ツアレ転生者の華麗な異世界生活   作:さろんぱす。

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明けましておめでとうございます。
新年一発目の殺戮回です。今年も宜しくお願いします。


#27 わくわくビーストマン殲滅RTA

「それでは法国の方々の紹介も終わった所で、次の作戦について説明させて頂きましょう」

 

 ベリュース、エルヤー、ニグン隊長の紹介が終わった。

 それから間を置かずに竜王国の将軍は作戦の説明を始めた。マジに反攻作戦をやる気らしい。

 

「内容はシンプルです。――野戦にて敵を()()出し、()()によってこれを叩く!! この為に()()()()()に分けます。敵の陽動、足止め、そして伏兵です」

 

 中央に用意された大テーブルに地図が広げられる。

 周辺の地形が細かく書き込まれていた。流石にマイホームだけあって地の利はこちらにあるようだ。よほど自信があるのか将軍は妙にウキウキしている。

 

「それでまず敗走する振りをして敵を釣る部隊です。これは竜王国軍から選抜した決死隊が行います。ですので陽光聖典の方々には、ぜひこちらを助力して頂きたい。部隊として高度な連携を要する貴方達であれば、きっと簡単なことでしょう」

 

「……了解しました。確かにそれは生半可な練度の部隊では無理でしょう。ただし我々は死にに来ている訳ではありません。付いてこれない者は容赦なく置いていくことを宣言させて頂きます」

 

 ふむふむ、敵を引っ張ってくるのはニグンさん達か。

 他国からの援軍を容赦なく囮にするとか、この将軍いい性格してるね。色付きサングラスが一瞬キラッと光った気がする。

 

「ママドーラさん、流石に最前線を任される人は一味違いますね(ヒソヒソ)」

 

「使える者はギリギリまで絞り尽くすタイプさね。あの将軍は(ヒソヒソ)」

 

「それはそれで酷くね? せっかく助けに来てるのに(ヒソヒソ)」

 

「何言ってんだい。法国が竜王国から派遣費で大金を巻き上げてるのは裏じゃ有名な話さね。将軍もそれを知ってるから限界までこき使おうとしてるんだよ(ヒソヒソ」

 

 なーる。竜王国がお布施払ってるの知ってて、その分は働けって感じなのね。

 やっぱり法国の特殊部隊ってブラックっぷりがやばいね。絶対に行きたくない。

 

 まぁ陽光聖典はみんな第3位階以上の神官だから大丈夫だろう。

 いざとなれば自己回復だって出来る。だからこれはぴったりな役割だ。私なら断るけど。

 

「それから次は釣られて()()()来るビーストマン軍を受け止める本軍。これは砦を出て南にある盆地に陣を張ります。抜かれてしまうと全体が崩れてしまう都合上もっとも激戦が予想されます。なのでエルヤー殿の隊にはここの助力をお願いしたい。また万が一に備えて後方に予備隊も置きます。ベリュース殿はそちらに」

 

「ええ良いですとも。まぁこの私であればビーストマン程度、何匹こようが全く問題ないでしょう。抜かれることなどありえませんよ。……後ろにいるしかない鈍亀は役に立たないと相場が決まっていますからね」

 

「おお、ならば我が支援部隊は楽が出来ますなぁ~。さすが未来の大剣豪殿は頼もしい!! ……これは援護なぞ必要なさそうだ」

 

 はっはっは!! と二人の馬鹿(エルヤー&ベリュース)が盛大に笑う。

 見事なフラグ建築だ。こいつら旗建てのプロかよ。私が帝国との戦争に出たときでも、ここまで酷くはなかったぞ。……多分。

 

「それから対峙するビーストマンを囲むように北南に兵を伏せます。こちらは竜王国軍が担当しましょう。我等はこの辺の地形に慣れておりますので、上手く隠れておく事が可能です」

 

 ふむふむ。そうして釣った敵を伏兵で殲滅するのか。

 私は頭の中でざっと状況をシミュレートする。

 

 □北□□□□□□□□[伏兵]□□□□□□□□□□

 西+東□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 □南□□□[予][本陣]□←[囮]□←[獣人]□

 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 □□□□□□□□□□[伏兵]□□□□□□□□□□

 

 つまり大体こんな形になる訳だね。

 本陣が防戦で持ちこたえている間に、北と南の伏兵がいっきに襲撃。そのまま敵軍を挟み込み、包囲網を完成させるのだ。

 

 ……なんだか戦記っぽくなってきたな。オラ、ワクワクしてきたぞ!!

