少し長くなってしまいましたが、読んで頂ければ幸いです
感想・批評よろしくお願いします
「オーバーロード、だと」
「そう、オーバーロードだ。貴虎も同じ力を持った存在と戦っただろう?」
腰に手を当てながら顔の前で指を立て、ゆったりとした足取りで歩き出すオーバーロード。仕草の一つ一つに人間臭さがあり、外見とのアンマッチが不気味さを増幅させている。
オーバーロードの言う通り、植物を操る強力な3体と戦っている。壊滅的な被害を受け、大勢の戦闘員が亡くなった事を覚えている。貴虎自身、撃退出来たダケでも大金星だと感じる程に、戦闘力は隔絶していた。
「そして志願者を募って、奴らを誘き寄せ、ありったけの核爆弾で一網打尽、だったかな。ま、結局それが原因で戦力の立て直しが出来ずにこうなってしまったんだから、志願した者達も報われないね」
そうだ。敵の最大戦力を打倒出来た。しかしそれで万事解決ではないのだ。インベスの数は減らなかった。それどころか、敢えてインベスに身を落とす者達も大勢いた。増え続ける敵、減り続ける味方。人類は敗走を重ね続けた。重ね続け、そして滅びの目前に至ったのだ。
忘れた事などない。眠る度に死んでいった者達が、殺してしまった者達が現れる。何をするでもなく、何を言うでもなく、ただ見詰めるだけ。罪を忘れるな、と。しかし時が経つにつれ、視線に焼き尽くされた心は何も思わなくなっていった。
「知ってるかい貴虎。いや知る訳がないか。私も成ってから知った事だからね。オーバーロードはある物を手に入れれば森の支配者になれる存在なんだ」
「──────な、に」
「そして奴らはそれを、黄金の果実を持っていたんだ。つまり地球を侵略から救える方法を潰したのは、貴虎。君なんだ!」
心を塞いでいた瘡蓋が剥がれ落ちる。死んでいった者達の視線が、殺してしまった者達の、
全てを託された。愛する者を、友人を、家族を守るために、誰も彼もが命を捧げ、救世を託していった。その思いに報いようと足掻き、踠き、そして果たせなかった。いや、違う。その足掻きが、その踠きが、彼らに託された思いを壊していた。
──なら人類を滅ぼしたのは俺なのか
「そうさ、君が」
──オレンジ!
「変身!」
展開し、バラけたオレンジを追加装甲として全身に纏う。拳に半月切り型のエネルギーを纏わせ、吶喊。クロスした腕でガードするオーバーロード。
一歩足が退がる。
「おもしろい! 未知の兵器とアームズを融合させるとは、流石私の発明だ! いや、君達の兵器も面白いね。後でじっくりと観察させてもらうよ」
「嗤うな!」
「うん?」
「何もしてないお前が、貴虎さんを嗤うな!」
──オレンジスカッシュ!
