「冒険者登録をお願いしまーす」
「あら、お嬢ちゃんどこから来たの? ここは遊び場じゃないのよ。とっとと出ていきなさい」
「うーん、この諭すようでいて、実は最初から取り合う気のない命令口調。……この受付嬢さんは外れ!!」
「なんですって!?」
みなさまこんにちは。
前回ラキュースに部屋を襲撃されたツアレちゃんです。
しかし貴族に屈することをヨシとしない私は、あれからすぐ冒険者組合へ駆け込みました。
目には目を。歯には歯を。ラキュースが親の権力を行使するなら、私だって権力で対抗だ!!
「いや別にコネ作るのが悪いってわけじゃないけど。でも念のために登録は必要かなって」
「いきなり何を言ってるの? 忙しいんだから早く帰りなさいよ」
原作でアインドラ家はほぼ語られなかった。
なので当主がどういう人なのか判断つかない。
恐らくまともな人だとは思うが、だからと何の対策もしないは下策だろう。
「もしかしたら小さい子に興奮する変態かもしれない」
「小さい子に興奮!? ちょっと変なこと言うの止めなさいよ」
なんせアズス(ラキュースの叔父)は、待ち合わせに娼婦を連れてくるほどの変態である。
ならばその兄である当主が、同じぐらい変態でも不思議はないだろう。
「高級娼婦を侍らせておっぱい揉み揉みフルコースなんて、そんな優雅な生活してぇなぁ、わたしもなぁ」
「女のくせに何言ってるのよ。いや本当に何言ってるの」
そこで保険として冒険者組合への登録である。
この国の冒険者組合はとても強い権力を持つ組織。
試験無しで誰でもなれるくせに、国の徴兵すら跳ね除けられるほど影響力があるのだ。
……戦争始まったら登録者めっちゃ増えそう。
「とりあえず登録しとけば安心よね。村人全員が登録したらどうなるんだろ? まっ、それはそれとして隣の受付に移動してっと。……冒険者登録をお願いしまーす(2回目)」
私は並んでいた列を一度離れ隣の列に並び直した。
最初のお姉さんはキッと睨み、回りの人達はオイオイみたいな視線を向けてくる。だが私には関係ねぇ!!
「重要なのは登録できるかどうかだから。それ以外は小事かなって」
「……あなたすごい神経してるわね。それで本当に登録するの?」
「おっ、こっちのお姉さんはまともそう」
初めの人は神経質そうなお嬢様タイプだったけど、こっちはまったりした若奥様タイプだ。
雰囲気もほんわかしてるし、これなら多少むちゃ言っても聞いてくれそう。
「……はぁ~、最初からコッチに並べばよかった(大声)。それで登録って年齢制限とかあるんですか?」
「いえ無かったはずだわ。登録料さえ払えば誰でもなれる。でも冒険者は危険なお仕事なのよ?」
「はい知ってます! でも私はモンスターを沢山(LV上げのために)ぶち殺したいんです!!」
「ぶちころすて」
まぁコレは表向きの理由だけど。
もう一つの狙いはアインドラ家からの干渉に組合を巻き込むことだ。
屋敷まで来いと言われても「指名依頼は組合を通してくださーい!」 って言えば良い。
そうすれば以後、全てのやり取りは冒険者組合が仲介してくれるだろう。
そうすれば領主だって無茶はできない――体面ぐらいは気にするはずである。
「それに私は治療の魔法が使えるので、モンスターと戦う以外にも御役に立てると思います」
「信仰系魔法を? あら、アナタすごいのね」
ついでに魔法が使えることも告げ、役立つ子アピールもしておく。
価値が無い子は簡単に切り捨てられる。それはどこでも当たり前のことだからね。
しかし役に立つ技能が有ると分かれば、無下にはされないだろう。
まぁどちらも場合によっては無駄になってしまうが。
権力者が排除を決めた時とか。それでもヤらないよりはマシだ。
