篁さんに憧れた男。   作:ミスター髑髏

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『ORDER 5』ではオリジナルの組織が出てきますが、読み飛ばしても問題はないと思います。
もしお時間に余裕があれば読んでいってください。

では、ドゾー





《幕間》ORDER と艮 その②

 

 

 ORDER 4『(オキ)

 

 

 南雲と一緒にりんごを楽しんでいた艮のスマホが震える。どうやら電話がかかってきたようで、体を起こすのがやっとの艮はスマホを南雲に取ってもらった。

 

 

 南雲は着信画面を一瞥して、艮の耳にスマホを当てる。

 

 

「おいやめろ。さすがにスマホくらい持てる」

「あはは。ごめんね~」

 

 

 スマホを受け取ってから改めて電話に出る。

 

 

「もしもし。暇なんですか」

「見舞いの電話を寄越した上司に対して開口一番それか、艮。礼儀は教えたはずだが」

「敬語は使ってるじゃないですか」

「────ハァ······。

 日本に存在する殺し屋の中で指折りのお前がこうでは、殺し屋たちの将来が危ぶまれる······。

 いいか艮。私はお前たちのことを思って言っているんだ。分かっ「そう言うところですよ」

 

 

 説教の気配を察知した艮はすかさず電話を切り、電源を落としてベッドに放って、あの少しのやり取りで貯まったストレスを吐き出すかのように大きなため息を吐く。

 

 

「誰からだったの~?」

 

 

 艮の態度を不思議に思った南雲がフルーツかごを物色しながら聞いた。艮は足もとの投げたスマホを忌々しげに見ながら、ぶっきらぼうに答える。

 

 

「沖さん」

「あ~······」

 

 

 『説教メガネ』。

 

 

 着信画面を思い出しながら、南雲は妙に納得した。

 

 

 

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 ORDER 5『大佛(オサラギ)+神々廻(シシバ)

 

 

 都心から少し外れた土地に建つ古びたビルが慌ただしく揺れていた。このビルを管理しているのは『株式会社禽獣』という会社だった。

 この会社はもちろん健全な経営の実態など無い、殺し屋組織の立派な隠れ蓑である。

 

 

 『禽獣』はコロシ、ヤク、密輸に誘拐、人身売買と悪どい商売を一手に担っていた最悪の殺し屋組織で、その悪行の多さから『日本殺し屋界の暗部』とも称されるほどだった。

 

 

 当時こそ隆盛を極めていた『禽獣』だったが、殺連の台頭や長年積み重ねてきた恨みが手痛いしっぺ返しとなって彼らに襲いかかり、今やその勢いは何処にもなく、見る影もない。

 

 

 しかし、そんな組織の構成員全250名が、今宵は一堂に会していた。

 

 

 何故呼び出されたのか。

 何故今なのか。

 

 

 困惑した構成員たちの疑問は尽きず、どよめきが止むことはなかった。

 

 

 その時、屈強な護衛に囲まれながら老人が会場に入って来た。その老人を見たとたん、彼らは一気に静まり返った。

 

 

 構成員よりもひときわ年老いている彼こそが、『禽獣』創始者・(イウカン)その人だった。

 

 

 なでつけてた頭髪は真っ白でシワも深く、枯れ枝のような体をしていて、杖がないと歩けないようだった。

 

 

 (イウカン)は杖を震わせながら登壇し、用意されていた椅子に深々と座る。目の前の構成員たちを懐かしむように眺めてから、彼は話し始めた。

 

 

「儂ら『禽獣』は、かつて泣く子も殺す最恐の殺し屋組織じゃった。殺し、奪い、カネを持つ。それが儂らの信条であり、殺し屋界の常識だったはずじゃ。

 ······じゃと言うのに、この神聖なルールを殺連のクソどもが我が物顔で仕切り出してから、次第に『禽獣(わしら)』の居場所は無くなっていった!そうじゃろう、皆の衆よ!」

 

 

 先程とは異なり、䍺は熱い怒りをもって彼らを見渡した。その目は虚ろではなく、あの日のギラついた鋭い眼光を取り戻していた。

 

 

「居場所を失い、カネも失い、じゃと言うのに禽獣(ここ)に集ったお主たちを、儂は心の底から誇りに思う!なんと厚い忠義であることか!」

 

 

 禽獣の構成員たちは皆、泣いていた。

 

 

