ツアレ転生者の華麗な異世界生活   作:さろんぱす。

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戦争前準備の話になります。
誤字・脱字報告、感想。ありがとうございます。


#19 ここを旗立て地とするっ!!

 夏の日差しが収まり、森に落ち葉が増えた頃。

 一足先にエ・ランテルへ戻っていた私たちは、戦争の前に冒険者組合を訪れていた。

 

「本当に辞めてしまうのか? もう一度だけ考え直さないか?」

 

「無☆理」

 

 私とクレマンティーヌは、案内された組合長室で室の良いソファーに腰掛ける。

 反対側に座っているのは組合長のプルトン・アインザックだ。合間にあるテーブルの上には、私達が首から外した冒険者の証が置かれている。

 

「だが君たちは、この街初めての()()()()()()()級なんだぞ?」

 

「すみません、でももう(4騎士から装備を剥ぐって)決めたことなので」

 

「ざーんねんでしたー。ツアっちはこうと決めたら絶対に止めないからねー」

 

 皆様こんにちは。戦争に出るため冒険者を引退しに来たツアレちゃんです。

 別にそのまま黙って参加するのも可能だけど、それだと後ろ指を刺されそうだからね。きっちり退職届けを出しに来たよ!!

 

 ちなみにタイミング良く戻ってこれた理由は簡単だ。

 帝国が戦争を仕掛けてくるのは王国の国力を落とす為なので、その時期は秋の収穫期に限られるから。

 農村で田畑に関わったことのある者であれば、気温からそれらを読み取るのは難しくない。それに去年の戦争日を踏まえて、一足先に戻ってきたのである。

 

「それで引退は規則としては問題ない、そうですよね?」

 

「それはそうだが……。しかし君たちの引退を私が歓迎している訳ではない、ということは言っておこう」

 

「せっかく級を上げて貰ったのにねー。アダマンタイト級になってから引退まで5日……こんなスピード引退は私達だけじゃないかなー?」

 

 クレマンティーヌの言葉に組合長が苦虫を噛み潰したような顔をする。

 まぁせっかく誕生した()()()()()()()級が辞めると言えばこんな顔になるか。

 

「戦争に出るって決めた時は、まだミスリル級(上から3番目)だったからなぁ」

 

 だがセリー(原作のニニャ)を連れて王都に戻ったらオリハルコンの証を渡された。

 どうやら王様からの推薦状はとっくに有効だったようだ。断った意味が全く無ねぇ!!

 

 それからトブの大森林のお土産(首)を組合に渡したら、なぜか更に昇格である。しかも即座に。ちょっと意味がわからなかった。

 

「今更ですけど、私達が森で狩ってきたモンスター、そんなにポイント高かったんです?」

 

「当たり前だろう。妖術師大鬼(オーガ・ソーサラー)洞窟巨人(ケイブ・トロール)、その他……どれも一体で村が消えるほどのモンスターだ。おまけに街を滅ぼせるギガントバジリスクの頭が3体分だぞ? 十分な功績だよ」

 

「どれもツアっちがおやつ感覚で狩ってたモンスターなんだよなぁ」

 

 私は約半年に及ぶ大森林での狩りを思い出す。

 バジリスクは経験値が美味しかったけど、残念ながら3体しか出会わなかった。

 あとは多頭水蛇(ヒュドラ)とか魔瞳怪鳥(コカトリス)とか色々いたね。

 ゴブリンとオーガも合わせて千匹以上いたけど、こっちは弱くて微妙だったので報告していない。まぁ狩りまくったからしばらくは大丈夫でしょ(適当

 

「それに王城で報奨が行われたという事は、君たちの過去の活動を王家が認めたということでもあるんだ」

 

「そうなんですか。でも引退は半年前に決めていたことなので」

 

 王家とかぶっちゃけ、どうでもいいんだよなぁ。

 

「……分かった。そこまで言うなら、これ以上は止めまい」

 

「あっ、じゃあこれで解散ってことでー。私お腹空いてきちゃったなー」

 

 そう言いながらも組合長は未練がましそうにこっちを見ている。

 だがそんなの関係ねぇ!! 重要なのは周囲の意見じゃない、自分の意思だから!!

