今回も戦闘シーンなし+文章が短いです。
戦闘は次回になってしまいますね(汗)
『キャッスルドラン』。
ドラン族の中でも最強種と称される『グレートワイバーン』を西洋風の城塞へと改造した
もので、チェックメイトシックスの当主たちが誇る『移動拠点要塞城』。
そこの中にある客間の一室に天羽奏はいた。
もはや非常識を超えた出来事の数々を一度に経験し、色々と混乱気味に陥っているのかと
思うものだが実際のところはそうでもなく、むしろ以前とあまり変わらずといった感じだ
。
「なぁ、あんた。この城になんか暇潰しの道具とか場所とかってねーの?」
「えぇっ?! い、いや……急に言われましても……」
奏の世話役兼監視役として客間にいたメイドファンガイア(ボーガット)の『シェリア』は
困惑した様子で奏の質問に対応しかねていた。
「あっはは、冗談だよ冗談♪ 真面目だねぇ~あんたも」
「は、はぁ……」
そんなやり取りをしている中、客間の出入り口の扉がゆっくりと開かれ響とその従者であ
る一夏たち。そしてチェックメイトシックスの一人『ビショップ』こと『蝶塚アゲハ』と
現ファンガイア王であるキング『紅夜音夜』部屋に入って来た。
「こ、こんにちわ奏さん。こ、ここ、ここここっ、紅夜響というものでしゅっ!」
「……なんか、あの時とは物凄げぇギャップだな」
キバに変身していた時の、あの大人びた余裕さは何処へやら。完全にガチガチに緊張して
言葉が拙くなってしまっていた。
と言うか、舌を噛んだ。
「よおっ奏! 俺のこと覚えてるか?」
「忘れたことなんて一度もねぇよ、音夜の旦那」
まるで知人同士と言わん気な雰囲気を醸し出す二人に、響は不思議そうに質問してみた。
「あの~~もしかくして二人って……お知り合い?」
「ん? ああ、一度だけ会っててな。その時は翼も一緒だったな」
遠い日の過去を思い浮かべるかのように、懐かしく語る音夜。
と、ここでそろそろ本題に入ろうとアゲハからの制止が掛かる。
「んんっ! お話し自体は悪くはありませんが、我々がここへ来た目的を果たさなければ
なりません」
「まぁ、それもそうだな。そんじゃ行くか」
奏を連れて、キャッスルドランの最下層を目指す響達。最下層は一見すると洞窟のように
暗く広大だ。且つ、とても入り組んだ迷路のような構造をしているので、地理をよく知っ
ておかないと永久に出られない……っと、いった可能性もある。
どちらにしろ、ただひたすら闇雲に歩くだけではキャッスルドランの最下層から脱出する
など不可能ということだ。
そんな暗黒の迷宮へと赴いた理由は当然ながらこれから行う『魔皇力共鳴』にある。
魔皇力同士の共鳴というものは、本来ならば不可能だ。
そもそも魔皇力というものは、例えそれが同じ種族……あるいは血の繋がった身内同士だ
ったとしても互いに反発し合い、殺し合う。そしてどちらかの魔皇力が残るか、もしくは
相殺してしまう場合が殆どで、共鳴などこの性質上を鑑みれば到底できない。
しかし。それを可能にしてしまったのが、ファンガイア随一の天才博士にして最強の魔王
ヴラド・ドラキュラだった。しかしそれはヴラド王だったからこそ成功したわけで、他の
者が大勢に渡りその技を手にしようとしたが失敗に終わった。
大勢の中での唯一の成功者は現ファンガイア王の音夜だが、その音夜でも習得こそ出来た
ものの、実用した結果の成功例は僅か二度。
とてもじゃないがヴラドの足元にも及ばない。
では、これからそれを行使しようとしている響はどうなのか?
