祝福の鐘が鳴らぬチャペル。一通の「招待状」。そこに在るのはどのような愛の形なのか。
――「二人」は死が分かつとも愛し合う。
――――――
深い微睡から目覚めたかのように二人は覚醒する。そこはかつて豪奢であったであろう部屋。そしては今は劣化によりボロボロとなってしまった鳥籠。天蓋付きベッドには白黒の髪に左右で反転させたような眼の色の少女。その傍らの椅子にはオオカミと赤頭巾を合わせたような少女が、まるで備え付けられていたかのように居た。
「……誰?」
初めに声を発したのはベッドに寝ていた少女の方だった。目をこすりながら、まだぼやける視界に人影を捉えて発した言葉だった。
「あぁ、おはよう。えぇっと、僕はヴォルフ。君は……?」
「……ああ、お医者様、今日も来てくれたんだね」
少女は生前の男性の姿からは想像もつかないはずのその容姿から、オオカミ少女を自身の慕っていた医者を連想させた。それは名前を聞いたからではなく、直観的に感じ取っていた。
しかし、それに対してヴォルフは少女のことをわかっていなかった。少女の方も生前とは容姿が少し異なっていた。
「あ、あぁ……。よかった、僕の事は分かるんだね。君の言う通り僕は医者だ。医者だったハズなんだが……」
「私のことはわかるよね。だって、お医者様だから」
少女はそれが当然であるように笑いかける。
ヴォルフはその笑顔を向けられたからか、生前のあることを想起した。それが少女の正体を思い出すきっかけとなった。
「あぁ、もちろん。ミサキちゃんだね、よく覚えているよ。今日も……、具合はどうだい?」
「大丈夫も何も、この体、ですよ」
そういい、ミサキは自身の体を見下ろす。その体はすでに生前の、人間の肉体をしていない。ドールと呼ばれる作られた体、そこに意識だけが入っている。それが今この世界にいる者たちの共通項。それゆえか、生前の記憶も酷く断片的になってしまっていた。
「ははっ。それもそうだね。僕も、……生前の姿とはあまりに違いすぎる格好に……。性別すら変わっているけど、どうして気づけたか聞いてもいいかい?」
「……? お医者様はお医者様じゃないですか。何変なことを聞いてるんです? いつもの冗談ですか、ふふ」
「あ、あぁ……。そうだね、今のは忘れてくれ。どうも、慣れなくてね……」
本当に言われている意味ができないかのように、ミサキは笑う。それを見て、ヴォルフは質問を撤回した。
「それにしても、お医者様、私より小さいんですね」
「お、おぉ……? 僕の方が小さいのか……」
ミサキはそれを確認するかのように、ベッドから出ようとする。すると、ベッドに一通の封筒があることに気付いた。
「私も別に大きくはないんですけど。あと、これ」
「単純に僕が小さいだけか……ははっ。……えぇっと、手紙かい? それは……。開封しても?」
「もちろん、多分お医者様のもの。私はずっとここにいて、お医者様以外の人知らないし」
「そうか、なら受け取ろう。……えぇっと、招待状? ふむ、身に覚えは無いな……」
封を切るとそこには「チャペルで婚礼を行なう」とだけ書かれており、そのほかは差出人もなにも何も書かれてはいなかった。
「チャペルって、どういうところなの、お医者様? なんだか気になる」
「えぇと、結婚式場かな。誰かが結婚をするのかも? 少し気になるな、行ってみるのはどうだい?」
「そう、そうだね。まあ、この体なら外に出てもいいよね」
ミサキは生前、この小さな部屋の中でしか暮らしておらず、あまりものを知らなかった。それが故の発言だった。
そんなミサキを気遣いつつ、ヴォルフは改めて部屋の中を見渡す。この部屋はベッドと椅子、窓にははめ殺し窓、そして扉があった。
「もちろん、君と一緒に行けるのは嬉しいよ。さあ手を」
「なんだろう、視線が下だ」
ミサキはその状況に少しだけ不思議そうにしながら、ヴォルフの手を取る。そしてヴォルフはドアノブをひねる。
「あれ? 思ったより硬い……」
