ツアレ転生者の華麗な異世界生活   作:さろんぱす。

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ようやく戦争に突入。
誤字脱字報告&感想ありがとうございます。


#20 戦争の始まり

 ついに戦争の時がやって来た。

 場所はいつものカッツェ平野だ。半年前にデスナイトを退治した場所である。

 だがあの時とは違い、不思議なことに平野を覆い尽くしていた薄霧は晴れていた。

 

 代わりに分厚い雲に覆われているのが空だ。

 お陰で地に届く太陽の光は少ない。まるで帝国軍の先行きを比喩するような暗雲だ。

 

「おい、あれ見ろよ。白羽聖女団の人たちだぜ」

 

「王国のために立ちがってくれた元アダマンタイト級冒険者か……!!」

 

「めっちゃ強いらしいぜ。これは勝ち確だな。装備もエロくて最高だ……うっ!!」

 

「なんかここイカ臭い? 臭くない??」

 

 そんな戦場で私達は用意された天幕の前にいた。突撃のタイミング待ちだ。

 吹き付ける風に運ばれてくる人々のヒソヒソ声が、これから始まるのが殺し合いだと言うことを、強く実感させてくれる。

 

「戦争前のこの空気はいいよね。なんかこう……血が冷たくなるっていうかさ」

 

「なんとっ、殿は歴戦の(つわもの)でござったか!!」

 

「いや、あんたも戦争は初めてでしょーが」

 

「クレティーとの初夜は圧勝だったぞ☆」

 

「鼻から水飲まされて起こされた恨みは忘れてないからねー?」

 

「すごいプレイでござるな……」

 

 皆様こんにちは。開戦を前にワクテカが止まらないツアレちゃんです。

 テンションが高騰しすぎてやばい。大人気ライブのSS席に座ってる気分だよ!!

 

「それでツアっちは今どんな気持ちなの?」

 

「装備、装備、装備、経験値……装備、装備、経験値、報奨金……フフフフフフ…………」

 

「なんと見事な欲望!! 瞳が金貨マークになってるでござるよ」

 

「うーん、この強盗メンタル。というかこれ、9割ぐらい仕事前の強盗じゃね?」

 

「それほどでもない(金貨型お目々)」

 

 一緒に来ている2人も普段と変わらないご様子。

 軽く冗談を口にしてみるも、何時もと同じで気張ったところはない。頼もしい奴らだ。

 

「それでガゼフさん、そろそろ始まりそうですか?」

 

「ああ。今はお互いに使者を出しての、最後の交渉が終わった所だろう」

 

「んじゃ後は帝国騎士の動き待ちだねー」

 

 私達と一緒に待機中のガゼフさんが、両軍の中央に目を凝らす。

 すぐに私も同じ場所に視線を向けた。

 

 現在、王国と帝国の両軍は、大地に陣を敷いて睨み合った状態だ。

 ちょうど使者による最後の交渉が終わった所であり、後は帝国が突撃を始めれば私達の出番になるだろう。

 

 見れば向こうの陣地には規則正しく整列する4万の騎兵がいる。

 本来なら恐るべき軍だ。槍衾を作りながらも、こっちに来ないでくれ、と祈り続けるしかない相手だ。

 

 しかし私の目には経験値の塊にしか見えなかった。

 オンゲをやりすぎて、満員電車で範囲魔法を撃ちたくなる心理である。

 これ絶対にうめぇ(経験値とドロップ)やつ!! ってなっている。私はもうダメかもしれんね。

 

 だがそんな敵を前にして、驚くことに王国軍の士気は結構高い。

 これは私達の参戦が広く知らされ、末端の兵士にまで伝わっているかららしい。戦意高揚のプロパガンダって奴だ。

 

 もしかしてみんな後ろに立っていれば、私達が敵をボコボコにしてくれる、とでも思っているのかな? 元アダマンタイト級冒険者の肩書が思ったよりやばーい!!