 

「お疲れ様でした。ではこれで」

 

「せめて出口まで送らせて貰おう」

 

 私たちはそのまま部屋から出て、まっすぐ建物の出口へ進む。

 だがなぜかすれ違う人たちが、みんな()()()()てきた。後ろから付いてきた組合長、組合員、中に残っている冒険者達まで全員だ。

 

(なんなのこれ? 急に雰囲気変わりすぎなんですど!!!)

 

 余りの変化にびっくりする。

 これはもしかして、私達が国を救う為に泣く泣く引退した、とでも思ってくれてるのかな?

 

(まぁここ数年はずっと戦争続きだったからなぁ……)

 

 冒険者は戦争に出ることはないが、その影響がないわけではない。

 農民が徴兵され収穫が減れば物価が上がるし、賊が増えれば治安も悪化する。つまり生活が苦しくなる訳で。

 

(なので冒険者も含めた一般の王国民からすれば、帝国は王国貴族と同じぐらいのクソ野郎なんだよね)

 

 だからきっとこれは、遠慮なくやっつけて下さい!! という期待の現れなのだろう。

 個人的には自尊心を擽られて超気持ちいい。ラキュースなら飛んで喜びそう。

 

(フフフ、任せて下さい! 最高の戦果って奴を見せてやりますよ!!)

 

 私はそんな事を思いながら、組合の外扉を開けた。

 

 

 

 

 ◆◆◆ ◆◆◆

 

 

 

 

「おまたせハムスケ」

 

「全然待ってないでござるよ。冷たい藁束は気持ちよかったでござる」

 

 組合から出た私たちは、まず馬小屋で待機していたハムスケと合流。

 それからガヤガヤと騒がしい街中を歩く。

 

「もう日が半分落ちてるのに、まだやってる屋台があるんだ」

 

「ぜんぜん店じまいしそうにないねー」

 

「美味しそうな匂いでござる!!」

 

 何時もなら店仕舞いしてるのに、組合前広場の屋台からは、未だ肉を焼いたような香ばしい匂いが運ばれてくる。それに人影と騒音も途絶える気配がない。

 

 だがそれも当たり前のことだろう。

 すでにこの街には大勢の兵士たちが集合していて、その数は軽く10万人以上になるのだから。

 兵士達は昼は駐屯地で訓練をしているが、それが終わると街に繰り出す者も多く、その為に商人たちは頑張って商売を続けているのだ。

 

「でもなんか私たちめっちゃ見られてね?」

 

「ハムスケは目立つからねー」

 

「殿たちの所業を存分に広める所存!! つまり広告塔というやつでござるな」

 

「冒険者辞めたから意味ないんだよなぁ」

 

 そのまま歩くもどこも人の目があったので、最終的に私たちは再外周の城壁塔に昇った。

 原作でガゼフさんがブレイン&クライム君と一緒に来てたところだ。ここまで来れば流石に人は居ない。

 

「それで何でこんな所まで来たの? 暗殺の相談でもある訳ー?」

 

「誰かコロスでござるか?」

 

 途中で狩った焼き鳥をパクパク食べながらクレマンティーヌがそう述べる。

 言ってることが原作のブレインと同じで吹きそうになった。

 もしかして後ろ暗い家業を経験していると、人が居ないところでコソコソ=暗殺相談になるのかな?

