ツアレ転生者の華麗な異世界生活   作:さろんぱす。

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#25 奇跡も、魔法も、あるんじゃよ

 王国において比類なき政治力を持つレエブン侯。

 彼は2ヶ月ぶりに帰った領地の屋敷で、幸せな時間を過ごしていた。

 

「りーたんりーたん、パパはがんばりまちたよぉ~」

 

「だぁー」

 

 久しぶりの帰宅だ。戦争の後処理がやっと終わり、捕虜も引き渡すことが出来た。

 レエブン侯は専用に作らせた子供部屋で、生まれて1歳にも満たない我が子を抱き上げる。

 

「ああ~よちよちいい子でちゅねぇ~~~(至福)」

 

「あうあう~~~」

 

 頬を擦り寄せ、チュッチュとキスの雨を降らせる。

 子供は嬉しそうな声を上げ、それを聞いたレエブン侯は更に顔を綻ばせた。隣には妻も座っているが、最早そんな事は気にならなかった。

 

「なぜなら私は頑張ったから!! ……いや本当に。途中もうダメかと思ったぞ。だがこれで王国は良い方向に変われるだろう」

 

「そうですか。それは良かったですね」

 

 妻の相槌に気を良くしながら、レエブン侯はこれからの事を考える。

 帝国から打診されたラナー王女の嫁入り、間違いなく起こるだろう内乱、そして他国からの干渉……。

 

 まだまだ不安要素は沢山ある。

 しかしどれも、それほど悲観的な感情は湧いてこなかった。なぜなら彼は一人ではない。頼りになる……いや頼りに()()()()()味方がいるからだ。

 

「何かあってもあの二人……ガゼフ殿とベイロン子爵がいればどうにでもなるだろう」

 

 仮に貴族派が軍をあげても、ただの兵ではガゼフ殿を止めることは出来ない。

 恐らく戦士長は一歩も立ち止まることなく敵兵を斬り続ける。敵軍の司令が死ぬまで。

 

 そしてベイロン子爵が動けば、それだけで戦争は終わる。

 転移して魔法を撃てば敵首脳陣は一瞬で全滅。下手をすれば開戦から10秒掛からず終戦だ。

 

「本物の強者の前に数は無意味だ。人間をどれだけ集めても、ドラゴンからは逃げるしかないようにな」

 

「そのドラゴンがベイロン子爵ですか……。今、巷で大人気ですよね。そういえば、この()に書かれている事は本当なのですか?」

 

「……結果だけなら事実だ。ただし行動理由は全く異なるがな」

 

 質問に答えながら、レエブンは妻が持つ本に目をやった。

 表紙には大きく『救国の聖女物語』という題名が記されている。

 

「そうなのですか。妹からサインを貰ってきて、と頼まれていたのですが……」

 

「サイン程度なら大丈夫だろう。今度頼んでおこう」

 

 これはラキュース・アインドラが執筆し、戦後にアインドラ家から発行された書物である。

 親馬鹿として有名なアインドラ伯爵は、娘にせがまれるままにこの本の量産を始めた。

 なんと魔法まで使って。そして格安で売りに出したのだ。お陰でものすごい勢いで広まっている。

 

 同時に今、吟遊詩人たちが嬉々として広めている歌でもあり、もはや王国で知らないものはいない最新の英雄譚である。

 

 その内容は一言で言えば、神に選ばれた平民の少女が国を救う、という物語だ。

 少女は慈悲と信仰、そして勇気を持って立ち上がる。途中で犯罪組織と戦ったり、森でモンスターの大群を退治したりし、最後は死にながら神の力を覚醒させ、戦争を勝利に導いて幕を閉じる。

 

 レエブン侯も一度読んだが、英雄譚としては中々に面白いものだった。

 

「けれど彼女達は、帝国側ではずいぶんと禍々しい名で呼ばれているとか?」

 

「それはしょうがなかろう。帝国は殴られた側だからな。どうしても蔑称になってしまうものだ」

 

 だがそう言いながらもレエブン侯は、噂されている蔑称が間違っていないことを知っていた。

 何度か直接会話する機会があり、更に独自の情報網で調べた結果、白羽聖女団のメンバーが聖女とはかけ離れたキチガイであることが分かったからだ。

 