「あかないよ。扉ってこういうものなの? 横開き?」
扉は外から鍵が掛けられていた。
「いやいや、そんな事ないさ。鍵が掛かっているだけなようだ。仕方ない、壊そう」
ヴォルフは一度ミサキを扉の前から離すと、腰から大剣を抜く。そして力任せに扉をぶち破る。
「……よし、腕は鈍っていないようだ」
「ああ、扉ってそうやって開けるんだね。覚えた」
「あ、いや! コレは仕方なくでだね……」
新しいことを覚えたことが嬉しかったのか、あまり変わらない表情で喜びを表現するミサキ。それにヴォルフは慌てたように取り乱す。
「ふつうはね、ノブを回してだね……」
「へえ、お医者様がそうやるから、そうなのかと思った」
「……教育に良くなかったな」
ミサキは聞いているのか、いないのか、外へとスタスタと歩いていく。ヴォルフもすぐに後を追う。
「これが外」
「……そういえば外に出るのは初めてだった……かな? すまないね、もう少し綺麗な物を見せてあげたかったのだが……」
扉の先は朽ち果てた大きな屋敷の中のようだった。それは形を保っているのがもはや奇跡といえる状態で、目覚めた部屋と比べ物にならないほどの劣化をしていた。床は腐って抜けていたり、そうでなくともギシギシと不穏な音を立てる。上を見上げれば、灰色の雲がすべてを覆い、視界全てがくすんで見える。空洞のように開かれた壁の先、庭に一つだけ無事な倉庫のような建物が見える。そこがチャペルだろうか。
「ここは危ない、今にも崩れそうだな……。外に出よう。歩けるかい……?」
「歩ける」
ミサキは、一歩を踏み出す。すると何の拍子か、過去のことを思い出してしまう。死ぬ行くその体を嘆き、もっとこの世界にいたいと願ってしまったことを。
そんなはずはないのだが、そう願ったが故にこの滅んだ世界を生み出してしまったのかとミサキ自身は思ってしまう。
「私が、願ったから、かな」
「……? どうしたのかい? 具合が悪くなってしまったかな……?」
「ううん、なんでもない。わからないことだらけだし、別に、もう何が起きようが関係ない」
心配そうにのぞき込むヴォルフに気付き、ミサキは気分を入れ替える様首を振る。そして覚悟が決まったかのような顔を見せる。
「お医者様、行こう?」
「……そうか、君が大丈夫なら僕はそれでいいんだ。行こう、チャペルはあそこだね」
―――――――――――
扉を開くとそこはチャペルとは程遠い研究室のようなところだった。沢山の薬品類が所せましと並んでおり、その中心には手術台が置かれていた。そしてその手術台には今はだれも横たえられてはいないが、何かの処置をした痕跡は残っていた。
「あぁ……。そうか、ココで……」
「……ここがチャペル。結婚式に薬を使うんだね」
ヴォルフは手に馴染むのか、手術器具を手に取る。そしてココで起きたことを、いや起きてしまったことを強く自覚させられた。
そんなことはつゆ知らず、ミサキは先ほどヴォルフが言った言葉を無垢にも信じ込んでいた。
「お医者様はいそうなところ。結婚式はお医者様も何かするの?」
「まさか! ここがチャペルな訳ない……。ココは、……治療を行う所だね。チャペルはココではないようだ」
明らかに取り乱したようなヴォルフは、持っていたメスを落とす。そしてその手で頭を押さえ、苦しみに耐える様に強く奥歯を噛み締める。
「そうなんだ。じゃあ、ここは何をするところなの?」
ヴォルフの脳内には、生前行ってしまった冒涜的な行為が想起される。
「治療? 何をどうやって治療したの?」
「ココは……君が美しい姿のままでいられるように……。そう、手を尽くした場所、かな……」
何とか過去の記憶から帰ってきたヴォルフは、歯切れの悪そうに無邪気に、しかし表情はほとんど動かないミサキの方を振り返る。
「じゃあ、私はここで死んだの?」
「っ……。死んではいない、死なせてはいない、僕は……完璧にやり遂げたハズなんだ……! 死んだとか……言わないでくれ……! 頼む……」