「でもまずは神殿に行ったらどうかしら? すでに魔法が使えるなら喜んで迎えてくれると思うわ」
「いえ、神殿(の方角)にはすでに行ってみた(つもりな)んですけど、悪い貴族(主観による決めつけ)に連れて行かれない為にも、登録しておけって神官の方(心の中の私)に言われまして」
「あら、そういうことなのね。ならささっと登録しましょうか。名前は書ける?」
「田舎の農村出に学がないのは仕方ないと思いませんか?」
「農村……あっ(察し」
その後お姉さんに代筆してもらい、私はなんとか登録を済ませた。
貰ったのは一番低いランクである
「ありがとうございました。じゃあまずはゴブリンの討伐依頼を下さい。それとPTへの勧誘はNGでよろしく。……あとなんだっけ? そうだ、アインドラ家から指名依頼が来るかもしれないので対応をお願いします」
「待って、アナタもしかして領主様の関係者なの?」
「(まだ)ちがいます」
「お願いだから正直に話して頂戴(必死な食いつき」
それから私はお姉さんに必要なことを話して宿に帰った。
アインドラ家の名を出したからか、先輩冒険者による絡みは発生しなかった。
「フフフ、計画通り(悪い顔)。……っしゃー! これであとはゴブリンを殺しまくれば暮らしていけるぞぉー!!」
これでようやくLV上げを初められる。とりあえずは15まで上げておきたい。
第3位階まで使えるようになれば、ちょっと格上に絡まれても逃げるぐらい出来るだろう。
「まっ、賊も撃退したし? そんな強いキャラが急に湧いてきたりはしないでしょ」
――登録から二日後。
残った金で装備を整え、近くの森へやってきた。
受付のお姉さんに狩り場として教えてもらった森――通称「ゴブ湧きの森」である。
「ねえツアレどこまで行くの? このまま最奥までいっちゃう? 初回で森を走破なんて伝説の英雄みたいね!! きっとランクが上がっちゃうわ!! ……見てみて! 私も冒険者組合に登録したの!!」
「はいはい、行きたいならラキュース一人で駆け抜けてどうぞ」
なんか余計なのが付いてきてるが、きっと気にしたら負けである。
気づいたら後ろに居たんだよね。ちょっとビビったのは内緒だ。
何処から私の情報を掴んでるんだろ?
「それでなんでラキュースがいるの? 今日狩りに行くなんて、私は誰にも話してないんだけど」
「えっ、だって昨日、武具屋で装備を買ったでしょ? その後に冒険者組合でこの森の事を聞いてたから、てっきり狩りに行くんだと思って」
「どうして知ってるの?」
「ずっと付けてた」
「ストーカーかっ!!!!」
良いところのお嬢様がなにやってんだ!!
つーか家柄的にお前は止める側だろうが!!!
憲兵さああああああーーーん!!!!
「……いや落ち着こう。憲兵さんはみんなこの子の手下みたいなもんじゃん。ならラキュースが犯罪者になってるのは放っておくとして。これからゴブリンを狩るからジャマだけはしないでね?」
「分かってるわよ。私だって戦えるんだから。ツアレには負けないわっ!!」
「いや勝つとか負けるとかじゃないが。……まぁいいや」
私は秒で説得を諦めた。
この子テンション高くなりすぎ。今は何言ってもダメなやつだ。
そういえば昨日も一昨日も私の部屋に来て勝負勝負言ってたし。
ラキュースの中ではそういう事になってるのかもしれない。
私は興奮するラキュースを無視して、背負っていた袋から装備を取り出す。
それはこの狩りに備えて昨日買っておいた武器――両端に
「フフフッ、今宵は血に飢えているわ。この私の――『スパイクト・チェイン』がね!!」
「血に飢えてる? ま、まさか魔法の武具なの!?」
「ただの鉄製だぞ☆」
だがこれは武具屋の亭主さんに強くオススメされた一品だ。
叩きつけてよし、ぶん回してよし、巻き付けて拘束もよし!!