 

 ただしその王国軍は()()()12万しかいない。

 

「でもなんか王国軍少ない、少なくない?」

 

「気づいてしまったか……」

 

 原作は26万だったよね? 王都決戦では40万だ。比べると余りにも少なすぎる。

 

「どういうことなんですかガゼフさん?」

 

「それはその……今回は六大貴族が2人しか来ていないんだ」

 

 聞いてみると、ガゼフさんは理解できないと言わん顔で言葉を絞り出した。

 私もちょっと理解できない。それマジで言ってるの??

 

「うっわー、この状況で4人もボイコットするとか。この国すごいねー」

 

 クレマンティーヌが呆れたように声を上げる。だが全然笑えない。

 

「いやいや、どうして勝てそうな時に手を抜くの? 本当に勝つ気あるの?? もっと熱くなれよ! 私達の負担軽減的な意味で!!」

 

「だって王国軍だしねー。馬鹿っでー」

 

「私も今回ばかりはクレマンティーヌ殿に同意する」

 

 そのまま説明を初めたガゼフさんの話に耳を傾ける。

 聞けば驚くことに、なんと今回の戦争は参戦貴族が去年の半分以下という有様だった。

 特に6大貴族とか言われてる人たちが酷い。

 

 まず貴族派閥のボウロロープ侯が、推しの第一王子に泣きつかれてボイコットした。

 どうも王子はクレマンティーヌに負けたのを恨んでいて、私達を困らせようとしているらしい。

 

 次に同派閥のリットン伯も追従してボイコットだ。

 それから王派閥からは帝国と内通してるブルムラシュー侯がボイコット。

 

「その3人は死ねばいいのに」

 

「それは恐らくこの戦場にいる王国軍の全員が思っているだろうな」

 

 あとウロヴァーナ辺境伯は普通に来ていない。領地が北で帝国と面しているからだ。

 更にボウロロープ侯とブルムラシュー侯の領地とも面してるとか。

 なのでこれら3つの抑えを兼ねているらしい。……立地が酷すぎて参戦は無理だね。

 

「ガゼフさん、だから来てるのは2人だけなんですよね?」

 

「招集に応じてくれたのは、レエブン侯とペスペア侯のみだな」

 

 この2人は王都とエ・ランテルの中間に領地を持っているので、嫌でも来ざるを得ない。

 王国がボロ負けしちゃうと、次は自分たちの領地が最前線になっちゃうからね。まぁどんな理由でも来てくれるだけまだマシだ。

 

 なお、すでにレエブン侯は王派閥に鞍替えしている。書籍版からWEB版にチェンジだ。

 これは私がラキュースパパに告げた親馬鹿化情報+αが、あっという間に貴族社会を駆け巡ったせいらしい。同じ親ばか同士で意気投合してしまった。

 

 そしてリーたんウィルスの凄まじさを知った貴族達は、即座に派閥からレエブン侯を追い出した。

 他にもみんなで第一王子推しだったのに、一人だけ第二王子推しとかいかんでしょ、という理由もあったらしいが。

 

 まぁこれで裏でコソコソ動いて発狂する事も無くなったし、きっとレエブン侯も感謝してくれるだろう(負担が減るとは言っていない)

 

 そんな訳で王と2人が頑張って集めたのが、この軍勢である。

 一応、中立の貴族もチラホラいるようだが、主導権は完全に王様が握っている。

 

「だがその代わりに、全体で統率が取れるようになったのだ」

 

「グダグダ言う奴らがいなくなったお陰でですね、分かります」

 

 あと第一王子の取り巻きがごっそり来てないとか。

 もう理由もなくここにいない貴族は、全員ぶっ殺していいんじゃないかな? 見極めにちょうど良い気がする。

 

 だがそんな人達がいないおかげで、今回の王国軍はしっかりと作戦が練られている。

 レエブン侯の平民軍師が一晩でやってくれました。

 

 確か名前はジェバンニ・デェスノゥトさん、だったかな?

