術式を完成させた錬金術師の男……その子孫だったわよね?」

 

「はい。私と狼鳥式殿とで接触したレジェンドルガの『ギャラリートロット』成る者がそう仰っていました故」

 

「ならば、安易に信用するなぞありえん。何かしらの思惑で裏切る可能性を考慮しないほど愚者ではなかろうに……」

 

「……合理的に考えた上で挙げられる理由としては『アークが何らかの形で不完全に復活を成し、鍵その物に鍵としての意味が無くなった』しかないわね」

 

「どういうこと故にですか?」

 

 鳥式が冥姫に訝しげに問う。しかし返って来たのは蛾式からだった。

 

「現キングの父に当たる6代目ファンガイア王『紅夜陽炎』が対アーク用として行使した封印術式は、かつて1人の錬金術師の男と深い交流があったヴラドがその男と共に編み出した物だ。

 この辺りに関してはお前も知っているかもしれないが、肝心なのはその『特性』だ。もし万が一に封印された者が『他者からの干渉または自力での不完全な形で復活した』場合。このケースにおいて術式そのものが自動的に組み替わる。

より複雑に、より強固な物へ。以前とはまったく異なるものと化すのだ」

 

「そうなれば、鍵である魔工器は役に立たなくなるわ。手に持つ鍵をまったく合わない鍵穴に入れても無意味なのと同じように」

 

「なるほど。そういうこと故にですか」

 

「今の所この仮説が一番可能性が高い有力的な理由の筈。今後の為に我々の隠密部隊をレジェンドルガどもの監視に当てましょう。何かあれば逐一に報告を」

 

「ありがとう蛾式。頼むわね」

 

「御意のままに」

 

 冥姫の感謝と信頼を寄せた言葉に蛾式は軽く頭を下げて礼を取り、そのまま暗黒の闇へと沈むようにその存在が消えた。

 

「鳥式。貴方は『甲式』の補佐をお願い。狼鳥式が倒された以上、我がゴースト族の戦闘指揮者は彼しかいない」

 

「了解致しました故に」

 

 特に異論も無い為に鳥式はそれに従い、蛾式と同じく礼を取って沈むようにしてその存在を暗黒へと消す。

 

 自分1人しかいなくなった場で彼女はふと暗黒しか広がらぬ天を仰ぎ見た。

 

「どうにもこうにも、難しいものね。地上をこの手に取り戻すのは…」

 

 彼女以外に誰もいないその場所では、その言葉を聞き届けるのは他ならぬ冥姫自身。その漏らした言葉はただ反響するように渡っていくのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空路に災難ありつつも、何とか目的の場所に到着した一同…より正確に言うならば翼、奏の両名のみがかなり驚いていた。

 

 そこは一個の『島』だった。

 

 しかし存在する場所が海ではなく、れっきとした『空』というのは可笑しな奇妙奇天烈な光景だろう。

 

 だが蜃気楼のような幻ではなく、しかと実体を持って存在する以上それを否定することなどできない。

 

 その空中に浮かぶ島には一面様々な、それでいてどれもが鮮やかな色彩加減に染まった花々が咲き誇っていた。キャッスルドランは丁度島の西の端側にある土肌が露になった開けた場所があり、そこへ着陸する。

 

 無事着陸した事を確認した一同は余すことなく、当然メディー・フーリンも彼女の両手に抱きかかえられた(格好としてはお姫様抱っこのそれ)状態の響も、だ。

 

「音夜さん。ここは一体…」

 

「まっ、簡単に言っちまえば『空の妖精卿』さ。古今東西森羅万象と余すことなく『空を飛ぶ力を持った妖精の全種が集い暮らす場所』。それがここなのさ」

 

「妖精って……御伽噺などに出てくるあの妖精ですか?!」

 

「ははっ! ベストな正解だな~翼嬢! ああ、そうさ。紛れも無くその妖精だ」

 

 驚嘆を余すことなく顔に浮べる翼の反応を見て、音夜は思わず笑いを漏れ出してしまうが彼女の問いに素直に答えた。

 

「妖精っつーのは、まぁ大本的に言えば俺たちと同じダークフリークスなわけなんだが、細かく言うとまた違うもんなんだ。妖精はこの世界の理…より正確に言うなら自然現象だな。そいつが魔界の瘴気によって結び付く事で明確な自己存在へ化身したものなんだ。

