ツアレ転生者の華麗な異世界生活   作:さろんぱす。

23 / 30
戦争編のラストになります。かなり長め(1万2千字ぐらい)
誤字脱字報告ありがとうございます。感想もお待ちしております。


#23 さよなら、フールーダ・パラダイン

 クレマンティーヌが【悲酸】を討ち取った頃。

 ラキュースはガガーランと共に【不動】ナザミ・エネックと対峙していた。

 

「必殺! ラキュースブレイド!!」

 

「おらおらおらおら!!!」

 

 乾いた大地に鋼の音が鳴り響く。

 ラキュースの黒剣と同時に、ガガーランがその重ハンマーを叩きつける音だ。

 しかしそれを盾で受けるナザミはびくともしない。

 

「くっ、硬い!!」

 

「黒くて太くてカッチカチだぞ!!」

 

「…………」

 

 それでもラキュースは諦めず右から剣を叩きつけた。左からはガガーランの槌だ。

 だがそれらはナザミが両手に持つ盾で受け流された。外側に弾くように滑らせて。そこに踏み込んだ両盾が突き出される。

 

 恐らくは武技〈盾超強打〉による一撃だ。

 体制が崩れたラキュースとガガーランは殴打され、ダメージを負いながら後方へと吹き飛ばされた。

 

「ってぇな。流石は帝国最強4騎士の1人。つえーじゃねーか」

 

「気をつけてガガーラン。〈集団軽傷治療(マス・スライト・キュアウーンズ)〉」

 

「おっ、さんきゅー」

 

 ラキュースは範囲回復魔法を行使しながらナザミを睨みつける。

 

 事前に聞いていた情報通り、ナザミは防御特化の騎士だった。

 アダマンタイト製の全身鎧を身に着け、頭もしっかりと兜を装備している。

 そして両手に大盾(タワーシールド)を持つ。珍しいスタイルだ。

 

 だがその堂々とした構えは巨大な山の如し。まさに【不動】と呼ぶにふさわしい立ち姿だった。

 実際、ラキュース達はこれまで何度も攻め込み、しかし未だにかすり傷すら付けられずにいた。

 

「でも相手にとって不足なし。これこそ私達が求めていた敵だわ」

 

「確かに俺も燃えてきたぜ……!! こんなに強い童貞は初めてだ」

 

「…………」

 

 だがそんな相手を前にして、ラキュースはテンションを燃え上がらせていた。

 初めての戦場で熱気と血の匂いに当てられ、雰囲気に酔っているのだ。たまらぬ戦いであった。

 

「フフフ、今日のこの眼は闇が良く見える」

 

「今日のこの眼って、お前の目はそれしかねーだろ」

 

「…………?」

 

 ノリにノったラキュースには、もはやガガーランのツッコミすら追いつけない。

 ラキュースは胸の高鳴りをそのままに、マスクを外して堂々と顔を見せる。

 

「ガガーラン、もうマスクは良いわ。脱ぎましょう。影となりて光に鉄槌を下そうと思ったけど、やっぱり必要ないみたい」

 

「良いのかよ? 確かにこのマスク蒸れすぎて邪魔だけどよ」

 

 もはやラキュースに正体を隠して戦う気は全く無かった。

 なぜなら、これは歴史に残る戦争だと()()したからだ。

 

慌てるな(大丈夫)!! 禁断の果実(勝利)さえ食せ(得れ)ば、きっと絶望を恐れる(組合で降格される)ことはない!!」

 

「勝てば官軍ってか? いいねぇ。俺もコソコソするより、そういうノリの方が好きだぜ」

 

「…………????」

 

 勝つ。ただそれだけが今の自分がやるべきこと。

 ラキュースはココが勝負どころだと悟る。この敵にチマチマとした攻撃は無意味だ。

 ならば必要なのは自身の最大の一撃! それを持って屠るのみ!!