距離にさえ気をつければどこでも使える素敵な武器だそうである。
……気づけば私は秒で金を払っていた。
「ツアレの武器は鎖なのね! カッコいい!! でも森の中だと使いにくそう」
「うるさい黙って。あと防具はただの
「そうね、私達は二人とも回復できるものね。防具なんて飾りだわ」
「ラキュースは自分の装備を見直してどうぞ」
なおラキュースはしっかりと
ガントレットとブーツも鉄製のしっかりしたものだ。その上から金属布で編まれたマント。
おまけに武器も細かい装飾が入った片手剣だ。メチャクチャ高そう。
……これが実家格差か(嫉妬の視線
「そういえばツアレはモンスターを倒したことはあるの?」
「もちろんよ。これでも村ではブイブイ言わせてたんだから」
嘘ではない。記憶を思い出す前のツアレは何度もモンスターと戦わされていた。
回復魔法を生かした
「なかなかキツイ戦いだったわ」
「さすがツアレ! きっと小さい頃からすごかったのね!!」
「ま、まあね。だいたいその通りよ」
記憶ではゴブリンに刺され、ブラックウルフに噛まれていた。
その度に泣きながら必死に魔法を使って傷を癒やし……。
もちろん戦闘後は村人の治療も押し付けられる有様だった。
そうして村で5年以上も酷使されていたのだ。
おかげでクレリックはLV5まで上がっている。
これならゴブリン程度に苦戦することはないだろう。
「……今の私なら主導してた村長もボコれそう。いや絶対にボコる」
「おおっ! すごいヤる気ねツアレ!!」
それから私たちは森と街道の境目を歩いてモンスターを探した。
すると都合よく単独でウロウロしてるゴブリンを見つけた。
「ゴブリンがソロプレイとか。これは紛うことなきカモ。もしくは勇者」
「勇者って、ツアレは勇者志望なの? これから世界を股にかけた大冒険が!?」
「いや、都合の良い鉄砲玉はNGだから」
こいつゴブリン一匹にテンション上げすぎじゃね?
私は念のために天使を呼び出し、遠心力を利用して鎖を投げた。
「〈
「ゴブゴブッ!?」
頭上グルグルで力を溜めたスパイクトチェインが唸る!
巻き付いてゴブリンの動きを止める!!
そしてそこへ呼び出した天使ちゃんの武器が振り下ろされ――
「――えいっ!!」
「はっ?」
る前にラキュースがゴブリンの首を跳ねた。
唐 突 な 横 殴 り !!!
「ちょっ、何してるの!? それ私の経験値なんですけど!!」
「大丈夫よ、ツアレの天使がいるのもの。この程度の相手に危険なんて無いわ」
「ちがう。そうじゃない」
それの動き止めたの私なんですけどぉ?
どうして美味しいところだけ持っていくんですか!!
