長いのでごゆっくりどうぞ。
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「会いたかったぞツアレニーニャァアアアーーーーー!!!」
「どぼじでいるのぉおおおおおおお!!!!!」
白熱した戦場に悲鳴が響く。
それはヌっと出てきた白髭の老人への絶叫だった。
驚くことにその声は私の口から出ていた。
みなさまこんにちは。
「あーもう、ツアっちが余計なこと言うからー」
「どうするのツアレ?」
ラキュースとクレマンティーヌが心配そうにこちらを見てくる。
そんな事言われたって、これは流石に想定外だよ!!
皇帝以上に代わりがきかない重臣中の重臣が、ノコノコ最前線に来るとか思わないでしょ。
誰だよ絶対に来ないとかフラグ立てたやつ!?
「……私だよ馬鹿野郎!!!」
「結局おめぇなのかよ」
「つまり殿のせいでござるか?」
止めてガガーランニキ! ハムスケ!!
気持はよく分かるけども。私だって過去に戻って私を殴りたい気分だよ。
だがまだだ、まだ旗が一本有効になっただけ。まだ慌てる時間じゃない!!
「あの白ヒゲおじいちゃんがお腹痛くなって帰る可能性だって残ってる」
「いやそれはないが。……それよりツアレニーニャよ、ワシが来たのは他でもない、お主を迎えに来たのじゃ。ワシとともに魔法の深淵を覗こう!! なっ?」
「なっ? じゃねーよ! 何いきなり意味分かんないこと言ってんだ!!」
これからどうするか考えていると、フールーダは急に勝手なことを言い出した。
当たり前だが意味がわからない。周囲もまるで話に付いて行けてなかった。まじで何しに来たんだこのジジイ……。
「ていうか何で私のことを……もしかして、またストーカーなの?」
「その通りじゃ。もちろん全部知っておるとも!! お主の生まれと育ち! 奴隷から冒険者へ! 森の賢王を従え、(推定で)第5位階を使えることまで!! 帝国の情報局は優秀じゃぞぉおおお!!!」
「ふぁっ!?」
まじかよ。帝国情報局って実際はこんなに有能だったんだ。
皇帝に「経験が浅いか……」とか言われてたのに。それとも王国がセキュリティガバガバなのかな? 予想以上にストーカーされててドン引き。
「そういう訳でツアレニーニャよ、改めて勧告しよう。――ワシの元に来てその才能を活かすが良い。今ならワシの助手扱いとし、帝国での生活を約束しようではないか。残りの面子も悪いようにはせん」
「嘘乙。それ無理でしょ」
フールーダは偉そうな事を言ってるけど絶対に嘘だ。間違いなく言う通りにはならない。
なぜなら私はバハルス皇帝の有能っぷりをよく知っている。そしてそれ以上の
「鮮血帝なら間違いなく首輪をつけようとするはずだよ。私のやった事を知っているならね」
きっと降っても私たちはバラバラの場所に配置され、お互いを人質に都合良く使われる。
いやソレだけならまだマシな方で、酷い場合は精神を壊される可能性だってある。
「むしろ反抗させない為に、拷問して心を折るんじゃないかな。法国のエルフみたいに」
だって魔法詠唱者に拘束なんて無意味だから。
服従させるなら心を折るしかない。少なくとも私が向こうの立場なら間違いなくやる。
しかしそれはもう完全に国の奴隷にされるということだ。碌なもんじゃねぇ!!
「そんなの死ぬより最悪だよ。だから断る!! つーか魔法の深淵とか興味ないし」
「ならば無理やり連れていくとしよう。心配するな、お主の体はワシが有効に活用してやる。隅から隅まで調べてのぉおお!!!」
ツアレちゃんの体を調べるとか、なんだこの変態は。
だがそんな事を言っちゃうのなら、こっちも一つ真実を教えておいてやろう。
「なら私から大サービスで一つだけ良いことを教えてあげる。高位の占術魔法で知ったんだけどね……」
「ほほぉ、なんじゃ?」
フールーダが興味深そうに耳を傾ける。信仰系魔法の持論とでも思ってるのかな?