 

「それで貴方は私達のことを知っている? ……そう、知らないのね。やはり深淵に光は届かぬか」

 

「俺らずっとモンスター狩ってただけだもんな。組合で依頼とか一度も受けてねーし」

 

 だがその前に名前ぐらいは告げておくべきだろう。

 なぜなら敵は最強の騎士なのだから。ここで名乗らずどこで名乗るというのか。

 

 ラキュースは一度深呼吸し、血を落とすよう斜め下に剣を払う。

 そこから空間を裂くように水平に剣を振った。

 そして剣先を天に向け、抱きしめるように体の前に持ってくる。

 最後はもう片方の手も柄に添え、両肘をピンと左右に伸ばす。深呼吸をしながら、ゆっくりと目を見開く。

 

 それは無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きだった。

 自分で考えたカッコイイ騎士のポーズその3だ。

 

 ちなみに隣のガガーランも真似してすぐに同じポーズをとっていた。

 面白そうだったからだ。なんだかんだノリの良いガガーランである。

 

「ならば教えてあげるわ。しっかりとその身に刻みなさい」

 

「…………」

 

 ラキュースは今こそ名乗りを上げる時だと直感した。

 なんせ敵も無言で聞く態勢になっている。楽しみにしてくれているのだ。

 なお本当は【不動】がただ無口なだけなのだが、しかしラキュースは止まらない。

 

 だからカッコいいポーズを続けたまま、ラキュースは周囲に向かって告げる。

 

 ――こんな時の為に半年間、頑張って考え続けた名乗り口上を!!!

 

「最強の称号を持つ帝国の騎士よ。

 汝の強さに敬意を評し、あえて名乗ろう!!

 

 我は天翼の聖女に導かれし者!! 共に世界を巡る星!!

 

 一度は世界の混沌に絶望し、されど再び光を目指して走る使者!!

 深淵を覗きし両目で闇を見据え、宿業によって夜空に咲く黒き薔薇!!

 

 そして我は()()の誓いの果てに、この身に()の炎を宿し、()気を持って聖女に並ぶ()!!

 

 そう、私はラキュース!!

 

 ――【永遠の闇勇者(エターナル・ダーク・ブレイバー)】ラキュース・アインドラだぁあああああああああ!!!!!」

 

 ラキュースは絶叫と共に剣を頭上に掲げ、武器の魔法効果で黒炎を出現させる。

 

 ……決まった。あまりにもカッコ良すぎる名乗りだ。

 どれぐらいかと言うと、少し離れた場所の騎士達までが立ち尽くしているほど。

 きっと戦意を感動が上回ってしまったのだろう。だがツアレの敵を許す訳には行かない。

 

「さぁ行くわよ!! 魔力っ、全開!!!!」

 

「ちなみに俺は【童貞の守護神(アイアンメイデン)(自称)】ガガーランだ。よろしくな。行くぜぇ!!」

 

「…………」

 

 宣言とともにガガーランが再びナザミに殴りかかる。

 その間に、最高の名乗りに満足したラキュースは続けて魔法を発動させた。

 残念ながら素の実力は向こうが上だ。だがその差を埋める力がラキュースにはある。

 

「〈神の力(ディバイン・パワー)〉〈神の機敏(ディバイン・スピード)〉〈神の直感(ディヴァイン・イントゥイション)〉〈神の寵運(ディヴァイン・フェイヴァー)〉」

 

「喰らえ俺の超弩級連続攻撃(パパ活Ver)を!!」

 

 自己強化魔法(バフ)である。

 筋力と生命力を増加させ、敏捷性と反応速度が上昇し、知覚と命中率が向上。

 最後は武器攻撃と致命的な一撃(クリティカル)の威力増幅だ。

 

 通常、こうした強化魔法は効果が一番高いものしか有効にならない。

 「筋力10上昇」と「筋力20上昇」の魔法を同時にかけても、筋力は20しか上昇しないということだ。

 

 だが今使ったのは神聖属性によるパワーアップであり、基本的な強化魔法とは()()()だ。

 そのため効果は()()する。

 先程の例えであれば「筋力20上昇(強化)」に「筋力10上昇(神聖)」効果が加算され、筋力は合計30上昇するという事。

 

(……待っててツアレ、私は勝つわ!!)

 

「おらおらおら!! お前がパパになるんだよ!!!」

 

「…………!?」

 

 自己バフを掛けつつ、ラキュースはこの戦場に出る前を思い出す。

 まず最初に浮かんだのは、半年前にツアレに置いていかれた時の事。

 

 知った時は悲しかった。どうして自分はダメなんだと叫んで泣いた。

 でもそんな事をしても何も変わらなかった。父親と叔父からも追うことを禁止された。

 

 それからラキュースは部屋に閉じこもって考えた。

 考えて考えて考えて……。そしてようやく気づいたのだ。

 

「私が連れて行って貰えなかったのは足りなかったからよ。――強さと!! そして個性が!!」

 

「あいつらはマジ濃いからなぁ。俺らが埋もれちまいぐらいだ。ありゃやべーぜ」

 

 なんせ神官としては自身より上位のツアレがいる。だから単なる支援役は必要が薄い。

 一緒に戦うには付いていけるだけの強さと共に、PTで埋もれない為の何か―自分だけの役割―が必要だった。

 