 ――ツアレニーニャ・ベイロン。

 物語の主人公であり、国内の二つ名は「救国の聖女」

 先の戦争を実質的に終結させた英雄であり、平民の出ということで国内では特に大人気だ。

 

 しかし帝国側では「血塗られた聖天使」と呼ばれている。

 これは戦争にて魔法一発で数千人を消し飛ばした―それも降伏を受け入れずに―故の名だ。

 その衣服は返り血で真っ赤に染まり、魂を汚したような光を纏い笑っていたという。性格的にも自己優先型のサイコパスであり、恐らく民のために行動したことは一度もない。

 

 ――クレマンティーヌ。

 物語のヒロインの一人、国内の二つ名は「疾風姫」

 聖女団の創設メンバーであり聖女の相棒。身一つで立ち上がった女性としてコチラもかなり人気が高い。

 

 だが帝国騎士達からは「串刺し凶人」と呼ばれ恐れられている。

 逃げ惑う神官達を殺し尽くした殺戮者への蔑称だ。それも噂では嬉々として背を追い串刺しにし続けたとか。まさに凶人としか言いようがない。恐らくは気分屋型のサイコパス。

 

 ――ラキュース・アインドラ。

 こちらも物語のヒロインの一人。自ら名乗った「永遠の闇勇者」が二つ名だ。

 この本の出版者でもあり、吟遊詩人に物語を流した張本人で、聖女ブームの火付け役。

 

 けれど裏では「終わ()ない黒歴史」と呼ばれてる。

 なんせ戦場で恥ずかしいセリフと行動を連発し、しかもそれを本にまとめて出版しているのだ。

 思春期ならではの行動であるが、ここまでやってしまうと、もはや永遠に終わらせる事は出来ない。将来、我に返ったら悶えて絶望するだろう。

 

 ――ガガーラン。

 物語における聖女団の兄貴分。二つ名は「童貞の守護神」

 表向きはミステリアスで豪快な、懐の深い女傑である。

 

 通称は「童喰い鬼(チェリーオーガ)」。こちらは最早説明すら必要ないだろう。

 文字通り戦場では童貞(男)を守りながら、戦後は童貞を食らう鬼(筋肉の塊)である。一度狙われたら逃げることは出来ない。その新品の装備(股間)を外すまではッ!!

 

「……そして最後が『森の賢王』か」

 

「なんでも、ものすごく可愛らしい魔獣だとか?」

 

「止めろ。そんな事が言えるのは本物の強者だけだ。一匹で私の親衛隊ですら全滅させれるのだぞ?」

 

 最後は戦闘力がありすぎる魔獣である。

 ガゼフですら同じ装備ならきっと勝てないだろう、と言わしめる強さであり、それを知ってしまえば間違っても可愛い等とは言えない。

 

 以上が白羽聖女団のメンバー。あまりにも濃い面子である。

 彼女たちと比べれば、その辺の貴族なんてただの背景だ。むろん自身を含めた一部の貴族は別だが。

 

「まぁ大事なことは、これらが全て王の味方だということだな。だから何も問題ない」

 

 逆に言えば、これらを敵にしなければならない貴族派閥はすでに勝ち筋がないのだが。

 しかし王派閥へと鞍替えしたレエブン侯は、もう関係ないことだと切り捨てる。

 

「貴族だからと油断しているからだ。まぁ私はそんな愚を犯すことはないがな」

 

 レエブン侯は笑いながら堂々と胸を張る。

 今までは影でコソコソ言われながらも王国が滅びないために尽力してきた。

 だがもはや蝙蝠と呼ばれながら両派閥間を彷徨う必要はないのだ。その姿には不安などどこにも見当たらなかった。

 

「そうですか。それなら貴方、あと一つだけよろしいですか?」

 

「なんだ?」

 

 レエブン侯は気分良く答える。何でも来いと思いながら。

 

「今度からこの子と遊ぶ時は、ちゃんとドアを閉めて下さいね? 貴方の豹変ぶり(赤ちゃん言葉等)をみたメイド達が戸惑っていましたよ」

 

