「やばい、やばい、やばい。オージンジ! オージンジ!! ……どうしてこんな時に厄介事が転がり込んでくるの? 神様はそんなに私のことが嫌いなのかな? んなわけなーい!!!」
みなさまこんにちは。
急に部屋へ押しかけてきたクレマンティーヌに、テンションがドキドキのツアレちゃんです。
これが夜這いってやつなのかな? 体中傷だらけで来るとか、随分と原始的な夜這いですぞ。
「でもいきなり女性の部屋に来るとかさぁ~。せめてアポを取れアポを。社会人の常識がないのか。そういやこいつキチガイだったわ」
などと言っているが、別に非難してる訳じゃない。
あれほどのボロボロ状態だと、意識なんて残ってなかっただろうからね。
あと最初の発言は思わずリアクションしちゃっただけだ。べ、別に焦った訳じゃねーし!!
「さ~て、どうしよっか。原作知識と状況から考えれば、恐らくは法国の仕事で八本指にスパイとして侵入。しかしヘマをして捕まり拷問された、って所かな。そういえば原作でも、過去に酷い目あったとか言ってたっけ」
なかなか回復しなかったのも、純粋にLVが高くてHPが多かったのだろう。
ここ数ヶ月、他人を癒やし続けてきた感覚からすれば、おそらくLV20ぐらいだ。
「冒険者だとオリハルコン級かな? まだ英雄級になる前のクレマンちゃんだ。これは貴重だぞ~」
考えれば他にも可能性があるかもしれないが、残念ながら私には思いつかなかった。
物事を複雑に考えるのは苦手なのだ。やはりシンプル・イズ・ベストこそ至高。殴ってから考えよう、はマジで名言だよね。
「問題はこれからどうするか。大きく分けて選択肢は二つ。……置いていくか、連れていくか」
置いていった場合はきっと再拷問コースだろう。
すぐに誰かが気づくと思うし、一人では逃げれない。エロエロ同人展開待ったナシ。
これがもう少し強ければ違ったんだろうけど。今は人数で囲まれたら終わりだ。
「でもせっかく治したんだから、出来れば助けたいよね。ここで見捨てるのは個人的に気分が良くない」
一番大事なのは自分だけど、助けれる人を見捨てるのはちょっとね。
それに気分良く生きるというのは、かなり重要なことだと思う。
下を向いてばかりだと、人生がつまらなくなっちゃうから。
……今はこんな所にいるけど、私は絶対に堂々と生きてみせるぞ!!
「ってことで連れて行こう。つーか、このまま味方にすればいいんじゃね?」
なんせコイツは英雄級の才能の持ち主だ。
すでに周辺国家最強と呼ばれているガゼフさんよりも、将来の実力は上なのである。
漆黒装備さえあれば、フルアーマーガゼフにだって勝てると明言されている。
ならば今の内に抱え込むのが最善手だろう。
きっと将来に渡って、前衛として活躍してくれるに違いない!!
「英雄級の物理アタッカー、これは貴重品ですよ! ではでは決定ということで早速!!」
やることを決めた私は、ベッドの横に置いてあった水瓶を手に持つ。
そしてその中身を、クレマンティーヌの鼻にドクドクと注ぎ込んだ。
――目覚めよ。
「モガッ!? モガガガガッ!! ゲホゲホゲボォ!!!」
鼻から入ってきた冷たい液体に衝撃を受け、久方ぶりに安らかな眠りを甘受していたクレマティーヌは目を覚ました。
「うーん、もうちょい行けるかな? 100ミリ追加で」
「ゲホゲホゲボァ!! ちょっ、水やめろォオオオ!!!!」
「おっ、やっと起きた!!」
顔中から溢れる水を吐き出しながら飛び起きる。
不思議なことに、その場所は暖かなベッドの上だった。
クレマンティーヌは思わずキョロキョロと周囲に視線を向けた。鼻から水を垂らしながら。
「……あれ、私、生きてる?」
「怪我は私が治した。めっちゃ感謝して? PT組んでどうぞ」
「……はっ?」
しかし捕まってから無理やり座らされていた熱い石も、体中を拘束していたギザギザの鉄ロープも見当たらなかった。
オマケに自分の体も、見れば捕まる前のキレイな状態に戻っている。
散々付けられた拷問傷はどこにもなく、側に居たのは一人の少女だけであった。
「思い出した。私、拷問されて……もしかして、貴方が治してくれたの?」
「そうだよ。辛そうだったからついね。もしかして迷惑だった? それなら拷問役の人を呼んでくるけど……」
「い、いや! そんなことはない!! めっちゃ感謝してる!! いやしてます!! だから余計な人を呼ばないで!!」
「ほんとでござるか~?」
クレマンティーヌは続けて目の前に立つ相手を凝視する。
こんな場所にいるには不釣り合いな少女だ。
着ているのは何故かメイド服。
顔を斜めに傾けながら、ニコニコと笑みを浮かべてコチラを伺っている。
……普通なら優しい神官と思うはずだが、何故か頭にはハチャメチャという言葉が湧いてきた。
「それで貴方は何故ここに? 負ってた怪我は拷問だと思うけど、合ってるよね?」
「えーと、それはその……」
クレマンティーヌは思わず口ごもってしまった。
果たして正直に話していいか迷ったのだ。
言ってることが本当なら、彼女は間違いなく自分を治療してくれた恩人である。
しかしここに居るということは組織の末端のはずだ。それも専属の治療師である可能性が高い。
ならば果たしてそんな人物に、自分の事を正直に話して良いものか?