ヴォルフは思わず声を荒げる。その目には過去の光景が明滅する。そしてしまいには救いを求める様にうなだれる。
「でも、死んだから私はこうしてここにいる。この体は死んだ者の体、でしょう? 別に私は死んだことに何も思ってない」
ミサキは何のことでもないかのように、淡々と告げる。彼女にとっては、過去は過去、縋ったり、願ったりするものではない。ただ、彼女には諦めがあるだけだった。
「もう終わったことだから」
「……。そう、だな。すまない、悪癖が出てしまったようだ。僕は……、救えなかったのだったな……」
「別に、お医者様も気に病まなくていい。お医者様はよくやってくれた。私は嬉しかった」
ミサキはヴォルフが落ち込んでいることの理由がわからないでいた。それは、ミサキにとってはヴォルフは救いであり、そのように気を落とされるようなことはされていなかったからだ。
そんな彼女を前に、ヴォルフはポツリと言葉を零す。
「……僕はね、神の手とすら言われるほどの医療技術を身に着けていた。それが僕のプライドだったんだ。君がどう思わなくても、僕自身が耐えられなくなってね……」
「神すらも私のことは救えない。だって、私はお医者様以外からは諦められてて、私はそれを知っていた。だから、しょうがない」
ミサキ自身、生前でさえ自身の蝕まれていく身体を諦めていた。
「私はお医者様に看取られた。それがすべて。でも、まあ、私はそれで十分満足してた」
「……そうか。患者がそう言ってくれるのなら……。喜ぶべきなのかもしれないな……。先ほどはすまない、取り乱してしまって……」
ヴォルフは自然と、ミサキが自身を励まそうとしてくれているのだと感じた。それでようやく平静に戻ることができた。
「平気。それより、私の最期はどうだった?」
「……美しかった。僕のものにしてしまいたくなるほど……。今も……君は美しい。心からそう思う」
「私が?」
「あぁ。私はね? 生前は全てが灰色の様な世界に見えていたんだ。ただ君だけが"色"を持っていた」
「……色? 白黒だけど」
「そうか、君の目には……。僕は色付いて見えていないのか……。至らない点があるようだ、見直さなければな……」
「お医者様じゃない。私、白黒。色ないよ」
慌てたようにミサキは自身の髪と目を指し示す。
「ははっ、そんな事ないさ。濃淡だけでも色は表せられる。それに、……主観的な意味では無いんだ。目を惹く存在だという事さ」
「へえ、お医者様は私のこと、好きだったの?」
「……あぁ、語り過ぎてしまったな。この話はこの辺で止めよう。……薬があるな、コレは何だったか……」
ミサキの遠慮を知らない純粋さに、思わず顔を見られないようにと横に置かれていた薬瓶に手を伸ばす。
「?」
「ふむ、こんなものも残っていたのか。……あぁすまない、君を置いて考え事をしてしまったね、大丈夫かい?」
薬に意識を集中させ、少しの間考えこんでいたヴォルフは不思議そうにこちらを見つめるミサキへと振り返る。
「私にはお医者様しかいなかったよ」
ミサキはヴォルフに聞いてもらおうと、必死だった。
「ほかの人は私のことを、呪われた子だとか、疫病神、あとは死神、冥王、みたいなことも言ってた。だからお医者様しか私をミサキとしてみてなかったよ」
「……そうか。そうだったな……。君にはもっと美しい物を見せてあげたい。次こそチャペルに行ってみないかい?」
「……結婚式でもする?」
「ははっ。気恥ずかしいね、それを口にするのは。勘弁してくれないか?」
「チャペルって結婚式するところなんでしょ? なら……」
ミサキはヴォルフがなぜそんなに慌てているのかわからないようで、不思議そうに首を傾げた。そんなミサキをヴォルフは見ることができずにいた。自身のその表情を隠すことの方に必死で。
―――――――――――――