エネルギーが急速に増大し、放たれた逆突きの一撃は植物を吹き飛ばし、オーバーロードを退がらせる。接触していた箇所から煙が上がっている。余裕の現れか、じっくりと検分すると、煙を払うように腕を振り、またも笑いながら言った。
「ハハハハッ! まさかこんな相互作用があるとは。益々興味が湧いてくる。しかしね、貴虎に関しては事実だろう? それに、別に私は貴虎を糾弾するつもりなんかこれっぽっちもない」
オーバーロードを植物が包み込むと、刹那の内に貴虎の眼前に現れ、未だ疼くまる彼に囁く。
「貴虎、君に罪の意識があると言うなら神になれ」
悪魔の甘言が貴虎の心に染み込む。己の手を取れと、差し伸べる。
「させん!」
翼の剣が振るわれる。ダメージを負うとは考えづらいが、未知の装備である事を警戒し、飛び退き躱す。
着地の瞬間を狙い、クリスが形成した2門のガトリングで弾幕を張る。
「《BILLION MAIDEN》!」
実弾兵器が雨霰と放たれるのは、完全な予想外だったのか全弾が直撃。全身から火花を散らし、着弾の煙が立ち込める。
「驚いた。君達の装備は物質を生成する事が」
「やあああ!」
着弾の煙は煙幕となり、響を助けた。煙を引き裂く拳。しかしオーバーロードは視界が塞がれた程度で臆する程柔ではない。不可視のはずの一撃をスウェーで回避。直撃を確信していた響は、顔と声で驚きを露わにするが、その手は止まらない。実戦と訓練で仕込まれた体捌きは、ロックシードとの相互作用も相まってオーバーロードに食い下がっている。クラックを用いた瞬間移動染みた芸当で回避しているが、それこそが当たればダメージを負うと言う証拠になっている。だからこそ、響は我武者羅に攻撃し続けるのだ。
「立花!」
集中し過ぎていた。地面より出現した植物に足を取られる。響の動きが止まり、オーバーロードの動きが変わる。回避ではなく、攻撃の踏み込み。脇腹に蹴りを喰らう。植物を引きちぎりながら吹き飛ばされ、壁に激突。床に落ちる。
「ふう、何とも邪魔が多いね。ま、取り敢えず目的の物は回収したから良いんだが」
床を破り、植物が何かをオーバーロードの元に運ぶ。金色の装飾が施された赤い果実、リンゴロックシード。
「さて、貴虎。私はゲートを使い彼女達の世界に行く。そこでこのロックシードを本物の黄金の果実にし、支配しようと思っている。決意が固まったら、追って来るといい」
クラックを出現させると、人間の姿に戻り、潜り抜けていく。
・
激しい後悔と絶望が体を絡め取る。死した者、殺した者の視線が心を焼き尽くす。貴虎は今、生きながらにして地獄に落ちていた。怨嗟の声が鳴り止まない。
何故、と言う。何故助けてくれなかったのだ。何故殺したのだ。何故世界を救わなかったのだ。何故、お前は生きているのだ。
言葉が身を抉る。視線が心を焼く。なのに、その責め苦の何と心地良さたるや。この苦痛にずっと浸っていたい。
いや、違う。ダメだ。そうだ、死した者が生きてる者を苦しめられる訳がない。死した者が何かを言えるはずがない。これは全部死んだ者達から直接苦痛を与えられたいと言う、甘えが生み出した幻でしかない。楽になって良いはずがない。死ぬまで生きて、晴れる事のない自問自答を繰り返さなければならないのだ。
幻想に浸っている時間はない。親友を殺し、この世界を終わらせるのだ。
・
「おい、大丈夫か?!」
クリスが響の元に駆け寄る。脇腹の痛みに顔を歪めつつも、手を借り、立ち上がる。
「ちょっと痛いけど何とか大丈夫! それより貴虎さんは」
「私も、大丈夫だ」
響と同じように、翼に手を借りながら立ち上がる。モニターの近くに置いてある頭蛇袋を取ると、その中からロックシードを全て取り出す。
「さっきも言ったが、ロックシードとギアの相互作用は未知数だ。だから2人の戦闘スタイルに近い物を渡す」
翼にドリアンロックシードを、クリスにはウォーターメロンロックシードを渡す。
