なぜか執行官になってしまったが、正直やめたい   作:まっしゅポテト

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原神に沼りました。



ファデュイの人事部は目が腐ってる説

 

 ファデュイ、という組織を知っているだろうか。

 オープンワールドゲーム『原神』において、国益のために主人公達の前に立ちはだかる組織。

 

 彼らは祖国スネージナヤを支配する氷の女皇に忠誠を誓い、彼女の目的である神の心を集めるため暗躍する。表向きはスナージネヤの外交官であるが、巨大な武力を盾に高圧的な態度で他国の民を蹂躙する。まあ簡単に言えば悪の組織だ。

 

「スカピーノ、璃月は君が担当するのか。くれぐれも失敗するなよ」

「分かっていますよ、召使殿。必ず皇女様に神の心を捧げますとも」

 

 『隠者』スカピーノは笑みを絶やさず、穏やかに返答する。

 『召使』はそれを鼻で笑った。

 

「淑女が風神から神の心を持ち帰った。計画は順調に進行しているのだ。隠者、いつものように任務を遂行しろ」

 

 『隊長』が話を締め、会議は進んでいく。私は口を閉じて各々の話に耳を傾けた。

 

 

(あぁ、ファデュイ辞めてぇ!)

 

 私は痛む胃を抑え、心の中で叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 スネージナヤの国家組織であるファデュイ、その中でも幹部となる11人を執行官と呼ぶ。

 

 執行官が1人、第11位の『隠者』スカピーノ。

 

 それが私である。

 わ た し で あ る。

 

(いや、どうしてこうなったし!)

 

 私は頭を抱えた。

 ファデュイでさえお腹一杯なのに、執行官とか草生える。生えるわけねぇだろボケ!

 執行官は『公子』タルタリヤだろ。なんだ『隠者』スカピーノって!運営は何を考えてやがる!

 

 私は前世の記憶がある転生者である。

 しかし主人公のような世界を渡る異邦人では無いし、21世紀日本の知識しか無い一般人であった。この世界に生まれた時も、田舎の貧しい農家の一人娘である。当時はあまりの生活水準の低さに悲嘆したが、まあ人間慣れるものである。

 現代知識でチートなんて事もなく、今日の飯を食らうために農作業に明け暮れていた。

 

 明け暮れていた、はずなのだが……。

 

 あまりの寒さに悪態を付きながら布団にくるまっていたら、炎元素の神の目を手に入れてしまったのだ。

 「なんか布団の中熱くね?」と思ったら布団が燃えていたのである。私の服にも引火していた。すぐさま窓を突き破って布団ごと川に飛び込み消火したが、あやうく家が火事になるところだった。

 

 ちなみにこの時点で私の住む世界が『原神』世界であるということに気づく。

 そういや氷神様の七天神像とか行ったわ、ということはここスネージナヤ?ハハッ、終わった。

 

 私は魔物はびこる治安の悪い原神世界で生きるため、神の目をどうにか使えないものかと頑張った。そこらへんに落ちていた錆びた剣や、法器のような本などをぶん回したりしたのである。

 

 しかし現実は無情である。

 バーバラちゃんは剣の才能が無いことを自嘲していたが、私は剣どころか法器の才能もなかったのだ。ねえどうやったら本って浮くの、誰か教えて?

 

 私の神の目は火力だけちょっと進化し、ガスコンロの弱火から強火程度に進化した。弱い。

 攻撃方法はいたってシンプルである。手を前に出して「フンッ!」と言うだけだ、「燃えよ!」とか「火よ!」とかでは駄目である。ダサい。

 

 私自身は自分の弱さを確信し、安全のために一生地元から出ないことを固く決意していた。しかしそんな決意も水の泡。女皇様スキーの両親が地元を視察に来ていたファデュイの男に私を所属させるよう頼んでしまったのである。

 神の目はこの世界において力の象徴。例えガスコンロの強火程度でしか無くても神の目であった。

 

 あれよあれよとファデュイとなった私は、風神もビックリな風の吹き回しによって執行官になってしまったのだ。

 

 「なんでお前みたいなクソ雑魚が執行官になってるんだよ!」というツッコミが聞こえてくるようだが、正直私が聞きたい。本当になんで?

 危険な任務は絶対に一人で行かないよう、上司に全力で泣きついてた。どんな些細な任務も入念な調査をしており、効率が悪いったらありゃしない。上司も消えた後は金を払ってまで代わりの人にお願いする始末である。

 ビビりだから諸国を回っての外交任務も言動には細心の注意を払い、心は全力土下座をしながら行っていた。

 

 女皇陛下に召集された際にはあまりのヘッポコぶりに見せしめとして殺されるのだと思い、泣きながら遺書をしたためたくらいである。「この遺書を両親に届けてくれ」と部下に頼んでしまったけど、それも今となっては恥ずかしい思い出だ。

 

 覚悟ガンギマリで向かったらまさかの執行官就任。寝耳に水過ぎて人違いを最初に疑ってしまった。女皇陛下の神オーラが強すぎてぶっちゃけほぼ覚えてなかったけど。

 適当な受け答えだけをして、自室に戻った私は呆然として膝をついた。

 

「ファデュイ、辞めたい……」

 

 執行官になったということは国家中枢に関わる立場となったということ。

 退職することは許されず、逃亡すれば機密保持のために殺される。今回も私が執行官となるのは、その一人が先日殉職したからである。

 

 私は急いでタルタリヤ、もといアヤックスを探した。

 第11位の枠に私が入ったということは、タルタリヤがそもそもファデュイに入っていない、原作軸と時間がずれている可能性があるからだ。

 

 タルタリヤは普通にファデュイにいた。任務もバリバリこなしている。

 

(なおさらどうして私が執行官になってるんだよ!!)

 

 名簿の写しを思わず引きちぎってしまったのも、仕方がないことだろう。

 

 

 

 

『隠者』スカピーノはファデュイ成立以来、もっとも若い執行官である。彼女は周囲との対立を避け和を重んじる、ファデュイの中でも異色の人物である。常に穏やかな笑みを絶やさず口調も丁寧な彼女であるが、しかし執行官の中ではあまり好かれていない。それは彼らがスカピーノの冷酷さを知っているからである。

彼女はどのような任務であっても自身の手を汚すことは無い。彼女が危険な場所に行くことは無く、必ず代わりの誰かが実行する。それはファデュイでもあれば、現地の市民であったりもする。

和を誰よりも重んじるスカピーノは、その崩し方も十分に理解しているのだ。

 

とある貴族の当主を殺害する任務があった。

スカピーノは少しの書類仕事を終わらせると、息抜きに茶を嗜む。茶も冷めるころ、驚くことに当主は実の息子の手にかかり死亡した。

「父は長男の俺ではなく、弟に相続させると言った」

殺人犯はそう叫んだが、証拠はどこにもない。

 

スカピーノは一部顛末を聞いてうっそりと笑ったという。

 

 

 

 

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