朽ちたチャペル。ステンドガラスは割れ、その役割を放棄してから永い時が経っていることが見てうかがえる。鐘が備え付けらていたが舌は錆び落ちており、もはや鳴ることはないだろう。
中に入ると外観から想像がつかないほどに美しいヴァージンロードが二人を出迎えた。その先には白いヴェールとドレスを纏った人影が見える。
よく近づいてみると、それは人の形を繕ったものだった。朽ちた肌は絹で補強され血色はもはやなく、飛び出た骨を針金で補強されている。まさしくヴェールを被りドレスを着た死体そのものだった。少し崩れたその顔を見てミサキは気付く。これは生前の自分の肉体であることを。
「私?」
ミサキはヴォルフの方をちらりと振り返る。
そこには目を見開き、何かに呑まれたヴォルフがヨロヨロとその花嫁へ近づいて行く光景があった。
「あぁ……そうか……。ココに居たのか……」
「お医者様、これって?」
ミサキの声が聞こえないようにヴォルフは花嫁へと向かっていく。
「お医者様がやった?」
「あぁ……私のミサキ……すまない、ココに置いてきてしまって……」
そしてヴォルフはミサキの前を通り過ぎて行く。
「お医者様?」
その光景を、ミサキは不思議そうにしながらも見送る。
「……お医者様が好きなのは、私の身体だったの?」
ミサキの目には自身の遺体から成る花嫁へと縋るヴォルフの姿が映る。
それを知覚した彼女から、ヴォルフに疑問を投げかけることを諦めた。そして表情がいつもの無表情へと戻る。
「まあ、私は構わない。お医者様にあげるよ、私の身体」
「客席が少し騒がしいな。なに気にすることはない、君との式を待ち望んでいたんだ」
ミサキは黙って踵を返すと、近くの椅子へと座る。もう、その舞台上に自身はいらないのだと、そう思った。
(お医者様が幸せなら、それでいいや)
機を狙ったかのように、扉からたくさんのアンデッドが現れる。
彼らは口々にまるでそういうことしかできないように「死体と婚礼なんて」「狂っている」「死者を弄ぶなんて」と繰り返しだす。
「騒々しいな、式の邪魔をするなら容赦はしないが……」
「……お医者様の結婚式、邪魔は、させない」
小さく、本当に小さくミサキは呟くと、席を立つ。それは自身を見ていない想い人のために。
「お医者様、ヴォルフ、その私は色づいてる?」
想い人の幸せのため、そのためならなんだってできる。今本当に幸せなの?そうならいいのだけど。
「私の白黒の濃淡はやっぱり、ただの白黒?」
それは確認するかのように。花嫁がそうなら、自身は見た目通りのモノクロだから。
そんなミサキの最後通告。それにヴォルフは思わず視線を向ける。
「あ……? あ……あぁ……。いや……僕には……。君が……色付いて見える……」
ヴォルフの目、色が戻っていく。そしてその言葉に、ヴォルフに対して罵詈雑言を吐き続けているアンデットを睨んでいたミサキも、その視線を動かす。
「ヴォルフ、それは、私のこと? ヴォルフが見てたのは、好きなのは何? 私を身体じゃなくて、ミサキとしてて見てくれているの?」
「あぁ……君の、……ミサキの事だ。僕は、……そうか、君の遺体をあんなにも弄んでしまっていたのだったな」
「? 別にそれはいい。だけど、お医者様が私を見てくれなくなるのは、少し寂しい」
今までにない悲哀に満ちた表情をミサキは見せる。
「そうか……。僕はまた過去の幻想に手を伸ばそうとしていたんだな。君から視線を反らしてしまったね、すまない……」
「ヴォルフも私を見てくれてたのは、嬉しい。期待してなかったから。それがわかったら、私はもうこれ以上望むことない」
この期に及んでも、ミサキの表情はほとんど動かない。だけど、ヴォルフにはとても喜んでくれているのだと、そう感じ取ることができた。
「そうか……。君は、こんな僕の事を……。……自身の、過去の行いを清算したい。君の遺体は……そろそろ眠らせてあげるべき……だよね……」
「それは、任せる。あれなら、首だけ残して過去の私もたまに楽しむ?」
いつも通りのどこかズレたミサキがそこにはいた。
