「お前がツアレニーニャだな? 一緒に来てもらうぞ」
「違います。ツアレ・コンソメ・パンチーです」
「そうよ! ツアレはコンソメでパンチーよ!!」
「もっとマシな偽名は無かったのか?(呆れ」
みなさまこんにちわ。
現在進行系でムキムキマッチョに絡まれているツアレちゃんです。
突如、始まった八本指(王国の裏組織)との戦い。
狩りの連戦で疲労した私達の前にニュルッと現れたのは、卑劣なストーキング術によって後をつけてきた男――全身に入れ墨を容れた悪漢「ゼロ」であった。
……うん、何度聞いてもラキュースと同じぐらい中ニ臭い名前だね。
だがそれでもこいつは8本指の幹部で警備部門の長。原作の王国編で中ボスだったツワモノだ。
間違っても冒険者登録3日目で湧いていい敵じゃねーぞ!!
「気をつけてラキュース、あの全身の入れ墨はシャーマニック・アデプトよ!!」
「知っているのツアレ!?」
「ほぉ、俺の修めるクラスを知っているのか。なかなか物知りのようだな」
私の頭脳がうなりをあげて原作知識を吐き出す。
こいつは体中の入れ墨から自己バフを発動させて戦うスキルを持つモンクだ。
「ええ、前に村で同じような人を見たことがあるわ。全身の入れ墨をピカピカさせながら襲ってくるの!!」
「ピカピカ? まさか体が光るの!?」
「通称『ピカピカおしゃれオジサン』よ!!」
「――ピカピカおしゃれオジサン!! カッコいい!!」
「おい待て、なんだその呼び名は止めろ(戸惑い」
アニメで見た「頭のライオン!!(ピカリーンッ!)」は笑ったんだよなぁ。
その後に瞬殺されるとこまで完璧な流れだったわ。ツアレちゃん大爆笑。
しかしこのピカピカさんが強いのは確かだ。
推定LVは26前後。だいたい0.9ガゼフ(単位)ぐらいはある。
つまり今の私達では絶対に勝てない。タレントもまだ使えないし。
ならばここでヤることは一つだ。
「よく聞いてラキュース。私が囮になって時間を稼ぐわ。アナタはその間に援軍を呼んできて」
「そんなッ! ツアレを一人置いていくなんて出来ない!!」
それはラキュースを逃がすこと。
これだけ聞けば自己犠牲のように思えるが、これがもっとも勝率が高い方法だろう。
「この男には二人掛かりでも勝てない。戦うにはアインドラ家の騎士が必要よ。でも私では取り合ってもらえない。だからアナタが行かなければならないの。……さぁ走って!!」
「ツアレ……絶対に助けるからね!!」
私は戸惑うラキュースを無理やり送り出した。
同時に召喚した天使を突撃させ、ついでに鎖も投げる。
捉えるのではなく、進路を妨害するためだ。
「〈
「はっ! この程度の雑魚天使なぞ……フンッ!!」
「ウッソだろお前。わたしの天使ちゃんがワンパンて」
対してゼロは一撃で天使ちゃんを粉砕。
投げた鎖を掴んで引き寄せる。片腕だがものすごい力だ。
「うわっ、まるでゴリラみたいなパワァー! ……ゴリラと綱引きしたこと無いけど」
「パワーのゴリラか。次の入れ墨にいいかもな」
「全身から毛が生えてモジャモジャになりそう。〈
私はとっさに鎖を手放して再び天使を召喚。
そのまま動かずゼロと睨み合った。
むりやり軽口叩いてるけどマジしんどい。やっぱこのLV差はノーチャンだ。
もー、嫌になりますよぉおおお!!!
「うわー、自慢の天使ちゃんが紙切れにしかみえない。……抱えて飛んでもらう? 無理だよなぁ」
「当たり前だろう。そんな事を許すと思うか? どうやら逃げるのは諦めたようだな」
「だって無駄でしょう? どうせ考えても逃げれそうにないもの」
私は全身の力を抜き逃走を放棄する。
もはや身体能力が劣っていることは確定的に明らかだ。
森に逃げ込めばワンチャン撒けるかもしれないが、ほとんどMPが残ってない私では、その後に薄い本されるのがオチだろう。
さすがのツアレちゃんも、ゴブリンにイアイアされるのは御免被る。……くっ、ころせ!!
「ならここは甘んじて捕まることを受け入れ、将来に期待して行動するべき」
「この状況で将来に期待だと……?」
具体的にはラキュースを逃がして稼いだ、アインドラ家の好感度だ。
ご令嬢の危機を身を挺して2回も救う。これは間違いなく大恩ですよ!!
「聖女扱い待ったナシッ!! ……再会したらアインドラ家からお礼が沢山出るはず(金貨の眼差し」
「……ただの村娘かと思ったが、なかなか良い性格をしているようだな」
「聖女プレイはヒーラーの嗜みだぞ☆」
さてこうなったら私の方は大人しく付いていくだけだ。
抵抗しても痛い目にあうだけだからね。無駄なことはしないに限る。
あと問題があるとすれば、ラキュースが別の敵に捕まった場合だが……。
数日前に一度襲われてるんだから、こっそり護衛が付けられてるはず。
流石に何処に居るかまでは分からないが。走ってればすぐに見つけてくれるだろう。
それにコイツは私にあまり乱暴なことは出来ないんじゃないかな?
