誤字脱字感想ありがとうございます。今回はちょっと長い(1万文字ぐらい)です。
「陛下、関係者各位への根回し、全て終わりましてございます」
「うむ。みな、よくやってくれた」
宮廷の一室で国王ランポッサ三世が部下を労う。
隣に立つガゼフはその言葉を聞きながら部屋を見渡した。
くたびれた様子で席に付いているのは、2ヶ月前にも集まった信用がおける者達だ。
それぞれが思い思いの姿で椅子に腰掛けているが、共通しているのは全員がやりきった―できる限りの事をした―という顔をしていること。そして目の下に濃い隈が出来ていることである。
「(何人かは今にも倒れそうだが……しかし瞳は力強く輝いている)」
ガゼフはこれだけの者達が王のために働いてくれている、その事を喜ばずにはいられなかった。
だが思わずニヤリとしてしまいそうな顔を精神力で抑えながら、不動の姿勢で王と内務尚書の会話に耳を傾けた。
「そなた達には苦労をかける。だが明日の謁見が終われば、しばらくは落ち着くだろう。それまでは……」
「陛下、言わずとも分かっております。我々がほぼ寝ずに駆け回ったのはその為なのですから」
「感謝する。これで少しでも王国を、いやこのどうしようもない現状が変われば良いのだがな」
「今回の件が上手くいけば、きっと変わると思われます。いえ今回を逃せば、次のチャンスがいつ来るかは見当もつきません」
「そうか。いや、確かにそうだな」
ガゼフは宮廷内の現状を頭に浮かべた。
現在の王国は王派閥と貴族派閥に分かれて争っている。
だが今まで王派閥は動くに動けなかった。
貴族派閥を率いるボウロロープ侯に軍事力で負け、同じ貴族派閥のレエブン侯に政治力で負けているからだ。
そのため王は強い態度に出ることが出来ず、根回しも上手くいかないという、まさに打つ手なしの状態だった。
「(だがそれも最近は変わりつつある……)」
ガゼフは数ヶ月の前の夜に家を訪ねてきた、二人の女性を思い浮かべた。
彼女たちが六腕と八本指幹部の首を持ってきたこと、それこそが変化が起こり始めた瞬間だ。
残念ながら確認に時間をかけ過ぎて、奴隷部門と繋がっていた貴族は3割ほどしか責任を問えなかったが。
それでも警備部門が半壊した八本指は活動を自粛させざるを得ず、それらと繋がっているであろう貴族たちも、一時的に動きを鈍らせている。
「ならば今こそが好機か? ……本来であれば、このまま爵位を与えるべきなのだがな」
「確かにそうして取り込むのが一番でしょう。しかしそれをやれば王派閥からも不満の声が上がると思われます」
「このままでは貴族派閥の勝手は止まらんというのに。ままならんことだ……」
ガゼフは王の意見に黙って頷く。
貴族派閥に勝つには味方の陣営を強化するしかない。
だがその強化を邪魔するのが、よりにもよって味方側の貴族達である。
彼らはガゼフから見ても現状を分かっていない者達だ。
騎士を増やそうとすれば自分の縁者をと腕の無い人物を推薦し、新たに部隊を編成しようとすれば指揮権を渡せと騒ぎたてる。
だが仮にそれを認めて取り立てても、彼らは給金で遊ぶだけで仕事は何もしない。
その癖に断れば貴族派閥に鞍替えするのだから、王派閥の上層部としてはたまったものではない。
「(もう少し強い武官がいれば多少は違ってくると思うが……)」
そんなワガママを許しているのも、ガゼフ以外にこれといった武力担当がいないからだろう。
軍を持たない国が存在しないように、暴力というのはあらゆる場面で抑止力として有効だ。
だがガゼフは一人しかいない。王派閥全体を引き締めるための、武力的な重しにはもっと多くが必要ということだ。
そんな訳で王派閥は前から戦力を増やそうと躍起になっていた。
平民出のガゼフを、戦士長という地位を新たに作ってまで登用したのも、その一環だと聞いている。ただしそれもここ数年は上手くいっていないが。
「(帝国さえ攻めてこなければ、もう少し余裕があっただろう)」
理由は数年前から始まった帝国との戦争だ。
これにより国全体に負担がかかり国庫は火の車。それも戦争で死ぬのは若い男であることから、とても軍拡などできる状態ではなくなってしまった。
しかし、そんな状況で頭角を現したのが「白羽聖女団」という冒険者PTである。