 そしてたどり着いたのがこのスタイルだ。

 回復魔法と自己強化を使いながら戦う前衛よりの神官。

 ただし、こういった魔法は大抵が自分にしか掛けれず、また持続時間も長くない。そのため使い所を考える必要がある。

 

「だが今こそがその時!! そして更にィー!! 闇の炎よ、我に力を!!!」

 

 更に更にラキュースは、この半年で新しく手に入れた職業(クラス)の力まで発動する。

 そのクラスの名は――黒炎の解放者(ブラック・リベレイター)

 修行中に黒い炎の武器を使ってかっこよくモンスターを狩りまくっていたら、いつの間にか取れてしまっていたクラスである。

 

 本来なら中二病ごっこで本当に力が湧いてくるなんてありえない。

 だがこの世界は普段の行いが、そのままクラスとして取得されてしまう場所である。

 結果、ラキュースの妄想は現実となり、黒い炎を自在に操れるようになったのだ。中二心に才能と現実が追いついてしまった、稀有な例と言えるだろう。

 

 しかも運が良いことに、このクラスは神官系だった。

 つまり信仰系魔法の位階も滞りなく上がって行ったのだ。

 もちろんラキュースは夢中になって鍛えた。そして今回の戦争である。

 

「貴族のボイコットにより味方はピンチ!

 対して敵は最強4騎士に伝説の魔法使いまで参戦した万全の布陣!!

 しかしそれでも諦めず、満を持して放たれる起死回生の決死隊!!!」

 

 なんて熱い戦場なのだろう……!!

 王国の歴史に記される事は間違いない一戦だ。

 

 ではそんなところで活躍してしまったら?

 決死隊に参加し、黒い炎で王国の勝利を決定づけてしまったら、どうなるだろうか?

 

(――伝説になる!! 間違いなく!!!)

 

 ラキュースは得た力とこの戦場を、神の祝福だと受け取った。

 もはや妄想も現実も、誰にも止めることは出来ない。

 不幸なのは実力的に止めれる者が敵にいなかったことだろう。ラキュースは中二病だが、その才は本物だったのだ。

 

「悪しき帝国の騎士よ、我が黒き炎の一撃を食らい滅ぶがいい!!」

 

 ラキュースはスキル――黒炎の撃放、を発動する。

 武器の一撃に黒い炎を追加する強力なスキルだ。威力は消費した魔力量に依存するので、つまり魔力次第でどこまでも高める事が可能な素敵仕様。

 

「我、血の盟約に従い、この身と魂を黒炎へと焚べん……!!」

 

 ラキュースはさっそく頭上に掲げた剣ごしに魔力を注ぎ込む。

 吹き出した黒い炎はどんどん大きくなっていった。だがまだ足りない。

 

 ――もっと炎を! もっと火力を!! もっと派手さを!!!

 

 ラキュースは更に魔力を注ぎ込む。自身の持つ全てを。

 

 ――もっと、もっと輝けぇええええええ!!!!!

 

 それからタレントによって別にチャージされていた魔力も遠慮なく注ぐ。

 最大魔力の2割を保管し、何時でも使えるのがラキュースが生まれ持ったタレント。

 それは後のことなど一切考えていない消費。

 

 だが結果として黒炎は5メートルを超えた。その熱は周囲が歪んで見えるほど。

 もはやFGOのエクスカリバー○モルガンもかくやという有様だ。

 

 ラキュースはそのまま前を見据える。

 自分が撃つべき敵を。英雄になる為の騎士(いけにえ)を……!!!

 

 

 

 

 ――そんな眼の前で起こり続ける意味不明な状況に【不動】ナザミ・エネックは焦っていた。

 

「…………(まずい、まずいぞ!! アレを食らったら死ぬ!!)」

 

 途中から敵が訳が分からないことを言い出したので、怖いからちょっと様子を見ようと思ったらこの様だった。

 

「…………(途中の名乗りは何の意味があったんだ!? 我とか私とか。せめて一人称は統一しろ!!)」

 

 ナザミは理解できない相手へ、心のなかで罵声を飛ばす。

 だがこのままだと不味いことは分かっていた。なんせ敵が掲げる巨大な黒炎が振り下ろされる先は自分なのだから。間違いなくただではすまない。

 

「…………(つか他の4騎士はどうした!? 俺の本領はPT戦だって知ってんだろ。どこほっつき歩いてんだ!!)」

 