 だからこそ彼等はこの世界の理を強く本能的に遵守し、それを乱す存在・原因を抹消しようとするわけだ」

 

 美しい花畑の中に用意された無数の不定形の石で出来た道。そこを徒歩で往きながら音夜は妖精に関しての話を進めつつ、もちろんその歩みを止める事はなかった。

 

「だが高位の者、または妖精種族は確固たる独立意思を持っていてな。気紛れに人界に干渉し、良い意味でも悪い意味でも人間に様々な影響を及ぼすんだ。人間側不承の妖精と人間の赤ん坊の交換や、人家に憑いて益を齎せば逆に災を招いたりとかな。

 とにかく挙げれば色々あってキリが無いほど、その在り方に反して人間と関わって来た」

 

「私達の世界において伝承・伝説として残るほど……ですか?」

 

「ああ。そうだ」

 

 翼の言葉に音夜は特に否定することなく答えた。

 

「しかしな。俺たちダークフリークス……厳密に言えば魔界の人界の均衡を守っている魔界勢力から見れば、人間世界への干渉があまりに度が入り過ぎてるって言うのはちと見逃せる案件じゃなかったんだ。だが、かと言って妖精たちはあくまで自由主義だ。こっちの意見忠告なんぞ気にも留めない」

 

「まさか……戦争に成ったのかよ!?」

 

 戦争自体は人間の世界でも五萬とあり、その理由は実に様々なものだが一つの例として挙げるならば『武力的な政治行使』がある。

 

 その名の通り言葉を武器として用いた一般的な論法云々における政治のそれではなく、それだけでは収まらないと。何も解決はしないと判断された時、確かな実体を持った人殺しの武器・兵器が使用される。

 

 この例は何も人間だけではなく、ファンガイア含むダークフリークスたちも同様だ

。ファンガイアは魔と人の境界線における均衡の秩序を守ろうとし、逆に妖精連中はそんなものを知ったとことではないと。あくまで自由主義を貫く。

 

 話し合いによる解決が成立しないとなれば、両者の激突も決して有り得ない話ではないのだ。

 

 だが、最悪な結末と言える奏の考えは杞憂に終わった。

 

「いんや。それは俺たちの望む所じゃないし、なっちまった時の人界への被害は計り知れなくなるのがオチだ。だから、それを防ぐ為に全妖精の絶対的権力と支配力を持つ彼等…『妖精女王』と『妖精王』に対し、ある取引をして盟約を結んだんだ」

 

 音夜曰く、妖精には妖精の絶対的な者がいる。

 

 空の妖精を総べる妖精の女王『ティター二ア』と地の妖精を総べる妖精の王『オーベロン』。両者は仲睦ましい夫婦であり、妖精界においての頂点。単純な実力ならば初代ファンガイア王を相手に互角かそれ以上の戦いを見せ付けることのできる猛者でもある。

 

 そんな屈指の実力者にして絶対なる権力者の彼等と交わした契約内容はこうだ。

 

『ファンガイアが100年に一度、妖精にとって特別な日においてキングの血を10滴分献上(この際、キングであれば誰でも構わない)。その代償に妖精たちへの人間側の干渉一切を禁ずるようにする』、というものだった。

 

「で、この契約のおかげで妖精たちによる人間側への干渉はゼロ。たかが俺たちキングの血を少しばかり献上するだけでいいんなら、これほど安い物はない。両者特に不満も何もなく成立したわけだ」

 

「そうなのか……でも、何でキングの血を欲しがるんだ?」

 

「まぁ、ダークフリークスの血にはその本人の魔皇力が多く含まれてるもんでな。

めっちゃくっちゃ強いヤツの血なら、そいつは嗜好品としては鰻上りの一級品なんだよ。妖精はこっち側の理からも生まれたせいか、魔皇力の食い合いが確実にゼロってわけじゃないが結構な確率で起き難いんだ。高位の妖精ならもう100%皆無って言ってもいい。だから、嗜好品として成り立つんだ」

 

 無論、これは妖精だからこそ成り立つのであってダークフリークスや人間では大きく違って来る。ダークフリークスは自分以外の魔皇力を摂取すれば摂取した魔皇力と自分の魔皇力が相互に食い合い現象を発作させ、最悪死に至る。

 

 逆に人間はそのライフエナジーを魔皇力に食い尽くされ、同様に死に至る場合がある。

 

