篁さんに憧れた男。   作:ミスター髑髏

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《幕間》 坂本商店に寄ったついでに

 

 

「坂本商店······ここか。覚悟して待ってろよ。坂本(サカモト)

 

 緑っぽい長髪の男がそう呟く。

 

 

 その手には、今時めずらしい紙の地図が握られていた。

 

 

 件の坂本商店の位置を確り確認すると、男は地図を複雑に折って三角に形を整え、丁寧に内ポケットへ仕舞う。

 

 

 その様子を見ていた少年は今日の図工の授業を思い出していた。似たようなものを作った友達はなんだか取り憑かれたみたいに折り紙を振るっていたなぁ、とボンヤリ思った。

 

 

 男は軽く少年に手を振って坂本商店へと入った。

 

 

 革靴を鳴らして、男が入ってきた。

 

 

 レジ番をしているシンは殺し屋時代の癖が抜けず、気取られないように細心の注意を払って男を視界に収める。

 

 

 見た所、そこそこの身長のようだった。目測で170センチ以上180センチ以下。

 顔は整っているが、どことなくつかみ所がない。

 服装は黒のジャケットに白Tと黒のズボン、足元は革靴という至ってシンプルなスタイル。

 

 

 そのカッチリとした服装は勤勉なサラリーマンの容体で、この男に危険性はないと判断したシンは早々に警戒を解いた。

 

 

(この気配······、『あの人』か·····?)

 

 

 一方で坂本は何かを感じたのか、カップ麺のフタを半分で止めた。

 

 

 中途半端に湯気が昇り、坂本のメガネを曇らせる。

 出来上がったのに食べない坂本を不審に思ったシンが、顔だけを向けて声をかける。

 

 

「どーしたんですか?坂本さん」

(いや····、気を付けろ)

「え? 気を付けるって、何にですか?」

「店長、何か言ったのカ?」

 

 

 赤髪の中華少女、陸少糖(ルーシャオタン)がモップをかけながらシンに尋ねる。

 

 

「“気を付けろ”だって。でも、何に····?」

「知らないヨ。ま~た店長狙った奴が来るんじゃないノ? 南雲みたいナ」

「でも、店の外には誰もいないし····」

「すいません。これ、会計お願いします」

「あ、はい」

 

 

 いつの間にかレジまで来ていたが男が、適当に見繕ったであろう商品が入ったカゴを置いた。

 

 シンはルーとの会話を中断して業務に戻る。

 

 

 レジがバーコードを読み込んで軽快な電子音が鳴る。

 

 

 月刊マンデー、チロルチョコ数個、あたりめ、ハイボール二缶にカップアイス(バニラ味)。

 

 

 大人(ましてサラリーマンとおぼしき男)が真っ昼間に選んで良いような品物では無かったから、シンは訝しんだ。

 奇妙に思ったが、それ以上は考えなかった。

 

 

 すべての商品を読み取って、会計の金額を伝える。

 

 

「えー、1163円でェす」

「1163円ですね」

 

 

 緑色の革財布から千円札と小銭を次々出して行って、最後に一円玉が三枚同時に落ちるその刹那。

 

 

コートの内から銀閃がほとばしる。下から上へ、胴を両断せんと迫り来る。

 

 

 完全に不意を突いた一撃だった。

 

 

「·······」

「は」

「ヱ」

 

 

 唯一反応できたのは坂本だけで、シンとルーは何が起こったのか反応すらできていない。

 

坂本はシンの襟首を引っ掴んで刀の間合いから外す。銀閃は空を斬るに終わった。

 

 

 刀が過ぎた軌跡は、レジカウンターをななめに切断しており、その断面に一つの粗もなかった。

 

 

 カチカチとカッターの刃を出しつつ、男との距離をすこし潰す。これで、刀を振り得る幅は消失した。

 

 

 坂本は的確に頸動脈を狙う。

 

 

 刀の間合いを潰され、暗器を取り出すような素振りもない。まさしく万事休す。しかし、男は嬉しそうに笑っている。

 余裕を崩さず、男は鞘を持っていた手で胸ポケットをまさぐる。そして、三角に折られた地図を取り出して─────、

 

 

 パァン!!!