 ナザミは慌てて仲間を探した。

 盾で視線を隠したままキョロキョロと周囲を見渡す。だが残念なことに、周囲にいたのは()だけだった。

 

 右からは全身を返り血で濡らしたガゼフ・ストロノーフが歩いてきていた。

 反対からはスティレットを舐めてニヤニヤ顔の女だ。

 しかも女の隣には巨大な魔獣がいて、背には【巨刃】【重爆】【悲酸】が載せられている。ピクリともしないことから、恐らく3人とも死んでいるのだろう。

 

 なお何時の間に逃げたのか、周囲に自軍の騎士は一人も残っていない。

 

「…………(なんでアイツら(他4騎士)死んでるの??)」

 

 ナザミは自分をほっぽって戦い、そして勝手に死んだ同僚へ怒りを向けた。

 だがもはやどうしようもない。自分の死を悟ったナザミは、せめて少しでもダメージを減らそうと足掻く。

 

「ガガーラン、下がって!!」

 

「おうよ! ぶちかましてやれや!!」

 

 ラキュースの言葉に従い、ガガーランが後方に下がる。

 味方の元にまっすぐ戻らず、()()に下がったのが気になった。しかし今はそれ所ではない。

 

 開放されたナザミは盾を構え直す。

 実はこの盾には強力な属性防御が付与されているのだ。さらに防御系の技を片っ端から発動させていく。

 

「…………(〈防御超強化〉〈耐熱強化〉〈()()要塞〉)」

 

 まず武技で防御力を増加させ、炎系攻撃への耐性も増す。

 二つ名の由縁たる武技も使用。

 移動できなくなるというデメリットがあるが、代わりに物理・魔法・属性全ての防御力が上昇する。ただしこれは()()()()()()()()意味がないので注意が必要だ。

 

「…………(まぁこの俺が盾受けをミスる訳ないがな!! ……防衛盾(シールドガード)天衡盾(パンツァーシールド))」

 

 それが終わったら次は防御スキルを全起動させた。

 手に持つ盾が強化されて輝き、前方に半球状の防御力場が形成された。他にも色々。

 

「…………(来いよ! 俺は最硬の騎士と呼ばれた男!! その程度の炎一つ、この身で弾き返してやる!!)」

 

 そうしてナザミは自身を無敵の要塞と化し、敵の一撃に耐える覚悟を決める。

 

 しかしそんなナザミの行動は無意味だった。

 ラキュースが発動した、()()()()()()()()の前では。

 

闇導(やみのみちびき)――黒炎の道(ブラックフレイム・ストライド)

 

「…………(えっ)」

 

 突如、ラキュースの足元が爆発し、地面に黒い炎の線が引かれる。

 そして目の前にいたはずのラキュースの姿が掻き消えた。ナザミは知るよしもなかったが、これは一日に一度だけ使える()()()()だった。

 

 そして消えたラキュースの気配は――ナザミの()()()にあった。

 ナザミが振り返った先に見たのは、自分に向かって剣を振り下ろす「黒炎の王」とでも呼ぶべき者の姿。

 

 だが精神のキャパシティはいっぱいで〈即応反射〉は使えない。発動中の武技効果で移動も出来なかった。

 

「――超技(ちょうぎ)!!」

 

「…………(あっ、これ、無理)」

 

 もはや盾を構え直す時間すら無い。

 

暗黒黒炎超弩級黒衝撃波(ダークフレイム・メガインパクト)ォオーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」

 

 そのまま迫りくる黒い炎に焼かれて。

 

 ――【不動】ナザミ・エネックは燃え尽きた。

 

 

 

 

 ◆◆◆ ◆◆◆

 

 

 

 

 一方その頃。どこまでも落ち続けそうな空の下で。

 飛行魔法を解除された私は、振り絞った最後の魔力により〈第1位階天使召喚(サモン・エンジェル・1st)〉を行使。

 出現した天使にしがみつき、ギリギリで地面への衝突を免れていた。

 

「やっべ、まじ死ぬとこだった。やっべ」

 

 皆様こんにちは。大絶賛ピンチ中のツアレちゃんです。

 格上が相手だと戦闘きつすぎ。おまけに落ちた場所は帰還中の帝国軍の中央だった。

 おかげで周りは敵だらけだ。もー、こんなの嫌になりますよぉー!!

