みなさまこんにちは。
対話(物理)によって門兵さんの信頼を勝ち取ったツアレちゃんです。
街に入った私はまず宿を確保することにした。
目をつけたのは大通りに面した中規模の宿屋だ。
「『ネコネコにゃんコの宿屋さん』か。如何わしそうな名前だけど大丈夫かな?」
猫の絵が書かれた扉を開けて中に入る。
まっすぐ進んだ所にカウンターがあり、ゴツイ中年男が椅子に座って頬杖を付いていた。
額にはバンダナが巻かれていて、髪はくせ毛でモジャモジャだ。
それからネコミミのヘッドバンドを付けている。……コスプレかっ!!
私はそのネコミミが全然似合ってない、キモい中年男に話しかける。
「宿泊したいのですが一泊幾らですか? 部屋は個室でお願いします」
「おっ、お一人さんか? うちは一泊銅貨12枚だよ。でも金はあるのかい?」
えー、最初にお金の心配とか失礼じゃね? 銭闘士かよ。
まぁ確かに今の私はボロボロの服を着たガキでしかないが。
でもなめんな。金なら有るんだぞ。
スゥサイドさんの荷物に残ってた金がな!!
「じゃあ半年よろしく。はいこれ料金ね」
「半年!?」
ジャラジャラと見せつけるようにカウンターに金貨を置く。
奴隷を買って回ってるだけあり、スゥサイドさんは結構な金を持っていた。
余裕で2年は引きこもれる額だ。なので宿屋に泊まる程度は造作もない。
私は驚く店主さんの前で胸を張ってドヤ顔を作った。
「この膨らんだ胸みたいに、私の懐は大きいのよ!!(ドンッ!!」
「そ、そうか。多分なんか事情があんだろうが、まぁ詳しくは聞かねーよ」
店主さんは照れたのか頬をポリポリかいて金を数え始める。
あれ、この店主さんがいい人じゃね? 絶対に詮索されると思ってた。
これは当たりの宿っぽいぞ~~。3日後ぐらいに追加で半年延長したろ。
「……これが部屋の鍵だ。長期の宿泊だしサービスで2階の角部屋にしといてやる」
「わたしの可愛さに免じて割引きしてもいいのよ? ……8割ぐらい」
「ははは、ナイスジョーク。そういう事はもうちょっと大人になってから言うんだな」
あっれー? おかしいな。また値引き失敗だ。
コミュ強者(自己申告)の私が、これほど値引き交渉に勝てないなんて。
「この街の人たち銭闘強すぎィ!! ……あっ、あと誰が来ても通さないでね? 情報管理マシマシでよろ」
「間違ってもそんな事しねーから安心しろよ」
「ほんと? 本当に本当にほんとね??」
「おいおい、これでもこの街で長いこと宿やってんだぜ? その辺は分かってるさ」
うーん、それなら大丈夫かな?
長く宿屋をやるには信用が必要だ。なら情報の大切さも分かっているだろう。
情報を流す可能性は低い。そんな事したら客足が遠のくだろうからね。
「んじゃそういうことで、よろしく~~」
「部屋は大事に使ってくれよ~」
私はそのまま指定された部屋に入る。
広さは4.5畳ぐらい。置かれている家具はベッドとテーブルが一組だ。
私は荷物を起き、そのままベッドにダイブする。
「んっほっほーい!! この世界で初めてのベッド~~~~!! ……でも意外と硬い」
スプリングが無いのか前世のベッドに比べると硬い。
それでも村のように藁の上に直接寝るよりはまだマシだ。
なんせ私がいたのは9公1民の税だった村である。
余裕がなさすぎてベッドはバラされ、とっくに薪代わりになっていた。
……どうしてこんなになるまで(領主を)放っておいたんですか??
「でもそうすると買われたのは逆に運が良かったのかな? どうせすぐに村は出ただろうけど、先立つ物が手に入ったのは大きい。……スゥサイドさんはいい
私はゴロゴロと寝返りを撃ちながら、優しい奴隷商さんに感謝した。
結果だけみれば村から連れ出してくれた上、奴隷の身分から開放し、街でしばらく暮らせるお金までくれたのだ。
これで感謝しないのはよっぽどの悪人だけだろう。殺したの私だけど。
「ご飯は飯屋で食べればいいし、携帯食料はもういらないね。処分しちゃおっと」
それから私は残っていた黒パンを食べ、お湯を貰って体を拭き、魔法の検証を始めた。
まずは〈
そして防御力を検べる為に、天使ちゃんの胸部に手を伸ばした時――
「――こちらがツアレ様の部屋です」
「賊から助けてくれた子だわ!! 会いたかった!!!」
「えっ」
如何にも貴族って格好の子が部屋に入ってきた。
しかし私の手はちょうど天使ちゃんの胸部にタッチ中だ。正面からモミモミする所を見られてるね。
……おいくそ亭主ぅうううううう!!!!