 かつての栄華は消え去り、地べたを這い影に隠れるように生きてきた彼らにとって、䍺の演説は心にしみ入る優しい言葉だった。そして何より、首長である彼が当時と同じ覇気に満ちていたことが、彼らの心を動かした。

 

 

「『禽獣』の全盛(オウゴン)を取り戻す計画が、儂にはある。実行は来週じゃ。このタイミングしかない。殺連がX(スラー)に手をこまねいている今しかないんじゃ。

 よいな。では説明しよう。儂は────」

 

 

 

 

 

 

 ▼▼▼

 ▼▼

 ▼

 

 

 

 

 

 

 時は流れること一週間。

 

 

 町外れにある宝くじ売り場に神々廻、大佛、艮の姿はあった。三人の手には削られたコロレンスクラッチが握られている。

 

 

「────《殺し屋会社・禽獣による違法薬物流通幇助の動きあり。仕入れ先はメキシコとブラジルのマフィアと確認》」

「《●日深夜に禽獣と両マフィア幹部、その部下が集会。神々廻、大佛、艮の三名は殲滅にあたれ》······か」

「はずれた······。神々廻さん、これあげる」

「ゴミわたすなや······」

 

 

 口ではそう言いつつも大佛のクジをズボンのポケットに押し込んで、一つ神々廻がため息を()いてから、話し始めた。

 

 

「なんでこんな落ち目の組織に三人も派遣されやなあかんねん。しかもコイツらちょうど殺連がゴタゴタしとる時狙いよって······。

 明日京都で任務あんのに、ほんまブラックやわ」

「それにしても薬物か······。

 確かに、薬物にまつわる競争相手が少ない日本は、売り手からすれば最高のマーケットだろうな」

「あぁそうやん。ほなコイツらからしたら日本は“ブルーオーシャン”っちゅーわけか」

「神々廻さん······わざわざ言わなくても海は青いよ」

「そうやけどちゃうねん。言いたいことは」

 

 

 歩き始めても、大佛は首をかしげたままだった。

 

 

 三人の足取りは散歩のように自然体で、会話の内容も、これから殺しを行う者の会話とは思えないほどゆるいものだった

 

 

「あ~、そういや晩ごはん食うてへんやん。

 腹へったなぁ」

「何にする?神々廻さん、艮さん」

「なんで自然と三人で食う流れになってんねん」

「ん?食わないのか?」

 

 

 まさかの伏兵に神々廻は驚きを隠せず、お得意のツッコミさえも忘れて固まってしまった。

 

 

 神々廻の心中と言えば、暗殺されたカエサルのように、“艮、お前もか”状態で、開いた口がふさがらなかった。

 そんな神々廻に構うことなく、大佛は晩ごはんをねだり続ける。

 

 

「もんじゃ焼き食べたてみたい······。奢って、艮さん」

「いいぞ」

「いやあかんでしょ。たまには断る()うてください」

 

 

 ツッコミ不在の会話を目の当たりにして、神々廻は調子を取り戻したようだ。

 

 

 大佛がリクエストを出して艮に「奢って」と言う度、艮が二つ返事で了承して、それに神々廻がつっこむという会話を五回ほど続けてようやく、件のビルへとたどり着いた。

 

 

 ビルの入り口には門番とおぼしきガラの悪い男が二人一組で突っ立っていた。男たちは横並びで近づいてくる三人へ荒々しく警告した。

 

 

「オイ!このビルは今取り込み中なん───」

「とっとと帰───」

 

 

 警告が最後まで告げられることはなく、男たちは倒れた。額には鉄で出来た棒のようなものが刺さっていた。

 神々廻は男たちの額に生えた鉄の棒を一瞥して、艮に問いかける。

 

 

「なに使(つこ)たんですか」

「六角棒手裏剣。最近使い始めたんだが、なかなか悪くない」

「お腹すいた······」

 

 

 ネイルハンマー、日本刀、丸ノコ。

 それぞれの獲物を手に堂々と正面から侵入する。

 

 

 三人を迎えたのは敵でも罠でもなく、静寂だった。しかし三人は、伽藍堂の静けさに潜む殺意の全てを捉えていた。

 

 

「ぎょーさんおるなあ。せやけど門番がアレやったらすぐ終わるやろ」

「そうだな。

 ······大佛。殺競(ころせ)*1でもするか」

「いやだ······」

「そうか。もし俺に勝てたら任務後の一週間は飯を奢ってやろうと思ったんだが。仕方ないな、大佛。

 ······大佛?」振り返ると、神々廻しかいなかった。

「もう行きましたよ」

「────ハンデとしてはこれくらいが丁度いい」

「(誤魔化したな······)」

 

