誤字脱字報告も有難うございます。戦後処理回です。
王国軍と帝国軍の戦争もついに終盤。
私は頭上から吹き飛んだ帝国軍を見下ろしつつ、興奮に身をくねらせていた。
「悲しいねバ○ージ……。戦いはいつも空しい。彼らは身を以ってそれを私に教えてくれた……。おっ、レベルアップだ(32lv)やったぜ」
皆様こんにちは。完全勝利したツアレちゃんUCです。
スキルで聖天使になってからの全力ぶっぱだ。
余波が引いた地面にはフールーダの影すら残っていなかった。
「私は極限状態でうてましぇーん! なんて叫ぶお坊ちゃんほど甘くないからね。しょうがないね」
ついでに周囲も騎士ごと半径100メートルぐらい吹き飛ばしちゃったが、まぁ1発だけなら誤射だろう。私は合流する為に、みんなの元へ転移する。
「あー、おかえりツアっち。ちゃんと4騎士は殺しといたよー」
「殿! 某も頑張ったでござるよ!!」
決死隊のメンバーは
メンバーは誰一人欠けてはいない。多少の傷は残っててもみんな余裕で健在だ。やっぱ人間の壁を超えた英雄級はすごいんやなって。
「こちらは問題ない。しかしその姿は……ツアレ殿、なのか?」
「そうだよガゼフさん。実は一度殺され(自殺)ちゃったんだけど、覚醒(ただのスキル発動)して生き返る事が出来たの。この姿は神の血、あるいは力の覚醒フォームって感じかな? ほい、第10位階魔法〈
「おおっ、まとめて怪我治ったでござる!!」
私は有り余っているMPで癒やしの魔法を行使する。
周囲の味方を超回復させ、ついでに肉体的なバッドステータスまであらかた治してしまう最高位の治療魔法だ。
「追い込まれた窮地……諦めない心……仲間との絆……そして死からの覚醒!! おほぉーーーー!! 流石ツアレだわ!!(ビクンッビクンッ)」
「おいおい、まだ濃くなるのかよ(個性的な意味で)」
ラキュースは興奮したのかその場で跳ねた。陸にあげられた魚のような跳ね方だ。
気持ち悪い動きだが、頑張ってくれたみたいなので今はそっとしておく。やはり途中で見えた黒い炎はコイツに違いない。ガガーランニキも引率お疲れ様です。
「さてそれじゃ、私はこれから帝国の将軍達を捕まえてくるから。ガゼフさん、陛下への連絡をお願いできますか?」
「了解した。陛下たちにはそのまま伝えておこう」
「ちなみにさー、降伏しなかったらどうすんのー?」
「そりゃ降伏しない帝国兵は皆殺しだよ。慈悲はない」
戦争なんだから当たり前だよなぁ? それに帝国の騎士は戦争以外にも治安維持を司っている。
沢山殺せばその分だけ帝国の治安は悪化し国力が下がる。そうすれば王国にちょっかい出しにくくなるからね。あと経験値的な意味でも美味しそう。
そんな訳で私はスキルの効果時間が切れる前に再び帝国軍を強襲。
将軍たち指揮官を捕獲。ついでに帝国の駐屯砦も落として王国軍の勝利を確定させた。
〈
「という訳でガゼフさん、4万人虐殺コースは回避されたよ! あっ、お土産の敵将軍は隣の天幕に放り込んどいたから」
意外なことに帝国軍の抵抗はほとんどなかった。
まぁ元より砦に帰還中だった3つの軍は私の戦いを直に見ている。
それに自分たちを売り渡して生き残ろうとする、フールーダの汚い命乞いを聞いていた者も多かったからね。
そのため戦意は最低まで下がっており、降伏勧告にあっさりと応じたのだ。
あとはランポッサ三世が終戦宣言して終わりである。
「……陛下、という事にございます」
「うむ、皆よくやってくれた。してレエブン侯よ、帝国の兵はどうしたら良いと思う?」
後の問題は捕虜とかの扱いをどうするか。だがこういう時こそレエブン侯の出番だ。
原作にて「政治手腕において右に出る者の無い」とまで書かれた男の頭脳が解を導き出す。
ちなみに変身が解けた私は、部屋の隅っこでクレマンティーヌの膝枕を満喫中。あ”ぁ”~、すべすべのモチモチ肌に癒やされるんじゃぁ~~~。
「我々では管理しきれませんので、ここは帰国させるのがよろしいかと」
「確かに捕虜として扱うのは一苦労であるな。ならば仕方ないか」
という訳で大部分の騎士達はすぐの開放された。
だってこちらの兵はほとんどが民兵だ。専属騎士をずっと監視してるなんて無理だからしゃーない。私もゴメンだし。太ももペロペロ……これは塩味ですよ。
「ただし武装は解除し馬も没収します。それと騎士団の上層部だけは捕えておくのです。末端の兵は幾らでも代わりがおりますが、軍を統率出来る将は希少ですから。後は解放した騎士の分まで併せて身代金を請求すれば良いかと」
「ふむ、武装と馬に指揮官か……」
もちろん装備は没収だ。デデーン! 帝国騎士さん、ボッシュート!!