「誰が来ても部屋に通さないでって言ったじゃん!! なに速攻で通してんの!? つーかその子だれだよ!!!」
「この方は街を治める伯爵様のご令嬢だ」
ふぁっ!?
「は、はじめまして! 私はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラです」
しかもラキュースだと!? 原作で暗黒剣持って弾けてた中二病神官じゃねーか!!
こいつ良いところのお嬢様だったはずだぞ。それがなんでココにいるの?
「つまりどういうこと?」
「わたしが無理言って通してもらったの」
「権力には逆らえなかったよ……。ぜんぶ喋ったニャン」
「ニャンて! お前も頭ガバガバ勢かよ!!」
分かってるとは何だったのか。
やっとまともな大人に会えたと思ったのに。
あと今更、語尾にニャンつけてんじゃねぇ。ペストーニャかよ。
だがそういうことならコッチにも考えがあるぞ!!
「この宿は引き払いますね。返金よろしくワン」
「……えっ」
私は宿泊のキャンセルを申し出た。
客の情報をほいほい晒す宿に残るなんてありえないからね。
こんなところにいられるか! 私は出ていくぞ!!
「いや待ってくれ!! 半年分キャンセルは痛いんだ。考え直してくれないか?」
「ガバ宿はちょっと無理かなって。後どうやってこの場所を突き止めたの?」
街に入るときはしっかり偽名を使った。
なのにこんなに早く見つかるなんておかしい。
まさかファンタジー的な何かで見つけたのだろうか。
「専用の占術とか? チッ、これだからファンタジー世界は嫌なんだ」
「いやお前さん、城門で騒ぎ起こして、馬車を馬ごと売っただろ。女一人でそんなことすりゃ目立つよ」
「門兵さんに聞いたらコッチの方に向かったって言ってた!! あとは街の人が教えてくれたわ!!」
「なん……だと……」
なんということだ。まさか私もガバガバ勢だった!?
いや思い出したら前世から割とそうだったわ。
ダンジョンに脳筋突撃して罠で死んでるからね。しょうがないね。
「でも最後はアヘ顔ダブピー決めたから悔いは無い。それでそのラキュース様は何の御用で? あっ、お金ならないです。罰金とかむり」
「胸みたいに懐も大きいんじゃなかったか?」
「えっと、私は賊に襲われてる所を助けて貰ったお礼が言いたくて」
なんだそんなことか。
つまりあの時の馬車に乗ってたのがこの子だった訳だ。
てっきり偽証罪&不敬罪でタイーホ(罰金)かと思ったわ。
それと店主は後でシメる。余計なこと言いすぎ。
私はしょうがなくベッドから降り、ラキュースちゃんの手を取った。握手して上下に何度か振る。
「では確かにお礼は受け取りました、と。……はい、これでこの話おしまい。帰ってどうぞ」
「えええええええ」
そして見習い天使ちゃんと二人で、招かざる客達をグイグイ押し出す。
今の状況で原作キャラに接触するのはリスクが高い。原作改変的な意味でも。
なのですぐに帰ってもらったほう良いという判断だ。あとこの子、面倒くさそうだし。
「さぁ帰った帰った」
「ま、待って! ちょっと待ってよ!!」
しかしラキュースはドアにしがみついて抵抗を始めた。
くっ、これではあまり力を入れると怪我をさせてしまう。
その場合は親の領主が黙っていないだろう。……謀ったなシャア!!!
「んもぉ、ラキュースちゃんは何の? 部屋から出たくないって、もしかして私の事が好きなの?」
「レズっぷるきたニャー」
「あ、あの、私も信仰系魔法を習ってて。それでまだ天使は召喚出来ないから、教えて欲しくて……」
「家庭教師雇えや!!」
おまえ良いところのご令嬢だろ。何のための権力だよ!!