だが馬鹿め。私が伝えようとしてることは魔法関係ない。それは今から
「良いかよく聞け――お前らの皇帝は将来ハゲる!! ツルッツルのピッカピカだ!! ……磨いた水晶玉みたいな頭の皇帝になんて仕えるかーーーー!!」
「な、なんじゃとーー!?」
大声で言い切ると、帝国の騎士たちにざわざわとした動揺が走った。
「うそだろ」「ピカピカて」「輝いちゃうの!?」「ソレはソレで有りだな」などと悲鳴が聞こえる。中には自分の頭を抑えている人まで居た。
やはり誰でも若ハゲは嫌なんだね。だがこれはチャンスだ。このまま不意打ちでサクっとやれるか?
「落ち着けい!! 帝国の歴代皇帝にハゲはおらん!! こんな世迷言を信じるではないわ!!」
「フールーダ様……」「生やせるのか?」「魔法ならワンチャン」「ハゲでよくね?」
しかしフールーダの一声で騎士たちは落ち着きを取り戻してしまった。
チッ! 長く仕えてるからか、向こうの方が信頼度が高いようだ。事実なんだけどなぁ。
だが最早やるしかない。
バフの持続時間を考えると、これ以上くっちゃべってる暇はないのだ。
それにフールーダが来てるのは予想外だったけど、経験値とドロップが増えると考えれば悪くない。
「ならばちゃっちゃとぶっ殺して、まとめて剥ぎ取ってやんよ!!」
私がそっと目配せすると、みんなもすぐ戦闘態勢に入った。
それぞれが武器を抜いて正面に構える。さぁ、パーティの始まりだよ!!
「ツアっち……やるのね!? 今……! ココで!!」
「もちろん!! 勝負は今!! ここで決める!!!!」
なんだかビッグになりそうなクレマンティーヌに答え、私はタレントを発動させる。
無敵の〈
――そして空間に弾けた光が像を結んだ。
「見よ!! (3番目の)第8位階天使の尊き姿を!! ――
それは全長10メートルにも及ぶ巨大な「傘」だった。
肩部分から何十枚もの白い翼が放射状に生え、その中央に丸い頭がポツンと載っている。
それから手足のない細くて真っ直ぐな体には絡まる無数の車輪。
地面と水平にグルグル周り、下に向かうほど直径が小さくなっている。視線の角度によっては、鱗片をむしり取られた白い松ぼっくりに見えるだろう。
……どう見ても
フハハハハハハハ!! デカくてカッコいいぞぉーーー!!!
「何だあの天使は!?」「第8位階、嘘だろ!!?」「し、しかしアレはぁああああ!!!」
出てきた天使のプレッシャーに帝国の兵たちが悲鳴を上げる。4騎士ですら後ずさりしていた。
「だ、第8位階じゃと!? ……フハハハハハハ!! 何たる才!! 素晴らしいぃ!! 素晴らしいぃいいい!!!」
しかしそんな中で魔法キチおじいちゃんだけは大興奮だ。どうやら天使がお気に召したらしい。うわーきもい。
「でも残念。貴方の魔法探究もここまで。私が終わらせて上げようっ!!」
「なんじゃと!? じゃがそれには及ばんわい。それにこれは……これはワシのもんじゃ!! 必ず連れて帰って帰ってペロペロしてペロペロぉおおおおお!!!!」
フールーダはテンションが上りすぎたのか、最早何を言ってるのかすら不明になってきた。
だがこうなればもう関係ない。この天使は魔法戦、それも物量に特化した天使なのだ。
発動する魔法は全て三重化され、更に〈上位魔法無効化Ⅲ〉まで持っている。
アインズ様が俺TUEEEで使ってるスキルである。その効果は第6位階以下の魔法の完全無効化。例え帝国屈指の魔法使いといえども、これはどうしようもあるまい!!!
「じゃあ纏めて死のっか♡」
私は渾身の笑顔を浮かべると、震える帝国軍さんに死を告げた。
ぶっぱなすのは〈
周囲を纏めて燃やし尽くすこの魔法を雨のように降らせば、ここにいる帝国軍の全滅は間違いないだろう。ククククク、勝ったな!!!
――だが私がそれを命じる前に『
「……はっ? ……はぁああああ???」
意味が分からない。
私はアメフト漫画の3兄弟みたいに悲鳴を上げながら立ち尽くす。
周りのみんなも同じ様に固まっていた。
その間に天使を構成していた魔力が、光の残滓となって空に解けていく。
キラキラした粒子が流れていく様は酷く幻想的だった。
……だが私の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされていた。
これは幻術で隠されたとかでは断じてない。
精神的な繋がりも消えていることから、まじで消滅してしまっている。どういうことなの?