「そいつは二刀流、そっちは少し反動がキツいが、ガトリングを装備できる。お前はすまないが、そのままだ。無手のタイプはあるにはあるが、ランクが落ちる」
頭蛇袋を捨て、ふらつきながらクラックに向かう。
響が慌てて、袋を拾い上げる。
「貴虎さん、これ!」
「……俺に、それを持つ資格はない」
血を吐くような声だった。その答えで、貴虎がオーバーロードに言われた言葉を認めているのだと分かってしまう。
「違います!!」
何の考えもなく、咄嗟の言葉だった。だがそれは紛れもなく、響の本心であった。
「違わない!」
「違います! さっきの人が本当の事を言ってるなんて分からないじゃないですか!」
「オーバーロードが植物を操っていたのは事実だっ。そして、奴は、凌馬は、嘘を付かない」
「滅びの瀬戸際の時に、戦える力を持ってるのに逃げ出す人の言う事を、何で信じられるんですか! 人を守るために戦って来た自分じゃなくて、何で何もしなかった人の言う事を信じちゃうんですか! そんな風に自分の行いを否定しちゃったら」
「こんな結果で、過程に何の意味がある! 俺は、植物に侵食された弟を殺した! この手で! その果てがこれだ!」
「──────」
「……奴を追うぞ」
・
クラックを潜り抜けた先、ゲートの光を目視出来る場所でオーバーロードは待っていた。
「やあ貴虎。気持ちは決まったかい?」
日常会話のように、何の気負いもなく話し掛ける。
「貴方は何のために、神様になって世界を支配しようとするんですか?!」
響の問いに、まるで考えもしなかったと言わんばかりに驚き、考え込む素振りを見せる。顎に手を添え、如何にも悩んでいます、と言う態とらしい仕草が苛立ちと困惑を抱かせる。何故こうまで巫山戯られるのか、と。
「そうだねえ……。特に理由はないかな」
勿体ぶった答えは、あまりに恐ろしいものだった。冗談で言っているのではない。動揺させるために言っているのではない。本心からそう言っているのだ。目の前の、嘗ては人間だった存在は、何の理由もなく、人を殺せると言ったのだ。
今まで戦った敵は、皆理由を持っていた。だからこそ敵対し、そして理解する事ができた。だからこそ目の前の男が、言葉を幾ら重ねても届かない理外の存在だと理解してしまう。
「そんなに驚く事かい? 理由のない悪意なんて沢山あるだろう? それで、貴虎。君はどうする?」
「理由の有無は関係ない。お前が世界を蝕む悪意になると言うのなら、殺すだけだ。──変身」
──メロン!
「変身!」
──ウォーターメロン!
「変身!」
──ドリアン!
ロックシード由来の複合兵装防盾《ウォーターメロンガトリング》の砲身の両側を、ギア由来の砲身が挟む3連装ガトリング。それを両手に携えたクリスより圧倒的な弾幕が放たれる。
「少しどころじゃねええ!」
圧倒的な火力は、それ相応の反動を生む。地面を抉り飛ばし、木々を薙ぎ倒す。制御不能の暴れ馬かに思われたが、僅かの間で射線が収束していく。
「だけど、もっとキツいのも使ってっからなあ!」
オーバーロードに肉迫せんとする響と翼は、暴れた射線に怯みを全く見せなかった。間を抜ける弾丸を味方とし、駆け抜ける。直撃すればダメージは免れない。だからこそオーバーロードは逃げを選択する。
クラックに消える。どこに、と逡巡し、真っ先に潰すべきは誰かと考えれば、先はすぐに分かった。
雪音、と叫んだ時には彼女の頭上のクラックからオーバーロードが姿を見せ、レイビアで串刺しにせんと迫っていた──時には既に貴虎が《メロンディフェンダー》を投擲していた。
直撃。地面に落ち、体勢を直す前に跳躍した貴虎の斬り下ろしが迫る。腕でガード。その手応えから斬り落としは不可能と即断し、素早く距離を取る。射線が開く。弾丸の雨が降り注ぐ。