ちなみにこれらについては、私からは好きにして下さいと言ってある。帝国との交渉とか無理だからね。武具も捌けないし。
それにしても、この人数分だと総額で幾らになるんだろうか。
全身鎧と軍馬はそれぞれ金貨50枚ぐらいだから、単純計算で被害額は金貨400万枚?
これに保釈金が追加とか。騎士一人金貨10枚、指揮官はそれ以上とすると金貨40万枚オーバー。帝国の財源は大丈夫か? ……また貴族さん達が絞られるんだろうなぁ。
「それと馬は参戦してくれた者達へ配ってしまうのが良いですね。どうせ我々だけでは持て余しますので。餌が足りず無駄に殺してしまうのであれば、王の評価を高めるのに使うべきでしょう。だいたい村1つに十数馬といった所。貴族たちが欲しがるだろう分も含めて、手元には5千馬ほど残しておけば十分かと」
「なるほど。それならば参戦してくれた者達を労え、こちらの手間も減るか。……よろしい、ではその案で進めよ」
「はっ!!」
と、私がガゼフさんの隣でそんな事を考えていると、他の処理もサクサクと決まっていった。
陛下が問いかけ、レエブン侯が即座に答える。その作業じみた問答には全く淀みがない。
こういう時に有能な政治家がいるって良いね。勝手に話が進んでいくぞ。
これが第一王子とかだったら、帝国の騎士達を無駄に拘束して一悶着起こしそう。脱走されて寝首をかかれるとか。
(もうレエブン侯に全部任せればいいんじゃないかな)
私はそんな事を思いながら自分たちの天幕へ戻った。
そうして終戦処理が終われば次は凱旋、そして論功行賞である。
数日ぶりに帰ってきたエ・ランテルは戦争前の暗い雰囲気と違い、王国軍の大勝利に街中がお祭り騒ぎだった。
どうやら戦争の様子は先に伝わっているようで、大通りを戦士団と並んで進行していると、アチコチから声援が飛んでくる。吟遊詩人の一部にはすでに歌を作っている者までいた。
「来たぞぉ―! 戦士団!! ガゼフ様だ!!」
「王国最強の戦士だ!! なんでも帝国騎士を千人以上斬ったらしいぜ!?」
「まじかよすげぇ!! 王国最強の戦士長……千人斬りのガゼフ様だ!!!」
なお、盛大に脚色されている模様。でもFAガゼフさんは本当に1000人斬れるから困る。
もちろん私達も色々叫ばれた。以前、ハムスケに乗って王都を歩いた時の何十倍の声援だった。……んぎもちぃいいいい!!!