 

「なんてことすんだあのジジイ。捕獲するとか言っといて墜落させるとか、まじで頭おかしいでしょ」

 

 原作よりフールーダがクレイジーすぎる。

 誰だよコイツに主席魔術師なんて席与えたの。お陰で全部メチャクチャだ。ただの宮廷魔術師で留めた六代前皇帝は正しかったんやなって。

 

「ふむ、この状況でも口の悪さは変わらんか。……〈魔法の矢(マジック・アロー)〉」

 

「あー! 私の天使ちゃんがーーー!」

 

 とか考えてる間に、追いついて()()したフールーダに最後の天使がやられてしまった。

 もはや飛ぶ必要すら無いと思われているのか。弟子たちも後ろに着地した。

 あれだけ召喚しまくっていた天使達は、もはや一体も残っていない。ついでに魔力も。うわ、大ピンチッ!!

 

 だがこの程度で諦めるツアレちゃんじゃない!!

 だって落ちながら見た地上では、()()()が吹き上がっていたから。

 こんなのを使うのはラキュースしかいない。つまりみんなまだ戦っているのだ。

 不利になったら撤退だと言っていたのに。居残っても不利になるだけなのに。それでも戦ってくれていた。

 

 ならばこの死地にみんなを連れてきた私が、真っ先に諦めるなんて出来るはずがない。

 生まれた村のゴミクズ共のようには、仲間を裏切るようなクズには絶対にならない!!

 

「……来いよ! 魔法なんて捨ててかかってこい!! まだワンチャン残ってる!!」

 

「ふむ、まだ戦意は衰えんか。ここまでくると大したもんじゃ」

 

 私は両手に一本ずつショートソードを握って立ち上がる。

 転生時に会った天使の真似をし、ふくらはぎの外側に縛り付けていたショートソードだ。

 すごい魔法効果が掛かってる訳では無いが、フールーダさえ倒せれば状況は変わる。

 

 しかし私が雄叫びを上げて走り出すと、フールーダ達は再び魔法を行使し始めた。

 

「ではもう少しだけ相手をしてやろう……おい」

 

「はっ! 〈滑油(スリップグリス)〉」

 

「うわっ、なんだここ!? 滑るぞ!!」

 

 即座に足元が油で覆われる。私はステーン! と転んで尻餅をつく。

 

「〈盲塵(ブリンクダスト)〉」

 

「目がぁーーーー!!」

 

 続いてばらまかれた粉塵で視界が潰れる。前が見えない。

 

「これで止めじゃ。〈拘束する触手(テンタクル・バインド)〉」

 

「くっ、私は絶対に屈しないぞっ!!」

 

 そして最後は気持ち悪い触手による拘束。

 中空から生えてきた触手が私の手足に絡まっていく。

 

 それはあまりにも酷い有様だった。

 私の全身はベタベタ、目はチカチカして、ヌルヌルとした触手が身に絡まっている。まずい!! このままだとR18になっちゃうよ!!

 

「女にこんな魔法掛けるとか何考えてんの!?」

 

「何を言う。お主の抵抗(レジスト)能力を調べておるだけじゃ。油は敏捷、塵は精神、触手は筋力的な抵抗力が必要じゃぞ」

 

「ローション床に目潰し、そしてエロ触手じゃねーか!!」

 

 少しだけ相手を、なんて言いながら使ってきた魔法がどれも酷い。

 どれか一つでも一発で嫌われるのは間違いないだろう。例え戦場でも。もちろん私の好感度は底割れだ。

 

「くっ、この。250年も童貞のくせに!!」

 

「その通りじゃ。ワシは全てを捧げると決めたのじゃよ。魔法の神に、身も心も童貞もな。……お主もその一つじゃ。じゃが安心せい。心を壊した後はワシが最大限に有効活用してやる。魔法もタレントも女のとしての身も。隅々まで検証し、全て有効に使ってくれるわぁああああ!!!」

 

 ツアレちゃんをお持ち帰りして隅々までペロペロだってー!?

 

「この変態どもがぁああああ!!!」

 

「ワシの何処が変態だと言うんじゃ? ちょっと生きた魔道具を作ろうとしとるだけで」

 

「そういうとこだぞ!!」

 

 人を道具にしようとか、変態以外の何物でもねぇ!!

 私は必死に触手から逃れ、魔法をレジストしながら心から叫んだ。

 こいつら覚えてる魔法が頭おかCー。

 

「つーか、なんでココまでして私が欲しいの? 神官が必要なら帝国で探せばいいでしょ!!」

 

「残念じゃが帝国にお主ほどの神官はおらぬ。それに第5位階の信仰系魔法には、他者に魔力を渡すものがあるのじゃ。もし使えるようになれば、ワシの魔力は大幅に増えるじゃろう」

 

「魔力? もしかしてその長生きと関係が……?」

 

「その通りじゃ。老化を完璧に止める、寿命を克服するにはもっともっと魔力が必要なんじゃ!! 故にワシの物になれ! ツアレニーニャよ!!」

 

 八本指と王国の勧誘が終わったと思ったら、今度は帝国の魔法キチかよぉー!!!