 

「では開始は明日。余り余裕がありませんので、各々は隊を早急に動かして頂きたい。この作戦が成功すれば、少なくとも数年はビーストマンが攻めて来ることはなくなるでしょう。将軍である私が言うのもなんですが、この作戦に竜王国の未来がかかっています。……あえて作戦名を付けるなら()()()して()()する必殺の()形――『獣包囲殲滅陣』とでも呼びましょうか」

 

 カッケェ!! なんて強そうな作戦名なんだ……!!!

 この必殺陣には、もはや勝った気になってくるほどのスゴミがあるッ!!!

 

「でもなんか足りない? 足りなくない??」

 

「なにがだい?」

 

 しかし私はこの作戦の不備に気づいてしまった。それもかなり重大な。

 他の人は気づいていないようだが。……まぁしゃーない。きっと将軍達も緊張や不安で頭がいっぱいなのだろう。でもこんな熱い状況で指摘するのは野暮だ。

 

 だからそっちは私達が対応してあげる事にする。

 そう、私にはある。この亜人の軍勢を前に、勝利をもぎ取る力がある……!!!

 

「フフフ、勝てる。私の読みどおりに戦局が動いてくれれば、20割ほどで」

 

「20割!? どんだけ勝つ気なんだい……!!」

 

 やっぱ包囲っていうならさ、ちゃんと()()にも()をするべきだよね!!

 ……逃げ場のない()()な包囲。これはきっと歴史に残る芸術になるよ!!

 

 

 

 

 ◆◆◆ ◆◆◆

 

 

 

 そして翌日、ビーストマンへの反攻作戦が始まった。

 私たちは「砦に残って負傷者の治療をお願いします」と言われたが「ライセンス(女王の手紙)があります」と言って前線に出てきた。

 

ワンマンアーミー(自由行動権)最高だね。ちゃんと面会しといて良かったよ。まぁダメでも好きにしたけど」

 

「だって私らはもう冒険者じゃないもんねー。ラキュースとガガーランも引退しちゃったし。だから竜王国にも冒険者組合にも従う義務はないじゃーん」

 

 クレマンティーヌと二人でニヤニヤ笑う。偶然の成行きだけど、このポジション最高だね。

 (表面上は)ルールを守って好き勝手行動する、私の基本スタンスに完全一致している。あとは戦果さえ上げてしまえば、誰にも文句は言われないだろう。

 

「獣包囲殲滅陣……なんて心が躍る名前なのかしら。その将軍とは気が合いそう」

 

「そのビーストマンという獣? は全部倒していいのでござろう。腕がなるでござるよ!!」

 

「それで俺らはどうすんだ? つーかこの作戦よ、そもそも無理臭くねーか?」

 

「まぁガガーランが不安になる気持ちも分かるよ。だってビーストマンの身体能力は平均して人間の約10倍だからね」

 

 普通に考えたら、そんな相手に野戦とか正気じゃないよね。

 もしかして原作の竜王国って、こんな風な作戦で失敗しまくって滅びかけてたのかもしれない。

 

「でもせっかく竜王国軍が前方に蓋をしてくれるんだよ? なら私たちは()()から狩って行った方が効率いいと思う」

 

「うーん、そう言われればそうかなー?」

 

「それに将軍は自信満々だったからね。ビーストマンと長年戦い続けてる人がだよ? 敵はばっちり受け止めてくれるって!!」

 

 だから竜王国軍が()()()なんて()()にありえないッ!!

 

 ということで私たちは戦場の独立遊軍になる。

 好きな場所で好きなように戦う。他を気にする必要はない。なので一番美味しそうな場所に行こうとおもいまーす!!!