自分たちで聖女を名乗るのは神殿勢力に喧嘩を売っているような気もするが、しかしその戦闘力は折り紙付きだ。
なんせ現役のアダマンタイト級冒険者であるアズスが「装備無しなら自分より強い」とまで言うほどである。
それがどこの貴族の手も入ってないフリー(アインドラ家は変態なので除外)となれば、内務尚書曰く「……ゲットしなくちゃ! 都合の良い駒を!!」となるのは当たり前の事だろう。
なのでこのPTを王派閥で囲い込む―すぐには無理でも将来的に―ように、部屋にいる者達は日夜その準備に走り回っていたのだ。
「それで我が戦士長よ、その子達について、実際に会ったお前はどう思った?」
「ハッ! ツアレニーニャ殿達は行動こそ無茶苦茶ですが、その心根は善良だと感じました。故にこちらが誠意を示せば、きっと王の味方になってくれるかと」
「ならば気をつけて対応せねばならんな。それで国務尚書よ、そちらの準備はどうだ?」
「はい、冒険者組合にはすでに話をつけております。まずはオリハルコン級への推薦、ゆくゆくは王家専属のアダマンタイト級に、という形になるでしょう。それと褒美として渡す屋敷と短剣も準備済みでございます」
王派閥は今回の件について、かなり本気で動いている。
オリハルコン級への推薦は本人たちが自力でランクアップする前に恩を売る為であり、屋敷を渡すのは王都を本拠地にさせ何時でも呼び出せるようにする為。そして短剣は爵位への布石だ。
「ただ急いだせいで本人達への連絡が後回しになっております。貴族派閥に邪魔されない為にも、明日連絡を出してすぐ城へ、という形になりますが」
「それはしょうがあるまい。まぁ些細な事だ」
なお、
「(これだけの物を与えられれば、ツアレニーニャ殿達もきっと王の力になってくれるに違いない)」
ガゼフは派閥争いに王派閥が勝ち、力強く立つ王の元で、国が変わっていく様に思いを馳せた。
……ちなみに推薦と言っても組合には「このPTは期待してる」と告げるだけだし、渡そうとしてる屋敷は八本指絡みで捕まえた貴族から徴収した物で、短剣もそれ自体は普通の鉄製だ。つまり金は全くかかっていないと聞いている。
「全ては明日の謁見にかかっている。みな、よろしく頼むぞ」
「「「はっ、お任せ下さい」」」
王の覇気のある言葉に、ガゼフを含めた他の全員が一斉に頭を下げる。
彼らは王派閥の将来を左右する明日の謁見を、必ず成功させると決意していた……!!
◆◆◆◆◆
「――みな面をあげよ」
「「「はっ!!」」」
部屋で膝を付いていた全員が顔をあげる。
この国の王様――ランポッサ三世の言葉に応じて。
ココは国の威信を掛けて整えられた場所――玉座の間。
堂々と玉座に腰掛けるのは王様。その右には第1、第2王子が別々の椅子に座り、部屋の左右に並ぶのは貴族官僚の方々だ。
……皆様こんにちは。玉座の間で
「(パっと金だけ受け取って終わりだと思ったのにどうして……)」
後ろには他に10数人が並んでいる。まとめて論功行賞でもやるのかな?
みんな頑張って雰囲気作ってるけど、ぶっちゃけ居づらい。晒し者にされてるみたいだ。
なおせっかくなので探してみたが、アニメで見た六大貴族は一人も来てない。
「(ガゼフさんから報奨金を渡す準備が出来たって聞いて、ホイホイついて行ったらこの状況だよ!!)」
そりゃお金につられて二つ返事で承諾した私も私だけどさ。
でもわざわざ王様が会うなんて思わないじゃん? しかも玉座の間で公式にだ。
「(果たしてどんな裏があるのか……私でなきゃブルっちゃうね!!)」
ちなみに格好はアインドラ家が用意してくれた白いドレスだ。
大胆に肩と胸元が出ているセクシーなタイプ。
測らせた事なんて一度もないのに、なぜかサイズもぴったりである。ミリ単位で。怖い!!
あと最前列にいるのは私だけで、一緒に来たクレマンティーヌとラキュースは一歩後ろにいる。
「(なんでコイツ等こんな時だけ自重してるの? クレティーはPT面子なんだから普通は隣でしょ!? あとラキュースも普段のワガママっぷりはどうした!!)」
更に問題なのは、ここからの展開について全く聞いてないことだ。
何もかも急だったんだよね。ガゼフさんが急に連絡として来てから、ココまで1時間もかかっていない。
もっと事前に通達をしろよぉおおおおお!!!!