 

「ふざけんなっ!! このツアレちゃんが枯れたジジイなんかに負ける訳あるかぁーーー!!!」

 

「フッ、まだ諦めんか。じゃがどれだけ叫ぼうと現実は変わらん。

 ワシが200年以上も渇望し続けて、それでも第7位階に到達できんようにな。

 ……吟遊詩人たちが歌う英雄譚など嘘っぱちじゃ。この世に()()などという物はなく、感情や願いによる眠れる()()()()など夢物語じゃ」

 

 そう言い切ったフールーダからはドロドロした感情が吹き出していた。

 数百年に渡る絶望が顔を出したのだ。荒れ狂う魔力の波動が肌を叩き、ヒリヒリとした感覚が周囲に広がっていく。

 

「分かったら無駄な足掻きを止め、そこで大人しく横になれ。せめてのもの情けに苦痛なく精神を壊してやろう」

 

 知ってたけど直接見ると結構怖い。

 目が完全に逝っちゃってる。充血してギラギラだ。これは魔法キチの顔ですわ!!

 周囲も弟子達から帝国騎士たちまで、みんな震え上がってるぞ。

 

 でも言ってることは何一つ同意出来ない。

 私は臆せずに立ち上がった。

 

「全くこれだから歳をとった老害は。自分の経験だけで何もかも決めつけるから困ったもんだよ」

 

「なんじゃと!?」

 

 だって私は奇跡を知ってるから。

 というか奇跡(てんせい)なんて、実際にこの身で経験済みだ。

 しかしソレを言ってもフールーダは納得しないだろう。

 

「だから代わりに見せてあげる。200年も停滞してたお前に、本当の覚悟って奴を!!!」

 

「覚悟じゃと……」

 

 そして教えてやる。奇跡は起こせるということを!!

 吟遊詩人が歌う英雄譚は、現実にありえるって事をなぁ!!!!

 

 決意を固めた私は、右手のショートソードの刃を()()()()に添えた。

 

「馬鹿なっ! まさか自殺するつもりか!?」

 

 フールーダは慌てているが、たかが()()()()が何だというのか。

 

「だったら? 死んだことも死ぬ覚悟も無い奴が、私に偉そうに説教するな」

 

 私はそのまま一気に首を()()()()

 そして吹き出す血に、失われる命を感じながら奇跡(スキル)を呼んだ。

 

 LV31でようやく取れたクラス――転生天使の分御魂(ソウルメイデン・オブ・アルテマ)(わけみたま)の切り札を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――疑似転生・聖天使降臨(アルテマ・インスト)ォオーーーーーーーーーーーーール!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初にそれに気づいたのは誰だったのか。

 突如、戦場に青い花が咲いた。大きな大きな、聖なる光の薔薇のような花だ。

 

 意識だけになった私は、その中で自分の体が変わっていく様を眺めていた。

 内から力が満ちていく。別の世界から流れ込んでくる魂の力が、私の身を一体の天使へと変化させる。

 

 それは真っ赤なレオタードを着た、際どいハイレグのエロ天使だった。

 肩まで流れる髪は銀色に輝き、赤い瞳は悪魔のよう。

 しかし背中には一対の巨大な白翼があり、頭からも小さい翼が生え、ふくらはぎには鞘ごと括りつけられた剣がある。

 

 そうして変身した私は薄れていく光の中から身を起こした。

 皆様こんにちは(2回目)。聖天使化しちゃったツアレちゃんです。

 無事に新しい切り札が発動したよ!! その名も疑似転生・聖天使降臨(アルテマ・インストール)

 

 このスキルの発動条件は、なんと()()こと。

 普段使いするにはキツイ条件だが、しかし効果は折り紙付きだ。

 自動で蘇生された上で、私の身を聖天使へと変えてくれる(効果時間が終わると変身は解除)。

 つまり限定的な「私がエロ天使になることだ……」という奴である。

 

 そしてそのスペックは――LV95。

 

「どう? ちょっと見た目が変わったけどツアレちゃんだよ? これが奇跡だ(ドヤァ」

 

「ば、ばかなぁ……お主がツアレニーニャだというのか……」

 