 別の天幕で一度会ったけど、黒髪で切れ目の出来る男って感じの人だった。きっと死ぬ時は過労死に違いない。

 

 伝えられた作戦はこんな感じだ。

 (1).王国軍が帝国軍の突撃を受け止める

 (2).幻術でガゼフさんに化けた偽物が、戦士団を率いて陽動に出る

 (3).透明化した私達が、敵本陣の防御が薄まったところから突撃

 

 かなりシンプルだが、王国は兵のほとんどが農民なのでこれ以上は無理らしい。

 でも十分だ。私はそのまま正面から突る予定だったからね。4騎士が出てくるまで帝国騎士をシバいて回るつもりだったのに比べれば、素晴らしい作戦だと言わざるを得ない。

 

「それから陽動に出る偽物って誰なんですか? 弱い人だとすぐバレちゃいますよね」

 

「それならアズス殿が引き受けてくれた。幻術と覆面(赤)を被っているからバレることはない」

 

「いいのかなー? バレたら組合キレるんじゃね??」

 

「まぁ彼の参戦は毎年のことだからな。バレることはないだろう」

 

 という訳で(2)でガゼフさんの偽物役をするのはアズスである。

 冒険者は引退してないがバレなければOKの精神らしい。というか去年の戦争もこっそり出ていたとか。こいつ人生エンジョイし過ぎだろ。

 

 それから(3)のメンバーは私、クレマンティーヌ、ハムスケ、ガゼフさんの4人だ。

 ハムスケに乗るのは私だけで、2人にはそれぞれ馬が用意されている。機動力を生かして突撃の予定。

 

 だったんだけど……

 

「おっと待てや。腕の良い戦士の助っ人はいらねーか?」

 

「将来、伝説になる予定(ガチ)の神官もいる!!」

 

 陽動隊が出たので私達も準備を始めようとしていたら、天幕に入ってくる人影が2つあった。

 頭から覆面をかぶった強盗のような二人組みだ。紫の覆面はゴツイ鎧で重そうなハンマーを持っていて、もう片方の青覆面は首から水神の聖印を下げている。

 

 ……ガガーランとラキュースじゃねーか!!

 

「知ってた」

 

「知ってたわー」

 

「おお、ガガーラン殿とラキュース殿ではござらんか!!」

 

「ハムスケ殿、名前を出すのは止めてあげてくれ」

 

 どうみてもバレバレです、本当にありがとうございました。

 いや、どうせ来ると思ってたけどね!! 戦争=英雄になる機会だし、見逃すはずないよね!!

 

「ガゼフさん、これって大丈夫なんですか?」

 

「私からはなんとも言えんな。許可は取ってると思うが……(常識的に考えて)」

 

「……勝手に来ちゃった。でも足手纏いにはならないから連れて行って!!」

 

 おまっ、また当主パパが泣くぞ。つーか、アインドラ家は自由すぎる。

 

「ガガーランニキ?」

 

「つー訳でよ、俺らもよろしく頼むぜ。……実は冒険者も引退せずそのままなんだ」

 

「それでそのダサい覆面被ってるんだ」

 

「これはアズス叔父様が愛用してる品の色違いよ。今回の為に用意してもらったの」

 

 スイカみたいに立て線が入っていて、目と口の部分が丸形に開いているマスクだ。

 映画の銀行強盗がよく装備してるタイプ。アズスはガゼフさんの後ろでも奪いに行くつもりなのかな?

 

「まぁ来るなら止めないけど。それで2人とも馬は持ってきてるよね?」

 

「おうよ。俺の『童貞食い号(チェリー・ボーイ)』は最高だぜ!!」

 

「私の『超暗黒黒炎号(スーパーブラックフレイム)』だって負けてないわ!! とっても早いんだから!!」

 

「すーぱーぶらっくふれいむ」

 

「その馬、真っ白なんですけどー?」

 

 連れてきた馬はどちらも真っ白だ。

 こいつら、ひっでぇ名前をつけてやがる。モモンガ様並のセンスだぞ。馬も嫌なのか首をブンブンと横に振っている。

 

「でもダンボールのハリボテじゃないだけマシか……」

 

「それだけじゃないわ。ちゃんと今回の為に武器も用意してある。……『闇の炎剣(ソード・オヴ・ダークフレイム)』よ」

 

「だーくふれいむ」

 

 そう言いながら取り出されたロングソードは、黒い刀身に炎の力が宿っていた。

 きっとラキュースの中では、黒い炎がマイブームなのだろう。

 だがその程度なら可愛いものだ。というかみんな通る道だし。私も似たような時期があった……。

 