 

「まぁ先の事まで考えたら逃さないのが一番だわな」

 

「つまり追いかけながら戦う訳でござるか」

 

「私たちは追う、竜王国は迎えうつ。つまり光と闇の挟み撃ち? それに北南にも星と陽の下僕(伏兵)がいるから完全(パーフェクト)な包囲が叶う……。あえて名前を付けるなら『()()包囲殲滅陣』と言った所ね……ッ!!!」

 

「……なんだかビクンビクンしてるけど、そのラキュースって子は大丈夫なのかい?」

 

「気にしないで下さい。いつもの事なので」

 

 いつも通りトリップして跳ね出したラキュースを置いといて、私は戦場に意識を移す。

 竜王国軍は予定通りの地点で戦型を整え、迎え撃つ本陣の準備を終えつつある。

 北と南の山中にもすでに兵が伏せ済みだ。あとは陽光聖典込の決死隊が動けば、すぐに戦闘が始まるだろう。

 

「なので私たちは本陣が食いつかれる頃合いを見計らって、ビーストマン軍の最後尾に攻撃を開始するよ!! ……では豪炎紅蓮の方も、依頼通りにお願いします」

 

「あいよぉ。戦場全体の監視と連絡だね? しっかり引き受けて上げるよ」

 

 戦場全体の監視も、豪炎紅蓮に頼んだから問題ない。

 少し離れた場所に隠れて、魔法とマジックアイテムによって全体の動きを見て貰う。

 なのでこっそり抜けようとするビーストマンがいればすぐに〈伝言(メッセージ)〉が入るだろう。後はこの戦いの後に逃げ帰るキャンプ地の特定も。せっかくの経験値だ。逃がす訳ないんだよなぁ。

 

 

 

 

 それから私たちは時を待ち、装備から〈透明化(インヴィジビリティ)〉と〈飛行(フライ)〉を発動。

 〈静寂(サイレンス)〉も使い、気づかれることなくビーストマン軍の最後尾へ、上空から奇襲をかけた。

 

 しかし初めに地上へ降りたのは私だけだ。

 みんなは召喚した終告の座天使(スローン・アンサラー)と共に上空で待機して貰っている。理由は最初にぶちかます私のスキルに巻き込まれないように。

 

「おい聞いたか? 前にいた人間どもは軽い一当てで逃げ出したそうだぜ」

 

「ギャハハハハ、全く人間共は弱すぎだな。捕まえたらナイフ投げの的にしようぜ!!」

 

「まっ、奴らは所詮家畜だ。生かしたまま、どこまで解体できるか挑戦するのもいいな」

 

 私は〈飛行(フライ)〉で浮いたまま、ぶつからないように群れに紛れ込む。

 最後尾は人間を舐めているビーストマンでいっぱいだった。

 

 てか言ってること酷すぎぃ!! これは完全に人間さん見下されてるね。種族的な意味で。

 だがその様子に思わずこっちも唇をなめ回す。遠慮なく殲滅できる敵に感謝して。これなら遠慮なんてしなくて良いぞー。

 

(えーと、この辺かな? お邪魔しまーす)

 

 私は出来るだけ多数が範囲に入る場所へ移動し、そこでスキルを発動させた。

 前で両手を組んで頭を上げ、空の果てを見上げながら。

 

 ――それは思い続けるほどに燃ゆる儚き夢。

 ――それは剣尽き矢折れ生無く彷徨い歩く望我。

 ――それでも世界の平和を願う、清らかな乙女の祈り(自称)だった。

 

「主よ、この身を委ねます(だから全部殺してplz)」

 

 ――紅蓮の祈り(ラ・ピュセル)

 

「「「……はへっ?」」」

 

 朗らかに歌われた聖句に従い、発動した自爆スキル(紅蓮の祈り)によって世界が炎に包まれる。

 私の命と引き換えに顕現された大炎は、追加のMP消費によって範囲を拡大。半径100メートルを超えてなお広がり、その中に居たビーストマン達を一瞬で燃やし尽くす。

 

 しかしこれで終わりではない。私のスキルがコンボする。

 続けて炎が起こった中心から一体の天使が身を起こした。青く光る薔薇から出てきたのは、神聖さとは真逆な真っ赤に血塗られた天使だ。

 

「……っしゃ、変身完了ー!! ツアレちゃん聖天使モードッ!!」

 

 もちろんその天使はスキルによって蘇生&変身した私だ。

 戦争でのフールーダ戦以来、2ヶ月ぶりの聖天使モードだよ!!