 

 

 耳を破るような音が炸裂した。

 

 

 その衝撃で、カッターの刃はバラバラに飛び散った。

 

 

 カッターを砕いたのは、男が入店する前に折っていた紙鉄砲だった。

 

 

 それならばと、カウンターの下に隠していた銃を取り出そうとするが、刀は、すでに納められていた。

 再び、銀の光がほとばしる。坂本は袈裟斬りをもらい、壁に叩きつけられた。

 

 

 呆気なかったが、所詮は戯れなので気にすることはない。

 

 

「坂本さん!!

(なんだコイツ、あの坂本さんを一瞬で······。それにコイツの太刀筋は全く見えなかった。まるで光が走ったみたいな······)」

「店長!!」

 

 

 シンは坂本が取ろうとしていた銃を取って構えるが、引き金を引くよりも前に、逆手に構えた刀で綺麗に銃身が両断された。

 

 

「くそッ···」

 

 

 素早く諦めたシンは素早く腰に携帯していたナイフを取り出すも、緑の男の抜刀の方が数段と早かった。

 堪らずシンが死を覚悟したとき、緑の男の視界を茶色が侵略して来る。

 

 

「やめロ!!」

 

 

 ルーである。

 

 彼女は持っていたモップを槍のように用いて突きを放った。

 

 

 男は冷静に状況を判断する。

 

 

 まず刀をシンの顔寸前で止め、カウンター越しに蹴りを打ち込み、シンとの間に距離を作る。次にモップを切断。流れるようにルーの首へ凶刃をすべらせる。

 

 

「ァ····」

「カハッ·····ッグ、やめろ!!!

(くそッ!思考が読めねぇ!!何も考えないで人を殺してんのかよ!)」

「おーい、廃棄の肉まんもらいに·······え?」

 

 

 呑気に店に入ってきた眞霜平助(マシモヘイスケ)は、ダチの危機を見た。迷うことなく、即座にライフルを構え正確無比に照準を合わせ、一切のブレと躊躇無く引き金を引く。

 

 

「お前、おれの友達(ダチ)になにしてんだ!」

 

 

 弾丸が三発速射される。

 三発のうち二発はまるで見当違いの方へ飛び、一発だけが頭を狙う。

 

 

「(三発中一発のみ······。三流か)」

 

 

 弾丸を前にしても男は平静を保つ。弾丸の軌道に沿わせて刀を傾けると、眉間を狙う凶弾は刀の面にそって容易く流れていった。

 

 

 落胆した男が平助を見ると、その顔は驚きを隠せていなかったが笑みは消えていなかった。

 

 

 何かある。

 

 

 そう考えた男へと、まるで答え合わせだと言わんばかりに弾丸が一つ、複雑に跳ね返りながら、再び緑の頭を穿たんと迫る。

 

 

「(跳弾か!だが···)自分に返ってくるのは想定していたか!?」

 

 

 再び襲ってきた弾丸を先程と同じ要領ではじく。その動作は的確で、平助の額へ一直線に進んで行った。

 

 

「なっ、くそっ!!」

 

 

 平助は迎撃を余儀なくされる。

 

 

 伝説の殺し屋、坂本のお墨付きをもらった狙撃手(スナイパー)である眞霜平助は、冷静かつ確実に撃ち落とす。しかしその隙を見逃すほど、相手は優しく無い。

 

 

 一つ踏み込み、首に狙いをつけて平助に肉薄する。

 

 

 平助は、寸分の狂いなく眉間へ照準を定めていたが、男は引き金を引くより先にレジにあったカルトン*1ごと小銭たちをぶちまけることで、予想外を創り出した。

 

 

 全神経を集中させる狙撃という行為において、少しでも集中が乱れるようなアクシデントは、狙撃手の狙いと集中を容易くブラしてしまう。

 

 

 しかも運の悪いことに、まかれた小銭が目元に当たってしまった。もはや照準を定めるのは不可能であり、迫り来る男は今まさに刀を抜こうとしている。

 

 

 けれども、平助の顔から笑みが消えることはない。

 

 

「へへっ。タダじゃあ、やられねぇぜ」

 

 

 その言葉に呼応するように、最後の弾丸が飛来する。

 

 

「(なに····?まさか、これを想定して?)