 私は驚くフールーダに渾身のドヤ顔を決める。余りにも気持ち良すぎるドヤ顔だ。

 だがこれぐらいはやっても許されるだろう。

 なんせ転生天使の分御魂(ソウルメイデン・オブ・アルテマ)は取るのが大変だったから。

 

 普段からハイレグのレオタードというエロい格好で過ごし。

 ふくらはぎなんて使いづらい場所に剣を巻き付け。

 転生時の記憶から像まで作って毎日拝んで。

 そうしてやっと31レベル目に取得出来たクラスだ。

 

 それと分御魂(わけみたま)は分霊と同じ意味なので、直接力を貰うのも条件なのかもしれない。

 そう考えると、またあのエロ天使が何かやってきそうで怖いが。しかし得られるメリットに比べれば些細な事だろう。ここで負けたら精神崩壊バッドエンドなのだから。

 

「その通り! これこそまさに覚醒した神の力。……ねぇねぇどんな気持ち? 200年ぐらい超えれなかった壁を、眼の前であっさり超えられちゃったのは?」

 

「ぬ、ぬぅうううううううう!!!!」

 

 私はニコニコしながら手を後ろに回して前のめりになり、おっぱいを突き出すような格好でフールーダを煽る。

 

「えーと、それで何だっけ。英雄譚は嘘っぱち。奇跡はなく、力の覚醒など夢物語……だっけ?」

 

「いや嘘じゃ!! 奇跡など……起きるはずがない!! お前たち何をしておる! 魔法を放てぇ!!!」

 

 だがフールーダはまだ信じれないらしい。

 彼らは私向けて右手を突き出し、各々が魔法を放ってきた。

 

「きぇえええええ!!! 〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)炎翼(フレイムウィング)〉!!」

 

「「〈魔法二重最強化(ツインマキシマイズマジック)白銀騎士槍(シルバーランス)〉!!」」

 

 フールーダから翼を広げた炎の鳥が3匹、弟子二人から銀の槍が2本ずつ飛んでくる。

 だがもはやその程度の魔法でこの身が傷つくことはない。

 

 私は歓迎するように両手を広げる。

 身に浴びるはずだった魔法は、触れる寸前で全て掻き消えた。何も無かったかのように。

 この姿に備わる防御スキルの一つ「Ultema The Nice Body(アルテマちゃんはナイスバディ)」による無効化だ。

 

「ば、馬鹿な……まさか本当に奇跡を起こしたとでも言うのか……」

 

「じゃあ次はこっちの番だよ。――第9位階魔法〈朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)〉」

 

「んぎぃぃいいいいい!!」

 

 私は右手の人差し指を突きつけ、お返しとばかりに魔法を行使する。

 原作で一番好きだった魔法だ。すぐに星が爆発したかのような炎が煌めき弟子が燃える。どうやら変身後は魔力(MP)も別扱いらしい。つまり全回復だ。

 

 更にもう一人の弟子にも同じプレゼントをしてやると、フールーダはようやく現実を受け入れ始めた。

 

「ほんとに第9位階魔法……。だとすれば、お主こそがワシを導く天使じゃった……?」

 

「んな訳ないでしょ。その頭どうなってんのマジで? それで次は確か、ツアレちゃんをお持ち帰りして隅々までペロペロする、だったよね?」

 

「ち、ちがうんじゃ!! そ、それはその……言葉の綾で!!」

 

 そんな事あるか? どう考えても精神壊してお人形さんコースだったぞ。

 だが私が本当に驚かされたのはこの後だった。

 

「……分かった、では降伏する!! ワシはただ魔法の深淵を見たいだけなんじゃ!! お主がワシを導いてくれるのであれば!! その為ならば魂も帝国も騎士達だって幾らでも売り払おうぞ!! 何なら今すぐ騎士共を皆殺しにしよう。それで良いじゃろ? なっ?」

 

「だから、なっ? じゃねーよ!! というか断る。信用できない」

 

「そ、そんな……」「フールーダ様!?」「帝国の守護神だと思ってたのに……!!」

 

 フールーダの余りにもあんまりな裏切りだ。

 いやこういう奴だって知ってたけどね。原作でもマジで全部売り払ったから。

 

 でも目の前でやられるとドン引き。

 周囲でやり取りを見守っていた騎士達も、ショックでザワザワし始めた。

 

 そして降伏の答えはもちろんNO。

 コイツは殺す。降伏も受け入れない。だってどうせアインズ様が来たらまた裏切るし。

 

 そしてこうなると次にやりそうなことは……。

 

「――〈転移(テレポーテーション)〉」

 

「――〈次元杭(ディメンジョナル・アンカー)〉」

 

 フールーダは逃げようと転移魔法を発動。

 だが同時に私が発動させた対抗魔法が効果を妨害した。危ない危ない。逃がすところだった。でもギリギリセーフ!!