 

「いや特に意味は無いよ? 前から昇ってみたかったんだよね、ここ」

 

 私も焼き鳥をパク付きながら、視線を遠くに向ける。

 ここは街で最も高い場所なだけあり、見える景色は絶景だ。おまけに風が冷たくて気持ちいい。

 

「でも無許可だけどねー」

 

「某の〈催眠(ヒプノティズム)〉で一発でござる」

 

 なお、途中に居た守衛さんはハムスケの魔法で眠ってもらった。

 ちゃんと手に銀貨一枚握らせてきたので、きっと許してくれるだろう。この国で賄賂は常識なのだ。なお私達が通った後の職務怠慢については関与しない。

 

「それでこれから戦争までどうするのー?」

 

「んー、もうやることって無いんだよね」

 

「つまり寝てていいでござるか?」

 

 戦争の開始は迫っているが、すでに私達の準備はほぼ全て終わっている。

 追加の魔法武具は購入済みだし、魔法のスクロールも買った。いざという時のポーションもバレアレ薬品店で注文済みだ。

 

 ちなみにクレマンティーヌとのダブルオッパイ(着衣)でンフィーレア君をサンドしてみたが、残念ながら安くしてはもらえなかった(完敗)。

 

 だから後は受け取って街を出るだけだ。

 

「でも今更だけどさぁ、本当に上手くいくの?」

 

「おっ、クレティーは何か心配でも?」

 

 やり忘れたことでも思い出したのかな? お兄ちゃんへの煽り手紙とか。

 

「ん~、もしかしたら、あのフールーダ・パラダインが出てこないかなって」

 

 なんだそんなことか。だが流石にそれは無いだろう。

 

「クレティーも分かってるくせに。それは無いよ。だってガゼフさんが毎年暴れても、一度も出てきてないんだよ?」

 

「まっ、そうだよねー」

 

 原作では戦争に出てきたことがないとはっきり書かれていた。

 ガゼフさんに4騎士の2人を討ち取られてもだ。

 なので、たかが第4位階の神官ごときに、フールーダが来るわけがない!

 

「流れ矢とかのリスクを考えたら、まず来れないはずだよ」

 

「でもツアっちの本当の位階を知ってたら? 捕まえに来そうじゃない?」

 

「それ(第5位階)はまだ誰にも見せてないけどね」

 

 当たり前だがクレマンティーヌとハムスケ以外には見せていない。

 流石の私でも、今オープンにするのは不味いって分かんだよね。

 なので本当の位階は気づかれてないからセーフ!!

 

「それにいざと慣ればタレントもある。魔法戦特化の天使を呼べばヨシ!!」

 

「それ対策されてたらどうするの?」

 

「いや無理でしょ」

 

 基本的に私のタレントを見た者は全て始末している。

 なので知ってるのはデスナイト戦のメンバーだけだ。

 だから対策どころか推測すら出来るはずがない!!!

 

「で、なんか私の心配ばかりしてるけど、クレティーこそ大丈夫なの? 法国の実家とか何か言ってこない?」

 

「死んでる事になってるだろうし、大丈夫じゃないかなー? でもこの戦争終わったら流石にダメそう」

 

 ふむ、やはりそうなるか。

 今までは何かやらかしても、その後すぐトブの大森林に入っていたからね。きっとそれで上手く身を隠せていたのだ。

 

 でもこの戦争後はそうはいかないだろうな。

 英雄の領域(Lv30超え)に入ってるのがバレたら、漆黒聖典に連れて行かれそう。

 

「まぁその辺は終わってからって事で。大丈夫だよクレティー。きっとぜんぶ上手くいく!!」

 

「……あんたが底抜けの自信家なのはよく分かったわ」

 

「なんでや、今までも完璧だったでしょ!!」

 

「いうほど完璧だったか……?」

 

 私(転生者)が信じる、私(原作知識)を信じろ!!

 

「フフフ、もちろん戦争後はみんなでパーティだよ!! 高いお酒を買ってきて飲もう!!」

 

「某は鳥の丸焼きが食べたいでござる!!」

 

「うーん、このお気楽ども。でも高い酒はちょっと興味あるかも」

 

 そうだ。この戦争が終わったらこの街に拠点を作ろう。

 戦場で剥ぎ取った品で装備も更新しないと。

 きっと報奨金も沢山出るはずだ。

 

 それからもちろんセリーも連れてくる。

 あの子が成長すればPTの活動の幅が広がるからね。

 なんなら武具を作りにドワーフの国まで遠征しても良い。

 

「だから……命を無駄に使うなよ!!」

 

「はいはい」

 

「分かったでござる!!」

 

 私の発言に、2人が覇気のある声を上げる。

 

 私は星を見上げながら将来を夢想する。

 脳裏に浮かんだのは、エ・ランテルの屋敷でアダマンタイトの武具を装備して酒を飲む私達の姿だ。

 

 ……良いね良いね!! 私達の未来が明るすぎる!! これは勝ち確ですわ!!!