 

 それと炎が収まったのを合図に、上空で待機してたみんなが降りてくる。

 しかも前の戦争時とは違って余裕があるせいか、ジロジロと私の全身を見回す。

 

「うーん、これはねっとりした中年男性の視線ですねぇ」

 

「いやなんつーかよ。改めて見るとエロイ格好だよな。俺はとても真似できね―ぜ」

 

「お尻丸出しはダメなのでござるか? 某とおそろいでござる」

 

「いやそれただの痴女だし。ツアっちやっぱ変身後は()天使じゃね? しかもその姿って神聖属性が弱点なんでしょ? 聖天使はないわー」

 

「何言ってるのよクレマンティーヌ。闇属性の天使なんて最高じゃない!! 深淵から出でし伝説の天使様……次の本(妄想集)はこれだわ!!」

 

「みんな煩いよ!! 強いんだから格好とかどうでもいいでしょ!!」

 

 おかしいな。最強モードなのに、みんなの評価が悪い。

 というか敵は人間じゃないんだから、見た目とかあんまり気にしなくて良くね?

 確かに後ろはTバックでほぼお尻丸出しだけどさ。でも世の中には常に全裸で戦ってる人だっているんですよ。有名な武人のコキ○ートスさんとか!!

 

「んじゃ私はこのまま敵軍のおケツに突っ込んでくるね。みんなは殺り漏らしの処理をよろしく」

 

「オッケー。運良く生き残ったのがいたら、いや運悪くかな? まっ、どちらにしろこっちで片付けとくよー」

 

 私はみんなに後の事を告げると、再び前方へ目を向ける。

 ビーストマン達はいきなり同胞が焼かれたことにショックを受けたのか、一部の軍が停止してこっちを睨みつけていた。これならすぐに追いつけるだろう。

 

 だがあまりダラダラしてはいられない。

 なんせこの状態の効果時間は66分しかないからね。

 

 それから、みんなからある程度の距離を開けたら魔法も発動させる。

 この状態で使えるたった3種の攻撃魔法。地面スレスレを駆けるように飛びながら発動させたのは、その内の一つ――

 

「――〈切断刃陣(ブレード・バリヤー)〉」

 

 周囲にギザギザの円刃が数十枚も浮かぶ。

 1枚1枚が1メートルのサイズで、駒のように超速回転している巨大な切断機だ。

 

 その音をあえて表現するなら「クルクル」でも「ギュルギュル」でもない。

 「ギュィィイイイン!!」だろうか。余りにも回転が早すぎて風切音が繋がっている。

 見た目は完全にガン○ムF91のバグだ。全体が白銀で地面と水平に自己回転する形の。

 

「めっちゃ切れそう。でも風切り音がうるさいのが少しマイナスだね」

 

 おまけにそれらは回転したまま私の周囲を旋回し始めた。

 10メートルほど離れた地点で真円を描くような環状。その速度も驚くほど早い。

 

 私に併せて移動するので、近づけば敵はザクザク切断されるだろう。まさに刃の結界だ。

 ただしこの魔法は不思議な仕様で、同じ敵には一度しか攻撃判定が発生しない。なのでそこだけは注意が必要だ。

 

「後はせっかくだからスキル:重なる凶星の波動(グランドクロス)、も発動させとこっと」

 

 しかしそれでも念のため、私は更にスキルを発動させる。

 足元から黒と白の入り混じった星空が溢れていく。半径25メートルは広がっただろう。まるで不吉な星の輝きのよう。

 

 こちらは近づいた相手に、()状態異常をランダム発生させるオーラ系のスキルである。

 毒・盲目・睡眠・沈黙・恐怖・麻痺・混乱・病気・石化・呪い・即死・その他諸々……。

 

 これらが個別に発生判定が行われる。そして抵抗に失敗したら即座に発症だ。

 運がいい人は炎上しながら凍結したり、眠りながら恐怖したりしちゃうだろう。今日のラッキーボーイ&ガール達はどこかな?

 

「よーし、準備完了ッ!! いくぞぉおおおーーーー!!!」

 

 事前準備が終わった私は、そのままビーストマン軍に突撃した。

 周囲に切断機を侍らかせ、頭上に大きな天使を掲げ、状態異常のオーラをバラ巻きながら。

 

 ――それは巨大な削岩機が、山肌を削り取る光景に似ていた。

 

 後ろから風切り音を上げ笑い声と共に迫ってくる私に対し、初めはビーストマン達も盾と剣を抜いて構えを取った。

 

 だがそれに何の意味があるのだろう。

 だって周囲で回る刃は、LV95のモンスター(わたし)が第10位階の魔法で呼び出した刃だ。何の魔法もかかっていない、ただの鉄や革の武具で防ぐなんて出来るはずがない。