 しかし妖精は魔界と人界の理が結び付く事で生まれた謂わば『ハーフのような存在』。どちらにでも適応する事が可能であるが故に容易に問題なく摂取できると言うわけだ。

 

「さて、着いたぞ」

 

 しばし道を歩いていた一同は音夜の制止の声によって歩みを止める。どうやら目的地と定めた場所に着けたようである。

 

 そこは当たり一面が他と同じく美しい花によって余すことなく覆われた花畑の大草原。東京ドームがまんまスッポリと収まってしまう程に広大なその場所に一際目を引く花が存在した。

 

 花弁が赤。青。黄。橙。紫。白。この六色に染まり、高さは各部位を纏めて5m。

 

 花の部位だけでも人2人分は納められるほど大きいその巨花はまるで意思を持つかのようにゆっくりと茎の部位をくねり曲げ、花の部位を地面に付ける。まるで乗せろとでも言わんばかりの光景だ。

 

 響を両腕で抱えるメディーは何ら疑問も不審感すら抱くことはなく、巨花の意に従いその上へ響をゆっくりと丁寧に。余計な振動などを起こさずそっと横たわる形で寝かせた。

 

 この工程を終えた瞬間、巨花は今の状態を保ったまま七色の虹の如く輝き出す。

 

「うわっ! お、おい音夜の旦那! これって一体……」

 

「『癒し花』って呼ばれるもんだ。花に寝かせた対象者を蝕む要因を取り除き、更に傷や肉体的負担を癒して帳消しにしてくれる代物でな。薔薇だけじゃ響の身体に入った銀を完全には取り除けないから、これの方がてっとり早い上にリスクもノープログレムな万々歳ってわけさ」

 

「まぁ、治癒に丸二日は掛かるって所がアレかもしれないけどな。でも治療法としては最も良い選択だよ」 

 

 音夜の解説の傍ら、メディーが苦笑を交えてそう言い大袈裟に肩をすくめる。  

 

「さて…と。こんな所にまで来てもらって悪かったな、翼嬢に奏嬢。響の事は心配かもしれないが……後の事は俺たちに任せろ。2人には二課関連で大事な仕事があるからすぐに向こうへ戻ってもらう。あっ、ちなみに俺、その大事な仕事に協力するんでよろしくな♪」

 

「「……えっ?」」

 

 さらっと告げられる突然の言い渡しに対し、翼と奏はそんな疑問系の抜けた声を上げる他になかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っつーわけで、『デュランダル護送任務』に同行させてもらう『紅夜音夜』だ。

よろしく頼むぜ弦さん」

 

「こちらこそ、協力感謝します。ぜひ頼みます!」

 

 リディアンの地下深くに存在する二課本部の司令室。

 

 そこで熱く手を固く握り締め合う風な様子で握手する二人の男性。片や二課の司令官である風鳴弦十郎、もう片方は現キングの音夜。

 

 両者の間に友好的な雰囲気の親しげさしかなく、険悪とか腹の探り合いなどは一切感じられないほどだ。そもそも何故このような事になっているのかと問えば、二課とファンガイア側とで同盟を結び互いに協力体制を取る事になったのは言うまでもないだろう。

 

 この同盟に基づき、二課は暗躍するゴースト族の存在を懸念して『デュランダル』と呼ばれる日本政府が二課の下で秘密裏に厳重保管させていた完全聖遺物を、より警備の固い永田町最深部の特別電算室『記憶の遺跡』へ移送すると言う決断を下した。

 

 既に政府には報せていると同時に正式な手続きを踏み、ファンガイアの存在も、一部の政府上層部とのパイプによって特にこれと言った問題はない。

 

 故に事実上『最高機密の塊』であるデュランダル護送の為、その護衛を音夜に依頼したわけである。

 

 そして護衛として、現キングである『紅夜音夜』と現ビショップ『蝶塚アゲハ』。現ルークの奏が『最高水準の実力者』として護送任務の護衛役に選抜された。

 

 ちなみに護衛の選抜は他ならぬ音夜自身が公平に戦力差を考慮して自己判断で決めたものである。

 

「というか、音夜の旦那よ~。そういうのは早めに前もって言ってくれよ……」

 

「ハハッすまんな。色々とゴタついてたし、そこんところは大目に…な?」

 