「ラキュースがトドメ刺したら経験値が減っちゃうでしょ!!」
「ツアレが止めて私がトドメを刺す……私達いい感じのPTね!!」
「(PT組んだ覚えは)ないんだよなぁ。ていうか話聞いて?」
ラキュースのマイペースっぷりに頭がクラクラしてくる。
しかしすぐにそんな事を言っている場合ではなくなった。
「ツアレ! なんかゴブリンがいっぱい来たわ!!」
「……8、9、10。全部で二桁か。急にワラワラ湧きスギィ!!」
見れば森の奥からゴブリンが多数飛び出してきていた。
かなりの数だ。手には棍棒のような武器を持っている。
弓持ちは一匹も居ない。近接ゴブリンだけの集団だ。
「そういえば冒険者になった叔父さんが言っていたわ。この森のゴブリンは一匹を囮にして狩りをする習性があるんですって。まるで湧くように出てくるから『ゴブ湧きの森』と呼ばれるようになったとか」
「森の中央にポップ穴でもあるのかな? 上手くやれば経験値工場が作れそう。ていうか言うのが遅い」
だがこうなったらヤるしか無いな。
向こうのほうが数が多いが、幸いなことに私達のすぐ後ろは街道。
相手には弓持ちがいないから、逃げながら戦えばなんとかなるだろう。つまり全部経験値だ。
「下がりながら戦う。天使で敵を分断。1匹ずつ片付ける。前に出すぎないこと」
「分かった!!」
私は端的に指示を出す。おっ、またはしゃぐかと思ったら今度は素直だ。
ここで暴走するようなら肉壁にしようかと思ったが、そんな事する必要は無さそう。
まぁ私としても村のヤツらと同じことはやりたくないし。
あれと同類になるなら死んだほうがマシまである。
それから私たちはすぐ街道へ走った。同時に敵集団との距離を調整。
「武器を振るう準備をして!!」
「分かった任せて!!」
距離を整えたら頭上から天使を降下させてタックル。
先頭から2匹目を無理やり転倒させ、天使ちゃんを壁にして後続の足を止める。
すると先頭を走っていたゴブリンが突出して孤立する。
そこへ私はすかさず鎖を投げ、ラキュースが剣を振ってトドメを刺す。
終わったらすぐ2回目の天使召喚だ。
「再び〈
召喚魔法の法則に従い最初の天使が消滅。新たに呼び出した天使は頭上で待機させる。
これで私達との間の壁がなくなる。ゴブリンの群れは再びコチラへ向かって駆けてきた。
「つぎぃ!!」
「まだまだ行けるわ!!」
後はこの繰り返しだ。
――召喚、タックル、鎖ブンブン、オタッシャデー!!
途中からはゴブリンが石を投げてきたりしたが、当たっても即座に魔法で治療。
何度か危ない場面こそあったものの、時間を掛けて群れを全滅させることが出来た。
私は水を飲んで一息つき、ゴブリンの耳を切り取って袋に仕舞った。
「やっぱ自己回復できるって強い。ヒーラー優遇されすぎワロッシュ」
「すごいわツアレ!! こんな簡単に倒せちゃうなんて、ツアレは指揮まで出来るのね!!」
「フフン。(肉壁を使った)分断戦法は、よく(ゲームで)やってたから多少はね?」
だからもっと褒めてもいいのよ?
それから私たちは休憩を挟みつつ狩りを続けた。
そうして倒したゴブリンが30匹を超え、そろそろ帰ろうとした時……
「――やっと見つけたぞ。俺の名はゼロ。コッコドールからの依頼で迎えに来た」
なんかムキムキのハゲが出てきた。
原作に出てきた超強いモンクであるゼロさんだ。
八本指の幹部で、武力の筆頭でもある。
「お前がツアレニーニャという治療師だな?」
「人違いです。私の名前はツアレ・コンソメ・パンチー。ただの冒険者」
「そうよ! ツアレはアナタみたいな人と関わったりはしないわ!!」
そうだそうだ。ラキュースさん、もっと言ってやりなさい。
やばそうだからヘイトとって。
「いや偽名を名乗るならもう少し捻れ。誰が聞いてもバレバレだろうが。……それにしばらく観察させてもらったが、治療魔法を使っていただろ。貴様で間違いない」
「またストーカーかよ!!!!!」
「女をつけ回すなんて最低!! 恥ずかしいと思わないの? 恥を知りなさい!!」
「いや
なんなのこれ。ちょっとツアレちゃん人気すぎじゃね?
なんか知らんが女も男も後をつけてくる。
しかも裏組織の最強キャラまで湧いてきた。
「もしかしてツアレちゃんはこの世界のアイドルだった? 歌って踊れる信仰系……」
「確かに私たちなら、吟遊詩人の歌で語られるに十分ね」
「ラキュースの自己評価が高すぎてドン引きだぞ」
「言ってる意味は分からんが、とにかく一緒に来てもらうぞ」
これには流石のゼロさんも呆れ顔だ。
しかしどう考えても逃げれそうにない。八本指ルート確定ってこと?
まだ逃げ出して3日目なのにどうして……。