「(もうこの状況の全てが意味わからないよ!!)」
しかしココまで来てしまうと、もはや逃げることは出来ないだろう。
私は「早くこの茶番が終わりますように」と願いながら原作を思い出す。内容は王様とその派閥について。
「(確か名前は『ランポッサ三世』だったっけ……)」
ガゼフさんの主という以外に、ほとんど記憶がない王様だ。
フルネームは長くて覚えてない。在位期間はめっちゃ長い。その癖に政策とかは原作で全く語られなかったし、最後も描画なしで何時の間にか死んでいた。そんな地味な王様である。
「(性格だけなら優しいおじいちゃんって感じなんだけどなぁ)」
だが本人も勢力も頼りにはしないほうが良いだろう。
なんせ王国全土の3割を治めておきながら、一地方の領主に軍事力や政治力で負けてるのだから。果たしてどれだけ無駄な場所に金を使っているのか……。
「(経営に失敗してるってLVじゃないよ!!)」
オマケに二人いる王子の後ろ盾は、どちらも貴族派閥が筆頭という有様だ。
つまり次代の王はどちらを選んでも、敵対派閥の傀儡不可避なのである。
まぁ実際は第2王子の後見であるレエブン侯は裏王派閥みたいなものだが。
しかしそれを知らない王派閥からすれば、政治的には完敗だろう。ゲームなら33-4でコールドだ。
……王視点からみた王国さん詰みすぎィ!!
「(こんな状況で投げ出さないとか、そこだけはマジですごいけどね)」
私ならとっくに投げ出して隠居しているだろう。そこは本当にすごいと思う。
まぁだからと言って苦労を一緒に背負おうとは思わないが。
なので私としてはガゼフさんとは仲良くしたいが、王家自体とは近づきたくない、というのが本音である。
ツアレちゃんは美味しい所だけ啄む鳥になる、そしてこの国から飛び立つんだ!!(捕まらないとは言っていない
「それで、そなたがツアレニーニャだな?」
「はい、ツアレニーニャ・ベイロンでございます」
と、そんな事を考えていたら普通に話しかけられたので、こちらもそれっぽいノリで対応する。
王様が頷いているところからすると、間違ってはいないようだ。あ~、誰も教えてくれなかったから不安になるんじゃ~。
「六腕の件は聞いている。よくやってくれた」
「もったいなきお言葉です」
いや本当にマジで。
何故か嬉しそうに私を褒めてくれてるけど、そういう言葉はその辺の貴族様にでも言ってやればいいと思う。
彼らなら喜んで尻尾を振るだろう。同時に
私はそのまま相槌をうちながら、しばらく王様の話を聞き流した。
「……と言うわけで、今回の貴公の働きに対して褒美を授与するーー財務尚書」
「まず1つ目は押収した資産の一部、金貨で300枚になります」
「ありがたく頂戴致します」
おっ、金貨だ。1つ目ってことはまだあるのかな?
でも思ってたよりも安くね? 白金貨にするとたった30枚だ。
魔法武器だと最低限の物が2本しか買えない。中古だとぎりぎり3本。
「(警備部門て意外と貧乏だったんだね……)」
「それから次はオリハルコン級への推薦状です」
2つ目に出てきたのは推薦状である。
確かに級が上がれば、もっと金払いの良い依頼を受けれるようになる。
冒険者組合は国から独立した組織だって聞いたてけど、意外と抜け道があるんだなぁ。
「でもそれは要らないです」
「「「えっ」」」
「ちょ、ちょっとツアっち!?」
だが私は2つ目の報奨を断る。
周囲から驚きの声が上がった。クレマンティーヌも驚いたようだ。
まぁ本来なら有り難いんだろうけどね?
でもちょっと待って欲しい。私達が専門にしているのはモンスター退治だ。
それは討伐部位さえ持っていけば金になる訳で。
となると、別に依頼なんて受ける必要がないのである。
むしろ依頼として狩りに行くと、期限やら方法などを指定されて面倒なだけだろう。
なので王家に借りを作ってまで無理に昇給する必要はない。
というか第3王女に良いように使われそうで怖いし。だから要らない。
「冒険者の等級については自力で何とかしますので、どうかお気遣いなしでお願いします」
「フフフ、流石はツアレだわ! 天より選ばれし使徒には、王家の力添えなど不要ということね!!」
あとラキュースは黙れ。
お前、何で私の内心みたいな風を装って王家に喧嘩打ってんの? 第一王子の顔がピクピクしてるんですけど!!
