勇者パーティーから追放されたけど好きにすることにした 作:サバ缶みそ味
…え?もう流行ってない?
おじいちゃんの書斎がぼくの唯一の居場所だ。
ここは静かで落ち着く。部屋中に積み重なっている図鑑や本が退屈しのぎになる。
本や図鑑はぼくの知らない知識を、いろんな世界を教えてくれる。
ここだけが誰もぼくをバカにしない、誰にも邪魔されないぼくだけの居場所…
「リンジー!リンジー!今日もここにいるんだろ!」
……忘れてた。一人だけぼくの居場所に入り込んでくるやつがいた。ぼくの家の隣人で友人である、ユージンだ。
「ユージン、今度はなに?」
ユージンは悪いやつじゃないのだけどうるさいくらいに元気すぎるんだ。
「またマリーおばさんのカボチャ畑にどでかいイモムシが現れてカボチャを食い荒らしてんだ!」
「……色は?」
「緑色でシマシマ模様でこぉぉぉぉんなにでっかい!」
嬉しそうに話すユージンの説明は大ざっぱすぎる。図鑑をとって当てはまりそうな虫を探す。
「えーと…タイボクアゲハの幼虫だね。」
「さっすがリンジー!物知りだな!ようし、俺達で追い払おうぜ!」」
「そんな…無理だよ。おとなしいけどのしかかられたら怪我するよ…」
それに外にあまり出たくない…だけどユージンはニシシと笑ってぼくの腕を掴む。
「俺の力とリンジーの知恵と魔法。力を合わせれば怖いもんなしだ!」
「えぇっ⁉ぼくは本を読みたいだけなんだけど…」
「なぁに言ってんだ!外の世界は本だけじゃ知らないことだらけだぜ!ちゃんと自分の目で見ねえと!」
ぼくの話を聞かないでユージンは外へとぼくを引っ張り出して行った。
ユージンはぼくに外の世界を教えてくれた。
ユージンがぼくに勇気をくれた。
ユージンのおかげで冒険する夢を与えてくれた。
これからも一緒にユージンと冒険したいと思っていた
………
……
…
――月日が流れ
「リンジー、悪いがパーティーを抜けてくれ」
勇者一行専用の宿屋にて、勇者ユージンは真剣な眼差しで魔法使いのリンジーに静かに告げた。勇者から追放勧告されたリンジーは静かに頷く。
「……それはみんなの意見なんだな?」
リンジーは勇者のそばに立って冷たい眼差しで見つめている女性達に尋ねた。リンジーが落ち着いていることが癪だったか鎧を身に着けた長い栗毛色の髪の女性、戦士職のリーナは睨みつける。
「当たり前じゃないの!あんた魔法使いの癖に魔法も援護もしないで後ろでコソコソしてるだけでしょ!」
怒鳴り散らすリーナを軽装備の短い青髪の女性、弓使いのカレンはリーナを諌める。
「後衛であるのはわかるけど…いつも後ろで何してるの?」
「援護のついでに晩御飯の食材探しだけど?」
即答するリンジーにカレンはずっこけそうになる。不思議そうに首を傾げるリンジーに苛立ったかリーナが声を荒らげてリンジーに迫った。
「そうやってあんたが道草食うから移動やクエスト達成に時間がかかってんのよ!!戦闘もろくにしないあんたは超役立たずの超お荷物なの!!」
「お、お姉ちゃん、落ち着いて…」
淡い茶髪の女性、魔法使いのティナが怒り心頭なリーナを宥める。ティナはリンジーと目が合うとあたふたとリーナの後ろに隠れて様子を伺う。
「それに私達が魔物を倒した後で漁ってるし、足手まといは目障りよ!」
「大した活躍もしてないし、貴方じゃこの先の戦いにはついてこれないと思うわ。だから私達はユージンと相談して貴方には抜けてもらうことにしたの」
「………」