 とんだ見当違いだったか」

 

 

 勢いを殺さず、平助を蹴り飛ばす。

 

 刀を抜いてからでは間に合わない。そう判断した男は刀を鞘ごと、後ろへ突くように振った。最後の弾丸は(こじり)にはじかれ、照明を一つ砕いた。

 

 

 平助と男の、目にも止まらぬ攻防は瞬く間に終わったが、このやり取りを見逃すほど、彼らもヤワでは無かった。

 

 

「動くな!」

「モウ終わりネ!」

「観念しろ!ミドリ頭!」

 

 

 シンは右から首へナイフを。左に陣取ったルーは斬られたモップを一対の槍として構え、平助はライフルを額へ突きつける。

 

 

 まさしく絶体絶命である。

 だが、何を思ったのか彼はまた嬉しそうに笑った。

 

 

「いやはや、坂本の下にいるとは言え素人だと思っていたんだが······。この具合じゃ、ある程度は大丈夫そうだな。

まあ、ある程度だが────」

「──────なぁッ!!!」

 

 

 銀色の突風が三人の間を駆け抜ける。

 

 

 三人とも全く反応できない。神速。

 

 

 彼らが気づいたときには、ナイフは刃ごと斬られ、モップの槍はバラバラと短い棒に成り果て、ライフルは普通は見えない機構が露呈していた。

 

 

「ウソだろ···?」

「あり得ないネ····」

「うわ~!おれの銃が~!!」

 

 

 緩やかに、優雅に鞘に納める。

 鍔と鯉口が噛み合った金属音が心地よく響いて、男はレジへ向かう。

 

 

「いい加減、お芝居は止めたらどうだ。坂本」

「·······(気付いてたんですか)」

「やっぱりJCCの時から、坂本の考えていることはよく分からんな。

南雲とかは君よりお喋りだから分かりやすいが······」

「俺も···しゃべります」

「ははっ、これは失礼」

 

 

 この光景に一番困惑しているのはシンであった。

 

 

 坂本さんって敬語使うのか。 うん?じゃあ、坂本さんに敬語を使わせてるこの人って·······。

 

 

 当然、マジヤバである。

 シンは心の中で一人、汗を流した。

 その流れ方はさながらナイアガラの滝だった。

 

 

「えーっ···と。坂本さん、その方は一体誰なんですか?」

「この人は(ウシトラ)さんだ。

 ····俺がJCCにいた時の先輩だ。世話になった」

「どうも。お世話しました」

 

 

 またまた困惑してしまう。

 今、坂本さんと談笑しているこの人が、さっきまで刀を振って自分たちを殺そうとしていたとは考えられなかった。

 

 

 こちらの調子が乱される。

 

 

 なんだか頭が痛くなってきてシンは頭を抱えた。

 ルーはそんなことお構いなしに艮に近づいた。

 

 

「お前、店長の知り合いカ!

ウシトラってどうやって書くノ?」

「“良好”の“良”から、頭の“ちょん”を抜いたら、俺の名前になる」

「ふーん、変な名前ネ!」

「ばっ、お、お前!何てこと言うんだよ!殺されるぞ!」

「ははは、別に気にしなくて良い。よく言われるからな。

 それと、スナイパーの君。

 さっきはライフルを斬っちゃってすまんな。

 代わりと言っては何だが、修理代は俺が立て替えよう。目処が立ったら、ここに連絡してくれ」

「ほんとか!ありがとな~!艮って良いやつだな~!」

 

 

 平助にメールアドレスのメモを渡して艮は帰った。

 

 

 レジ袋に入れられた商品はすっかり忘れ去られている。

 ハイボールとバニラアイスにできた結露が、月刊誌をぬらしてふやけさせたものの、アイスはまだ溶けていなかった。

 

 

 

「坂本さん、あの人は一体····?」

「······

(あの人は剣豪だ。ぶっきらぼうだが、優しい。殺し屋じゃ珍しい。でも怒るとこわい)」

「なんか···浅いっすね···」

「·····」

 

 

 シンがそう言った直後、ボールペンが首に突き刺さった。

 頸動脈が的確に貫かれて、面白いように血が吹き出る。

 確実に即死だ。

 

 

「何で想像で殺すんですか!!」

 

 

 シンが首を押さえて悶えながらもツッコミを飛ばす。

 ひと悶着あったが、今日も坂本商店は賑やかだ。

 

 

 

*1
お店などでお会計の際に現金を置くトレー






商品の合計とか月刊マンデーは全て想像です。
それと、なんだか艮の口調が安定してないような気がしています。
(追記:自分で気になったところは修正してみました!)
なのでそのあたりも含めて、いろいろ感想待ってます。

とにかく感想をください!
よろしくお願いします!!!
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