「そ、そうか。では残念だがそうするとしよう。それで3つ目であるが」
「陛下は王都に屋敷を与えるとのことだ。根無し草の冒険者とはいえ、拠点は合ったほう良いだろう」
3つ目は王都に屋敷と来たかぁー。
でも、それって微妙すぎない? だって……
「それも要りません。この辺は湧きがヌルいので」
「「「「えっ」」」」
「つまりずっとアインドラ家にお世話になる(婿入り)ってこと!?」
「それは絶対に違う」
ラキュースが何か言ってる。でも私はソレを努めて無視する。
代わりに質問してきたのは陛下だ。
「冒険者の用語は詳しくないのだが、湧きとはどういう意味かね?」
「はい陛下。狩るためのモンスターが少ないということです。近くにギガントバジリスクがダースで生息する山とかあったらよかったのですが……ぶっちゃけこの辺りは禄な狩場がないので、本拠地には向いていません」
「そ、そうか……」
おっと、正直に話したら陛下の顔が引き攣ってしまった。
でもしょうがないよね。王都周辺は交通が多いせいか、モンスターがいないんだから。
恐らくは貴族や商人が行き来する際に、護衛たちが倒してしまうからだろう。なので狩りの拠点としては全く魅力が無い。
「そういうことならしょうがあるまい。それでは最後になるが、王家より短剣を授ける。これは受け取ってくれるな?」
そして最後に出てきたのは王家の紋章が入った短剣だ。
しっかり装飾が入った鞘に収まっているが、もちろん私はそれも断った。
「いえ受け取れません。それって確か貴族にしか渡せない短剣ですよね? どうか別の方にお与え下さい」
だって私はそれを知っている。原作にも出てきた
双子忍者によれば、貰ってしまうと王様の気分で爵位を押し付けられてしまうらしい。
「(知らなかったら流れで貰ってただろうなぁ……)」
言わばこの短剣は王国という船への乗船チケットだ。
だがどれだけVIPなチケットを渡されようと、沈むのが分かっている船に乗る者はいない。
それに数年後にやってくるアインズ様は義理を重んじる人(骨)である。
何かの間違いで貴族に取り立てられるー恩を受けるーような事があると、魔導国に移りづらくなってしまう。仮に移れても評価にマイナス補正が掛かるのは間違いないだろう。
なのでむしろ、この短剣だけは絶対に受け取ってはいけない。
「(まさに呪いのアイテム!! 危なかった。原作知識がなければ、ここで死んでいた……)」
というか、どうせなら漆黒のモモン様が貰っていた足税無料証の方が良かった。
あちこち行く予定なので、それなら素直に喜べたのになぁ。しかしどうやらこれで褒美は終わりのようだ。
「………………」
さり気なく周りを伺うと、左右に並ぶ貴族たちは完全に白けきっていた。
私が3つも断ったせいか、それとも王様が貴族のみに与えられる短剣を出したせいか。恐らくは両方だろう。
このままお開きでワンチャン帰れそうな雰囲気である。
しかしそんな状況でも、空気を読めない人はいるもの。
「貴様ァーーー!! 父上がこれだけ心を砕いてくれているのに、その態度はなんだ!!」
急にワンワンと吠えだしたのは、王の隣に座っていた王子の一人だ。
金髪を短く刈り上げたガタイの良い方、王位継承権一位の
「さっきから黙って聞いていれば、王家を馬鹿にしているのか!!」
「いやそう言われても必要のない物ですし。というか最後の短剣は、むしろ辞退しなきゃダメなんじゃ?」
「王家の短剣に価値がないというのか!?」