「ではこれより論功行賞を始める!!」
「えっ、まじでここ(エ・ランテル)でやるの?(ヒソヒソ)」
「んー、たぶん王都でやったら面倒だからじゃない?(ヒソヒソ)」
論功行賞は意外なことにエ・ランテルの貴賓館で行われた。
本来は王都に戻ってから行われるべきだが、そうすると間違いなく(参戦しなかった)貴族たちの邪魔が入る。
そのためこの街で行うことになったと聞いている。
グダグダ言われないよう、先に功績と褒賞を確定しちゃう訳だね。貴族達としても部下を解散させれるから、この方が良いのだろう。
そんな訳で玉座の間には多くの貴族が詰めかけていた。
アインズ様が魔導国の建国を宣言したあの部屋だ。オタクの聖地巡りみたいだが、これはこれで感動するね!! 部屋に差し込むガラス越しの日光すら祝福のように見える。
そんな場所で私達も着々と列を作る貴族達の最後尾に並ぶ。
そして陛下の横に立った秘書官が、功績と共に貴族達の名前を呼び上げる。
呼ばれた貴族は玉座の前で膝を付き、陛下から労いの言葉とともに褒美を賜っていた。奮発されてるのかみんな嬉しそう。
「大儀であった」
「ははぁ!!」
と言っても人数が多いのでだいたい一言だけだが。
それと渡されているのは帝国軍から没収した武具だ。
持ってても邪魔になるし、鋳造し直すのも手間なので配る事にしたらしい。それでも回収した量が量なので賜る数が多く、受け取る側はホクホク顔だった。
(うーん、渡してる数は平均して1家50セットぐらい?)
参戦貴族が200家ぐらいだとすると、それでもまだ3万セット残る計算だ。これ捌けるのか?
(というか1家辺りに金貨1250枚相当を渡してるってことだよね。これって結構な額なんじゃ)
14巻ではラナー王女の孤児院について、50人もいるから姉二人の歳費が無いと足りない、みたいなことが書かれていた。
王国の平民の生活費(年)は金貨10枚程度らしいから、その半分だとしても金貨250枚。
必要経費を除いた王女の歳費(余り)がこれ以下ってことは、今回の褒美はかなり奮発されているのでは無かろうか?
勝利と併せて王の評価は爆上がり間違いなしだろう。
「それから次に、此度の戦で特に功が集まった者を賞する!! ……まずはレエブン侯爵!!」
「……はっ!」
「他貴族の手を振り払い、私の為に駆けつけてくれた事を嬉しく思う。また侯爵から提案された作戦がなければ王国の勝利は危なかったであろう。ついては……秘書官よ」
しかし参戦した貴族でもっとも名を上げたのはこの人だろう。みんな大好きレエブン侯!!
なんせ表から見れば、王の危機に貴族派閥を振り切って駆けつけた真の忠臣。
裏の事情―派閥争い―を知る者から見れば、最高のタイミングで王派閥に乗り換えた切れ者だ。
「それらを鑑み、陛下は侯爵閣下に馬1千と武具5千(金貨30万枚相当)を授けるとの事。それから……(以下略」
「ハッ! ありがたく頂戴致します」
それも第一王子の失態と国のピンチを理由に、否が一切無いようにチェンジしたらしい。
戦争でも自らの(軍師の)作戦によって王国を大勝に導いている。余りにも鮮やかな手腕だ。もはや誰も文句は言えない。
周囲の貴族たちの目には深い尊敬と、そしてそれ以上の畏怖が宿っていた。……やっぱり有能な人が味方になるって最高だね!!!
「続けて決死隊となり敵4騎士を討ち取った者達へ!!」
そうして一番後ろでボケっとしていたら、ついに私達の番が回ってきた。
呼ばれたガゼフさん、クレマンティーヌ、ラキュース、ガガーランが王の前で膝をつく。
……あれ、私は? なんか一人取り残されてるんですけど。嫌な予感がする。
だが今更、陛下の口を止めることは出来ない。
「此度の戦争において、そなた達が果たした役割は非常に大きい。
故に一代限りではあるが、
「おお!!」「なんと!!」「いいのか!?」「いやこれは仕方ありますまい」
「ふぁっ!? 嘘でしょ……」
発表とともに周囲にざわめきが広がる。私も思わず声を上げてしまった。
いやだって貴族位っておま……。まさかそんな事がある訳が……。ここは本当に王国ですか?? いや、それとも邪魔なダメ貴族がいないせい? ……分からん!!!