「……いや、眠らせてあげたい。僕が……ずっとあのままにしてしまったから……。可哀想だ……」
「お医者様が、そういうなら、わかった」
「……付き合わせて、振り回してばかりだね、僕は。失敗作だな、ホント……。すまない」
「私(花嫁)は、失敗作? 大丈夫、ちゃんと綺麗」
的外れな励ましをミサキは送る。
「なんて、なんて哀れで酷く醜い! 嘆くのならあの異形を眠らせましょう! その拳はあの異形へ! 安寧へ導くのです!!!」
アンデットたちの扇動者は指揮を取る。すると、アンデットたちは叫ぶだけでなくその攻撃性を物理的にぶつけてこようとする。
ヴォルフは花嫁を破壊しようと、そしてミサキはヴォルフの邪魔をさせまいと、身構える。
そして、アンデットたちは俊敏な動きで迫ってくる。その一瞬前に二人も動く。片方は後ろの花嫁へ、もう片方は敵の方へと。
「結婚式をあげないことにしたから、別に同期はなくなったけど」
一瞬で敵陣の先へと突っ切ったミサキを触れれるものはいなかった。
「それはそれで、お医者様のこと悪く言ったこいつらは……」
指先を少し動かすと、先導者の腕が落ちる。ミサキの周囲の空間にちらりと糸が反射で光る。目に見えぬ速度で糸は動き、アンデットたちの体を切り刻む。
「たくさん、遊べるね。ヴォルフが私(花嫁)を壊すまで、付き合ってもらうよ」
ミサキの指先が五、六度動いたとき、ヴォルフも花嫁のところへと辿り着いた。そして大剣を振るう。
花嫁はばらばらと崩れていく。綿の臓腑が、針金の骨が、そして、……着飾った花嫁衣装が他ならぬ/製作者の手によって破壊された。
すると、残りの動いていたアンデットたちもパタリと動きを止めて崩れ去る。
「あれ、終わったの?」
チャペルはヴォルフとミサキの二人きりになる。
「……そうだね。終わったみたいだ……」
「私のこと壊した?」
「あぁ。……怒っているかい?」
「ん、別に。それよりヴォルフはよかったの?」
ミサキはいつもの表情で疑問を投げかける。
「もちろん、生前の過ちを、……消すことは出来ないけど、ようやく眠らせてあげられる……」
「私は、ここにいるよ? 私はもう眠らないし、ヴォルフとお別れしない」
やはりどこか勘違いをしているようだが、それがゆえに発せられるまっすぐなミサキの言葉。それにヴォルフは気後れする。そして、それは自身のしてしまった行為の後ろめたさからも来るものだ。
「その、……こんなことを自分自身で言うのもなんだが……、僕は遺体を弄ぶような人なんだ。あまり関わらない方がいいのかもしれない男だ……」
「? べつにもうこの世界には遺体しかないよ」
ヴォルフの不安はミサキの前では無意味だった。彼女は彼女で冒涜的なまでにヴォルフのことを好いていた。それは、彼女の世界にはヴォルフしかいないから。それがゆえに絶対なのだ。
「そうか……。君が、そう言ってくれるならそれでいい……」
「それとも、またヴォルフは私を一人にするの? また、部屋に置いてくの?」
「いや、それは……。一人にしたくない。ただ、……また僕が過ちを犯すんじゃないかと、……思ってしまって」
「別に、いいよ。ヴォルフはヴォルフ、何をしてもそれは変わらない」
平然と言ってのける。それは存在そのものを愛しているから。
「そうか……。ならそれでいいんだ」
「この後は……。ここで少し休んで行こうか。もしかしたら僕たちの生前の記憶を思い出すかもしれない」
「わかった。……ヴォルフが何をしても私は失望しないから」
「……少しは、僕のダメなところを見た方がいいとは思うけどね……」
ヴォルフは小さくため息をついた。
―――――――――
祝福の鐘が鳴らぬチャペル
かつて「物言わぬ屍」と「狂人」が愛を誓った場所。
今度は「言葉を紡ぎ合う死人」二人。
そこに在るのはどのような愛の形だったのか。
この世界では誰も何も言うことはない。
ただ「二人」が後日談を紡ぐだけ……
終幕