読んで頂き、また評価・感想ありがとうございました。
あと、活動報告の方に、見る専だったTwitterのアドレスを置いておきます。今後はTwitterで新作の事を宣伝出来たら、と思います。
貴虎は1人病院の屋上から、復興の工事が急ピッチで進められる街を見ていた。重機と人が忙しなく動き回る様子は、3日前まで孤独の世界にいた貴虎からすると、未だに現実感の薄い光景だった。胸と脇腹の傷の痛みが現実だと教えてくれるが、それでもこれは今際に見ている夢ではないか、などと荒唐無稽な事を考えてしまうくらいだ。
入院初日に意識を取り戻した時以降、装者達とは顔を合わせていない。あの組織がこの世界でどう言う立ち位置にいるのかは分からないが、仮に人員含めて極秘の存在だったとしても、中心にいる立花響があのお節介な性格なのだから復興の手伝いを申し出ないとははずがないのだ。なので、今もあそこの喧騒に混じって奮闘しているのだろう。
入院してからのほとんどを、貴虎はここで過ごしていた。何故ここにいるのか。それはここで感じられる物が、あの世界には全て無かったものだからだ。孤独の中にあり、全てを諦め心を閉ざしていた貴虎にとってあの世界は無色であり、無味無臭だった。この世界にいるから感じられるのではない。皆と出会い、心を開けたからこそ感じる事が出来るようになったのだ。尤も、貴虎自身その事を自覚はしていないのだが。
それとは別に、ここに来てから明確に分かった事がある。それは──
「ああ! こんな所にいたんですか! どこ行ったのか皆で探しましたよ!」
遠くにあった喧騒がすぐ後ろに来ていた。ここが屋内だったら看護師に激怒される音量で憤慨する響。いそいそと他の面々に連絡を取り、愚痴を溢しながら場所を告げている。程なくして全員が集合する。その間、貴虎は変わらず復興の喧騒を眺めていた。
「全く書き置きもなくいなくなるんだから、帰ったのかと心配したじゃない」
「看護師には言ってあったぞ」
振り返り、呆れたように言う貴虎。皆がそれだけ心配し、狼狽していた、と言う事にまで考えが及ぶはずがなかった。しかしそれを指摘する者は1人もいなかった。貴虎が髭を綺麗さっぱり剃った事に驚いているからだ。
「──やっぱりいい男じゃない」
顕になった顔は、大変に端正なものであり、ティーンエイジには少々刺激の強いものだった。濃い隈とまだ濁りのある目が、美男子な彼を荒んだ貴虎だと認識させた。
マリアの本音を、世辞とすら受け取らず皆が病院に来た理由を尋ねた。それに対し、今度はマリアが呆れたように答えた。
「見舞いに決まってるじゃない。──それで、まだはっきりと返答が来てないんだけど?」
「何の事だ」
「もう戻る気は無いのか、って事よ。貴方が最初に3人だけを帰した時、3人とも凄い取り乱してたんだから」
「そうか。それは悪かったな。……今はまだ、オレ自身の思いとしてこの世界で生きたいとは思えない。だから、そう思える時までは弟の、光実の願いを叶えるために生きるさ。それがあいつの最後の願いだからな」
貴虎の心を蝕み続けた罪の意識が簡単に払拭される事はない。近道はなく、長い時間を掛けてゆっくりとその認識を壊していくしかないのだ。ここにはそれを許してくれる環境があり、そしてそれを手伝ってくれる仲間もいる。貴虎はもう孤独ではないのだ。
「なら一安心ね。……そう言えば、タバコ、吸わないのね」
「もう止めた」
タバコを片時も手放そうとしなかった貴虎を知っている響と翼とクリスは、唐突な禁煙宣言にキョトンとしていた。
「不味かったからな」
もう一つ分かった事は、タバコが不味かったもの、と言う事だ。