「見えたぞ。あれが王都だ」
「ほぇ~、でっかいなりぃ~」
「なんだその口調は」
みなさまこんにちは。ゼロに誘拐されたツアレちゃんです。
逆らっても勝てないので、道中は大人しくしていたよ。
あれから馬車は強行軍で走り続け、今ようやく王都にたどり着いた。
掛かった日数は約2日だ。意外と近かった。
「でもあと2日遅れてたらなぁ」
「なんだ? アインドラ家の騎士が追いついたとでも言うのか」
「いえ、そうじゃないですけど」
だが早くついたせいで、タレントはまだ使えるようになっていない。
このハゲはLVが高いから経験値も多そうだったのに。……チッ、命拾いしたな。
今更だが1週間に1度しか使えないって、意外と厳しい制限だ。
「まっ、この辺は成長すれば良いだけ。それより列に並ばなくていいんですか?」
「俺を誰だと思っている? 列に並ぶのは無能だけだ」
「その理屈だと私は超有能? 馬車でダラけてるだけでスイスイだぜ!!」
「違う。お前はただの荷物だ」
それから私たちは城門を抜けて王都の中へ入った。
門前に並んでいた人達の順番をすっ飛ばしたが、門兵さんは小銭を受け取るだけ。
特にチェックなどされなかったから、たぶん八本指の子飼いなのだろう。
「王都のセキュリティはガバガバァ!! こんなん居る意味ないじゃん。もう門兵さんみんな解雇したら?」
「一番上の王が政策ガバガバだからな。しかたあるまい」
「一番上の王子も頭ガバガバそう」
そして一番下の王女は倫理ガバガバである。王族まじ終わってんな。
やはりこの国を救えるのは第2王子しか居ない。ザナック様早くきてくれぇーー!!
そうして城門を抜けると、今度は商店街の一角を進む。
その先にあったのはメチャクチャでかい豪華な屋敷だ。
「こういう犯罪者が我が物顔で住んでるデカイ屋敷って燃やしたくなるよね。なんかムカつくから。あと偉そうな権力者の家も」
「確かに無能な権力者の屋敷はぶち壊してやりたくなるな。だが死にたくなければ黙っておけ」
「あっ、やっぱりみんなそう思うんだ」
こっちは汗水垂らして働いてるのに、左団扇で稼いでる姿を見るとイラつくよね。
「運が良かったな、燃やすのは逃げ出すときまで待ってやる」
チンピラのような捨て台詞を吐きながら庭を進む。
手入れが行き届いた花壇だ。綺麗な薔薇が咲いている。
赤だけじゃなく、青や黒など色が多彩。うーん、ファンタジーだなぁ。
「注文の品は確かに届けたぞ。これで仕事完了だ」
「急な仕事を受けてもらえて感謝するわゼロ」
そうしてたどり着いた屋敷には、頭と髭を剃り込んだ女言葉で喋る男がいた。
恐らく屋敷の中で一番豪華であろう部屋で、ゼロと椅子に座って話している。
何を隠そう私の捕獲をゼロに依頼した張本人。
八本指の奴隷部門のトップであるコッコドールだ。
「それにしても、たまたま近くにアナタが居てくれて助かったわ」
「フンッ、俺はアズスという男と戦いたかっただけだ。だがやつは不在だった」
座って話すコッコドールを繁々と観察する。
見た目は原作と同じく坊主頭で、割れた顎とハネたモミアゲだ。
服は長い襟を立てたピッチリした物で股間がもっこり、そして首には黒いチョーカー。
ありていに言って全然似合ってない。
こんなに酷いセンスは、ネコミミつけてた宿屋の亭主ぐらいだよ!!
「もしかして、アズスが居るって情報を掴んだのにガセだったのかしら? ……お互いに使えない部下を持つと苦労するわねん」
「まぁそういうことだ。もちろんソイツはとっくに始末したがな」
彼ら(?)は私を立たせたまま、柔らかそうなソファーに座って話を続けていた。
グダグダ話すなら私の分の椅子も用意しろやぁ!!!