「」

 

 妻の言葉を聞いたレエブン侯は、顔を赤らめ家の中でも決して油断しないと心に誓った。

 

 

 

 

 

◆◆◆ ◆◆◆

 

 

 

 

 すでに戦争から2ヶ月が経過した。

 季節は初冬に入り、チラホラと雪が見られるようになった。

 それはエ・ランテルでも違いはない。厚着せずに外を歩けば、冷えた空気がたちまち身を震わせるだろう。

 

「いやぁ、貴族になってからは大変でしたね。……おもに釣書と勧誘とラキュースのせいで」

 

「姉さん、お風呂で急に何言ってるの?」

 

 皆様こんにちは。みんなでお風呂に入ってヌクヌクのツアレちゃんです。

 エ・ランテルに建てた、私達の()()()の大浴場だ。5人どころかハムスケまで入っても余裕な広さである。

 

 もちろん完成してすぐにセリー(妹)も連れてきた。

 村に居た頃は冬は死と隣合わせだったけど、魔法か財力があれば寒さなんて敵じゃないね。つまり両方を備えた私は無敵。

 

「あ”ぁ”~お湯がきもちぃぃ~~。で、なんだっけ? ああそうそう、戦争終わってから勧誘がすごかったって話か。特に法国の使者さんは熱心だったね。……言ってることがキモかったから塩対応したけど。セリーはどう思った?」

 

「力があるなら人類の為に戦うべき、だっけ。……私、あの人達あんまり好きじゃないかも」

 

「安心して。お姉ちゃんも同じ意見だから」

 

 私は湯船に浸かりながら、不安そうなセリーを抱きしめる。

 おっ、ちょっと体付きがふっくらしてきたかな? まだまだガガーランニキには及ばないが。

 

「私が法国に行くことは絶対に無いよ」

 

 もちろん法国からの勧誘は断った。というか原作を知ってれば絶対に有り得ない。

 法国の方針は人類至上主義だけど、これから来るナザリックは異形種の動物園なんだよね。シャルティアの洗脳事件がなくても碌なことにはならないだろう。だから絶対にNOだ。

 

「まぁ竜王国の方は行くつもりだけどね」

 

「そうなの?」

 

 レベル上げ的な意味で。

 だってフールーダ戦でかなり苦戦したし、やはりLVは早めに上げておきたい。

 とすると獲物が万匹単位で湧いてる竜王国は美味しい狩り場だよね。

 

「それに竜王国の使者さんも『来てくれるなら何時でも歓迎です』って言ってたし」

 

「人を食べる亜人が沢山いるんでしょ? 大丈夫なの?」

 

「大丈夫大丈夫。もはや私は誰も止められないぜ」

 

 いざとなったら聖天使化して暴れればいいだけだ。

 それから効果時間が切れる前に転移で逃げれば死ぬことはない。もはやビーストマンごときが私を止めることは出来ない。今の私にとってはイージーな狩り場と言えよう。

 

「それに装備も更新出来たからね。フフフ、ついに念願のアダマンタイト製装備を手に入れたぞ!! 他にもずっと欲しかった物を揃えたし。……よく金に糸目を付けないって聞くけど、実際に自分でやると最高ね」

 

 代わりに王様に貰った報奨金(金貨25万枚)は使っちゃったけど。

 もう金貨1万枚も残っていない。遠慮なしの大散財である。

 

 買った物(散財先)は大きく分けて3つ。

 まず1つ目の買い物はエ・ランテルの土地だ。

 宿暮らしだと街で訓練が出来ないし、ハムスケも馬小屋で肩身が狭そうだったからね。

 

「エヘヘ、なので思い切って土地を買っちゃいました」

 

 場所は都市を囲う3重城壁の内、ちょうど中間になる市街区の南側。

 主街道から途中でそれて少し奥に行った所だが、広さは大体100メートル四方。運動場込の小学校ぐらいある。めっちゃ広い。

 

 もちろん拠点も建築済みだ。地上3階、地下1階の大拠点だよ!!