バカ正直に他国のスパイだと申告して、人を呼ばれたら目も当てられない。
「まぁ言いづらいよね。でも大丈夫、私は貴方に酷いことなんてしない。もしそうならすぐに人を呼んでるはずでしょ?」
「あー、それは確かに」
クレマンティーヌはその言葉に多少肩の力を抜いた。
言われてみればその通りだった。
どれぐらい寝ていたのかは分からないが、人なんて簡単に呼べたはずだ。
それをしないということは、少なくとも傷つける意図は無いのだろう。
そんな簡単なことに気づかないとは……。
クレマンティーヌは自身の思考が鈍っていると感じた。
「それで私はこれから逃げるつもりなんだけど、よかったら一緒に来ない? 今なら私のPTに加入出来て、更に特別大サービスで退職金が貰えまーす!! ……どうかな? あっ、ここは拍手するとこだよ」
「ここから逃げれるの!? でも退職金……?」
ここから逃げる、という魅力的な言葉に、クレマンティーヌは必死に思考を働かせる。
元々、こんな目にあっているのは、同僚がミスをしたせいだ。
八本指の内部調査という裏仕事だった。
それも立候補した名家の子供連中という、最低なメンバーで行われた作戦だ。
クレマンティーヌは絶対に参加したくなかったが、宗教キチの両親によって強制された。
そして案の定、作戦はすぐに失敗した。
なんせ神に祈れば何でも上手くいくと信じているアホ共である。
一人のミスからメンバーは芋づる式にバレて始末され、クレマンティーヌだけが一人生き残った。
だから出れるならここから出たい。
拷問される前に救出されなかったことから、すでに自分は見捨てられている可能性が高いのだ。
上としても、集めたメンバーに問題があった、では任命者の責任に成ってしまう。
それよりは、メンバーは尽力したが力及ばず全滅した、という形にしたいだろう。
それなら少なくとも殉職という形で、参加した名家の名誉は守られる。
しかしクレマンティーヌが帰って、詳細な報告が行われれば全てが台無しだ。
なので待ってても助けが来る可能性は低い。
その点、目の前の女性に協力してもらえれば、逃げ出せる可能性は上がるだろう。
貴重な信仰系魔法の使い手、個室を与えられている事から、彼女が他の下っ端とは違う扱いをされているのが分かる。
しかし理解できないことが一つだけあった。退職金とはどういう意味なのか……。
「おっ、考えはまとまった? もう時間がないから『はい』か『YES』で答えて」
「……それどっちも一緒じゃない?」
「良いから良いから~、私を信じて~~」
「えええぇぇ……」
クレマンティーヌは困惑した。本当に信じて良いのか。
確かに言ってることに嘘はなさそうなのだが、どこか胡散臭いのは気のせいだろうか?
「とりあえずその辺の見張り殴って武器パクってくるね。刺突剣でいいよね? その間に着替えてて。棚の中に予備のメイド服が有るから。もちろんパンツもあるよ。私のだけど」
「あっ、はい」
しかし他に選べそうな選択肢は無い。
クレマンティーヌは結局、首を縦に振らざるを得なかった。
「後、これは興味本位で聞くんだけど、どうやって拷問部屋から出たの?」
「……拷問役が調子こいて拘束を弛めたから、気合で頭をかち割った」
「まじで!? いいねいいね~。それでこそ私のPTメンバー!! ……残りも全部かち割ろ?」
「うーん、割るより刺し殺す方が好きかなぁ……」
八本指の屋敷の地下で、余りにも酷いPTが結成されようとしていた。
長くなったので途中でカット。退職は次話になりました。
サイコパスとサイコパスが出会ってしまった(汗