 まぁ来ちゃったものはしょうがないね。

 こうなったら一緒に凸ってもらおう。おう、早く用意すんだよ。

 

「作戦は途中で話すとして、ガゼフさんもかまいませんか?」

 

「私としては戦力が増える事に文句はない。……2人とも、覚悟はしているのだな?」

 

「もちろんです。決して足は引っ張りません!!」

 

 返事よし! まぁモンスター狩りまくってる戦闘ガチ勢だし、たぶん大丈夫だろう。

 

「そういうガゼフのおっさんもやる気十分じゃねーか」

 

「ああ、陛下に頼まれたのは初めてだからな」

 

「初めて? 童貞の話か?」

 

「いや違うぞ、ガガーラン殿。ただ陛下がな、戦果を期待すると、そうおっしゃってくれたのだ……!!」

 

 ガゼフさんは目を細め、嬉しそうに空を見上げる。

 あの心配性な王様がそこまで言うとは。よほど私達に期待してくれてるのだろうか?

 

 まぁ人数的に私達がダメだと王国の惨敗は間違いないからね。

 つまり半分はサボった王国貴族の尻拭いじゃねーか!!

 

「それでラキュース、今使える魔法の位階は?」

 

「私も素で第4位階まで使えるようになったわ」

 

「OK。じゃあみんなの肉体と精神の強化、あと状態異常対策をよろ」

 

「任せて!!」

 

 どうやらラキュース達も半年間、頑張ってLVを上げていたようだ。

 恐らくLV22~25ぐらいかな? 戦力としては十分だろう。

 

 成長したラキュースと私は、2人で全員に魔法を掛けていく。

 ガゼフさん達に効果を説明しながら。途中で時間が切れそうなのは延長化も行う。

 

「それじゃあ行くわね。

 ――〈魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)集団下級筋力増大(マス・レッサー・ストレングス)

 ――〈魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)集団下級敏捷力増大(マス・レッサー・デクスタリティ)

 ――〈魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)集団下級耐久力増大(マス・レッサー・コンスティチューション)

 ――〈魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)集団下位精神防御(マス・レッサー・マインド・プロテクション)〉……」

 

 ラキュースが使ったのは定番の肉体と精神の強化。

 筋力・敏捷性・耐久などを上げ、精神魔法への抵抗を増す。

 

「私は属性対策からだよ。

 ――〈集団火属性防御(マス・プロテクションエナジー・ファイヤー)

 ――〈火属性無効化(エネルギーイミュニティ・ファイヤー)

 ――〈集団冷気属性防御(マス・プロテクションエナジー・アイス)

 ――〈集団酸属性防御(マス・プロテクションエナジー・アシッド)〉……(以下略」

 

 私は火・雷・氷・酸の4大属性に耐性を付与する。

 よく攻撃で使われる火と雷は、念入りに完全無効化も付けておく。これだけで6種類も魔法が必要になる。

 

「続けて状態異常への対策よ。

 ――〈集団毒抵抗(マス・レジスト・ポイズン)

 ――〈集団病気抵抗(マス・レジスト・ディジーズ)

 ――〈集団呪詛抵抗(マス・レジスト・カース)

 ――〈集団視覚保護(マス・プロテクトアイ)〉……」

 

 それからラキュースは肉体系状態異常への防御を掛けた。

 デバフとしてポピュラーな毒・病気・呪い・盲目を防ぐ魔法である。

 

「あとは私ので最後かな。

 ――〈魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)天使の皮膜(エンジェル・スキン)

 ――〈魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)天使の祝福(ブレス・オブ・エンジェル)

 ――〈解放移動(フリームーブ)

 ――〈魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)死からの守り(デス・ウォード)〉……」

 

 最後に私がその他の魔法を個別に掛けていく。

 魔法武器以外のダメージを軽減、吐き気・不調・疲労への完全耐性、移動阻害対策。

 