 1階は訓練場、大浴場、食堂。

 2階は個人部屋、資料室、歓談室。

 3階は客間とか。

 地下は倉庫。外は造園とかせず、芝生だけ生やして運動場にしてある。

 

 それと全てのドアと通路は広く作ってもらった。ハムスケと余裕ですれ違えるほどに。

 これはもちろんハムスケと一緒に住む為である。2階にはしっかりハムスケ用の部屋もあるぞ!!

 

「それからセリーの部屋もね。これからは一つ屋根の下で一緒だよ」

 

 ちなみに大浴場には第3位階の生活魔法〈温泉(ホット・スプリング)〉が使える魔道具(マジックアイテム)を設置済みだ。

 なのでこうして何時でも温泉に入ることが出来る。何気にこれが一番うれしかった。やっぱ日本人には温泉が必要なんやなって。ハムスケも気に入ったのか毎日入浴している。

 

「それから2つ目は装備の更新」

 

 騎士3人分の防具は、私以外の3人に使ってもらうことにした。

 なんせ私はまだコスプレを続ける必要があるから。少なくとも転生天使の分御魂(ソウルメイデン・オブ・アルテマ)クラスがLVMAXになるまでこのままだ。

 

 ガガーランニキは防具1人分を丸ごと使用。

 造形は魔術師組合にお金を払って変更済みである。

 出来ると聞いた時には驚いたが、錬金術道具・魔法・儀式を組み合わせることで可能だった。

 それも魔化されたアイテムでもOKなのだから大変便利である。ユグドラシル的に言えば、内部データはそのまま外装だけチェンジって所だろうか。

 

 それから残り2人分はバラして個別に。

 鎧部分以外をクレマンティーヌとラキュースが使っている。

 ガントレット、グリーブ、ベルト、シャツの辺りだ。

 

 武器は【悲酸】の刺突剣2本がクレマンティーヌに。

 【不動】の大盾は舞踊(ダンス)の魔法が込められていたので、ハムスケが肩横に浮かせて装備している。

 

 ハムスケはこれによって体の動きを阻害されずに、防御力を大幅に向上させた。

 それも場合によっては思念で盾を動かして攻撃もできるので、ハムスケは爪x4+盾x2+尻尾x1の1ターン7回攻撃になってしまった。今なら4騎士全員まとめてぶち殺せそう。

 

 そして最後に余った鎧x2、兜x2、【重爆】の槍はバラして新装備の原料にした。

 

「込められている魔法が解除されちゃうから少々勿体なかったけど、使わないまま置いといても意味がないからね」

 

 これらは結果的に武器x3と軽鎧x3になった。

 私のショートソード2本の新調と、革服(レオタード)の強化。

 クレマンティーヌの軽鎧(ビキニアーマー)の強化。

 ラキュースのロングソードと軽鎧(ブレストプレート)の新調。

 ガガーランの重ハンマーの新調、である。

 

 元が全身鎧だけあって使われてる金属料が多かったので、これだけ作っても十分に足りた。

 という訳で、白羽聖女団全員の武具がアダマンタイト製にパワーアップしたのである。

 加工費とその後の魔化で金貨15万枚以上が飛んでいってしまったが。アダマンタイト製はこの世界の最終装備(店売り)なので、これぐらいはしょうがないだろう。

 

「そして3つ目の買い物は魔道具。金に物を言わせて買い漁ったんだよなぁ」

 

 まず最初に特注したのは〈飛行(フライ)〉が使えるようになる装飾品だ。

 これからの事を考えると、やはり飛べるのが私だけというのは厳しい。

 先の戦争でもそのせいで苦労したし、もしかしたらアゼルリシア山脈に登ったりするかもしれないからね。

 

 なので特注。白羽聖女団の団員証も兼ねて、白い羽を模したイヤリングにしてみたよ!!

 名前を付けるなら「白羽の耳飾り(イヤリング・オブ・ホワイトフェザー)」ってところかな。

 一日1時間〈飛行(フライ)〉を使えるイヤリングである。お値段はなんと金貨5千枚!!