「そして最後に。今回の戦において最も功績が大きかった者!!
……ツアレニーニャ・ベイロン!!」
「あっ、はい」
不味い。余りの事態に考え込んでいたら呼ばれてた。
私は慌てて陛下の前に進み、その場で片膝を付いて頭を下げる。
「そなたはアダマンタイト級冒険者でありながら、その地位を返上して国のため戦場に立った。
さらに伝説の魔法使いであるフールーダ・パラダインとその高弟を打ち取った。
その後は帝国軍を率いる将軍4人を捕縛。帝国軍を降伏させ、王国の勝利を決定づけた!!
……これは最早、王国の歴史に刻まれるほどの戦果である。
故にその偉大な功績を称え――
「おおっ、ベイロン子爵!!」「新しい貴族の誕生だ!!」「王国最高の神官ですな!!」「エロエロ神官長!!」
(いらなぁあああああいいいいいい!!!!!!)
男爵をすっ飛ばしての子爵位に、周りのざわめきが今日最高に達する。
だが言われた私はドン引きしていた。
数年後に消える(予定)の国の爵位とか貰っても意味ねぇえええ!!!!
余りの衝撃に私はまた声を上げそうになった。だが今度はギリギリで堪える。
(……いや待って、ここで私だけ断っても意味がないのでは!?)
ふと、そう思ったからだ。私はそのままグルグルと思考を回す。セルフタイムストップ!!
今まで国に借りを作らないように気をつけていたのは、魔導国へスムーズに移籍するため。
どこの国にも所属してないフリーですよ! アピールだ。
しかし私以外の3人はすでに爵位を貰っちゃった訳で。
ならここで私だけ断っても意味がないのでは?
確かにここで断るのは簡単だ。
しかしもはや、それはただの逃げだろう。PTで行動が統一されてないとか、なんだコイツら? みたいな感じだよね。
さらに問題はクレマンティーヌ達を貴族として動かされた場合だ。
どうせ協力するなら、私だけが無職で居ることに意味はない。むしろ、いざという時に爪弾きにされない為には、逆に爵位が必要だろう……。
Q.つまりどういう事だってばよ?
A.もう王国からは逃げられない。現実は非情である。
……やったね! 所属国が確定したよ!!
(ぎゃあああああああ。詰んだ!!!!)
私はその場で膝をついたまま固まった。
「それと4騎士達の装備は倒した各々に所有権を認める。我が戦士長もだ。【巨刃】の武具は普段使いにすると良いだろう。それから先の4人には金貨5万枚を、ベイロン名誉子爵には金貨10万枚を与える」
「「「「ありがとうございます陛下!!」」」」
「あ、ありがとうございます陛下」
気づいた私は驚きながら貴族達を見渡す。表面上はみんな笑顔だ。でも瞳は金貨マーク。
こう、眼の前で鴨がネギ背負ったぜ! みたいな雰囲気に変わっていた。そりゃ学のない(と思われる)平民が大金持ったら狙うよね。商売的な意味でも、ソレ以外でも。
最後に視線を向けると、レエブン侯がやってやったぜ! という顔でニヤニヤしていた。
(ま、まさか私をハメる為に他の4人へ
逆なら余裕で断れたのに!! グヌヌヌ……。
なんという事だろう。全てはレエブン侯の謀略だったのか……。
「ツアレニーニャよ、今度は受け取ってくれるな?」
国王ランポッサ三世がものすごく良い笑顔で告げてくる。
心の底から喜んでいるようだ。孫にプレゼント渡すおじいちゃんかよ。でも止めてクレメンス!!
「つ、謹んでお受けいたします」
「それと正式な叙爵は王都の宮廷にて行なう。家名が必要なものは至急考えて申請するように」
しかし断っても意味がない事を察した私は、黙って頷くしかなかった。
戦争では勝ったけど、政争では勝てなかったよ……。やっぱり殴れないのはクソゲーだな。
「うむ、これで最後だな? みな此度の戦は本当によくやってくれた。まさに……まさに大儀であった…………感無量だ…………」
「陛下っ!!!」
その言葉を最後に、ランポッサ三世は部屋の天井中央を見つめて泣き出した。
しわくちゃの頬に涙が伝う。その様子を見たガゼフさん達も泣き出す……。
私も泣きそうだ。余計なもん背負わせやがって……!!