「お金は後で届けさせるわ。ところでこれから一晩どうかしら?」
「いらん!!」
「うわー、そんな関係なんだ……」
おっと、思わず口に出してしまった。
だがゼロは一瞬だけ私を睨むと、そのまま扉から出ていった。
ゼロとしても、このオカマの部屋からとっとと去りたかったのだろう。
汚い本展開を狙ってそうな眼でゼロを見てるからしゃーない。
それにしても、いきなりゼロが湧いたのって偶然だったのか。
他人の使いっぱしりなんてヤる性格じゃないから変だと思ったんだよね。
それがアズス――朱の雫という冒険者チームのリーダー――と戦いに来てたなんて。
まぁ残念ながらアズスは居なかったようだが。どうせなら戦闘になれば良かったのになぁ。
そうなればパワードスーツできっと瞬殺だ。なんせ第7位階魔法が打てるから。
……頼んだら一日ぐらい貸してくれないかな?
私も〈
「それでそっちがツアレちゃんね? 会いたかったわぁ~」
「私は会いたくありませんでした。帰っていいですか?」
「あらん、いけずねぇ~」
ゼロを見送ったコッコドールが、今度は私に話しかける。
ふざけた口調だが、こちらを値踏みするような視線だ。
下から上まで舐めるように這わせていく。
まるで全身を丁寧にペロペロされてるよう。……生理的に大変気持ち悪い。
「それで私はお眼鏡にかないましたか?」
「ん~、どうかしらねぇ。治療魔法が使えるって話だけど、どれぐらい使えるかしら?」
「えーと、だいたい〈
今までの経験から回数を答える。もちろん過小報告だ。
どうやって手を抜くか考えるのは日本社会の必須能力だからね!!
あと自己訓練の為にもMPは残しておかないといけないし。
「あら、そんなものなのね。もっと沢山使えると思ってたわ」
「そう言われても他人が使える回数なんて知りませんし」
「そうだったわねん。じゃあ一度見せてもらってもいいかしら? 私が貴方を刺すから、頑張って治してね?」
うーん、この暴力行使の躊躇のなさよ。
見た目と言動がふざけてても、コイツはしっかり8本指の幹部なんだな。
「手のひらで良いですか? 首とか心臓はちょっときついかなって」
「いやそこまでヤるとは言ってないわよ。アナタってなかなかオカシナ性格ねん」
「アナタにだけは言われたく有りません」
いや本当にマジで。
まぁここで天使を召喚して、コイツを逆にめった刺しにしたら面白そうだけどね。
でもそれをヤると私も護衛に殺されそうだから我慢だ。
まぁ暫くは大人しくしておこう。燃やす算段が付くまでは。
それから私はこの館で働き始めた。
と言っても、読み書きできない私がやることなんて単純だ。
「膝に矢が刺さってしまってな。治療を頼む」
「はい〈
「ありがてぇ…ありがてぇ……」
地下にある部屋の一つで待機して、怪我をした戦闘員さんが来たら治すだけ。
渡された服は何故かメイド服だ。コッコドールの趣味なのかな?
あとは時折、ボロボロな奴隷達も運ばれてくる。
技能がないせいで単純労働で酷使され、鞭打たれてる人たちだ。
これもサクっと魔法をかけて、終わったら元の場所へ送り出す。
「こっちは追加で〈
「ああ~、お姉さんの中、温かいなりぃ~」
「気持ち悪いこと言わないで。治ったらさっさと出てけ」
意外と来る人が多いので作業は流れで行う。
おかげで気分はブラック企業の中間管理職である。
まぁ実際にやってることは医者に近いが。
でも部屋に軟禁状態なせいでストレスがヤバイ!!
「まぁ一番問題なのは給料が無いことだけどね!! ……あのオカマふざけんなよ!! これじゃやる気なんて出ませんよぉ~!!」
なので私はすでにこの場所に嫌気がさしていた。
ぶっちゃけ村にいた頃と待遇は変わらない。違うのはご飯の量だけだ。
ただし麻薬とか混ぜてそうなので、毎回〈
犯罪組織がよくやる手だよね。何かに依存させて縛り付けるって。
……やっぱ村よりこっちのが酷い気がする。私の安住の地はどこ?
「という訳なので、脱走するために魔法の腕を磨こう。毎日、限界まで魔法を使えば、第2位階ぐらいはすぐ使えるようになるはず」
隙を見て余ったMPで天使ちゃんを召喚する。
最初は夜中だけだったが、途中から開き直って昼間も始めた。
私はそれほど我慢強くないのだ。あと面倒なのが嫌い。
まぁ見つかっても治療魔法の練習って言えば通るでしょ(願望
「〈
少女っぽい天使ちゃんのほっぺを、指でツンツンと突ついてみる。
肌は真っ白だし、起伏も少ないが、触ると柔らかくてほんのり暖かい。
ただ、押し返すような感じはしないので、ダメージを減らす系の能力は持っていないようだ。
「問題をこれを倒して経験値が入るかどうかだよね」
『!!?』
呼び出した天使ちゃんが驚いた顔をした気がする。
しかし調べねばなるまい。
もし経験値が貰えるならLV上げの問題は一気に解決する!!