 

 それから次は〈不可視化(インヴィジヴィリティ)〉が使えるようになる「不可視の指輪(リング・オブ・インヴィジビリティ)」。

 この魔法も使えると何かと便利だからね。特に戦争とか戦争とか。効果は1日3時間までOKで、こちらもお値段は金貨5千枚。

 

 そして最後は不可視化の看破&闇を見通す暗視を得る指輪。

 その名も「看破の指輪(リング・オブ・シーイング)」だ。何とこれは常時発動で制限時間がない。

 おまけに値段も金貨4千枚と大変お得だった。私達のPTには斥候役が居ないので、きっと活躍してくれることだろう。

 

 これらが5人分で金貨7万枚。

 それと「魔法注入の指輪(リング・オブ・マジックバインド)」も30組ほど購入しておいた。

 1つ金貨300枚だったので9千枚分である。これは第3位階までの魔法を1つ込めておけるので、回復魔法を込めてポーション代わりにする予定だ。

 

 第3位階相当のポーションは一本で金貨32枚もするので、282回ほど仕えば元が取れる計算になる。まぁそれでなくても魔法を持ち運べるのは便利だけど。

 

「後は精神対策の首飾り(ジルクニフのネックレス)も欲しかったんだけど。どこにも売ってなかったんだよね。たかが帝国の国宝(WEB版)と同じ効果なのにさ」

 

「いやそれはムリなんじゃ」

 

 まったく職務怠慢だよね。王国の魔術師組合はもっとやる気を出してほしい(無茶振り)

 

 あと特筆すべきはフールーダの装備一式だろうか。

 流石に大魔法使いの装備だけあって、どれも効果は凄まじかった。ただ残念ながら半分は魔力系魔法詠唱者でなければ意味がない物だったが。

 

「まぁこれはセリーが大きくなってから使えばいいよ。ローブだけでたぶん金貨10万枚オーバーだけど。帝国主席魔法使いは伊達じゃない」

 

「やだよ姉さん。そんなの身に付けるの怖いよ……帝国の人にバレたら殺されちゃうんじゃ?」

 

 残念、怖くても身に着けてもらいます(強制)。だって他に使える人いないし。

 

「あっ、あと帝国と言えば、ラナー王女を正妃に迎えるって言ってるんだってね」

 

 まったく鮮血帝は最高だな! まさかあの魔女(第3王女)まで引き取ってくれるとは!!

 まぁランポッサ三世の答えは伝家の宝刀―一時保留(婚約止め)―だったそうだけど。

 それでも心の底から尊敬する。ジルクニフ様こそ人類史上最高の王と言っても過言ではないだろう。彼はぜひこのまま帝国ごと生贄になって欲しい。

 

「バハルス帝国皇帝は犠牲になるのだ。魔女の野望の犠牲にな……」

 

「いや、魔女って誰だよ」

 

「フールーダが女体化して生き返るとか? 流石にないかー」

 

「やめてよガガーランニキ、クレティー。その時は神聖属性の魔法で蒸発させないと」

 

 流石にそんなキモイ事がある訳がないが。

 というか体ごと消滅させたので絶対にありえないだろう(フラグ)。

 

「それでラキュースはどうしてるの? お風呂にこないって珍しくない?」

 

「アイツなら、また新しい本を書いてるぜ」

 

「またかよ……」

 

 アイツが出した本(日記のまとめ)のせいで、私の立ち場がやばいんだが?

 どこ行っても色んな人から声かけられるし。

 しかも半分以上が治してくださいとか、お布施くれとか。いや気分良く対応してあげてたけどね? 名声稼ぎの為に。あとお金は余裕あるし称賛されるのも気持ちいいから。

 

「でもおかげで『救国の聖女(セイヴァー・セインテス)』なんて職業(クラス)を取得しちゃった有様だよ!!」

 

 これは最初、ものすごいレアクラスかと思って喜んだが全然違った。

 スキルが献身系(要は自爆)なひっでぇ罠クラスだったのだ。

 

 なんだよ最初のスキルが紅蓮の祈り(ラ・ピュセル)って。どっかで聞いたことあんぞ!?

 しかも効果が「死と引き換えに周囲に炎属性ダメージ。MP追加消費で範囲拡大」とかさぁ!! 