 

「はい、おーいつーいた♪」

 

 私は容赦なくビーストマン達の中へ踏み込む。

 構えた剣や盾ごと切断された無数のビーストマンが宙を舞った。

 強制的に分けられた上半身と下半身、その両方から血を吹き出しながら。

 

 ボロボロ落ちる上半身は、切り飛ばされた真っ赤なトマト。

 続けて地上に残された下半身から赤い水が噴水のように吹き出す。そんなオブジェクトが一瞬で何十体も形成される。

 

「これって実は威力が〈連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)〉以上なんだよね。つまりデスナイトさんでも(食いしばりなしだと)耐えられないんだぜ。おいおいおい、こいつら死ぬわ」

 

 というか、もちろん大抵の者は即死だ。

 しかし中には()()なことに、高い生命力によって死ななかった者達が居た。

 あまりにも綺麗に体が分割されたせいで、自身の現状を理解できず意識が残ったのだ。それでも放おっておけば数秒後には勝手に死んだだろう。

 

 しかしそこへ更に凶星からの状態異常デバフが襲いかかる。

 余命()()という状況でありながら、猛毒が、病気が、呪いが、あらゆる状態異常が死ねなかった彼らの身を蝕んでいく。

 

 その余りにも無慈悲な光景に、後ろを見てしまったビーストマン達から一斉に悲鳴が上がった。

 

「ぎゃあああああああああああ!!!」

「おひぃいいいいいいいい!!!」

「たすけてぇえええええええ!!」

「いやだあああああああああああ!!!!!」

 

「だーめ♡」

 

 それでも私が引き連れる廻刃は容赦なくビーストマン共を切断していく。

 もちろん中には小賢しく進行方向から逃げようとする者もいる。だがそういう奴らには範囲魔法をプレゼントだ。

 

「おっと、逃さないよ!! ――〈大顎の竜巻(シャークスサイクロン)〉」

 

 詠唱を終えると南側に巨大な竜巻が発生。

 その直径は五十メートル、高さ100メートルにも及ぶ。強力な吸引力で周囲のビーストマンを引き寄せ吸い込んでいく。

 

「なんじゃこりゃぁああああああ!!!!!」

 

「ひぃいいいいい助けてぇええええええ!!!!」

 

 巻き込まれたビーストマンの一団は、竜巻の中を泳ぐサメに喰らいつかれた。

 バクバク、ムシャムシャ。もちろん一噛みで即死だ。だってこれ第9位階魔法だからね! 人間LV10相当の雑魚が耐えれる威力じゃないんだよなぁ。

 

 そして更にダメ押しでもう一つ。

 

「行けっ! アンサラー!! 今度こそ君に決めたっ!!!」

 

 ついに終告の座天使(スローン・アンサラー)の出番である。

 空に浮かぶ巨大な白傘のような姿だ。かつて出オチしてしまった天使は魔法を放つ。

 飛んで北側に移動し、逃げようとしてた一団に向かって〈魔法三重化(トリプレットマジック)炎の嵐(ファイヤーストーム)〉をぶっぱだ。その様は心なしか喜んでいるように感じる。

 

「あつぅううーーーい!!!」

「んひぃいいいいいいい!!!!」

「あぎゃあああああああああ!!!!」

 

 強大な炎が三重にばらまかれて、ビーストマン達がまとめてボロボロと燃え尽きていく。

 向こうも途中からは必死になって攻撃を仕掛けてきたが、それらは何一つ私の身を傷つけることは出来なかった。

 

 天使は種族的な能力として、魔法が籠もってない武器のダメージを大幅に減少させるのだ。ついでに魔法無効化能力もあるぞ。

 

「良いね良いね!! 来てる!! すごい経験値ビンビンきてるよぉ!! まとめ狩りの効率しゅごぉーーーい!!!!」

 

 興奮した私はそのままビーストマン達を蹂躙する。

 幾ら攻撃しても意味がないと分かるまでに、いっきに敵の中央へ乗り込む。ビーストマンたちも必死に逃げようとするが、しかし私の速度は遥かに速い。

 

 ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。グチャ。パキッ。バリンッ。

ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。グチャ。パキッ。バリンッ――。

 ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。グチャ。パキッ。バリンッ。

ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。グチャ。パキッ。バリンッ――。

 ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。グチャ。パキッ。バリンッ。

ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。ザシュ。グチャ。パキッ。バリンッ――。

 