ティナはどう言おうかおどおどし、リーナとカレンは冷めたまたは軽蔑の眼差しでリンジーを見つめていた。リンジーは彼女達の話を聞いて深く頷く。
「皆の意見を尊重しよう。ユージン、俺は出ていくよ」
「おう」
「ユージン、あまり無茶しちゃだめだぞ?」
「おう」
「寝不足は体に悪い。ちゃんと睡眠は取るんだぞ?」
「おう!」
「ちゃんと嫌いなピーマンをくえるようになれよ?」
「お、おう…」
「無闇に女の子とイチャイチャするなよ?女の子はデリケートな時期がry」
「ぐだぐだしてないでさっさと出ていきなさいよ⁉」
怒り爆発したリーナが殴りかかりそうになりカレンとティナが慌てて彼女を抑えた。
「二人とも離して!いますぐ殴らないと超気が済まない!」
「お、お姉ちゃん、暴れないで…!」
「あ、あまり長居されると迷惑だから。リンジー、早く出たほうがいいわ!」
「わかった、荷物まとめてから出てくよ」
リンジーはにっこりと頷いて部屋へと向かった。いつまでも変わらない態度にリーナは睨み、カレンは呆れのため息をこぼし、ティナはおどおどと見つめていた。
しかし、ユージンはじっと何かを考えているかのようにリンジーの背中を見つめている。
____
「さてと、こんなもんかな?」
部屋で荷物をまとめ終えたリンジーは一息つく。ベッドの上に置かれたギュウギュウに詰まれたリュックを軽く叩く。
これまでの旅で採取や回収したアイテムや素材を無理やり詰め込んだ。これらを質に流せばしばらく路銀や食べていくのに困らないだろう。
必要最低限な物はそのお金で買えば問題ない。問題があるとすれば一つ…
「この後どうしようか…」
もう自分は魔王を倒すため長い旅をしている勇者一行からクビにされたただの魔法使い。これからどうするか目的がないためリンジーは頭を悩ましていた。
その時、扉のノックが聞こえた。未だに出ていこうとしないから堪忍袋の緒が切れたリーナが殴り込みにきたのだろうかと思ったらユージンが入ってきた。
「リンジー…」
「ユージンか。見てくれよ、なかなか捨てるアイテムが無くてリュックがパンパンだ!これ全部売ろうと思うんだ」
「……すまなかった」
ユージンはリンジーに対し深く頭を下げた。そんな彼にリンジーは優しくユージンを起こす。
「悪いのは俺だよ。『本当のことは黙っててくれ』って頼んだ俺が悪いんだ。ユージンと普通に冒険してたらうまくいくと思ってたけど……なかなか難しいな」
リンジーは苦笑いしながら重たいリュックを背負う。ユージンは首を横に振りリンジーの肩を叩いた。
「リンジー、もう気を遣わなくていいんだぜ」
「ユージン……」
「俺達なら大丈夫だ。あとの事は俺に任せてくれ」
ユージンはにっと笑って窓の外を眺める。窓の外からは街中を行きかう人々、さらにその先には森や山が見渡せる。
「お前はもう自由だ。気を遣わず、自分の好きなことをやりゃあいい」
「自分の好きなこと……」
「ま、お前のやりたいことはなんとなーく分かるぜ。なんたって俺、勇者ですから」
ドヤ顔で笑うユージンにリンジーは軽く笑った。
「はははっ、流石は隣人の友人。なんでもお見通しかぁ」
____
宿を出て、勇者一行から離脱することになった『魔法使い』リンジー。パーティーから去るもリーナ達からは白い眼差しで見送られたが気にしていなかった。
友に見送られた新たな旅路になることになったリンジーは空を見上げる。いつになく清々しい期分になり思わず背伸びをした。
自分の好きなことをすればいい。リンジーはその言葉通りに行動に移すことにした。
「さてと…まずはどうしようかな」