「わざわざ私に習わなくても、親に頼んで神殿辺から好きな神官を徴集すりゃいいでしょ。家の力はアナタの力なんだから、使わないのは勿体ない」
「いや、それ言ったらお前さんが連れて行かれるんじゃねーの?」
「つまりお父様に頼めばいいの?」
「なん……だと……(2回目」
おいおいおい。わたし墓穴掘りすぎじゃねーの??
こうして私はこのお転婆お嬢様の家に連行されることが確定してしまった。
これでは考えていた予定が台無しである。
本来なら宿に引き持って食っちゃ寝しながら、1年ぐらい魔法の練習をするつもりだったのに。
スゥサイドさんのお金はそれぐらいあったのだ。
「ままならないなぁ。だがそれも人生か……」
「えっ、急にどうしたのツアレ? ママになりたいの?」
「ははは、ラキュースちゃんはエッチだなぁ」
だいたいお前のせいだよ!!!
とはいえ本人に悪気が無さそうなところが面倒だ。
私はあのエロ天使に祈った。
転生天使アルテマ様、どうかとっとと解放されますように……。
◆◆◆ ◆◆◆
「待ち遠しいわね、待ち遠しいわねん。早く着かないかしらん♪」
王都の一等地に立つ大きな商館。
その中のもっとも豪華な部屋で、一人の男が頬を染めていた。
その男の名前はアンペティフ・コッコドール。
これでも王国に存在する奴隷商人の頂点であり、8本指と言われる裏組織の幹部。
他にも複数の事業を展開し、莫大な利益を得ている凄腕の
「確か名前はツアレちゃんだったかしらん? 会うのが楽しみねぇ」
そんなコッコドールは一人の少女が来るのを今か今かと心待ちにしていた。
なんせ報告では生まれた時から治療の魔法が使えたとあった少女だ。
本当なら間違いなく希少な才能の持ち主だろう。
そんな子を自分色に染め上げるのがコッコドールは大好きなのだ。
「これでやっと治療師が10人を超えるわね。このペースならもう神殿に頼らなくてもよくなるわ。まったくあの業突張りどもと来たら……」
コッコドールが信仰系マジックキャスターを集めているのは理由があった。
他の誰にも頼らない、自分だけの治療部隊を組織しようとしていたのだ。
というもコッコドールは神殿勢力から蛇蝎のごとく嫌われている。
奴隷売買という非人道的な商売をしているせいだ。
神殿は民の医療を司っているが、同時に孤児や病人の保護にも力を入れている。
そのため非合法な手段で人を集め酷使しているコッコドールに対して、神殿は他の何倍もの治療費を請求していた。
払いたくなければもっと丁寧に扱え、ということである。
「うちだけ割増料金なんて酷い話よねぇ。騙されて借金抱えるマヌケなんて、使い潰すつもりで働かせるのが丁度いいってのに」
周辺国に比べて、王国では平民への教育がほとんど行われていない。
貴族共が賢い平民を恐れてまともな教育を受けさせようとしないからである。
コッコドールはそんなバカどもを騙して破滅させ、奴隷という商品として売り飛ばすことで今の地位を得た。
「命は尊いだなんて、なにを勘違いしてるのかしらね」
そういった者は放っておけば幾らでも湧いてくるので、いちいち治療する必要はない。
だが一部の
それは高級娼婦であったり、腕の立つ護衛であったりするのだが、長く使う為にしっかりとした
それと自身に何か有った時の備えとしても、腕のいい治療師の確保は急務だった。
そのため奴隷商として培ったコネと権利を使い、国中から才能のある者を集めているのだ。
ただし治療役が見つかったとしても、神殿のスパイである可能性は排除しきれない。
信仰系の魔法詠唱者は、大抵が神殿と関係を持っているから。
「フフフ、そんな時に神殿と一切関係のない子が見つかるなんてラッキーだわ。もしその子が高位の魔法まで使えるように成れば、私は組織の治療を司ってもっと影響力を増やせる。表に出ずに治療を望む者なんてどこにだっているものね」
そうなれば私の地位もますます安泰ね! オホホホホホ!!
そう言ってコッコドールは笑った。
それは失敗することなど考えていない、自身の将来を信じきっている者の笑いだった。
……しかし直後に駆け込んできた部下の報告がその笑みを一変させた。
「大変ですコッコドールさん!! ツアレとかいうガキに逃げられました!!!」
「な~~んですってぇ~~~!!!?」