誰だよ、もうレエブン侯に全部任せて良いとか言ったやつ!! はい、私です!!
あああああああ!!! 私のらくらく魔導国移住大勝利プランがぁー!!!!
……私は式が終わると、その後の祝勝パーティーでヤケ酒しながらドカ喰いした。心を癒やす為にハムスケと一緒に。
「……ところで殿。先程、殿が焼いて持ってきてくれたこのお肉は今までで一番美味しいでござるが、何の肉なのでござるか?」
「ああ~、これはね~……
なお彼女らはとても美味しかった事を明記しておく。
一緒に戦った仲間(馬)なのだから、最後まで使い切るのが供養というもの。せめて私達の血肉になるがいい……。
@以下、今回の戦争における最終リザルト
・名誉子爵位x1、名誉男爵位x3
・アダマンタイト製の武器:長槍x1、刺突剣x2、大盾x2
・アダマンタイト製の防具一式x3
・4騎士の装飾品一式x3
・フールーダの装備一式x1
・高弟の装備一式x4
・軍の神官の装備一式x12
・金貨計25万枚
・【重爆】レイナースの死体x1(他は火葬済み)
……稼げすぎてやべい!!!!
◆◆◆ ◆◆◆
――王国軍が帝国軍に圧勝してから数日後。
帝国皇帝の執務室には重い空気が流れていた。
「全……滅……? 4騎士とフールーダ達が全滅……しただと??」
「は、はい。上がってきた報告によれば全員が殉職なされたと……」
「ばかな……」
鮮血帝ジルクニフはショックで口を噤んだ。
自らの秘書官ロウネ・ヴァミリネンから告げられた戦争報告が余りにも想定外だったからだ。
思わず体から力が抜け、座っていたソファーに体が深く沈み込む。持っていた書類がバラバラと床に落ちた。
「一体どうしたらそんなことになる? 4騎士は何をしていたんだ」
「そ、その。4騎士の方々はガゼフ率いる決死隊に討たれたようです。どうも英雄級の領域に至った者が3人もいたらしく、手も足も出なかったと……。またその中でもガゼフは特に凄まじく、【巨刃】を一撃で屠り周囲の騎士たちまで大勢……推定で1000人以上が斬られたと報告が……」
「――はぁ!?」
ジルクニフは間抜けな声を上げた。
それはありえない事だった。一人で1000人も斬り殺すなんて、おとぎ話の主人公だってもう少し自重するだろう。
「補佐に回していた神官達はどうした?」
「そちらも全滅のようです。クレマンティーヌという戦士一人に殺られたと」
「クレマンティーヌ……たしかフールーダの目的であるツアレニーニャのPTメンバーだったな?」
情報局からの報告書では、もしかしたら4騎士級かもしれないと記されていた女戦士だ。
はっきりと断言されていないのは、戦う所を誰も見たことがないからである。
というのも白羽聖女団はほぼ常にトブの大森林に籠もっており、調査することが出来なかったのだ。その為、評価は最高でもこの程度だろうと推測するしかなかった。
「はい、それがどうやら英雄級の戦士だったようです。神官を皆殺しにした後は【悲酸】まで倒しております」
「なんだと!?」
今回4騎士に動向させた神官達は全騎士団から抽出した精鋭12名だ。
使える魔法は第3位階までだが、それでも数多の修羅場をくぐり抜けてきたツワモノ達である。
それが皆殺しとは大損害だ。さらに【悲酸】まで倒したとなれば、それはもはやガゼフ並の戦士なのは間違いないだろう。
「なぜ英雄級の戦士がホイホイ湧いているんだ……。それで他の4騎士はどうした?」
「【重爆】はツアレニーニャの騎獣である通称・森の賢王に倒され、【不動】は情報になかった二人、急遽参戦してきたラキュースとガガーランという者達に討たれたとのことです」
「魔獣はともかく、その二人は一体なんだ?」