「フハハハハハ、心底分からんという顔じゃな?」
しかしそんな場に、酷く落ちついたフールーダの声が響く。
顔にはニヤニヤとした笑みが張り付いていた。
心の底から楽しい、そんな笑顔だ。ねっちょりとした視線と併せてキモさが7割アップ。
「では勉強不足のお主らに教授してやろう。さっきの天使を消したのはワシじゃ。使ったのは〈
「マジックディスペル……だと」
知らない魔法だ。でもどっかで聞いたことあるような?
私は必死に脳内から原作知識を絞り出す。
……あっ、まさか3巻でシャルティアが使った〈
「これは発動中の魔法効果を一つ強制解除する魔法じゃ。それを弟子たちとの儀式で強化し、〈
「魔法効果の強制解除ぉ?」
本当かな? でもそれなら〈上位魔法無効化Ⅲ〉で無効化されたはずだ。
なんせフールーダが使える魔法は第6位階までなのだから。だからそれはありえない。それと儀式って何時やったんだよ!! 後こっそり魔法強化スキルも使いすぎぃ!!!
「そんな馬鹿な。だってあの天使には魔法無効化能力が……」
「その魔法無効化は天使本体の能力じゃろ? じゃがワシが対象にしたのはお主の魔法じゃ」
「えっ、私の魔法……?」
もしかして召喚魔法って、発動したら終わりじゃなかったの……?
「さよう。召喚を維持する〈天使召喚〉の
「ほげぇええええ!!」
フハハハハハ! と笑い出したフールーダを前に動揺を隠せない。
そんな方法ありかよ。普通、そんな細かい事まで考えないよ!! どんだけ魔法検証してんだこのジジイ。
「ふむ、どうやらアレがお主の切り札だったようじゃな。その顔を見るに、しばらくは使えまい?」
「こ、このキチガイジジイ!! 人としてやって良いことと悪いことがあるでしょ!?」
「そんなものはゴミじゃ! 魔法の研究の前ではな!! というかお主が召喚に特化しておることは分かっておったからのぉ。ならば対策ぐらい用意しておるに決まっておろうが。この辺にはそのための魔法陣がこっそり敷き詰められておるわい」
2本目と3本目の旗も消費されてるじゃないですか、やだー!!!
しかしこれは不味い。タレントなしでフールーダと戦うとか厳しいってレベルじゃない。かくなる上は……
「ガゼフさん、いったん帰って出直すのは?」
「何を言ってるんだ。無理に決まっているだろう」
「ですよねー」
うーん、思わず現実逃避してしまったけどダメなようだ。現実は何も変わらない。
「さてさて、どうするね? 飛んで一人だけ逃げるかね? その場合、ガゼフ・ストロノーフも含めて残りは皆殺しにさせてもらうが」
「ぐぬぬぬ……!」
これで私が魔力系マジックキャスターだったらなぁ。
〈
「んー、ツアっちこれはちょっとマズイんじゃないかなー?」
「大丈夫よ、それでもツアレなら! ツアレならなんとかしてくれる!!」
「確かにやべぇな。2人も童貞臭がする奴がいるぞ(嗅覚感知)」
ラキュースからの信頼が重い。クレマンティーヌは普段と変わらない様子だ。
ガガーランニキはテンションがちょっとおかしい。舌なめずりしながら敵を見つめている。
「……ちなみにどの人?」
「あのフールーダってのと、盾を2枚持ってる奴だ。そこで俺の出番なんだが」
「どこで?」
まさかこの場で押し倒すつもりなのか。
100年物のレアを見つけたワイン好きみたいな顔になってる。でも250年物はちょっと熟成しすぎじゃね?
しかしそんなマイペースなみんなのお陰で、私もいつもの調子を取り戻した。
すぐに周囲を見渡して敵の戦力を確認する。
「んー、突出してるのはフールーダと4騎士。あと魔力系っぽい白ローブが4人に、神官が12人。魔法詠唱者は全員が第3位階以上かな? 他は囲いを作るためのオマケっぽい気がする」
「たぶんそうだろうねー」
クレマンティーヌの同意を得られたので、間違ってはいないだろう。
そして白ローブ4人は恐らくフールーダの弟子達だ。
神官の方は軍人さんかな? まとめると総数21人と結構な戦力だ。私達5人+1匹にどんだけ警戒してんだよ!!