 

「なんで聖女=生贄になってんだよ!! 普通は聖女=癒やしでしょ!?」

 

 回復役が自爆するしかないって、それもうPT全滅してんだろうが!!

 これはクソ運営(ユグドラシル)臭がしますよぉ!!

 

「良かったじゃねーか、これで何時でも聖天使化できんぞ」

 

「そうそう。もう首掻っ捌かなくてすむじゃーん」

 

「ぜんぜんよくなーーい!! ていうかアレは66時間に1度しか使えないし!!」

 

 ガガーランニキもクレマンティーヌも他人事だと思って……!!

 私は別に死にたがりな訳じゃないんだけどなぁ。ただし聖天使化とのシナジーは認める。

 

「それと帝国に戻ったレイナースさんは元気にしてるかな?」

 

「レイナースって姉さんが蘇生した人?」

 

「そうそれ。今頃エンジョイしてるんじゃないかなー?」

 

「おう、呪いが解けて泣いて喜んでたからな」

 

 さて、実験用に確保しておいたレイナースさんの死体だが。

 結論から言えば、生き返しても呪いは解けなかった。

 

 どうも単純な蘇生ではダメらしい。

 というのもこの世界の状態異常は死んでも残ったままなようだ。

 

 おまけに複数が同時に掛かるので、解除も個別に行う必要がある。

 つまりポケモンで言えば、火傷・毒・氷・眠り・気絶が全部同時に掛かる仕様で、しかも一つずつ解除しないとダメってことだね。

 

 ……これがドラ○エやファイフ○ンみたいに、死亡で状態が上書きされれば簡単だったんだけど。

 

「何事もそう上手くはいかないね」

 

「いや上手くいったじゃーん」

 

「そうだぜ。ちゃんと呪いは解けたじゃねーか。あのすごいスキル〈魂と引き換えの奇跡〉って奴でよ」

 

 しかしそれでも解呪事態は成功している。

 これはフールーダを倒し、ついでに帝国軍(の一部)を吹き飛ばした事でレベルアップ。

 習得してしまったスキル――魂と引き換えの奇跡、を使ったからだ。

 

 そう、原作で憤怒の魔将さんが使っていたあのスキルである。

 その効果は、第8位階以下の魔法ならどれでも一度だけ発動できること。

 

 これにより私は第8位階魔法〈上位呪詛解呪(グレーター・リムーブ・カース)〉を発動。

 見事にレイナースさんの呪いを解くことに成功したのだ。……寝ている間にやったから本人は蘇生で解けたと勘違いしていたが。

 

「つまり私が最強すぎてやばい、ってことだね」

 

「でもそれ使えるの1日に1度だけでしょ?」

 

「不意打ちで〈(デス)〉使ったり、〈物体発見(ロケート・オブジェクト)〉で物探せるのは便利だよ!!」

 

 まぁ100LVのプレイヤーからすれば誤差だろうけど。

 でも私からすれば結構な神スキルだ。リキャストタイムは24時間。

 

 なお、治ったレイナースさんは嬉泣きしながら帝国に帰っていった。

 でも帝国でも再び皇帝に仕えることはない。それをやったら見つけ次第に殺すって言っておいたからだ。

 

 なので今頃は日常をエンジョイしてることだろう。

 彼女にはそのまま幸せになって欲しいと思う。だってこれ以上、PTに神官系は要らないからね。むしろ情報が漏れることを考えると邪魔だった。

 

「名前を刺繍した各自のパンティーをばらまいて、魔法で拾い主を探しに行くとか面白そうだよね」

 

「「「やめろ(て)」」」

 

 私はザブーンと頭まで潜り、底に寝そべってブクブクと息を吐き出しながら思った。

 そういえばエ・ランテルで死とか探しものと言えばズーラーノーンのあの人だけど、でも墓地を探してみてもいなかったし、一体何処に行っちゃったのかなぁ、と。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆ ◆◆◆

 

 

 

 

 

「ふはははは、すごいぞ!! すごい負のエネルギーが集まっていくぞ!!」

 

 死臭が漂う薄霧が蔓延する地に、怪しげな儀式を行う複数の人影があった。

 円陣の中央に立つのは赤いローブを羽織り、髪のない老人のように草臥れた魔法詠唱者(マジックキャスター)