 

 

 

 

 ◆◆◆ ◆◆◆

 

 

 

 

「フフフフフフ、フハハハハハハ!! アハハハハハハハハ!!!!!」

 

 リ・エスティーゼ王国の東に位置し、毎年戦争で争っている国――バハルス帝国。

 その帝城で最も豪華絢爛な部屋―皇帝執務室―に、ノックも無しに飛び込んだ者が居た。それもスキップしながら声を上げて。

 

 その身のこなしは舞台で踊るバレリーナのような軽やかさであり、声には狂気が宿っていた。

 口元には垂れっぱなしのヨダレが、明かりを受けてキラキラと輝く。

 

「ジーーールゥーーー!! オ・オ・ゴ・トッ!! じゃぞぉおーーーー!!!」

 

「なんだそのテンションは!? 落ち着け、じい!!!」

 

 そんなおかしな来客を目にして、皇帝ジルクニフは思わず声を荒らげた。

 なぜならその相手は帝国の主席宮廷魔術師にして、自分の元教育係であるフールーダ・パラダインだったからだ。

 

 おまけにフールーダは今すぐ歌って踊りだしそうなハイテンション。

 それは長い付き合いであるジルクニフでさえ滅多に見たことがない、心に秘めた欲望を剥き出しにした本来の姿―通称・魔法キチモード―だった。

 

「おお、私の可愛いジルよ! じゃが17歳になったからと、カッコつけて一人で紅茶など飲んでいる場合ではない!! それよりこの報告書を見るんじゃ!! さぁさぁさぁ!!!!」 

 

「いや別にカッコつけてる訳ではないのだが……。それで報告書だと? あとウザいから本当に落ち着け」

 

 命令をしたはずなのにフールーダが落ち着く様子は一向にない。

 ついでに皇帝に対しての口の聞き方でもない。

 

 だがジルクニフは人払いをして楽しんでいた紅茶を無言でテーブルに置いた。

 そしてフールーダから押し付けるように渡された用紙を受け取り、先頭の文字に目を通した。この状態(魔法キチモード)では、これ以上何を言っても意味がないと分かっているからだ。

 

「王国に潜ませた間諜からの報告書(最新版)……?」

 

「その通り。魔法絡みな為、ワシの元へ先程上がってきたのじゃ。読めば事情が分かるじゃろうて」

 

「はぁ、なになに……」

 

 フールーダの行動に内心うんざりしながら、ジルクニフは素早く内容を読み始める。

 中に書かれていたのは、ツアレニーニャという少女についての調査報告だ。

 

 曰く、奴隷として売られながら六腕を壊滅させた。

 曰く、トブの大森林を走破し強大な魔獣を従えた。

 曰く、15歳という若年で信仰系第4位階に到達した。

 曰く、カッツェ平野で伝説のアンデッドを討伐した。等など。

 

 到底信じれないような出来事が、これでもかと記載れていた。

 

「……本来なら疑って掛かるべき内容だが、じいの様子を見る限り、恐らく事実なのだろうな」

 

「その通りじゃ!! 実際に魔獣と第4位階魔法は見ている者が大勢おる!! じゃが六腕の半分を討ち取ったのは魔獣を従える前!! そしてアダマンタイト級と噂される六腕を倒すには第4位階程度では少々不足じゃろう!!」

 

「不足……ということは」

 

「もしかしたらその娘は()()の領域に入っているかもしれん、ということじゃ!! ならば神官として第5位階に到達している可能性が高い!! フハハハハ、蘇生の魔法も使えるかもしれんぞぉ!! それに魔力を渡す事も!!!」