だが降伏なんて出来ない。
理由は先ほど考えた通り。そんな事をしても待っているのはバッドエンドだけだ。
「ならば戦うしかない」
「ふむ。ではいい加減、始めるとする。――〈
ついに戦闘が始まる。フールーダと弟子4名が飛び上がった。
「行くよみんな!! ――〈
私もすぐに飛び上がる。
フールーダ達を放置すれば上空から爆撃されて全員死ぬ。
だがこちらのPTで飛べるのは私だけだ。だから私が行かなければならない。
「……私がフールーダを抑える。ガゼフさんはこっちをお願いします。ダメそうなら撤退で」
「……承知した。そちらも死ぬなよ」
私はガゼフさんにこの場を頼みながらフールーダ達を追った。途中で天使を召喚しながら……。
◆◆◆ ◆◆◆
「はいはい、じゃあ行きますよー」
フールーダとツアレが空に昇った後。
地上に残った者達の中で、真っ先に動き出したのはクレマンティーヌだった。
「ポイポイっとねー」
クレマンティーヌはいつもの軽口を叩くと、腰のポーチから掴めるだけの白玉を取り出す。
敵陣へと放置込まれたのは、錬金術で作られた煙幕玉。
本来は4騎士を倒した帰りに、追ってくるだろう帝国軍を振り切る為にと用意されたアイテムだ。
だがもはや出し惜しみしてる場合ではない。なので遠慮なく使う。
白玉は破裂すると中の粉が広範囲に拡散し、あっという間に周囲の視界を覆っていった。
これにより擬似的な遮蔽が作られ、中と外の命中率は著しく下がる。
おまけに同士討ちを恐れて敵は魔法を撃ちづらくなるという寸法だ。
「でも密着しちゃえば関係ないんだよねー……〈能力超向上〉〈疾風走破〉」
そうして自分に有利な状況を作ると、武技を使い煙の中へ突っ込む。
真っ先に狙ったのは嬲りがいのありそうな4騎士、ではなく敵の神官達だ。
なぜならクレマンティーヌは知っていた。
集団戦において真っ先に殺さなければいけない
小さい頃から叩き込まれてきた地獄の英才教育。その時の家庭教師、曰く――
(神官を生かしておいてはいけない、だったかなー)
「ひっ!? なんでーー」
クレマンティーヌはそんな偉大な名言を思い出しながら、驚く神官の懐にスッと入り込む。
それから流れるような動作でスティレットを突き出した。
ほとんど抵抗もなくドスッと切っ先が吸い込まれ、心臓に穴が空いた神官が口から血を吐きながら崩れ落ちる。致命傷による即死だ。
(よっし、まず1人目ー)
あっさりと敵を一人殺したクレマンティーヌは即座にスティレットを引き抜くと、続けて隣にいた二人目に向かった。
「ひっ!? や、やめ……」
(だーめ♪)
白い視界から突然現れたクレマンティーヌに驚く相手を掴み、今度は下から突き上げる。
顎の根本から頭部に入ったスティレットの切っ先は、そのまま脳に到達。再び神官の命を奪った。
(これで2人目ー。なんだ行けるじゃーん)
乗ってきたクレマンティーヌは記憶を頼りに3人目が居た位置に向かう。
疾風のような速度で迫り、無言で心臓にスティレットを突き立てる。
すでに英雄の領域に踏み込んでいるクレマンティーヌにとって、もはや第3位階の神官なんて殺すのは簡単だ。
(はい3人目ー)
だが3人目を殺ったところで、横から赤い剣先が伸びてきた。
とっさに身を捻って躱したが、中々の鋭さだった。
「それ以上はやらせはせんぞ!!」
「ちっ!」
その言葉に一度バックステップで距離を取る。
更に誰かが魔法を使ったのか、風によって煙幕が晴れていった。
前には4騎士の1人が立ち塞がっていた。
黒髪を後ろに流し、一房だけ前に垂らした髪型の騎士だ。
防具は黒い全身鎧だが、何故か兜は被っていない。右目下には不幸そうな泣き黒子が一つ。
「性急なお嬢さんのようだが挨拶させて頂こう。お初にお目にかかる。俺は帝国4騎士の一人、【悲酸】のディルムード・フリン・ダィスキー。貴様の相手は俺が承ろう」
「んー、貴方程度に私の相手が務まるのかなー?」
なんだか他人の嫁を寝取って悲惨な最後を迎えそう騎士だ。
武器は両手に一本ずつ握られた赤と黃のスティレット。