 それから即死への耐性も付与する。これは【重爆】レイナースへの対策だ。

 調べてもらったら、すでに4騎士になってたんだよね。

 カースドナイトには「即死の呪い」スキルがあると明言されていたので使っておく。通常の呪い耐性だけだと貫通してきそうで怖い

 

 なお、私が欲しいのは装備だけなので、重爆さんは普通にぶち殺す予定である。

 助けるのは無理だ。第8位階の天使も、高位の呪いを解く魔法は持っていなかったから。

 まぁ死体が残っていたら蘇生してみようと思っている。生き返ったら呪いが解けるのか? という実験も出来るし。

 

 それとアインズ様のバフ祭りである程度察していたが、どうもこの世界はバフゲーらしい。

 位階が上がるにつれて、使える種類がどんどん増えていっている。その数はすでに20種類以上。

 

 なのでこうして負担を分担出来るとすごく楽だ。

 人数が多いと魔力(MP)の消費が馬鹿にならない。

 仮に一人に5種類ずつでも、6人(匹)もいると30発も魔法を使うのだ。戦闘前にMPが減りすぎちゃうよ!!

 

「前はPTに神官は一人で良いと思ってたけど、最近は二人いた方が安定すると気づいた」

 

「私達もPTに入れてくれるの!?」

 

「この戦争を無事に生き延びれたらね」

 

「本当に!? 約束だからね!!」

 

 抱きついてきたラキュースの頭を撫でながら約束する。

 口からヨダレが垂れてるけど気にしたら負けだろう。

 

 まぁいい加減、ラキュースPTとの合併は考えるべきだと思っていた。

 向こうからのプッシュもすごかったし。

 

 それにもう、ここまで違っていると原作「蒼の薔薇」の結成は無理だろう。

 というか初期メンバーにリグリットがいないから、イビルアイちゃんの仲間化が絶望的なんだよなぁ。

 

 冷え冷えロリ吸血鬼姫を抱き枕にしたかったのに(欲望

 

「んー、あとは出来れば馬にも魔法を掛けたいけど、魔力量的には止めたほうが良いかな。ラキュースはどう思う?」

 

「私もそこまでする必要はないと思うわ。いざとなれば敵の馬を奪えばいいもの」

 

「おっ、そうだな。馬4万匹、全部奪ってこよっか」

 

 軍馬は高いから良い値で売れそう。

 一頭金貨50枚だとして、全部で金貨200万枚だ。……私もヨダレが出そうだぞ!!!

 

 そうして自分達でバフを掛け終わったら、最後はまとめて透明化してもらう。

 お互いも見えなくなるが、そこは〈不可視化視認(シー・インヴィジビリティ)〉で解決だ。

 

「はーい、じゃあ馬(私だけハムスケ)に乗って集まってー。ではお願いします」

 

 ただし魔力系の魔法なので私達には使えない。

 代わりにやってくれるのは、レエブン侯が抱えている元オリハルコン級の魔法使いさんだ。

 

 彼は私達が魔法を使うたびに唖然とし、第5位階を使ったら口を開いたまま固まった。

 だが名前を呼んだら殴る前に再起動してくれた。流石は歴戦の冒険者である。

 

 後は途中で〈静寂(サイレンス)〉を使えば、ギリギリまで察知されることはないだろう。

 なんせ前日にやった実験では、LV30超えの私たちですら全く気づけなかったから。

 透明化+静寂のコンボは本当にやばい。

 

「これで準備は整った。……っしゃー、狩りの時間だぁぁあああああ!!!」

 

「おっほぉおおおーーーー!!!」

 

 私とラキュースは揃ってその場で雄叫びを上げた。

 やはりバフ掛けは終わるとテンションが上がる。自分にだけ課された追加ノルマが終わった気分というか。戦闘中は全員の生命力も把握しとかないといけないし、神官は苦労が多すぎぃ!!!

 

「すまん、ツアレ殿とラキュース殿は何時もこうなのか?」

 

「んー、だいたいこんな感じかなー」

 

「ていうか高位冒険者のマジックキャスターは大体こうだぜ。強くなるほど戦闘前の支援魔法が増えるからよ」

 

「そ、そうか……」

 

「やはり面倒なのでござるな」

 

 一人で掛けてたら発狂しそうだ。だがそれも終わった!!