 

「英雄の領域……推定第5位階……蘇生魔法……魔力贈与……ああ、それでそんなに嬉しそうなのか……」

 

 ジルクニフはげんなりとした顔になった。

 目の前の老人がハイテンションになった原因が分かったからだ。

 

 フールーダは普段は落ち付いた人物なのだが、しかし魔法が絡むと途端にダメになるのだ。

 特に自身が使えない、()()の魔法を()()()()が巡ってくると、大抵は今のように暴走してしまう。

 

 なぜならフールーダの目的は魔法の深淵を覗くことだから。

 それに自身の老化を完璧な形で止めるには、もっと多くの魔力が必要だと言っていた記憶がある。

 

 これらを踏まえて考えると、つまり今回ここに来た目的は……

 

「この少女を帝国に迎え入れろと?」

 

「流石じゃなジル!! 分かってもらえたようで何よりじゃ!! それが出来れば、きっとワシの魔法は更に進展するじゃろうて!!」

 

「確かにそうなれば帝国の魔法技術は更に進むだろうな。しかし戦争に参加を表明しているともあるぞ?」

 

 報告書には王城の褒賞会で、こちらの4騎士を狙うと宣言したとある。

 それから戦争に出るため、アダマンタイト級という、超上級冒険者の身分を捨てた事が書かれていた。

 

 これはよほど国のことを思ってなければありえない事だろう。

 どう考えてもメリットよりデメリットのほうが大きいのだから。

 

 更に六腕討伐の報奨を一部辞退していることから、金銭で靡くとも考えにくい。

 つまり勧誘しても、寝返る可能性はほぼ0だということだ。

 

「となれば残念だが、誘っても期待薄だと思うぞ?」

 

「だからこそじゃよ。……()()()()()。許可をくれ」

 

「はぁ!?」

 

 ギラギラと輝く目で滅茶を言うフールーダに、ジルクニフは心の苛つきを止めることが出来なかった。

 

「高位の神官、それも推定第5位階が戦場に出てくるのじゃぞ? ならば国のためにも捕まえるべきじゃろ? ジルなら言ってる意味が分かるはずじゃが?」

 

「……帝国で使うことが出来れば、その価値は計り知れん、か。しかし従わない場合はどうするんだ?」

 

「その場合は()()()()て使えばよい。必要なのは魔法だけじゃ」

 

「言ってることは分かるが……」

 

 普通の人間が聞いたら酷いと言うだろうが、しかし国の発展からすれば些細な事だ。

 

 ジルクニフは一度書類を手放し、飲みかけていた紅茶に口をつけた。

 そのまま目をつぶり、素早くリスクとリターンを計算する。

 

 自分が行くと言っているが、フールーダは代えの効かない人物だ。

 200年以上に渡って蓄えられた叡智、周辺国家最高の魔法使いと言われる技量。

 他にも皇族への教育から魔法省の統括と、政治にも多分に関わっており、失われた場合の被害は想定すら出来ない。

 

 そのため今までフールーダが戦争に出ることはなかった。

 かのガゼフ・ストロノーフが前線で暴れ帝国の騎士が討たれても、フールーダが失われるリスクには代えられなかったのだ。

 

 確かに魔法を使えば死ぬ可能性はほとんど無くなるだろう。いざとなれば〈転移(テレポーテーション)〉の魔法で逃げる事もできる。

 

(だが戦場に絶対はない)

 

 それに人間は基本的に弱い生き物である。

 どれだけ強くなろうとも、急所に深い一撃を喰らえば簡単に死んでしまう。

 

 これが剣や槍が相手なら飛べば良いが、しかし戦場では逆に弓兵のいい的だ。

 もちろん魔法の中には飛び道具を防ぐものもある。だがそれは魔化されていない物だけだと聞いている。

 

 ――ならばもし、敵対する王国の貴族が、見栄で魔法の矢を持ち込んでいたら?

 ――もし、王国に雇われた傭兵が、大物狙いで魔法の弓を準備していたら?