「はっ、戦場で名乗った家名によれば、ラキュースの方はアインドラ家の者のようです。つまり王国唯一のアダマンタイト級冒険者にして、朱の雫を率いているアズス・アインドラの親族かと……。同時期にPTを組んでいたとの情報は上がっておりますので、おそらくガガーランはそのお目付け役ではないでしょうか?」
「どうしてそんな厄介そうな奴らを見逃していた!!?」
「ひっ!?」
ジルクニフは怒りの任せて両手をテーブルに叩きつけた。
ダダン!! と鈍い音がし、乗っていたティーカップがガチャンと揺れる。
だがこの程度の怒りは当然だろう。
貴族でアダマンタイト級冒険者な者の親族など、絶対に見逃してはいけない情報だ。
それもたった二人で【不動】を討ったのが事実なら、間違いなくオリハルコン級以上。見逃すには余りにも致命的すぎる。
「それで4騎士は捕虜になった訳ではなく、すでに死んでいるのだな?」
「それは間違いなく。死体は魔獣の背に乗せられ、運ばれている所を見た者が大勢おります」
「そうか。まぁそれは良い。いや良くはないが、とりあえず4騎士については分かった。
それで……聞きたくないのだが…………フールーダ達はどうした? 本当にやられたのか?」
ジルクニフは慎重な声で訪ねた。
それは嫌いな食べ物を前に思い迷う、食事を躊躇する子供のような、か細い声だった。
暖かな声で、
「その、パラダイン様と高弟4人ですが……ツアレニーニャ一人にやられたようです」
「一人に!? 一応聞くがそれは本当か? 流石にありえんだろ。高弟だけならまだしもフールーダだぞ? 逸脱者がいてどうして敗けるというのだ」
……だが帰ってきたのは余りにも冷たい現実だ。
ジルクニフは息を乱しながら、必死にロウネへと問いかけた。
「はい、その……申し上げにくいのですが。上がってきた情報によればツアレニーニャは、パラダイン様に追い込まれて一度死亡。しかし自らの力で蘇ったと。しかもその姿は神々しい天使と化し、そのまま圧倒的な力でパラダイン様たちを殺害。将軍たちまで捕え駐屯砦を占拠。帝国軍そのものを降伏させたとにございます」
「――はぁぁ!?(2回目)」
ジルクニフは再び間抜けな声を上げた。
ロウネから告げられた言葉が、途中から脳を素通りしてしまったからだ。
だがしばらくジッと見つめてもロウネの態度は変わらなかった。
「それは……ありえるのか?」
「私もありえないと思いました。しかし事実として帝国軍は降伏しております。大部分の騎士たちは馬と装備を取り上げられた状態で開放され帰宅の路に。そして途中で馬を調達し、先駆けしてきた者達の全員が同じ証言をしておりますので……」
どう考えてもありえないことだ。
好きに英雄譚を語らせれば、その辺の子供だってもっとましな話を思いつくだろう。
にも関わらずロウネは大真面目な顔のままであり、実際に騎士たちが帰ってきている。ということは――全て事実だという事に他ならない。
「なんだそれは……? どうしてこんな酷いことばかりが起きる……」
ジルクニフは目の前が真っ暗になりそうだった。
積み木で城を作っていたら、完成寸前にモンスターが突っ込んできた気分だ。
今まで積み重ねてきたものが、無惨にも吹き飛ばされてしまった。
「それでその。早ければ数日後には王国からの使者が来ると思われますが、如何なさいましょうか? おそらく向こうは捕まえた将軍たちの身代金を吹っかけてくるかと……」
「どうするも何も、言い値で払うしかあるまい」
ジルクニフは断言する。この状況で見捨てるなどあり得なかった。
そんな事をすれば騎士達からの信頼は完全に失われる。
ジルクニフの武力背景は消え、今まで粛清してきた貴族たちは各地で反抗の為に動き出すだろう。そんな事を許す訳にはいかない。
「……いやしかし、まだだ。まだ帝国は終わっていない。私は負けない!! おい。至急、情報局を呼び出せ」