その輝きからは鋭さに加え、込められた莫大な魔法の力が感じられた。
恐らく対策もせずに正面から打ち合えば、壊れるのは自分の持つ武器の方だろう。
「では参るぞ――〈剛腕剛撃〉!!」
「はいはい――〈超回避〉〈超回避〉」
だがクレマンティーヌに動揺はない。だって事前に集めた情報で知っていたから。
むしろ予想よりも弱そうなので、このまま予定通りの行動を取ることにした。
「き、貴様どこにいく!?」
「貴方は趣味じゃないから後回しー。そしてまた煙幕玉っと」
クレマンティーヌはディルムードの剣先を躱しつつ、残りの神官達に向かう。
そして再び煙幕玉を投げつけ遮蔽を作った。
急に湧いてきてびっくりしたが、この騎士の相手は最後だ。
最優先はやはり神官。持久戦に持ち込まれるなんてゴメンだから。
逆に言えば神官さえ始末してしまえば、こちらが負ける要素はなくなる。
(こんな戦法が取れるのも、フールーダが弟子をみんなを連れて行ってくれたおかげだねー)
もし一人でも残っていたら、こんな風には戦えなかっただろう。
煙幕ももっと簡単に吹き飛ばされ、空から〈火球〉や〈魔法の矢〉を連打されて防戦一方だったはずだ。
だが全員いなくなったお陰で楽ができている。
恐らくフールーダはツアレを捕まえる以外に興味がないのだ。他は帝国騎士に分投げ、ということだ。
(その分、ツアっちは大変そうだけどねー。まっ、どうにかするでしょ)
大変だとは思っているが、負けるとは思っていない。
なぜならツアレには、最近手に入れた
(だから私は私の役割を果たさないとねー……おっ、これで4人目じゃーん)
そうして4人目の神官を背中から突き殺し、追ってくるディルムードの気配を感じながらクレマンティーヌは思った。やっぱ人間は殺しやすくていいなぁー、と。
◆◆◆ ◆◆◆
王国の突撃組と戦闘が始まった数分後。
帝国4騎士の1人、【重爆】レイナース・ロックブルズは、早くもこの戦場に来たことを後悔していた。
「――〈六光連斬〉!! 〈六光連斬〉!! もう一つ〈六光連斬〉!! ぬぅううん〈六光連斬〉!!!!」
「「「「ぐああああああああ!!!」」」」
眼の前では王国の戦士長ガゼフ・ストロノーフによって騎士たちが次々に討たれていた。
治療魔法をかけようにも、クレマンティーヌという少女によって神官たちはすでに全滅しており、このままでは敗北待ったなしという状況だ。
「何よこれ!? こんなに強いなんて聞いてないわよ!! 帝国情報部の無能どもがっ!!!!」
レイナースは思わずカッとなって虚空に叫んだ。
開戦前の情報では、ツアレという少女以外は良くて4騎士と互角、もしくはそれ以下だと聞かされていたのだ。
だがいざ蓋を開けてみれば、相手には
これでは愚痴の一つも言いたくなるだろう。
「どうしたでござるか? 某たちも早く命の奪い合いをするでござるよ。買ってもらった新装備を試したいでござる!!」
レイナースの前にも強大な魔獣―ハムスケと呼ばれていた―が立ちふさがっており、とても他のフォローには回れそうにない。
(というか勝てるわけ無いでしょ!! 第5位階魔法と
彼我の戦力差を冷静に把握し、レイナースは絶望に表情を曇らせる。
レイナースも初めは真面目に戦おうとしたのだ。だがすぐに無理だと悟った。
初っ端から決めに行った全力攻撃を片手で防がれ、代わりにもう片方の爪で引き裂かれ、追撃に伸びてきた尻尾でぶん殴られて。
おまけに起死回生として放った魔法武器の爆炎も、レイナースの切り札である呪いスキルも、錬金術アイテムによる足止めも、この魔獣には一切効かなかった。
「無駄でござる。この身は殿の第5位階魔法で守られている故。炎も、呪いも、即死も、拘束も、全て完全耐性という奴でござるよ」
「そ、そんな。第5位階の支援魔法だなんて……」
第5位階。帝国でも使えるのはフールーダしかいない、まさに英雄の魔法。
それがよりにもよって圧倒的な身体能力を持つ魔獣に複数掛かっていると言う。そんな事を告げられては、戦意など挫けるのは当たり前である。
(どうしてこんな事になってるの……?)