 南北にも細かく移動しながら。

 掃除機で部屋を綺麗にするようにビーストマンを殲滅していく。

 

 生物が両断され、肉片が飛び散る音が絶え間なく続いた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆ ◆◆◆

 

 

 

 

 ウキウキで竜王国(餌場)へ進行中のビーストマン軍。

 その軍勢は大まかに3つの部族から構成されていた。

 

 ――獅子の頭を持つガオオーン族。

 ――虎の頭を持つトラオーン族。

 ――そして豹の頭を持つニャオーン族。である。

 

 更にこの部族の各代表が上位者として軍を支配している。

 すなわち

 ――粒らな瞳で挨拶に煩い獅子頭のサヨナライオ将軍。

 ――食いしん坊で縞々な虎頭のシマヅロウ副将軍。

 ――黄鼠が嫌いで赤い豹頭のヅバニャン参謀長。

 

 この3名だ。

 ただし全員が武器を持って前線に出る脳筋である為、役職に意味はほとんどない。

 また自分の足で走る事が好きな彼らは騎乗しておらず、みんな歩兵であった。

 

 そんな軍の中で頂点に立つ3匹が、ふと後方を振り返って呟いた。

 

「……なぁ後ろのアレは夢だよニャン? あの()()()使()は何だニャン」

 

「……そうだトラ。きっと俺らは夢を見てるんだトラ。陸に()()()()()なんていないトラ」

 

「……ああ、とびっきりの悪夢だガオ。()()()()()()()()()なんてあり得ないガオ。おい、誰か知ってる者はいるかガオ?」

 

 だが周囲からすぐに答えは帰ってこなかった。

 みんな振り返った先で見た、余りにも恐ろしい光景に口を開けなかったのだ。

 

 しかし彼らの中で、初めに現実を受け入れたのはヅバニャン参謀長だった。

 種族の特徴として優れる聴覚により、後ろから流れてくる自軍の悲鳴をいつまでも無視することは出来なかった。

 

「後方から、めちゃやばそうな敵が迫ってきてるニャン!! 南には竜巻、北も白いキノコ(?)が炎をバラ撒いてる……一体何がどうなってるんだニャン!?」

 

 ヅバニャン参謀長は後方から迫る理不尽を見て呟く。

 後方では風と炎の竜巻が同朋を蹂躙していた。

 更に東では、おぞましい金切り音と共に同胞の体がばらまかれ、勢いよく吹き上がる血飛沫で空が赤く染まっている。それは余りにも恐ろしい光景だった。

 

「……知らないトラ!! あんなの見たことも聞いたこともない。だがこのまま巻き込まれたら死ぬ!! どうするトラ!?」

 

 次に立ち直って発言したのはシマヅロウ副将軍だ。

 種族的に優れた視力によって、嫌でも軍の状況が脳裏に叩き込まれてしまった。

 だがもはや軍の後方は完全にパニック状態。こうなれば軍全体が崩壊するのは時間の問題だろう。

 

「……ふむ、確かにこのままでは不味いガオ。アレに追いつかれたら我等も生にサヨナラしてしまいそうだガオ」

 

 そして最後に発言したのはサヨナライオ将軍である。

 立派な鬣をユサユサと揺らして駆けながら、その優れた頭脳によって現状を掴み取る。そしてすぐに決断を下した。……戦うとか無理。早く逃げなきゃ!!!

 

「もはや後方は死地だガオ。下がることはできまい……アレを出すガオ!!」

 

 そう叫ぶとサヨナライオ将軍は腰の袋に手を突っ込む。

 そこに納められているのは一つのマジックアイテム。総大将としてビーストマン国の王より受け取った一品だ。

 

「ま、まさか、ビーストマン国の秘宝を使うのかニャン!?」

 

「いや、まさに今こそ使うべきだトラ」

 

「そのとおりだガオ。――戦王の角笛を吹くッ!!」

 

 戦王の角笛(ホルン・オブ・ヴァルハラ)。それはビーストマン国の秘宝。

 一度吹けば周囲にいる全ての者達に強化が掛かる。それも装備まで一時的に魔化する恐るべき角笛だ。

 

 更にその最大数は――驚きの100人にも及ぶ。

 しかも効果時間は3時間。まさに戦うための宝具である。

 

 ――()ォォォォォオオオオオオオオン!!!