響の場合は……そもそも習得できるかが解らない。
才はあれど、その才を使い『魔皇力共鳴』を習得できるかどうかは結局のところ、響自身
の力量に頼る他ない。
「着いたぞ」
音夜の声が暗黒の迷宮内に響き渡るように聞こえて来る。重厚な扉を開け、その先へと歩
を進める一同。
そこはレンガの石造りで構成された一室で中はそれなりに広いが、眼前の白い線の魔方陣
を除いては何一つなく、物寂しいどころではなかった。
「なぁ、音夜の旦那。その…えっと……あっ、魔皇力共鳴ってやつ? それをこの部屋で
やるのか?」
「ああ。ここは魔皇力を共鳴させやすいよう、つまり、そういう作用が起きるよう色々と
施されている。とりあず奏にはこの部屋で半年くらいは響の習得練習に付き合ってもらう
。本格的に共鳴を実行に移すのは2年後になるだろ」
「にっ、2年もかかるのか……?」
少し予想外だった期間の長さに奏は驚く。
「じゃあ、その2年間はヤバいんじゃねぇのか?」
「安心しろ。その為の三世だ」
奏の不安げな疑問に対し、音夜は親指で後ろに飛んでいるキバットを指す。
キバット族は、時としてファンガイアさえ凌駕するほどの魔皇力のコントロールに長けて
おり、彼等が13魔族の一角として君臨できたのはこの為である。
「三世はキバット族の名門にして長『キバットバット家』の三代目当主だ。こいつの力は
俺や響のお墨付きだ。期待してもらっていいぞ」
「おうよっ! 俺に任せとけ、モデリアーニの姉ちゃん!」
両翼を通常より激しく羽ばたかせながら、自信有り気に語るキバット。『モデリアーニ』
という妙な単語には引っ掛かるが、とりあえず流しておくことにし、改めてキバット三世
に信頼と感謝の気持ちが篭った言葉を紡ぐ。
「ああ、ありがとう。よろしく頼むぜキバット♪」
「おうともっ!」
「さて、そんじゃ始めるか。俗に言うところの修行ってやつをよ」
音夜がそんなことを呟き、いよいよ魔皇力共鳴を習得する為の修行の日々が、幕を開ける
こととなった。
そこはとある森の中に点在する一件の豪華な屋敷。いや、小さい西洋式の城とも見て取れ
るその場所に彼等はいた。
「そう。予定通りライフエナジーは確保できたのね」
「ああ、我等への協力に感謝する」
終わりの名を冠する女性『フィーネ』の言葉に闇霊の蛾式は感謝の意をその口から紡ぐ言
で表すものの、フィーネはつまらなさそうに答える。
「別に。私は、私の目的のために貴方達の協力の申し出に答えたまでだわ。私のような猿
に頼らなければいけない貴方達が、あまりに可哀相だったから」
「そうか、ならば要らぬ礼だったか」
フィーネの皮肉を含んだ言葉に蛾式は気にせず、適当に流すように答える。
その平淡な態度に彼女はイラついたように舌打ちする。
「ところで、以前に頼んでいたものは出来たのか?」
「……これよ」
足元に置いてあったアタッシュケースをデスクに置き、蛾式はその中身を確かめると少し
ほくそ笑む。
「くくっ。中々に素晴らしいじゃないか」
「お褒めに預かり光栄だけど、本来の物に比べれば性能もパワーも幾分かは落ちてるわ」
「構わぬ。これでライフエナジーが必要とする基準の量まで達すれば、母の願い…いや、
我々ゴースト族の悲願は成就する」
「……そう。あともう一つ頼まれてた物もできたわ」
フィーネは元からデスクに置いてあった金属製の黒い小箱を開け、中に入っていたある
物を取り出す。それは10cmほどの大きさを有する菱型をした灰色の結晶体だった。
「ノイズを構成するエネルギーを詰め込んだ結晶体……さしずめ『ノイズクリスタル』
と言うべきかしら? ともかくこれは触る程度なら問題ないけど、既存の生物に組み込
んだら……ほぼ100%炭素と化して死ぬ」
「それは『既存の生物』だったらの話だろう? 生憎と我々ゴースト…いや魔族の全て
は、この世界の既存には当て嵌まらん生命体だ」
フィーネからノイズクリスタルを受け取った蛾式は空いた片手を前へと突き出し、黒い
煙ともオーラともつかない不定形のエネルギー物体『冥府門』を召喚し自らの部下たる
屍霊を5体ほど呼び出す。
どの個体も共通して黒い布を羽織り、頭をフードで覆っていた。
「御呼びですか、蛾式様」
「お前達に新たなる力をやろう……受け取れっ!」
そう言って蛾式はノイズクリスタルを握力で砕き五つに分け、屍霊たちに向けて投げ捨
てる。するとノイズクリスタルは赤黒く発光して5体の屍霊たちの中へと入っていく。
「うっ、がっ……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「「「「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」」」
漲ると同時に自らを変えていく力の激痛に耐えながらも、彼等はフィーネの言うような
炭素化はせず、次第にその形状を変えていく。
そしてそれが完了すると、屍霊たちの姿は激変と化していた。
それぞれの布の色が黒から赤、橙、青、紫、黄へと変色し、顔がのっぺら坊のように消
失したものの、代わりにノイズ特有の液晶画面のようなものが現れる。
『コレハ……何ント素晴ラシイ』
『力、ガ、満チ溢レル』
『スゴイ……』
『オオ……』
『蛾式様。コレハ一体……』
それぞれが感想を述べているところを見ると、どうやら既存の自我も知性も失ってはお
らず、それらを維持したまま『ノイズの力』を得ているといった具合だ。
「ノイズの力によってお前達は進化を遂げた。名付けるのなら……『騒霊(ノイズゴー
スト)』とでも言うべきか」
『ノイズ…ゴースト』
「まさか……こんなことがっ!」
この結果はフィーネにとってあまりに想定外だった。
既存の生物としての理から外れた魔族という存在とは言え、蛾式の思惑は破綻すると踏
んでいたのだ。しかしいざ実現してみるとどうだ。
破滅するどころか……更なる進化を遂げてしまった。
「貴様等全員でキバと『サガ』の排除に当れ。私はその間、別の任に当たる」
『『『『『御意』』』』』
「行け」
淡々と命令を下し、ノイズという新たなる力を手に入れた屍霊…もといノイズゴースト
は、その場から霞のように消える。
「………」
「驚きで声が出ないか? ふふっ、とにかくこれでまずは上々だ。お前の更なる成果に
は存分に期待している」
蛾式はそう言い残し、冥府門を顕現させその場から去って行く。その後姿をフィーネは
ただ、納得の行かないような…そんな悔しさに歪めた顔で見てるしかなかった。
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