吸血姫絶唱シンフォキバ   作:イビルジョーカー

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キバット「みんな知ってるか~? 古来より歌には不思議な力が宿るとされていて、
ギリシャ神話のセイレーンや西洋の人魚などは、その類なき美声が紡ぐ歌で多くの船
乗りを魅了し、その命を奪うという伝承が存在する。

歌は確かに美しい……が、時に魔性の力が篭った歌というのは、人を狂わせる悪魔な
のかもしれない……うん、色々と深いね~~!」





第2話 運命/魔王と奏者の邂逅 中編

 

 

闇。一片の光さえない静寂の中、一瞬。

 

また一瞬と。

 

ネオンの光が浮かび上がり、やがてそれがラインとなり舞台を形作ると

同時に美しい音楽が響き渡る。

 

それに呼応するかのように人々はその手に光を掲げ、二人の歌姫の登場を待つ。

 

輝ける舞台のスポットライトを浴びて、その姿を現した二人の歌姫こと

『天羽奏』と『風鳴翼』を人々は歓喜に満ちた声で迎える。

 

万に及ぶ人々の喝采に歌姫達は歌うことで答える。

 

その中で響は一人見惚れていた。

 

その傍には急用でこれなくなった未来の変わりに、特殊な術式で周囲の

人々に認識されていないキバットがいて、今の彼の気持ちは響と同じようだ。

 

「こいつは……凄いぜ! 噂に違わず中々の腕前じゃねぇか、あの二人」

 

「うん。それに歌だけじゃない。こんなにも『心の音楽』が澄んでいて

……綺麗だ」

 

『心の音楽』。

 

それは響が持つ特別な才能で、文字通り『相手の心の様子を音楽として

聞き取る』というもの。奏と翼から聞こえる『心の音楽』は希望と夢に

溢れ、そしてこの場にいる誰よりも情熱を秘めていた。

 

そして二人の心の音楽に共鳴する形で、大勢の観客達の『心の音楽』も

情熱に燃えていた。

 

「すごい……これがライブ……これが……『歌』なんだ」

 

ライブはこれが生まれて始めてで、歌も携帯からしか聞いたことがない

響だが、直に彼女達の歌を聞き、これが『歌』という音楽なのだと。

 

改めて理解した。

 

響がそんな風に思っていると、突如として天井が割れるかのように開く。

 

開いた先に待っていたのは、夕焼けに染まった大空。そして夕陽の光を浴び、

まるで天使の両翼のような形状を形作る、まさしく二人…『ツヴァイウィング

の歌姫の舞台』に相応しいと言えるライブ会場の姿だった。

 

夕陽に照らされたライブ会場は先程よりも一段と美しく、まさに今。ツヴァイ

ウィングの二人が、この茜色の空へと飛び立とうとしているかのような。

 

そんな勢いを秘めていた。

 

突然の出来事に観客達は驚き、響とキバットも思わず『おおっ!』と

声を上げてしまう。

 

ライブ会場は段々ヒートアップしていき、まだまだ始まったばかりだ。

 

「いえ~~いっ! キバって行くぜぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

「あははっ、キバットってばテンション上げ……!っ」

 

突然楽しそうだった笑顔を消し、真剣な表情で『それ』を聞く響。

 

『それ』は……自分専用のバイオリン工房の一室に飾られた母の形見である

血のように紅い一つのバイオリン『ブラッディ・ローズ』。

 

ブラッディ・ローズは今、その弦を一人でに震わせ、何かを警告しているか

のような音色を響かせていた。

 

音色を聞いた響は何もない筈の上空へ視線を向ける。すると、しばらくして

爆発が起こり、同時に飛行タイプのノイズがその姿を現した。

 

飛行タイプのノイズは赤い稲妻のような光線を会場へ向けて発射し、着弾し

たところから大型のノイズが何体か出現する。

 