 

 そう言い放って、艮はチェンソーが響く暗闇に消えていった。艮が闇に消えてすぐ、肉の裂ける水っぽい音と悲鳴がこだました。

 

 

「まァ、こっちもぼちぼち行くかぁー」

 

 

 気だるげに歩く神々廻の背後をフロントに潜んでいた禽獣の構成員が狙っていた。その手には獲物である匕首が握られていた。

 

 

 標的である金髪がこちらに気付いているような素振りはなく、気だるそうに歩いている。持っている武器もホームセンターで売っているようなハンマーで、まともに戦えるようには思えなかった。

 

 

 男は物陰から飛び出しその背中に刃を突き立てた───かに見えたが、標的は霞のように消えて、刃は虚しく空を切るだけだった。

 

 

「あれ、どこに······」

「あんましゃしゃったらあかんで、自分」

 

 

 神々廻は襲撃者の眉間に釘抜きの部分を立て勢いよく腕を引いた。男は首が180度に捻れて呆気なく死んだ。

 

 

「ホンマにすぐ終わりそうやな」

 

 

 ひとりごちた後、チェンソーの駆動音と刀が肉を食む音と、大量の悲鳴がこだまする闇に溶けていった。

 

 

 日本殺し屋界トップクラスの三人が集結した結果、八十年近い歴史を持つ『禽獣』はたったの五分で壊滅したのだった。

 

 

 任務を終えた三人は物静かな夜の街を歩く。

 晩ごはん談義に花を咲かせている大佛と艮を見ながら殺競りが話題に上らないことに気付いた神々廻は二人に尋ねた。

 

 

「そういや、殺競りはどうなったん?」

「······忘れてたな」

「忘れてた······」

「嘘やろ」

 

 

 発案者と真っ先に食いついた人が忘れている事実に軽く引いたところで、神々廻はキルスコアを聞いていった。

 

 

「ほな、トラさんはなんぼ殺したんです」

「130だ」

「大佛は?」

「······140」

「おお、大佛勝ってるやん」

「神々廻さんはいくつなの······?」

「50くらいやな」

 

 

 神々廻がそう言った瞬間、二人が驚いた顔で振り返った。

 

 

「風邪か?」

「具合悪いの······?」

「こいつらホンマ······」

 

 

 神々廻はなんだか頭が痛くなってきた。

 

 

 そんな彼をよそに、大佛は艮に今日の晩ごはんもねだりはじめた。明日は任務だから、大佛は彼女らしくゲンを担いだものを食べようとしていた。

 

 

 頭痛の他に胃もキリキリしてきた神々廻は先を歩いていた二人に追い付こうとして、やめた。少しの違和感が神々廻を引き止めた。

 

 

「(ちょい待て。ターゲットの総数ってなんぼや?)」

 

 

 ズボンのポケットを探って、大佛から押し付けられたスクラッチを引っ張り出してから広げる。

 指令の暗号があるコロレンスクラッチには、以下の通り書かれていた。

 

 

 《禽獣の構成員は250。マフィアは共に25ずつ来日。ターゲットの総数は300。総て殲滅せよ》

 

 

 これを読んだ神々廻は先ほどの会話を思い出しながら、計算していく。

 

 

「(130(トラさん)+140(大佛)+50(自分)=320。 320······?)」

 

 

 神々廻は何度もスクラッチを確認したが、300という数字が覆ることはなかった。何度も計算し直しても、320という数字が覆ることはなかった。

 

 

 このことから神々廻はあるひとつの結論にたどり着いた。

 

 

「(大佛(あいつ)嘘ついてるやん······。

 20人サバ読んでるやん······。)」

 

 

 このことを艮に報告しようとした神々廻だったが、艮の事だし絶対なあなあにすると思ったから、報告せずにそのまま二人に追いついた。

 

 

 後日、大佛と神々廻は京都での任務を艮に話したりしながら、ごちそうを一週間堪能した。

 

 

 

 

*1
一般的には、文字通り殺した数を競う遊び。年末に裏カジノで殺競りダービーが行われている。






大佛と艮だけで話が作れる気がしなかったので、急遽神々廻さんにはパイプ役として間に入ってもらいました。
だってあの二人だけとなると、友だちの友だちと二人きりになったみたいな雰囲気だし、仕方なかった。本当に。

まあでも何とかなったし、これでも良いよね!

???「エエわけ無いやろ······」
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