直撃。痛みを感じる。長く受け続ければ軽くはないダメージを負うと判断し、最優先での排除を決める。顔面をガードしながら、植物を伸ばし捕縛を試みる。外れる。弾丸の直撃箇所が移動している事に気付く。貴虎がクリスを抱えて走っていた。追走させる。四方から迫れば、逃れる先は1つしかない。予想通りに跳躍した2人を包囲するように植物が迫る。
「手を左右に広げろ!」
「おう!」
2人の間に絆と呼べる物はない。しかし優れた戦士である2人に、言葉はいらない。
ガトリングの反動を利用した、足場の無い空中での姿勢制御。迫り来る植物へ射撃と斬撃が縦横無尽に放たれ、全てが落とされる。
オーバーロード、嘗て戦極凌馬と呼ばれた男は戦士ではない。自身の持つ力を使い熟しているが、戦闘のいろはを知らない。2人を捕縛しようと躍起になっている隙に、接近されていた。
足音に気付いた時には、エネルギーを纏った拳と、スパイクに埋め尽くされた剣が迫っていた。斬撃を伴う殴打と殴打を伴う斬撃。
呻き声と共に地面を転がる。追撃の弾丸が肉を抉る。血が飛び散る。死がちらつく。
「ふざけるなああ!!」
全方位へ放たれる不可視の力。出鱈目に絡み付く力が、体を捻り、四肢を捥ごうとする。
「おおああああ!」
断裂の音を聞きながら無双セイバーのトリガーを押し、弾丸を放つ。直撃。不可視の拘束が解かれるが、全身を蝕む苦痛に、皆即座の行動ができなかった。
オーバーロードが地面を叩く。掌より放出されたエネルギーが四方へ散り、炸裂する。悲鳴が爆音に飲み込まれる。
濛々と立ち上る黒煙と土煙で、4人の姿を確認出来ないが、相当のダメージを負った事は間違いなかった。緊張が緩み、僅かに脱力した瞬間、煙を振り払い、貴虎が現れた。
舌打ちと共に、手掌から青い光弾を連射。メロンディフェンダーで防ぐ。6発目で破砕。しかし剣の間合いに入っている。
袈裟斬りをレイピアで受ける。手が離れ、互いの顔面を叩く。仰け反り、戻す勢いで振り下ろす。互いの肩口を斬る。たたらを踏むが、すかさず前へ出る。鍔迫り合い。
「貴虎ぁ! 何故神に成る事を拒む!」
「貴様こそ! 何故この世界を見捨てた! 何故神になど成ろうとする!」
「決まってるじゃないか! それこそが私にとっての至上の命題なのさ。そのためだったら、人類など無価値だね!」
貴虎が押し込まれ、胸部装甲を斬り裂かれる。しかし退かず、順突きを喰らわせるが、止められ、刺突の連撃が放たれる。無理矢理体を捻り、直撃を避けるが、肩部装甲が砕ける。
「ぐうっ……! 本気で言ってるのか!」
「そうだとも貴虎。私が人から価値を見出されたのは、この頭脳だけだ! ならばそれによって創り出されるモノこそが真理!」
引き寄せられ、膝蹴りが腹部に刺さる。マスクの内側で胃液が溢れる。胸に手が押し当てられる。光弾の接射。水平に吹き飛んでいく体。樹に激突。全身に痺れるような痛みが走る。
「貴虎。私は君を尊敬している。その才能を、その気高さを。最後だ貴虎。共に神に成る気はないか?」
「くどい……!」
一考の余地なし。
だが、貴虎は不思議な満足感を味わっていた。思えば、凌馬の本音を聞いたのは初めてだった。『人類救済』と言う題目を心の底から信じ、それに加わっている凌馬もそうであると思っていた。それがどれだけ愚かな考えであったか。もっと話すべきだった。他愛のない話でも良かったのだ。凌馬がどんな人生を歩んで来たのか、節目節目でどんな思いを抱いたのか。そうしていれば、もしかしたら真の友になれていたのかもしれない。
「残念だよ!」
レイピアの一撃を前転で回避。無双セイバーにメロンロックシードを装填。
──イチ・ジュウ・ヒャク
立ち上がりながら振り向く。青いエネルギーを纏ったレイピアが迫る。
──メロンチャージ!
激突。緑と青のエネルギーが放射状に広がる。しかし拮抗は一瞬。緑の光が塗り潰されていく。装甲が削れる。マスクに亀裂が入る。
──オレンジ! ロックオン!
──オレンジスカッシュ!