 ズーラーノーン12高弟の1人、カジット・デイル・バダンテール。

 

「今年の戦争では何千人もの死者が出たと聞いたが、まさかこれほどとは。かのフールーダ・パラダインが死んでくれたおかげか?」

 

 カジットは上機嫌に声を弾ませながら、手に持つ黒い石を頭上に掲げる。

 盟主から賜りし至高の死の宝珠を。この珠に膨大な負のエネルギーを集め、自身をアンデッドと化す事こそがカジットの目的なのだ。

 

「英雄の領域に立つ神官が住み着いた事からエ・ランテルでの儀式を諦め、2ヶ月経ってようやく捕虜だった帝国軍が帰ったからとカッツェ平野に来てみれば。これは大当たりだ」

 

 そう言っている間にも死の宝珠にはドンドン負のエネルギーが溜まっていく。

 それは今まで実験で襲った小さな村や個人とは、まるで違う勢いだった。

 

「ふはははは、私はなんと運が良いのだ。今ならどんなアンデッドだって行使できそうだぞ」

 

 カジットは恍惚な表情で死の宝珠を見上げる。

 しかし、その時不思議な事が起こった。

 

 ――許サンゾォ~~~~。

 

 どこからか枯れた老人のような声が聞こえてきたのだ。

 

「これはなんだ!?」

 

 ――ワシノ、ワシノ夢ヲ、笑ウモノハ、許サヌゥウ~~~~!!!

 

 カジットは驚いて周囲を見渡すも何も見えない。

 だが声は徐々に近づいてきていた。

 

「ま、まさかこれは!?」

 

 ――ワシハ、何ヲ犠牲ニシテモ、見ルノジャア~~、()()()()()ヲォオ~~~!!!

 

 カジットはついに声が何処から発せられているのかを悟った。

 その叫びは死の宝珠の()から出ていた。

 

 ――ヨコセ!! ソノチカラヲォ!! ワシニ器ヲォオオオオオオ!!!!!!

 

「まさか乗っ取ろうとしているのか? 死の宝珠を!?」

 

 その瞬間、死の宝珠から莫大な魔力が溢れ出す。

 伸びた魔力は触手のようにグネグネと動き、カジット達は一瞬で拘束されてしまった。

 

「カ、カジット様、これはいったい!?」

 

「い、命が、吸われるぅ~~~」

 

「助けて下さいカジットさまぁ~~~~!!!」

 

 場は一瞬で阿鼻叫喚と化し、弟子たちが次々とその生命と魔力を吸収されていく。

 

「馬鹿な……こんなことが……ある訳が…………」

 

 そのセリフを最後にカジットの意識は途切れた。

 死の宝珠は地面に落ちてパリンと割れる。

 

 中から現れたのは、足を切り取られた人形のような半透明の存在。

 苦悶の表情を浮かべた複数人の影、それが入混じったような外見の、真っ白い髭を伸ばした老人の様な()()だった。

 

「――フハハハハ!! コレガ奇跡……ッ!! ワシモ、ワシモ奇跡ヲ、手ニ入レタゾォ……!! フフフ、フハハハハ!!!!!」

 

 もしそれを見たのがユグドラシルのプレイヤーであれば、きっとこう呼んだだろう。

 

 ――あれは「上位死霊(ハイレイス)の亜種」だ、と。




@あとがき
フールーダ復活!! フールーダ復活!! (誰も望んでない)
代わりにカジっちゃんが犠牲になってしまいました。
でも見つかったら狩られるだけなんで。こういう形でリサイクルです。

■以下独自クラスの設定とか
・クラス名:救国の聖女(セイヴァー・セインテス)(信仰系)最大Lv5
 取得条件:皆が知る国の窮地を救い、その功績を大多数の民に認められること。他色々。
 職業特徴:取得スキルの全てが自爆技。強いが条件の厳しさに比べるとネタ職の粋を出ない
 スキル1:紅蓮の祈り(ラ・ピュセル):周囲に炎属性ダメージ。MP追加消費で範囲拡大。本人は死ぬ
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