レイナースは注意深くジリジリ下がりながら原因を考える。
最初は良かった。自分たちはまだ強者だと思っていた。
4騎士の筆頭【巨刃】ジークフリート・スマナ・ダインがガゼフの前に立ち、いつも通りのセリフを口にするまでは。
『すまない……帝国最強の騎士で本当にすまない……』
ジークフリートは長身でガタイの良いイケメンで、自信家のナルシスト。
帝国でも珍しい銀の髪を長く伸ばしていて、常に見下したような物言いが鼻に付く男だった。だがその戦闘力だけは本物だ。
更に装備しているグレートソードは恐るべきものであり、込められている魔法効果は刀身の周りに「力場による二周り以上大きな刃」を生成する、まさに巨刃と呼ぶべきもの。
おまけにこの力場は半透明で見えづらく、切れ味と耐久性は元の武器と同じ。
つまりアダマンタイトで出来た、不可視の巨大な剣ということだ。それはまさに最強の剣と行っても過言ではない。
――しかしその恐るべき武器も、ガゼフ・ストロノーフには全く通じなかった。
『すまない……武器まで最強で本当にすまない……』
『ではこちらから行くぞ。――〈閃光烈斬〉!!』
『すまなぃ……!?』
そんな言葉を残して、気づけばジークフリートが死んでいた。
プロの料理人がカボチャを包丁で切るように、頭がパックリと真っ二つだった。
割れた頭からはピューピューと血が吹き出し、倒れた体と地面を赤く染めていく。
レイナースは驚きすぎて口を閉ざすことが出来なかった。
その余りにもあっさりとした最後に。
だがソレも当たり前だろう。
レイナースは知るよしもなかったが、今のガゼフには全てが揃っていた。
王国の宝物装備。強力な支援魔法。隣に立てる同LVの仲間。
そして心から尊敬する王からの激励……。
それらによりガゼフは、もはや阿修羅ですら止められない存在、FAガゼフ・スーパーモードとでも呼ぶべき状態と化していたのだ。
「来いよ!! 俺は王国戦士長!! リ・エスティリーゼ王国を愛し、守護するもの!! いちゃもんで戦争をふっかける貴様らを、無事に帰すわけにいくかあああ!!!」
(フールーダ様が戻ってきてくれるとは思えないし、これはもうダメね……)
おまけにガゼフはその後も凄まじい武技を
「〈六光連斬〉!! 〈六光連斬〉!! 〈流水加速〉!! 〈六光連斬〉!!!!」
ガゼフが叫ぶたびに帝国騎士たちが倒れていく。
それも1人や2人ではなく、ダース単位でだ。
通常ならこれほど武技を連発することは不可能なはずだが、恐らくは魔法か装備によって可能になっているのだろう。
一般騎士にまで出し惜しみしない所からすると、もしかしたら限度なく連発出来る可能性まである。一体どうしろというのか。
「つまりこの戦争は最初から負けだったってことね」
ならばもはや出来ることは一つだけだ。
レイーナスは魔獣の目―力強い瞳―を見ながら、自分の望みを口にした。――降伏を。
「ねぇ魔獣さん、私はここで降伏したいのだけど良いかしら?」
「殿からは『蘇生で呪いが解けるのか実験したいから確実に殺せ』と言われているでござるよ。だからダメで御座る」
「……えっ?」
しかし降伏は認められなかった。予想外の答えにレイナースの顔が引き攣る。
だが眼の前の魔獣はもう話は終わりとばかりに、装備している魔道具を起動させた。
「
白くて柔らかそうな毛に覆われた両腕の外側に、半透明の爪が一つずつ浮ぶ。
恐らく名称的に
つまりこちらが1回攻撃する間に、向こうは5回攻撃してくるということだ。
しかも魔法武器のように強化された爪と尻尾で。降伏も許されない。……詰んだ。
「ではそろそろ行くでござる!!」
「そう、痛くしないでね。……行くわ」
魔獣の無慈悲な宣告を前に、レイナースは自身の末路を悟った。
そして神に祈りながら槍を握りしめ――前に向かって突撃した。
ツアレ「天使さん出オチって、おい」
クレマン「人間相手は楽だなー」
ガゼフ「強すぎてすまない」
ハムスケ「降伏は却下」
フールーダ「捕獲対象以外の面子? 知らんがな」
という訳で出落ちアンサラー回でした。似合いすぎて困る。
なお〈魔法解除〉については、そういう設定ということでお願いします。
主人公の戦闘は次に持ち越し。