1話です、どうぞっ!
吸血鬼。魔界を統べ魔族の頂点に君臨する『ファンガイア』の別称。
そもそもこの吸血鬼という単語が世界的な知名度を誇るまでに至った原因と
いうのも、ブラム・ストーカーという作家が描いた怪奇小説『ドラキュラ』
がきっかけだった。
吸血鬼という、人の生き血を啜る元人間にして最強の怪物『ドラキュラ伯爵』
と、それに立ち向かう『ヘルシング教授』の戦いは多くの人の心に衝撃を与え
たと言っても過言ではない。
ちなみに補足をつけると、大抵の人は『ドラキュラ=吸血鬼という種の英名』
と勘違いする人が多いが実際のところ、ドラキュラはあくまでも『個人名』で
あって『種族名』ではない。
よって吸血鬼を英名で呼ぶ時は『ドラキュラ』でなく『ヴァンパイア』と呼ぶ
のが一般的に正しい。
閑話休題。
話しが大分逸れてしまったので元に戻すが、そのファンガイアの頂点に君臨し
統べる王族の四家の一つにして、絶対の権力と武力を誇る『キング』の現当主
は、古びた感じと威厳的な雰囲気を放つ洋館の自室のベッドで、まるで死人の
ような青白い顔で眠っていた。
あくまで死んでなどいない。
これが彼女の寝顔である故、仕方ないのだ。
そんな彼女の顔に一筋の白い線が当たる。
それは世間一般の人間達による『吸血鬼のイメージ』において『弱点』とされ
る物の一つ……『太陽の光』だ。
カーテンの隙間から部屋へ入って来た太陽の光線が、キング家の当主である
少女の青白い死人似の寝顔を照らしたのだ。
世間一般で知られる『吸血鬼の弱点』というのは、全てではないがファンガイア
の弱点でもある。
例えば『銀』と『十字架』。
銀はファンガイアの体組織を崩壊させ、灰燼へ帰すほどの力を秘める。
逆に十字架はファンガイアを無力化させることができ、封印の道具にもなる。
そして『吸血鬼の最大にして絶対の天敵』である『太陽』は……実はこれも
真実でれっきとしたファンガイアの弱点に該当する。
但しそれは、第二の姿である『様々な動植物の特徴を持ったステンドガラスの
ような異形』に変身できる『高流位<アッパード>』や『中流位<ミドルラス
>』ではなく、異形の姿になれない『低流位<ボーガット>』が該当する。
それにボーガットでも2~3時間程度は活動できる為、瞬時に灰になるとか、
そういった現象は起こらない。
「う……う~~ん………………………朝?」
ゆっくりと上半身を起こし、あくびを吐き出しながら眠そうにしている王家
のキング現当主『紅夜響』はベッドから降りて寝巻きから私服へと着替える
。
「遅いぞ響。みんな食卓で待ってる」
着替え終わって扉を開けると、扉の前に一人の少年が立っていた。
これといって何の特徴もないショートな髪型の黒髪に精悍さと野性的な感じ
を醸し出している。
その為か、風貌がタキシード姿というのは普通にカッコイイものの、何故か
違和感がある。
「ごめん『一夏』。行こっ♪」
「まったく……」
明るい笑顔を見せる響に対し、タキシード姿の高校生くらいと思われる
年齢の少年『狼村一夏』は、呆れるようにそんな言葉を零す。
そんな経緯があって、一夏と響は共に『家族』が集う洋館の食卓へと
足を運ばせた。
「グッドモーニング、俺の愛しいマイ・エンジェル♪ さぁ、遠慮はいらん
。パパの胸に飛び込んで来るがいいっ!!」
「お父さん、うるさい」
食卓に入って早々、長い四角のテーブルを囲むように座っていた家族の中で
一際ハイテンションで響を迎え入れたのが響の父『紅夜音夜』。
ファンガイアの王7代目にして、初代から連なる歴代キングの中でも最強と
され、『完全なる王の血<エキスパート・オブ・ブラッドキング>』の異名
で謳われるほどの実力者である。
まぁ……普段は上記の通り『色々な意味でバカ』としか言い様のない有り様
だが。
「音夜さん。こんな朝っぱらからそれ、やめてもらえません?」
「……うぜぇし見てるこっちが恥ずい」
セーラー服と中性的な顔立ちが特徴的な少年『水井明久』は、愛娘を愛し過ぎる
音夜の行動に溜息を吐きながらそう言い、その隣に座っている燕尾服を着た執事
を思わせる風貌のサングラスをかけた男性『力島静雄』はガムか何かを吐き捨て
るかのような口調で呟く。
「私のパパもそうだけど、父親ってこんな感じなのかな?」
「いや、お前の親父も響の親父も異常に特殊過ぎるだけだと思うぞ」
明久と静雄の目の前に座っていた黒い学生服のようなコートを身に纏った少女、
『死埼マカ』は二人と同じように呆れた視線を音夜へと送りそんな言葉を漏らし
、その言葉に静雄が答える。
「あっ、そういえば今日約束があるんでしょ響」
明久の言葉にハッとした響は自分の携帯端末のディスプレイ画面を見てみる。
すると時刻は9時44分となっており、それを見た響は大慌てと言わん
ばかりの表情を浮かべた。
「わ、わわ~~~っっっ!! もうこんな時間! 急がないと~~!!」
瞬時に身支度を整え、軽い朝食としてテーブルに置いてあった卵サンドを
食べた響はそのまま屋敷を飛び出すように、ある場所へとマッハの勢いで
向かって行った。
「響ってば、なんだかすごい焦ってたみたいだけど、今日って何かあった
っけ?」
マカの質問に明久が答える。
「ほら、人間界で凄い人気の歌手の女の子が二人いるじゃん?