なんせ言ってたことが本当なら、私の捕獲はコッコドールからの依頼だ。
格下ではなく同格の幹部である。
当然、私を傷物にすれば信用がなくなり、今後の仕事に影響が出る。
暴力を金に変える手段が減っちゃうのだ。それは警部部門としては痛手だろう。
……なので、まぁ捕まっても大丈夫だと思いたい。少なくともあと4日の我慢だ。
私は天使の召喚を解除し、両手を上に上げて降伏のポーズを取った。
「というわけで降参します。(タレント使えるようになったら即ぶっ殺すけどそれまで)よろしくお願いします」
「……フンッ、変な奴だ。近くに森に部下が馬車を止めてある。大人しく付いてこい」
おっ、馬車あるんだ。ゼロさんて意外と紳士~。
てっきりこのままダッシュで行くのかと思ってたわ(唐突な蛮族感)。
モンクって、ゲームによっては馬より早いからね。騎乗兵さん涙目。
「はーい!! あっ、でもこの鎖は私の初武器なので、パクるのは止めて欲しいかなって」
「たわけ。そんなスカスカの鎖などいらんわ。明らかに手抜きで作られた劣悪品だぞ。恥ずかしいから買うならもう少しマシなものにしておけ」
えっ、これ駄目な品だったの? まじで??
「お、お金を節約しただけだから(震え声」
私でも振り回せるほど軽かったのって、中身がスカスカなせいだったのか。
全然気づかなかった。しかも持ってたら恥ずかしいLVかよ。
……早く処分して新しいのを買わなくちゃ(使命感
「この鎖、幾らで買ってくれますか?」
「いらんと言っただろ!!」
「あの武具屋の亭主、絶許」
それから私はゼロが用意しておいた馬車に乗せられ、コッコドールの待つ王都へ連行された。
人生2回目のドナドナだ。期待してたアインドラ家の騎士は姿を見せなかった。どうやら間に合わなかったらしい。これはもう八本指ルート確定か。
……しゃーないから、しばらくお世話になってやんよ(やけくそ
◆◆◆ ◆◆◆
「ご当主様、こちらが今回の報告書になります」
「うむ、ようやく裏が取れたな」
王国の北側に位置する都市、リ・アインドル。
その街の中央に建つ領主の館で、書類を前に深く頷いている男が居た。
彼こそラキュースの父親にしてアインドラ家の現当主――リキュール・アルベイン・デイル・アインドラだ。
「やはり彼女が通りかかったのは偶然だったか。私のラキュースたんの目に間違いはなかった」
リキュールはその名前通り、酒のように娘にダダ甘の男であった。
「はい、どうやら奴隷商から逃げていただけのようでございます。それと14歳のお嬢様にたん付けは少々キモいかと」
そんなリキュールに相槌をうつのは、長年側仕えしている執事長のリモチェッロだ。
主人であろうがボケには遠慮なくツッコミをいれる。レモンのように酸っぱい男である。
「よかった。これでラキュースたんに叱られなくすむ。『早く家に呼んで、じゃないと家出する』って言ってたからな。……家出とかパパの心が死んじゃう」
「うわきもっ。そんなだからお嬢様に避けられるのでは?」
「私は避けられていない!!(ガチ切れ」
ここ数日、リキュールはずっと悩み続けていた。
その原因は複数ある。例えばこの街に八本指の手が伸びていること。
王都と北西部をつなぐちょうど中間の位置にあるこの街は、物資の集積地点として便利なのだ。
また実の弟のアズスはアダマンタイト級の冒険者でもあった。
そのため、その両方を良いように操ろうと、八本指の工作員が多数領地で暴れていた。
しかしそれらは最も大きな悩みではない。
いま一番気になっているのは、数日前に長女を救った少女――
報告には賊を退け、最愛の娘であるラキュースを救ったとあった。
「だがその状況があまりにも変だった」
「まさにその通りかと」
ギリギリ登場したタイミング、現れた少女一人に逃げ出した賊たち……。
これだけを聞けば、普通の人間なら賊共の自作自演を疑っただろう。
つまり恩を糧に、埋伏の毒として内側に潜り込もうという算段だ。
「しかし少女は何も言わずに立ち去っている」
「むしろ逃げるように走り去っていったとの事にございます」
そのため賊とは関係ない可能性の方が高かった。
一応裏を取るように指示は出したが、今回の調査でようやく白だということが確定した。
「ならばすぐにでも家に招いて礼をせねばならんな……ラキュースたんに嫌われたくないし」
「はい。お嬢様も好意を抱いているようです。……助けてくれた少女の方にですよ?」
「いちいち言わなくとも、そんな事は分かっている。ラキュースたんが私を最初から好きなのは確定的に明らか。……しかしパンチー嬢は同年代で信仰系魔法を使えるとあったな。競い合うには丁度いい相手か」
「はい。ラキュースお嬢様は連日、後をつけ回しております。本日は共に狩りに出ているようで」
「なにそれきいてない」
リキュールは困惑した。
そんな報告は誰からも聞いていなかったからだ。
娘のことで自分が知らないことが有るなど許せなかった。
しかし理由を聞く前に、その最愛の娘が部屋に飛び込んできた。
「パパ助けて! ツアレが、ツアレがピカピカおしゃれオジサンに攫われちゃったの!!」
「「ピカピカおしゃれオジさん!!?」」
リキュールは更に困惑した。聞いたことのない二つ名だったからだ。
しかしすぐにラキュースから詳しい話を聞くと、即座に街道へ向けて騎士団を派遣した。
二度も身を挺して娘を救ってくれた恩人の危機である。出し惜しみなしの全軍投入だ。
だが残念なことに現場に人は残っていなかった。
そこにあったのはただ、ゴミのようにうち捨てられた鎖だけであった。
「そ、そんな。私は間に合わなかったの? ツアレ……ツアレェーーーー!!」
「お嬢様、おいたわしや……」
ラキュースは落ちていた鎖を拾い、優しく胸に抱く。
そしてこの鎖を必ずツアレに返すと誓った。空を見上げて号泣しながら……。
書き溜めはここまでになります。次話は未定。
読んでいただきありがとうございました。