 人懐こい笑みでウィンクをしてくれる音夜に奏も翼も苦笑しかなかった。なまじ彼の性分を嫌でも理解していると言う点もあるが、響の

 

あの件に関して言えば確かに伝える暇が無かったと言えばなかったのかもしれない。

 

「しかし叔父様、何故二課で預かっていたデュランダルを永田町へ? 何かあったのですか?」

 

 翼は何故二課で厳重に保管されていたデュランダルを、永田町にある『記憶の遺跡』へ移送するのかについてが疑問の種だった。

 

 ゴースト族の存在を考慮しての事とは言え、それでも時期を見るに急過ぎるような節がある。それにここにはファンガイアのスタッフ…それも単純的な戦闘能力に特化した者や防衛において最高ランクを誇る術者の精鋭らがいる。

 

 記憶の遺跡は確かにここよりは警備が固いが、それもあくまで人間レベルではの話であって、ダークフリークスからしてみればこちらの方が鉄壁無双の防衛陣だ。ならば移送する必要は無いんじゃないか?と思うのが筋ではある。

 

 が、もちろん何も理由が無いわけではなかった。

 

「実は先日、広木防衛大臣が暗殺されかけた……下手人はゴースト族並び数体のダークフリークスだった」

 

「「!!ッ」」

 

 弦十郎の口から告げられた重く衝撃的な内容に奏と翼は、意図せずして驚愕してしまう。

 

「ひ、広木のおやっさんがッ?! おやっさんは…」

 

 同時に奏はいつになくかなりの動揺を見せた。

 

 広木防衛大臣はこの二課のバックアップを担い、動き易くなるよう色々と陰ながら二課と言う組織を今日まで立たせくれた人だ。そして奏や翼とは交流があり、戦場へと赴く2人の無事を祈り、その為の努力を惜しまぬ良き人格者だったのだ。

 

 そんな人が、異形なる者の魔の手にかかり暗殺の憂い目に遭ったなど考えたくもない。

 

 だが弦十郎の次の言葉は、心荒立った奏の気を落ち着かせるにたるものだった。

 

「幸い無事だ。多少の怪我は負ったが、それでも命に関わるようなもんじゃない」

 

「実はな、こっちの方で手を回してたんだ。ひろちゃん…いや広木防衛大臣とはこれでも親友の仲だからな。そんな人の暗殺なんてバカな事やらかした下手人ども全員、

俺達ファンガイアが一匹残さず始末させてもらったから、その辺も心配は無用だ」

 

 かの防衛大臣の親友であり、『ひろちゃん』などと言ってしまう音夜の人脈の広さに驚きを通り越してもはや呆れしか出ない始末だろう。この場にいる音夜全員の心中にある気持ちがまさに呆れの一致を導き出していたのは、音夜本人には与り知らぬ所

だが。

 

 ともかく広木防衛大臣が無事だった事に安堵する奏は思わず息を零し、翼も何処かホッとした様子を見せる。

 

 翼も翼で、親しく信頼できる祖父のような大人であった彼の身を案じていたのは奏と同じである。その人が無事だった事に喜び、安堵しないほど翼は無情なる少女ではないのだから。

 

「で、そんな経緯でデュランダルの護送任務に繋がるんだが…さすがにそれだけじゃあ、完全聖遺物の一つを移そうなんて事にはならねーよな? 

 実は最近になって以降、頻発してるノイズ発生はどれもこれもがここ……つまり特異災害対策機動部二課本部を中心にしたものだ。それらの実例を踏まえて、良子さんや弦さん……俺もそうなんだが、ノイズやあのネフシュタンの少女を影から操ってる『黒幕』ってヤツは、完全な聖遺物たる『デュランダルの奪取』が目的なんじゃないか…って思ってな」

 

「100%間違い無いなんて言えないが、可能性としてはかなりの大だと言える。そこで俺達は『記憶の遺跡』に新たな…ここ以上により強化された防衛の陣を形成し、そのシステムも今の此処と比べれば半端ない程に強化した」

 

「しかもあそこは『レイライン』……簡単に言えば『気』や『マナ』って言われてる特殊なエネルギーが流れる脈の筋道だな。それが通ってる地でもあるんだ。そーいう『ある種の特別な場所』って言うのはな、俺たちみたいな魔族にとっての地力が格段に上昇するもんなんだ。