 

 それから私たちはすぐに走り出した。敵の本陣へ向かって。

 私が乗ったハムスケを先頭に、魚鱗の陣で疾走だ。

 

 直前の連絡によれば、帝国騎士で突撃してきたのは3軍だけらしい。

 残りの1軍は駐屯要塞前に陣を敷き、轡を並べて待機したままだ。

 

 なので恐らくこれが本軍だろう。その中には4騎士も確認されている。

 ちゃんと来てて偉い!! 今更だけど居なかったらどうしようかと思ったぞ。

 

『殿、あそこなら人が少ないでござるよ!!』

 

『でかしたハムスケ!! うぉおおおおお!!!』

 

 無詠唱化した〈伝言(メッセージ)〉でハムスケとテレパシー通信を行いながら、私たちは走る。

 

 突入ポイントは敵陣の北西。

 陽動班が南に出たおかげか、他に比べて()()()()兵が少ない。これは行くっきゃねぇ!!

 

 私たちは走って走って走った。

 そして外周の帝国騎士をすれ違うようにやり過ごし、気づかれないまま敵本陣に突入。

 

「(止まるんじゃねぇぞ……!!!)」

 

 ついに4騎士がいる中央を目前にして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――今じゃ!! 引けいっ!!!」

 

「「「「はっ!!」」」」

 

「はあっ!!?」

 

 ――急に出てきた馬防柵に引っ掛かって、全員が転倒した。

 

「ちょっ、いたぁーい!!」

 

 頭から地面にぶつかってゴロゴロと転がる。LVは上がってるけどやっぱり痛い。

 それも顔面着地は私だけだ。他の4人はちゃんと両足で着地していた。これは恥ずかしい。

 

「みんな無事!?」

 

 すぐに立ち上がりながら〈静寂(サイレンス)〉を解除して確認を行う。

 幸いなことにやられたのは馬だけで、乗っていたみんなは無事な模様だ。ハムスケも硬い毛皮のおかげか、ほとんど傷を追っていない。

 

 それから前方には縄を引いて柵を持ち上げた騎士たちが居た。4騎士も勢ぞろい。

 だが()()()()。直前に聞こえてきた声主を探すが、どこにも見当たらなかった。ものすごく()()()()がある人物が。

 

 なので私は即座に魔法を発動させる。とてつもなく嫌な予感を感じたのだ。

 

「――〈天使の光輪(エンジェル・ヘイロー)〉」

 

 頭上に黄色く輝く輪が出現し、そこから放たれる光が周囲を照らす。

 

 これは魔法的な闇さえも照らし、同時に範囲内の幻術を解除する魔法だ。

 私たちの不可視化も解除してしまうが、柵のタイミング的に相手にはこちらが見えているようなので関係ない。

 

 そして魔法によって炙り出された敵が姿を見せる。

 〈不可視化視認(シー・インヴィジビリティ)〉で見えなかったのは、〈迷彩(カモフラージュ)〉等の別の魔法で隠れていたからだろう。

 

 だが4騎士に守られながら出てきた敵を見て私は絶句した。

 

「げぇっ!!?」

 

「フハハハハハ!! よくぞ!! よくぞ来てくれた!!!!」

 

 それはエ・ランテルで散々フラグを立てた相手。絶対に来ないと思われてた敵。

 帝国の主席宮廷魔術師にして、周辺国家で最高の魔法使い……。

 

「フールーダ・パラダイン!!!!」

 

「会いたかったぞツアレニーニャァアアアーーーーー!!!」

 

「どぼじでいるのぉおおおおおおお!!!!!」

 

 最悪の魔法キチじじいが、よだれを垂らしながら、こちらを見ていた。

 




ツアレ「バフ多すぎて面倒くさい」
ガゼフ「王が期待してくれてる(ビクンビクン」
ラキュース「ついに英雄になる時がきた」
フールーダ「不可視化を過信してはいかん」

こんな話でした。戦闘は次回に持ち越しで。

@追記
防御魔法をかけるシーンで雷系は省略しております。
ルビが20文字までしか振れないからです(雷系は長すぎ)
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