 ――もし、冒険者崩れが、たまたま錬金術の魔法化剤を持ち込んでいたら?

 

 そうした最悪が起これば、死ぬ可能性が出てきてしまう。

 そしてどれだけ調査をしても、これらのリスクを完璧に把握することは出来ない。

 というか王国軍は基本的に烏合の衆なので、誰が何を持ち込んでくるか逆に分からないのだ。

 

「しかし、敵が向こうから攻めてくるなら話は別、か」

 

「敵軍の中に乗り込むのでなければ、やりようなど幾らでもあるからのぉ」

 

 敵から遠く離れた自軍の中であれば、向こうから矢を受ける可能性は激減する。

 王国兵は基本的に待ちが主体であり、軍全体が前に進んでくることはないからだ。

 

「つまり突撃しない()()に4騎士を待機させ、それを狙ってくる少数部隊を待ち伏せしようというのか」

 

「それならリスクなど有って無いような物じゃろう? 本陣で待つ4騎士を討とうとするなら、少数による突撃しかないからの。ついでに罠もたっぷりとしかけておくわい」

 

 確かにそれならリスクをほぼ0に出来るだろう。

 それにもしこのツアレという神官が、本当に蘇生魔法を使えるとしたら不味い。

 それはあのガゼフストロノーフが、殺しても何度も蘇ってくるということだ。そうなれば前線の騎士達は震え上がり、下手をすれば騎士団を脱退する者すら出るはずだ。

 

 ならばそうなる前に、摘める芽は摘んでおくべきだろう。

 あと心配なのは、この少女が何か切り札を持っていた場合だが……。

 

「この報告書には『王都で10体以上の天使を引き連れて飛んでいた』とあるが?」

 

「恐らく召喚に特化した職業を修めているのじゃろう。それはそれですごいが。まぁワシなら纏めて焼き払えばいいだけじゃな」

 

「ジイのように何らかのタレントを持っている可能性は?」

 

「十分ありうるじゃろう。ワシの経験と少女が修めているだろう職業から推測すれば、一番高い可能性は『上位の天使を呼べる』辺かのぉ」

 

 他にも候補はあるがの……という言葉から続くタレントの羅列をジルクニフは聞き流す。言われてみれば十分に有り得る話だった。

 

「タレントに併せてクラスを得て行った、ということか?」

 

「才能に合わせて生き方を定めるのは当たり前じゃろ? まぁ何にせよ、ワシなら対処は可能じゃから安心せい」

 

「だがガゼフと共に来られると厄介だろ?」

 

「そこはもちろんワシの弟子たちを連れて行くわい。4騎士と騎士団の上位神官に加えて、魔法省の精鋭による囲いじゃ。これなら万に一つもないじゃろうて」

 

 口にした疑問点に余りにも勢いよく食いつかれ、ジルクニフは断れないことを悟った。

 数年ぶりに見る魔法キチモードの顔は、欲望で汚れきっていたからだ。

 

「……いいだろう。そこまで言うのなら許可する。バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスが命じる。帝国主席宮廷魔術師フールーダ・パラダインよ、1週間後の戦争に赴き、ツアレニーニャ・ベイロンを捕獲、PTは壊滅させよ!!」

 

「……感謝する!!」

 

 なのでジルクニフは命令を下す。

 そうしなければ勝手に出撃してしまい兼ねない。いや絶対に行くだろうから。

 

 そんな自身の腹心、フールーダが飛び跳ねて喜ぶ様を見ながら。

 

 ……ジルクニフはとても不安になった。




旗1.フールーダは絶対に出てこないよ!
旗2.本当の位階は気づかれてないからセーフ!!
旗3.私のタレントがバレてる訳がない!!!
旗4.戦争終わったら高い酒でパーティーだ!!!!
旗5.命を無駄に使うなよ!!!!!

ツアレ「5本ぐらい旗立てとけば大丈夫でしょ」
フールーダ「全部予想済み&ワシも行くやで」
ジルクニフ(不安すぎる……)
ツアレ「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!」
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