それでもジルクニフの心は折れなかった。
鮮血帝としての矜持。このままでは終われないという思い。そして受け継いだ帝国皇帝としての責任がジルクニフを突き動かす。
ジルクニフはゆっくりと立ち上がり、全身に力を込めて覇気のある声で命令を下す。
「陛下……!!!」
そんなジルクニフの姿に、ロウネは心からの尊敬の念を向けた。
これほどの状況にも関わらず覇気を持って立ち向かう姿は、まさにこの国の全てを背負う皇帝としか表現しようがなかった。
「それで、何から始めるおつもりですか?」
「……決まっているだろう。王国で内乱を起こさせるのだ。まずはボウロロープと第一王子を煽る為の人員を配置しろ。それとランポッサに味方する貴族の弱みを探せ。ああ、もちろん帝国内で動き出す貴族共の監視も必要だぞ」
ジルクニフの優秀な頭脳は即座に次の策を考え始める。
今回の戦争で受けた帝国の被害は想像を絶する。失われた物を取り直すには数年の時が必要になるだろう。
しかしだからこそ止まるわけにはいかない。
そんな事をすれば王国の国力は回復し、今度は帝国が攻められかねないからだ。
「なんせすでに武力は逆転しているのだからな。だからこそ王国にも同じだけの、いや帝国以上の被害を受けさせなければならない」
内乱で王国が帝国に手を出せない状況を作り、その間に帝国の受けた傷を癒やす。
なんせランポッサ三世は息子―第一王子―を切り捨てられない親馬鹿だ。ならば内乱も長引くだろう。もしかしたら国が二つに割れるかもしれない。
「そうなれば帝国としては最高だが、流石にそこまでは期待しすぎだな。それと後は竜王国と法国にツアレニーニャ達の情報を流せ」
それから邪魔な白羽聖女団には他国に行って貰う事にする。
情報局からの報告によれば、ツアレニーニャはとても
ならば法国で祭り上げられれば、あるいは滅ぼうとしている竜王国に泣きつかれれば、断りきれずに長居する可能性は高い。
「しかしもしその者が転移の魔法を使えた場合、無駄になるのではないでしょうか?」
「もちろんその時は別の方法で内乱に参戦できないよう釘付けにする必要がある。まぁ全てはタイミング次第だ。後は念のためにイジャニーヤを何時でも呼べるようにしておけ。暗殺の依頼先は王国貴族、もしくは白羽聖女団だ」
ガゼフ・ストロノーフも強敵だが、こちらは特殊な力を持たない戦士だ。
ならばやりようは幾らでもある。例えば味方のはずの貴族を裏切らせて毒でも仕込めば、もう巻き返すことはできまい。
「そして最後に、この策を見抜きそうな存在を排除……いやどうせならコチラに取り込むべきだな。あの
「そ、それはまさか」
「ああ。お前が想像している通りだ」
最早、四の五の言ってる場合ではない。
これから帝国は冬の時代を迎えるだろう。だがそれでも国を存続させねばならない。
その為なら使えるものは何でも使う。ジルクニフにその覚悟はとっくに出来ていた。例えそれが生理的に気持ち悪い相手だとしてもっ……!!
「これから来る王国の使者へ伝えろ」
「――
そう、武力で勝てぬのなら知略で勝てば良いのだ。
ジルクニフは決意した。かならずこの国を立て直して見せると……!!
ランポッサ「すごい神官だ。絶対に取り込まなきゃ」
レエブン侯「我が手腕を讃えよ……!」
ツアレ「なんで……どうしてこんな事に……」
他面子(当たり前なんだよなぁ……)
完全に成り上がり物になってしまった。
活躍しちゃったからしょうがないですね。
Q.そんなにホイホイ褒賞渡して大丈夫なん?
A.ちな残った王様の取り分
・騎士装備2万セット=金貨100万枚相当
・軍馬2千ぐらい =金貨10万枚相当
・騎士共の保釈金 =金貨40万枚(推定)
・賠償金(取れれば)=時価
全然大丈夫そう。これにはきっと財務尚書もニッコリ。