そしてその大型ノイズが出したドロドロの気味の悪い液体から、小型ノイズ

が発生し、逃げていく人々を次々と炭化させようと迫る。

 

「キバット!」

 

「わかってる! ギャブッ!!」

 

キバットが響の手へと噛み付き、活性魔皇力を注入。

 

そして響をキバへと変身させた。

 

「うわあああああああああーーーーーー!!」

 

「いやあああああああっっ! 死にたくないっ! 死にたくないぃぃぃ!」

 

ノイズは次々と観客を炭化させいく。無慈悲に、無情に、機械的な作業とでも

言わんばかりに人々の命を奪っていく。

 

更なる命を奪おうと、一部のノイズたちが形状を変え、必死に逃げ惑う人々を

貫こうとした寸前。

 

「はああっ!」

 

キバに変身した響が『赤いキバの紋章』を形作った巨大な『波動結界』

と呼ばれる術式を盾代わりにし、波動結界に触れたノイズたちは魔皇力

に当てられる形で炭化していく。

 

「やっぱ話しに聞いたとおり、こいつら俺等の魔皇力に弱いみたいだな」

 

「……そのようだな。ならば観客全員が逃げ切るまで食い止める!」

 

響自身、いくら自分が優勢であろうと数的に不利な戦況の中を無闇無策で

戦う気は更々ない。

 

これだけの数のノイズを殲滅するには、やはりどうあっても『必殺奥義』

である『あの技』が必要になる。

 

しかし威力が強い為、下手をすれば守るべき観客達の命まで奪いかねない。

 

だからこそ今は防戦一方に徹し、観客が全員避難したのを確認した上で技を

放つ。それが響の策だった。

 

様々な形状をしたノイズたちが一斉一気に響へと襲い来る。

 

しかし彼女は恐れも無ければ慌てることもなく、得意のラッシュとキックで

ノイズたちを牽制していく。

 

いかに生物を炭化できる能力を持とうとも、魔族にそれが通用しない限り、

所詮何の意味もなければ、一欠けらさえも脅威に値しないザコだ。

 

「Croitzal ronzell gungnir zizzl……」

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

響がノイズ相手に奮戦していると、何処からともなく澄んだ歌声が響き渡る。

 

その声の発生元は、なんとツヴァイウィングの二人『天羽奏』と『風鳴翼』の

二人だった。

 

歌を終えた瞬間、二人の姿が変わった。

 

奏は赤いボディスーツに機械的なアームドを取り付けたような姿になり、翼も

奏と同じだがボディスーツの色は青で、アームドの形状も奏のと見比べて見る

と違う。

 

二人は格好と同じく機械的なデザインの槍と剣を手に次々とノイズを切り捨て

ていく。

 

「おい響……あの二人、ビショップが言ってた……」

 

「十中八九『シンフォギア奏者』だろう。まさか、あの二人がそうとはな」

 

シンフォギア奏者。生物を炭化させる能力を持つノイズに唯一対抗できる人類

の切り札。その存在自体は日本政府から情報公開されているものの、誰が奏者

であるかは秘匿されている。

 

しかも情報が情報だけにトップシークレットな為、日本政府の一部と繋がりが

あるビショップでさえシンフォギア奏者に関する情報を入手できずにいた。

 

そんな国内最高のトップシークレットが…今まさに、こんな予想外な形で判明

するなど、響としても思ってもみなかっただろう。

 

「おい! そこのお前!」

 

「……何だ」

 

キバと奏者。

 

本来なら合間見える筈のない者同士が今、ここに邂逅した。

 

 

 

 

場所は変わり、そこはツヴァイウィングのライブ会場から少し離れた

位置にある廃墟ビル。

 

そこに2体の異形がいた。

 

1体は黒い布のようなものを体中に何枚も厚く巻き、フードから覗か

せるのは、不気味な鶏の顔。まるで鶏の口から更に鶏が飛びすような

意匠をし、口からは黒い血が滴っている。

 