 

 戦場に不釣り合いな重()音が響き渡る。

 その音に合わせて、将軍達の周囲にいたビーストマンの肉体が盛り上がった。更に魔法の光が、その身を包む武具に宿っていく。

 

「こうなれば活路は前だガオ!! あれが敵の秘密兵器なら、味方を巻き込むのは躊躇するはずだガオ」

 

「それなら()()()っぽい()()()()()を探すトラ。その近くは安全なはずトラ」

 

「ならば、全軍死にものぐるいで前方に敗走を……いや、前に特攻だニャン!!」

 

 うぉおおおおおおおお!!!!!

 そんな雄叫びを上げながらビーストマン達は()()を始めた。

 今まで以上の圧力で、敵の前衛を抜けなければ命がないとばかりに。

 

 それは死にたくないという、生物としての根源に突き動かされた故の行動。

 内側から沸き起こる恐怖を必死に振り払う、余りにも必死で()()()な攻勢だった。

 

 

 

 

 

 一方その頃。竜王国の本陣は阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 急に何倍も勢いを強めたビーストマンの攻勢に、あっという間に陣地が崩壊してしまったのだ。

 

「慌てるなっ!! 死にたくなければ将軍である私の指示にそって動け!!」

 

 だが幸いなことに竜王国軍は北南に分かれ、被害を最小限に抑えることが出来た。

 将軍の卓越した指揮の結果である。

 

 だが代わりに困ったのは法国から来た部隊だ。

 彼らは他国の部隊であるため戦場の指揮系統が徹底されておらず、また緊急時の動きについても聞いていなかった。結果、ビーストマンに追いかけられるまま、西へと敗走することになったのだ。

 

 こんな事が起こった原因は2つ。1つ目はツアレが敵を後ろから追い詰めすぎた事。

 勇猛果敢なビーストマン達も流石に耐えれなかったのだ。

 魔法とスキルと殺気を放ちながら、LV50超えの天使を引き連れて進撃してくる、LV95の化け物の迫力には。

 

 これによりビーストマン達は死にものぐるいで前方へ突撃(ガン逃げ)した。

 当たり前だろう。追いつかれたら確実に死ぬのだから。命を奪おうと襲い来る災害に対して、必死に逃げない生物はいない。

 

 そして2つ目は――余りにも竜王国軍が弱かった事だ。

 しかしその2つが組み合わさった結果、伏兵による包囲が間に合わなかった。

 

 元々の将軍の理想はこうだ。

 □□□□□□□□□□□□[伏兵]

 □□□□□□□□[囮]→□↓

 □□□□□□□[本陣]→[獣人]グアァー!

 □□□□□□□[予]→□□↑

 □□□□□□□□□□□[伏兵]

 

 しかし悲しい現実はこうである。

 □□□□□□□□□□↑□[伏兵]!?

 □□□□□□□□□[本]

 □□□□□←[予・囮・獣人]←[聖天使]ヒャッハー!!

 □□□□□□□□□[陣]

 □□□□□□□□□□↓□[伏兵]!?

 

 弱すぎた竜王国軍の本陣はあっさりと割れ。

 ビーストマン軍に飲み込まれた者達は必死に逃げ惑った。

 自信満々に刀を振るっていたエルヤーも、任務を完璧にこなした陽光聖典も、後方で優雅に酒を飲んでいたベリュースも、みんな仲良く。

 

 

 

「あ、ありえるかぁ~~~!! どうして最高位天使より強そうな天使が敵側にいるんだぁ!? ビーストマンがこれほど強いとは聞いてないぞ!!!」

 

「隊長、私たちはどうすれば!?」「どうしますかニグン隊長!!」

 

 そんな状況で、歴戦の指揮官であるニグンは、召喚した天使を壁にして西へ走っていた。

 一心不乱の全力疾走だ。一部の部下が付いてこれていないが、もはやそんな事は気にならなかった。

 

「各員傾注!! 走りながら天使を召喚し続けて壁にせよ!! 早くしろ死んでも知らんぞぉーーー!!」

 

 しかしだからこそニグンは自分の生存を最優先に行動する。

 死なずに情報を持ち帰ること。それもまた秘密部隊の職務の一つなのだから。

 