なんだこいつ、王家の面子にこだわりすぎだろ。メンヘラかよ。
「うわっ、めんどくさっ!!」
「なんだと!? いい加減にせんと不敬罪でひっ捕らえるぞ!!!」
ちょっと王様、この長男さん沸点低すぎよー。頭無惨さま並やぞ。
「いや無理でしょ。だって弱すぎるし。せめてガゼフさんぐらい強くないと。ねっ、クレティー?」
「えっ、ここで私に振るの? ……でも、そうだねー。今の私達なら大抵の相手には勝てるんじゃないかなー?」
オレンジ色のドレスを着たクレマンティーヌが答える。
今の私たちは武器を持っていないが、それでもガゼフさん以外なら余裕で勝てるだろう。
この部屋に来る際に見た城兵はみんな推定LV10以下だったので、2人だけでも余裕だ。
「なんだと!? ならば証明してみせろ!!」
「はっ?」
「――決闘だ!! そのクレマンティーヌとかいう女! お前に決闘を申し込む!!!」
「……えっ、わたし?」
王子はクレマンティーヌを指さして宣言した。
どうやらこの謁見(茶番)は、まだ終わらないようだ。
◆◆◆ ◆◆◆
みんなでぞろぞろと城の廊下を移動する。
決闘の場所は謁見の間を出て進んだ先にある広い庭だ。
そこに大勢の人間が詰めかけていた。さっきの部屋の面々に、城を守る騎士やメイドを加えた人々だ。
「このままバックレたらダメかなー?」
「それもすごく魅力的だけど、それは何時でも可能だからまずは立ち会ってみよう」
「しょーがないなー」
彼らは遠回りに私達を取り囲み、チラチラとこちらを伺っている。
突如決まった演劇を待つ子供みたい。ちなみに一番ワクワクした様子なのはラキュースとアズスである。お前等、ちょっとは心配しろよ。
「でもあの王子って意外と人気なのかな? あと暇人多すぎて草生える」
「いや、笑ってる場合じゃないし。これどうするのよ? なんかダルい展開になってるんですけど」
王子に周りには貴族たちが集まっていた。
その一方、私たちの方はカッツェ平野で戦った5人だけだ。
「こんな事になってすまない。だが出来れば無難に終わらせて欲しい」
ガゼフさんはめちゃくちゃ申し訳なさそうな顔をしている。
まぁ確かに王様が呼んだ相手に、王子がいちゃもんつけて決闘を申し込むなんて前代未聞だよね。下手したら今度から誰も呼びかけに応じなくなりそう。
だがこれも必要経費だと思えば悪くない。
なんせこうなってしまえば、大手を振って王家から距離を取れるから。
「まぁいざとなったら飛んで逃げればいいよ」
「うーん、そういう事なら大丈夫かなー?」
「それに王子を殴れる機会なんて中々ないからね! 遠慮なくやっちゃおう!!」
「止めてくれ。本気でやられると困る」
クレマンティーヌ一人ぐらいなら、抱えても余裕で飛べる。
それに王城を歩きながら観察してみたけど、やっぱり原作で語られている以上の戦力はどこにもいなかったし。
つまり兵はみんな
推定Lvは4~6ぐらい? 王城の警備兵(精鋭)なのに弱すぎてびっくり。
ちなみに今のクレマンティーヌのLVは25だ。王子の方は推定4である。
「大丈夫ですよガゼフさん、クレティーは手加減が上手いので、死ぬのは10中5、6ぐらいでしょう」
「いや半分も死ぬのはマズいのだが!?」
「二人いるし片方なら消えてもセーフ」
「全くもって平気ではない!!」
私の発言にガゼフさんがいちいちツッコミを入れる。
なんて真面目な人なんだろう。でももうこの際、王位継承問題も片付ければいいんじゃいかな?