「貴虎さん!」
響が背後から抱き付く形で、自身が持つオレンジロックシードを貴虎のドライバーに装填し、カッティングブレードで斬る。緑の光を橙の光が後押しされ、広がっていく。だが生物としての膂力が如実に現れ始めた。僅かに、しかし確実に貴虎の体が押されていく。
「負けんな!」
「我らもいます!」
その背中を支え、押し上げる3人の装者。ギアが出力を上げ、傾いていた天秤が再び拮抗状態に戻る。
外圧と内圧の力により、無双セイバーに限界が訪れる。刀身に亀裂が入った瞬間、内部のエネルギーにより一瞬の内に砕け散る。炸裂したエネルギーが全員を吹き飛ばす。
翼とクリスのロックシードが外れ、アームズが消える。痛みが呻き声を上げさせる。何とか立ち上がろうとした瞬間、強烈な締め付けと共に体が浮き上がる。3人全員が植物に拘束されていた。否、それは拘束ではなく、締め殺そうと言う明確な殺意を感じる程強烈な物だった。ギアが無ければ、とうに体は分断されていただろう。
「簡単な事だった。君達がいなければ、貴虎が断る事はなかった。さっさと殺しておくべきだったよ」
皮膚が裂ける。骨が軋み始める。
「うあああああ!!」
「ち、く、しょう……はな、し、やがれ」
「ぐうう……!」
──リンゴ!
その音にオーバーロードは初めて狼狽えた。慌てるように自身の体を弄り、ロックシードが無くなっている事に気付く。
「さっきの爆発か……!」
「凌馬。もし彼女達に会う前にお前と再会していたとしても、神になどならない。お前を殺し、ここで孤独に生き孤独に死ぬ事を選んでいた。──変身」
──カモン! リンゴアームズ!
──デザイア フォビドゥン フルーツ!
装着が完了した瞬間、貴虎の体から植物が這い出る。声にならぬ声が囁く。受け入れろ、と。心と体に染み込む声とヘルヘイムの森。
一蹴。体を覆い尽くそうとしていた植物は全て枯れ落ちた。
「だが、この力は使わせてもらうぞ」
3人を拘束していた植物が、突然締め付けを緩め、そのままに地面に下ろした。しかしダメージは大きく、そのまま倒れ込む。
「そこで待っていろ」
走る。発射された光弾を、出現したシールド《アップルリフレクター》で全て防ぎ、《ソードブリンガー》を抜刀。オーバーロードの胴体を斬る。血が飛び散る。それはオーバーロードが持つ強固な外骨格を破壊した初めての攻撃であり、命に届き得るものだった。続く2撃目をクラックで回避──目の前にソードブリンガーが迫っていた。
「何?!」
腕でガードするが、外骨格は割れ、肉が斬り裂かれる。腹部に蹴りを喰らい、地面に叩き落とされる。植物を伸ばし攻撃するが、既にいない。気配を感じ取り、レイピアを背後に向けて振るう。
「そうか、貴虎。そのロックシードをアームズとして使うと、森の力を利用出来るんだね」
「その通りだ!」
再び頭上より迫る植物。貴虎はそれより早く仕掛ける。双方を飲み込む大きさのクラックを足下に出現させる。落ちた先は空中。オーバーロードを跳ね除け距離を取ると、再びクラックに突入。落下のエネルギーはそのままに、下方からの奇襲。斬り裂き、すかさずクラックに入り、今度は背後より攻撃。
「流石だよ貴虎! クラックを用いて擬似的な空中機動を行うなんて!」
真似する事は癪であったが、オーバーロードもクラックを使い始めた。戦いは空中戦へと変わる。高度を落としながら、何度もぶつかり合い、斬り合い、交じり合う。どちらのかも分からない血が舞い、消し飛ばされていく。
枝葉をへし折りながら落着、の瞬間にクラックに突入し、地面と水平に飛び出す。落下速度のままに地面を削りながら斬り結ぶ。
「凌馬あああああ!」
「貴虎あああああ!」
振り下ろしを受けたレイピアが折れる。速度に翳りなく。ソードブリンガーが腕を肩口から切断した。手首を返し、逆袈裟で胴体を斬り裂く。血を撒き散らしながら転がっていく。
血に塗れ、呻いている。そこにはオーバーロードしかいないのに、倒れている凌馬が見えた。親友だった男が倒れているのだ。
「凌馬あああああ!」
激情のままに叫び、剣と盾を投げ捨てる。
──リンゴスパーキング!