「という訳で……お前のことが好きだったんだよ!!」
『!!!??』
私は見習い天使ちゃんの首に食事用のナイフを突き刺した。
ズブリと切っ先が皮膚に滑り込み、そのまま手を引くことで首を切り裂く。
それを何度か繰り返すと、見習い天使ちゃんはビクビクしながら、光の粒子となって消えてしまった。
「おっ、経験値が入って……るか分かんねぇなこれ」
うん。まじで全然分からない。なので同じ事を何十回も繰り返す。
召喚して、刺して、引いて、切り裂いて。ここだけ見るとサイコパスの通り魔みたいだ。
「しかしLVは上らない、か。……これは宛が外れたね」
なので今度は別の方法に切り替えてみる。
召喚してすぐに自傷してもらい、そこへすかさず回復魔法を掛けたりとか。
「〈
『!!?』
「おっと、死ぬ前に〈
何かを傷つけるより治す方が、
後はこの繰り返し。ロリコンに受けそうな見習い天使ちゃんを傷つけるのは心が苦しいが、しかし背に腹は変えられない。
「ドロー! モンスターカード!! ドロー! モンスターカード!!」
召喚、自傷、回復。召喚、自傷、回復……。
無心になってMPが続く限り繰り返す。
――そして3ヶ月後。私はようやく第2位階に到達した。
「覚えた魔法は〈
そしてタイミングも良い。
なんと数日前に王家より奴隷売買の禁止が通達されたのだ。
どうやら原作通り、黄金の売国奴姫は頑張っているらしい。
おかげでコッコドールは大慌てだ。
「さすがツアレちゃん、急に運が向いてきたぞ!! あとコッコドールはざまぁ!!」
屋敷全体が浮足立っているので、今のうちに逃げたほう良いだろう。
私は今日の夜に、この屋敷を出ると決めた。
――しかしいざ出発ようとした時である。私の部屋にふらりと人が入ってきた。
「だdうgえで……」
「ごめん、何言ってるか全然分からない。……ていうか怪我ひどっ!!」
倒れ込んできた人を、とっさに受けとめる。
よく見ればその人は余りにも酷い状態だった。
体の右半分が焼けただれ、左側も刺し傷と捻ったような後が沢山ある。
そして顔も殴られてボコボコ。青あざと陥没でもはや原型をトドメていない。
「うわー、あなたよく生きてるね。何したらこんなになるの?」
裏組織だけあって怪我人は多かったが、ここまで酷い怪我は初めて見る。
仕事で失敗したのか、それとも何かやらかして制裁されたのか……。
ちょっと気になるところだが、どちらにしろ私にできるのは治すことだけだ。
逃げるためには見捨てるべきなんだろうけど、ソレをやると目覚めが悪くなっちゃうからね。
まぁ逃げ出すのは明日でも良いし。タレント持ちのツアレちゃんは余裕のある女なのだ。
「〈
とりあえずベッドに寝かせて魔法をかけるが、なかなか回復してくれなくて驚いた。
今までは奴隷なら1回、他は3回も掛ければ完治していた。それがこの人は全然治らないのだ。
しょうがなく私は覚えたばかりの魔法を使った。
「〈
そうして何度も魔法を掛けると、ようやく全ての傷が治った。
ベッドに横たわり、半目で意識を朦朧とさせているが、少なくとも外傷はもうない。
更にどういう訳か、焼けて無くなった髪まで生えていた。使ったのが第2位階魔法だからだろうか?
「魔法ってすごいね。バハルス帝の頭も治せるのかな? でもあれっ、この人ってもしかして……」
治した顔を眺めていると、私はその人物が誰か分かった。
金髪をボブカットにした髪型、整った顔立ちに赤い眼。
女性らしい体は、しかし肉食獣のように引き締まっていて、
……ここまで言えばもうお分かりだろう。
「こいつクレマンティーヌじゃねーか!! なんでこんな所にいるの!!?」
脱出直前に部屋に入ってきた女性は、法国のやべー人だったのだ。