 そーなれば『ここ以上に強力な防衛力』+『地力の上昇』の二重奏でこっちが有利になれるって寸法だ」

 

「だからこそ、ここから記憶の遺跡へとデュランダルを移送すると言う訳だ。………

……」

 

 上記の説明をし終えた後、弦十郎は一息の間を作った。

 

 そして、その顔に一憂の情を載せて話し始める。

 

「先の戦いと響君の事で大変だっただろう……それなのに急に呼びつけてすまない。お前達には苦労をかける……」

 

 ネフシュタンの少女との戦い以降、その後についての状況と事情については無論ながら弦十郎は知り得ている。

 

 故に彼女らの心情は自身の図り得るものではないこともまた、その胸の内で察していた。

 

 奏にとっての響は自身の『命の恩人』であり、翼にとっての響はかけがえのない唯一無二の親友の命を救い、敵の洗脳下にあった自分を救い出してくれた謂わば『心の恩人』。

 

 両翼の少女等の命と心……この二つを救い助けたのは他でもない響なのだ。

 

 そんな大恩ある少女は敵の毒牙にかかり、今この瞬間にも未だ眠り続けている。

 

 音夜やメディーは癒し花の効果で安心とは確かに言ったが、それでも尚、心配せずにはいられない。

 

 それが人も魔も問わぬ『心ある者』にとって当然の理な為に仕方なきことなのだ

 

 しかも精神的には勿論だが、身体的にも碌に休んではいない。

 

 激しい戦いの後に更なる戦いへと赴かせようとする……そんな反吐の出る行為を今まさにしている自分が情けなく、悔しく、恨めしいと負の感情がふつふつと心底から涌き出て来る。

 

 気前良く、厳格ながらも明るい印象しか受けない熱血漢である弦十郎でも所詮は人の子に過ぎない。常に迷い後悔し、その身に焼け付き胸を抉るかのような苦痛を伴って今を生きている。

 

 あの日…奏が一度ばかり死して行方を晦ませた時もそうだった。

 

 自分の無力さに故に苦痛を受け続けて来た。だが、どうあれども聖遺物を扱えるのは選ばれた奏者のみ。

 

 いかなる研鑽を積み努力を尽くそうとも……それではどうにもならない聖遺物におけるシステムの道理。それ故に奏者に成り得ない自分を恥じなかった事は今まで一度たりともない。仕方が無いと言えばそれまでだが……そんな言葉一つで片付けられるほど、弦十郎の覚悟は甘くなどない。

 

 しかし残酷にも、現実においてはどうにもならないからこそ。

 

 こうして本来ならば戦場に出す訳にはいかない筈の、年端もいかぬ少女らに対し泣きを入れる他に術が無い。

 

「謝ることはねーよ弦十郎の旦那。ようはデュランダルを守れば良いってわけだろ?」

 

「奏の言う通りです。防人として、今回の任務に全力を尽くし臨ませてもらいます」

 

 そんな彼の葛藤を知ってか知らずか……奏と翼は活気に満ちた声で言った。他が自分達に対しどう思い感じ入れようとも関係ない…ただ自分達が選び進むと決めた道を真っ直ぐ、最速で、ただひたすらに突き進むのみ。

 

 そんな確固たる決意が両翼の少女らの瞳にはあった。ならば……それに答える為、大人たる弦十郎や音夜が語る言葉は極めて単純なものだった。

 

「いい答えだ。けど無理はするなよ? マジで危なくなったら使命感云々なんざ捨てて、自分を守れ」

 

「……本当にありがとう。そして音夜さんの言った通り、お前達の命もまた『俺たちが守るべきもの』だ。その大切さを忘れないでくれ」

 

 ただ2人の身を案じると同時にその無事を信じる気持ちを含ませた、暖かな言の葉だった……。

 

 

 

 

 





 妖精。

 Fate/シリーズを始めとした型月世界だと『世界の触角的な存在』の彼等ですが、今作では人界魔界の双方に由来する半々な種族です。

 故に厳密に言えば魔族でもないし、当然人間でもない。 

 魔族の視点から見ても、彼等の存在は摩訶不思議としか言い様の無い部分がいくつもある…という感じです。

 今回でいよいよデュランダル護送任務に入り、オリジナル要素を加えつつ本格的に原作の大筋に戻していきたいと思います(なんか少し脱線気味だったので…)。

 では、また次回に!
 



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