両手も決して人間のものではなく、鳥の足そのものを刺々しくした感じだ。

 

もう1体は鶏の怪人同様、黒い布を何枚も厚く被り、フードは無いものの

その頭部は茶色の毛の狼に鳥の嘴を付けたかのようなもので、本来ならば

ない筈の無数の牙が生え覗かせている。

 

更に背中には一対の漆黒の翼があり、翼の裏側にはびっしりと無数の目が

張り付いていた。

 

そして鶏の怪人同様、『黒い血』を口から滴らせている。

 

黒い布、黒い血……両者に共通するこの2点が示すものはつまり、彼等は

『ゴースト』の中で上級に位置する『闇霊《ピープル》』であることを意

味している。

 

「首尾はうまく行っているようだな、鳥式」

 

上記の狼の頭部に鳥の嘴部分や両翼を付け足したような闇霊『狼鳥式』が

『鳥式』と呼ぶ鶏の怪人に問いかける。

 

「ええ。これでキバとあのシンフォギア奏者を一掃できます故」

 

「しかし、あの女と手を組むというのは……癪だがなッ!」

 

狼鳥式はそう言い、近くに転がっていたアルミ缶を苛立ちそうに蹴り飛ばす。

 

鳥式は蹴りで大破したアルミ缶をひょいっと掴むと、そのまま缶を原型残さず

握り砕いた。

 

「それは私も同感故。いくら優れた力と技術を持とうとも所詮はサル」

 

「然り。我々が魔界と人界の天下を取る為の捨て駒に過ぎん」

 

2体の異形はそう言って哂う。

 

するとそこに第三者の声が響き渡った。

 

「油断は禁物だ……相手はあのキバ。それにシンフォギア奏者も侮れん」

 

声の主は、鳥式と狗狼式と比べて大差ないグロテスクな姿だった。

 

2体と同様、黒い布でその身を隠し、その頭部は長い黒髪だが前髪の中央に

灰色のメッシュが入った神父服姿の人間の男性。

 

ここまでなら何の問題もない。

 

しかし本来、目がある場所には眼球がなく、変わりに蛾のような昆虫の

触覚が生えていて背中にはまさしく蛾を彷彿とさせる巨大な翅があった。

 

「蛾式殿ですか。しかしあのようなサルなぞ然程造作は…」

 

「無いとは言えない、くれぐれも油断して足を取られることのないよにな」

 

「ふん。余計なお世話だ……で、何しに来た? ただの暇潰しというわけも

ないだろう」

 

「……【母】の命だ。帰還せよ、とな」

 

その言葉に狼鳥式は怪訝な表情を浮かべるが、すぐに納得した様子で呟く。

 

「ようは、俺等が出る必要は無いってことか」

 

「その通りだ。今回の任の本命はキバと奏者の抹殺にあらず、≪殺された人

の種のライフエナジーの回収≫だ。後のことは全て【蜘蛛式】に任せておけ

ばいい」

 

「ふむ、一理あります故」

 

「チッ! しゃあねぇ。獲物は蜘蛛の野郎にくれてやる」

 

「納得したのならばそれでいい。では、帰還するぞ……≪冥府≫へ」

 

蛾式はそう言い、虚空へと手を前へ翳す。

 

すると黒い霧のようなものが何処からともなく現れ、やがて円形の形状を

した『異界の門』へと変わる。

 

狼鳥式と鳥式は門へと入っていくが、門を開いた張本人である蛾式は歩み

を止め、後ろを振り返る。

 

その視線の先は今まさに地獄絵図と化しているツヴァイウィングのライブ

会場だった。

 

「キバとシンフォギア奏者……さて、どう乗り切るのか楽しみだな」

 

そう言い残し、門に入りきった瞬間。

 

異界の門……『冥府門』は再び黒い霧となって、そのまま消滅した。

 

 

 






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