「片方が消えれば全部まるっと解決なのに。じゃあハンデでクレティーは武器無しってことで」
「それなら死ぬことはない、か……?」
「それでは両者前へ!!」
そしてついに決闘が始まる。戦う2人が人垣によって出来た中央で向かい合った。
第一王子は刃のついたロングソードを持っているのに対し、クレマンティーヌは素手のままだ。
「すいませんガゼフさん。王子が持ってる剣が藍色なんですけど、あれってどんな剣なんですか?」
「確かレイザーエッジには劣るが、国の大事な宝剣の一つだ。刀身はアダマンタイトの合金で出来ていたはず。あんな物を持ち出すとは……」
ガゼフさんが初めて心配そうな声を発する。でも魔法的な光は無いので、魔化はされていないようだ。
「おい貴様、獲物はどうした?」
「あー、ハンデ代わりに置いてきたよー」
「なんだと!?」
クレマンティーヌはやる気なさそうにシュッシュとワンツーを行う。
うーん、2人のやる気の差が違いすぎるね。
でも周りは誰も止めようとしない。女の子がいい大人に刃物を突きつけられてるというに、ニヤニヤしながら眺めているだけ。ちょっとイラつく。
まぁ彼らはこちらが勝つなんて夢にも思っていないのだろう。
そりゃそうだ、もし勝ってしまったら王家の力で嫌がらせとかめっちゃされそうだし。
ならば今後のことを考えて権力に膝を屈するしかない、わざと負けると思うのが普通である。
「でもちょっと待って欲しい。クレティーは普段から私達と訓練しているんですよ」
「……ツアレ殿?」
私の天使軍団を舞うような鏖殺し、隙を突いてハムスケの硬い外皮に攻撃を通す。
天使の数の暴力、魔獣としての筋力……どちらも軽戦士にとっては致命傷になりかねない。文字通り精神を削る、綱渡りのような戦いだ。
そんな傍から見れば狂ったような訓練を、ほぼ毎日続けているのである。
それは街の中でも森の中でも、狩りの途中でも止めることはなかった。
崇高な「れべるあっぷ」の儀式とは、自分を追い込んだ状態でひたすら戦い続ける事なのだ。
まぁつまり、私が何が言いたいかというと……
「――決闘(デュエル)開始ぃいーー!!」
「やっちゃえクレティー!!」
「――<疾風加速><超回避><流水加速>……あっ」
「ふもっふ!?」
決闘開始と同時に複数の武技を発動させ、王子が剣を振り上げる前に接近、腰の捻りを加え体重を乗せ、拳を振り抜くなんて造作もないと言うことだ。
「…………」
「……やっちった」
気づけば王子が仰向けに倒れていた。
顔面を陥没させたまま、鼻血を流してビクンビクンと身を痙攣させている。首がもげなかったのは奇跡だろう。
「「「「…………」」」」
誰も何も言わない。決闘場は無言の静寂に包まれた。
誰もが信じられないという顔で、余りにもあっさりとした結末にポカンとしている。
誰が思っただろうか、王子をグーでぶん殴ると。どう考えても狂人の所業である。
……まぁ遠慮なくやっちゃえと煽ったのは私なんだけどね!! 開始前にもこっそり無詠唱化した〈
私はスッっと無言で右手を上げる。ラキュースも左手を上げた。
そんな私たちに向かって、戻ってきたクレマンティーヌが両手を合わせる。
「「「いえーい!!」」」
そしてそのままバチンとハイタッチだ。気持ちぃい~~~!!
同時に、周囲が慌ただしく動き始めた。
「神官を呼べぇええーーーー!!」
「タンカだーー!! 誰か運びやすいように布をもってこい!!」
すぐに近くに控えていた神官が魔法を掛け始め、簡易の運搬布に乗せられて第一王子が運ばれていく。
さてこうして馬鹿王子は退場になった訳だが、まだ会見は終わっていない。
なぜなら倒れた王子を見ていて、私には一つ思いついたことがあったから。
私たちはアダマンタイトの武器を求めている。だがこの国では売られていない。
ならば次の問題だ。どうすればそれが手に入るのか? ヒントは先程まで目の前に転がっていた。
「ならば――持っているモンスターから奪えば良いのではなかろうか?」
その答えにたどり着いた瞬間、私は雷に打たれたかのような衝撃に襲われた。
「……すみません陛下、そういえば一つお願いしたいことを忘れておりました。決闘に勝った褒美という訳ではございませんが、どうか聞いていただけないでしょうか?」
私はゆっくりとランポッサ三世に近づき、堂々と話しかける。
「……一体なにかな? 叶えられるかは分からんが、聞くだけは聞こう」
もちろん本来であれば、そんなすごい装備のモンスターを見つけるのは不可能だ。
仮にいるとしても探すのに莫大な労力がかかるのは間違いない。しかし私はその場所に心当たりがある。
「はい、私たちはアダマンタイト製の武具を求めているのですが、なんでもこの国の国境近くには、特別なモンスターがポップするとお聞きしまして」
「国境付近に特別なモンスターだと? 一体何を言っている……?」
いや私だけじゃない。その場所とモンスターは、ここにいる
「それは
「……数年前? 年に一度? 国境? 敵? ……ま、まさか!?」
そう、その場所の名前は――カッツェ平野。
つい最近、私達がデスナイトと死闘と繰り広げた場所だ。
そして湧くモンスターとはもちろん――バハルス帝国兵。
「つきましては
――『帝国4騎士から剥ぎ剥ぎ』大作戦です!!」
攻めて来てるのは向こうだし、剥ぎ取られても文句無いよね?
……ファイッ!!!
という訳でバルブロ王子は出オチでした。
書いてたら主人公が頭フィリップになってしまった(驚愕)