 

「………………」

 

「………………」

 

 周囲に無言の緊張が走る。まだ逃げる手段を考えているのかな?

 でもこれは対個人の転移禁止デバフ。なのでもうフールーダは転移出来ない。つまり終わり。

 

 だが私は「大人しく横になれ」なんて事は言わない。

 ツアレちゃんをラブドールにしようとしたジジイに掛ける慈悲など無い。

 だから代わりにこう言ってやろう。

 

「――悔いて死ね」

 

「嫌じゃあああああああーーーーー!!!!!」

 

 その瞬間、フールーダは背を向けて駆け出した。

 恐るべき速さだ。とても250歳の老人とは思えない。

 それも上半身が動いてないことから〈飛行(フライ)〉も発動させたのだろう。飛びながら地面を蹴って加速しているのだ。

 

 おまけにその姿は、いつの間にか周囲の騎士達へと変わっていた。

 これは幻術を使って化けたのかな? そのまま騎士達の並びに潜り込んでいく。こんな時なのに魔法の使い方がぱねぇ……!!

 

 だが私は慌てない。もはや何一つ心配することはない。

 なぜなら先程使った転移阻止の魔法は、決して距離では解除されないからだ。

 それに幻影の姿についても、動きがキモすぎて簡単に見抜ける。忍者走りの騎士は目立ちすぎ。

 

「〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉」

 

 私は一度フールーダの頭上に転移。

 5メートルほどの高さに浮いたまま、地上を見下ろしながらスキルを発動させた。

 

 それはこの状態における、最強最大のスキル……!!

 

「――怯え震えろ、命つなぎ止める光……」

 

 本来、スキルに長々とした詠唱は必要ない。

 しかし私の口は勝手に開き、自分でもよく分からない言葉を吐き出し始めた。

 恐らくは仕様として組み込まれているのだろう。

 

「――渦なす生命の色、七つの扉開き……」

 

 満ちる満ちる満ちる。詠唱が進むごとに、満ちてはいけない光が周囲に満ちしていく。

 それは汚された魂のような色をしていた。青と緑が混ざりあった魔の輝き。冥界から不浄を引き出す篝火。

 

「――今、力の塔の天に至らん! 究極魔光(アルテマ)ァアーーーーーー!!!!!!」

 

 詠唱を終えた瞬間、上空に青緑の塊が出現、落下。

 目にも止まらないスピードで落ちてきたそれは、あらゆる凶事を内包する魔の極光だ。

 

 ――そして地上を汚す力が、天からフールーダを直撃した。

 

 瞬時に鳴り響く大轟音。続けて起こったのは体の芯を揺さぶるような地鳴り。

 更に着弾地点から発生した衝撃波が周囲を薙ぎ払い、そこに存在する全てを粉砕していく。

 それでも光は止まらず溢れ弾け続ける。空間が軋む。それが何度も繰り返されて地上に天への塔が出来た。それは緑と青が入り混じった光芒 。汚れた魂の柱だった。

 

 そうして世界ごと光に包まれて。

 

 ――フールーダ・パラダインは、この世から完全に消滅した。




ツアレ「これが奇跡だ(ドヤァ)」
ラキュース「永遠の闇勇者(キリッ)」
不動「(味方死ぬの早すぎぃ)」
フールーダ「死にました」

ようやく戦闘が終了しました。これで戦争は終わりになります。
書いてて楽しかったけど長かった……。

■以下独自クラスの設定とか
・クラス名:黒炎の解放者(ブラック・リベレイター)(信仰系)最大LV5
 取得条件:黒炎が付与された武器による戦闘。あと一定の信仰系能力。
 スキル1.黒炎の撃放:武器に炎と闇の属性ダメージを付与。MP消費で威力アップ
 スキル2.黒炎の道(ブラックフレイム・ストライド):瞬間移動。発動時に付近へダメージ

・クラス名:転生天使の分御魂(ソウルメイデン・オブ・アルテマ)(信仰系)最大LV5
 取得条件:転生天使から直接力を貰っている事。転生経験。最低LV30。
 スキル1.疑似転生・聖天使降臨(アルテマ・インストール):自動蘇生&変身。LV95。HPMPも変身前とは別扱い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。