そのコンサートを未来ちゃんと一緒に見に行くんだって」
「ああ~知ってるぞ。ツインボーカルユニット『ツヴァイウィング』の
『天羽奏』と『風鳴翼』だったな」
何処か興味深そうに答える音夜だが、それも当然だろう。
何せ彼はファンガイアの王である『キング』の7代目当主であると同時に
世界的に有名なバイオリニストなのだ。
故に音楽界のことは分野が違おうともそれなりに熟知している。
「一度聞いたことがあるが、中々の歌声だった。アレほどの才能はまさに
十年に一度…いや、もしかたしたら千年に一度かもしれないなぁ俺みたいに」
「本当にムカつく位の自画自賛だな、おい」
音夜のナルシストなセリフにイラつきを覚えながら突っ込む一夏。
「そう言えば……ノイズの件はどうなってるんだ?」
一夏の質問に音夜は何を思ったのか。少し義憤を孕んだ表情を浮かべた。
ノイズとは35年前に突如として出現した人類共通の脅威の呼称で、
13年前の国連総会で『特異災害』として認定された未知の存在。
空間からにじみ出るように突如発生、人間のみを大群で襲撃し、触れた者を
自分もろとも炭素の塊に転換してしまう特性を持っており、なお発生から
一定時間が経過すると、ノイズ自身が炭素化して自壊してしまうらしい。
生物的な外観を持ち、各々が奇声を発するのが特徴。形状には個体ごとに
差異があり、大きさは人間と同程度からビルをも超える超大型まで様々だ。
ただし外見上の共通点として、どのノイズにも液晶ディスプレイのように
輝く部位が存在する。
しかも『シンフォギア』と呼ばれる特殊な武装以外の通常兵器では傷一つ
つけられないという特性もあり、人類にとってまさに脅威の存在と言える。
一方でファンガイアを含む魔族…所謂『魔界の生物』を炭化させることは
不可能らしい。
実際にノイズと戦闘を交えたファンガイアや魔族たちの証言によれば、
触れてみても炭化現象はおろか、何も起こらなかったとのこと。
しかし人類存亡の危機を黙っているほど、彼らは伊達に人間との共存を
目指してなどいない。
すぐさまファンガイアの軍部組織『ストリゴイ』は、自分たちの魔皇力が
ノイズに対しても非常に有効だと知った後、世界各地で微々だが発生する
ノイズの殲滅に尽力し、『ビショップ家』と『クイーン家』。
そして『ナイト家』と『ポーン家』も各現場の指揮官且つ、絶対的戦力と
してそれに加わっている。
一方のルーク家は現当主が2年前に死去してからというもの、新しい当主
の『選抜』に忙しく、その他諸々の事情があるのであまり『ノイズの殲滅
活動』には協力していないが、できる範囲内での情報操作などは行っている。
そしてキング家はノイズ襲来を利用して暗躍する魔族を葬る。
そういった按配で各々が行動しているのだが、ノイズの出現はファンガイアの
高度な技術をもってしても、その発生の原因や条件等が掴めていないのが現状
だった。
「まぁボチボチといったところだが……最近になってこの辺りでやけにノイズ
が発生してやがるのが気になる……なんかデカイことになりそうだな」
そう言って音夜は近くにあった紅茶のカップを手に取り、その中身をゆっくり
と啜る。
天羽奏と風鳴翼のライブコンサートが始まる数時間前。
この舞台の主人公の一人である風鳴翼は、現場のスタッフ達が忙しく今日の
ライブの準備に手を尽くしている中で一人、不安げな表情を浮かべ座っていた。
「つ~~っばさ♪」
「あっ、か、奏?!」
ライブのもう一人の主人公であり、親友の天羽奏が翼を両腕で後ろから抱きしめる
ように包む。
「そんな顔すんなよ。あたしたちのいつものことじゃないか」
「で、でもっ、今回は人がいつもより多くて凄いし……そ、それにこんな大きな
ステージで歌うの初めてだから……」
「ていっ」
「いたっ?!」
翼の前へ回った奏が翼のおでこへデコピンを食らわした。
「翼はさ、なんでもかんでも真面目に考えすぎなんだよ。そんなんじゃ、いつか
ポッキリ折れちゃいそうだ。だからあんまり難しく考えないでさ、いつもみたい
に、自分の思うように歌を歌おうよ翼」
「奏……」
奏の言葉に対し、少しばかりではあるものの、緊張や不安は取り払われたように
笑みを浮かべる。
「ようっ! 二人とも調子はどうだ?」
ふと男性の声がかかり、二人が声のした方向を見てみると引き締まった筋肉隆々
の肉体に赤いスーツを身に纏った長い赤髪の男性が立っていた。
「し、司令っ?!」
「これはこれは、弦十郎の旦那じゃないっすか~」
男の登場に翼は驚き、奏は親しげな表情を浮かべて男を弦十郎と呼ぶ。
『風鳴弦十郎』。
翼の叔父であり、特異災害対策機動部二課の司令官を務めている。
元は公安警察官だったが、前責任者である翼の祖父・風鳴訃堂が10年前のイチイバル
紛失の責任を取って辞任した後、二代目司令として抜擢された経緯をもって今に至る。
「二人とも分かっていると思うが…」
「今日は『大事な日だ』って言いたいんだろ? わーってるよ」
「フッ、分かっているならいい。今日のライブの結果次第で人類の未来が決まる
だろう。奏に翼、お前達に期待しているぞ」
「はい」
「はいは~~い、お任せアレってな」
弦十郎の邪気のない笑みに対し、二人も笑みを浮かべながらそう答える。
そしてこの時、3人……いや、その場にいる全員が気付いていなかった。
一人のスタッフが不気味な笑みを顔に張り付かせ、口の端から『黒い血』を
少し流しているということに。