 何よりニグンは死にたくなかった。だから部下を盾にしてでも走り続ける。

 自分たちは完璧に役割を果たしたのに、それを台無しにする二流国家が!! という叫びを心の内に隠しながら。その瞳には暗い憎悪が宿っていた。

 

 

 

「ぎゃああああああ! しぬぅううううううう!! おかねあげましゅ! おかねぇ!! 誰か助けてぇええええ!!!」

 

 ベリュースは酒がたっぷり注がれたグラスを放り捨てて逃げる。

 右手に持っていたガラス製の高価なそれを。中の酒は法国から持参した一品で、こちらもキンキンに冷えた高級品だった。

 

 だがもはや酔いなど完全に吹き飛んでいた。このままでは自分の命が溢れてしまうから。

 元々はただ実家の商会の在庫でボッタクリするだけの予定だったのだ。それが法国への貢献ポイントも稼ごうと欲を出し、支援部隊という名目で戦場に出たらこの様だ。

 

「おぎゃあああああああ!! 俺の側に近寄るなぁーーーーーーー!!」

 

 なのでベリュースは必死に逃げる。体中から液体を吹き出しながら。

 どうして兵は俺を守りに来ないんだ。竜王国なんてもう絶対に来ない!! と思いながら。

 なお、いざという時の為に用意しておいた逃走用の馬は、真っ先に部下に乗り逃げされていた。

 

 

 

「〈縮地〉〈空斬〉!! 〈縮地〉〈空斬〉!! ……ま、魔法だ! (逃げる為に)支援魔法をヨコセぇ!! (俺が死ぬ前に)早くしろぉおおお!!!」

 

 エルヤーはがむしゃらに武技を使う。

 刀を振るって斬撃を飛ばしながら、足を動かさず滑るように後方に移動する。肉体に積み重なっていく疲労に気づかない振りをしながら。

 

 エルヤーが竜王国に来たのは腕試しのつもりだった。

 法国では道場で剣を学んでいたが、余りにも天才過ぎて相手がいなくなったのだ。

 もちろん本当はエルヤーがうざすぎたせいで、誰も相手にしなくなっただけだが。気づくことはなかった。

 

 それにエルヤーはずっと亜人を斬ってみたいと思っていたので、今回の話は渡りに船だった。

 

「うぉおおおおお!!! この薄汚い亜人共がァーー!! 俺の側に近寄るなぁああああーーー!!!」

 

 それがこの様である。エルヤーの固めた髪は汗と血で崩れ、顔に張り付いてベタベタだ。

 だがそんな事を気にしている場合ではなかった。このままビーストマンの波に飲み込まれるのは御免だった。だから必死に逃げる。

 

 エルヤーはすぐに〈空斬〉を撃つのを止め、代わりに〈能力向上〉を使って全力で駆けた。

 そこには剣士の矜持など残っていない。

 むしろ、もしこの場を凌ぎ切ったら、必ず魔法が使える奴隷を手に入れなければ、と考えながら。なおエルヤー用の馬も、すでに部下が乗り逃げ済みだった。

 

 

 

 だがそんな彼らの動きは、この乱戦化で非常に目立っていた。

 そのためビーストマンの一部がすぐに彼らを追いかけだした。

 

「おっ、珍しい武器(刀)を持って周りよりちょっと強い。これは指揮官ニャ!? 一緒に地獄に落ちるニャーーーー!!」

 

「周りの奴がお前が(支援部隊の)指揮官だと口を割ったトラ。半殺しにして盾になってもらうトラ!!」

 

「他より大きな白い羽の人形(第4位階)……さてはお前は指揮官だガオ? ならば死体をかざせば暴風が避けるかもしれんガオ!!」

 

「「「ふ、ふざけるなぁああああああああ!!!!」」」

 

 3人は必死に走る。

 しかし不幸なことに、途中で敵のトップ3人に絡まれてしまった。

 こうなっては最早、下手に動くことは出来ない。

 

 竜王国とビーストマンの両軍は混沌に染まり、戦場は誰も予想がつかない最終局面に移ろうとしていた。




@あとがき
クレマン「これもう一人殲滅陣じゃね?」
ツアレ 「包囲なんて必要なかったんだわ」

将軍「払った額の分だけ使い潰すんご」
陽光「あの、僕達ただの派遣なんですががが」


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