地面を砕き飛び上がる。植物が貴虎に絡み付き、張力の限界まで引き絞り、射出。必殺の意志の元に、脚部にエネルギーが集中し、リンゴを象る。
己の野望が破れた事を悟るが、凌馬は不思議な満足感を味わっていた。敗れ、破られるのなら自分が唯一認めた男であった欲しかったからだ。
──凌馬。俺はお前が神などに縛られず、どこまで高みに行けるのかを、平和な世で見てみたかった……
・
戦場が空へと移った事で、戦況の分からなくなっていた3人は、そう遠くない場所で起きた突然の爆発に驚く。緩くない衝撃波に顔を覆う。それが貴虎とオーバーロードの戦いによって発生したものである事は確かだが、どちらによるものなのかを知る術はなかった。只管体の回復に努める事しか出来ない。
「貴虎さん……」
「──っ、静かに、足音だ」
不規則な音。どちらかは判然としないが、かなりのダメージを負っている事が分かる。しかしその中に金属音が混じっている事で、貴虎だと確信する事ができた。痛む体を押し、音の方へ向かう。逸る気持ちとは裏腹に、緩慢な動きだった。
大樹を回り込むと全身から煙を上げている貴虎の姿を確認できた。
「貴虎さ」
ん、と続けようとして根っこに躓く。無意識に早足になっていたのだろう。受け身の手さえ伸びない。地面とキスするかと思いきや、貴虎の腕が優しく受け止めた。
「無茶をするな」
「あ、ありがとうございます……。あの人は」
「殺した」
「そう、ですか……って、貴虎さんキズ!」
斬り裂かれたスーツから血が垂れている。それも一箇所や二箇所の話ではない。
「今はそれどころではない。恐らく近い内にゲートが閉じる」
そう言い響を下ろすと、彼女の心配を他所にさっさと歩き始めた。
「何で分かるんだよ」
「これを使ってるからか、ゲートのエネルギーが弱くなっている事が分かるんだ。恐らく、ゲートがここと繋がったのは、いずれ次元を超える力を持っていたであろう凌馬がいたからだ」
「彼を倒したから、ゲートが閉じようとしている、と言う事ですか」
「そうだ。奴がいなければ繋がる可能性はなく、この世界と繋げたままにしておく危険性も分かっているのだろう」
言っている間にゲートの視認できる場所に出る。明らかに光が弱くなっており、そして弱くなり続けている。速い。装者をここに閉じ込めてでも繋がりを断ち切ろうとしているように感じられる。
「急がないと!」
貴虎の手を引こうとした瞬間、急速に体が離れていく。植物が3人を掴み、ゲートへともうスピードで向かっているのだ。貴虎は手を伸ばしていなかったのだ。彼は初めからここに残る気だったのだ。
響の手が空を切る。
・
閉じようとする異常事態の前に、皆がゲートの元に集まっていた。3人を迎えに行くと言って聞かないマリアを抑えながら、必死の原因究明と閉鎖停止の手段が探されていた。しかし無情にも目に見える速度でゲートは急速に狭まっていた。
「響……。お願い、無事に戻って来て」
親友の無事を祈り、流れる涙。その雫が落ちた瞬間、まるで祈りを聞き届けたと言わんばかりに、植物に巻かれた3人がゲートから飛び出して来た。
「響!」
3人を床に横たえると、植物は枯れ落ちた。それを払いもせず、3人は手を伸ばす。
「貴虎!」
「貴虎さん!」
「貴虎さ──ん!」
閉じゆくゲートの遥か先で見えたのは、膝を付き、力無く倒れる瞬間だった。ゲートが閉じられた。3人の手は何も掴めなかった。