―11月19日―
「マネージャーさん、今まで、本当にありがとうございました……」
昨日のライブ終わり、みんなは泣いていた。もちろん、わたしも。
なぜなら、マネージャーさんがこのライブをもって最後の仕事だったから。
これ以降、マネージャーさんはわたしたちの仕事のサポートをしない。
そして、「新しい自分になって帰ってきたい」と言ってた。
それって何だろうと不思議に思ったわたしは、その日の夜、途方に暮れていた……
―翌日―
「おはよう。よく寝れた?」
「うん、おかげさまで」
わたしはいつも通りの時間に起きた。
昨日の夜はライブが終わって疲れてたのか、ぐっすり寝ていたみたい。
マネージャーさんのことを何も考えていなかった。
「あ、美晴さん。おはようございます」
「おはよう。これを持っていったらいいのかな?」
「はい。あ、でもまだ荷物あるみたいで……」
「わかった。じゃあ、準備できたらまた呼んでね?」
「はい」
わたしはマネージャーさんを見送るために今日は東京駅に行く。
本来ならみんなも行きたかっただろうけど、「みんなで行ったら迷惑だから」ということで、「美晴はマネージャーと結婚するんだし美晴にしたら?」と莉子が言ったのでわたしが行くことにした。
今日の新幹線は15時の新幹線と言ってた。わたしは、それに合わせて準備をしていく。
マネージャーさんから「お昼は美晴さんと一緒に食べたい」とのことで、お昼前には移動する予定だった。
時刻は11時半を過ぎていた。そろそろ来るかな?不安と緊張で頭の中がいっぱいになる。
ピンポーン
寮のインターホンが鳴った。
わたしはそれにこたえる。
「美晴さん、準備できた?」
「はーい、今行きますね?」
「じゃあ、行ってきます」
皆かが一斉に手を振ってくれる。なんだか、不思議な気分になる。
みんなは泣いていた。だって、3年間ずっとお世話になったマネージャーさんだもの。
それは、わたしも同じだった。
「美晴」
「はい」
「よく寝れた?」
こんなにも緊張しながら会話をするの、いつぶりだろう。
わたしは、不安と緊張で言葉がなかなか出ない。
「はい、よく寝れましたよ」
「そっか」
「マネージャーさん」
「ん?」
「なりたいことって何ですか?」
わたしは率直なことを聞いてみた。
「んー、一言でいうと、プロかな」
「プロ……」
「うん。美晴さんたちが頑張っている姿を見て、僕も何かできないかなと考えててね。だから、美晴さんたちに負けたくないから、僕もプロを目指すことにしたんだ」
「なんのプロですか?」
「聞いて驚かないでね?」
そういってマネージャーさんは私にだけなりたいことを教えてもらった。その瞬間、わたしから出てきた言葉はこれだった。
「マネージャーさんならきっと素敵なプロになれると思いますよ」
「また合格したり、東京に行く機会があったりしたら連絡するよ」
わたしは先を行くマネージャーさんの袖をつかむ。
「ん?」
「わたしたち、結婚するし、定期的に連絡してほしいな……」
控えめなわたしらしくないかもしれない。それでも、わたしはマネージャーさんがいない生活の寂しさをよく知っている。だから、もう悲しい気持ちを感じたくなかった。
マネージャーさんはわたしのことに対して真剣に考えてくれる。それが少しばかりうれしかった。
「わかった、2週間に1回くらい電話するよ。いつがいいかはまた相談しよっか」
「うふふ。うれしい!」
わたしは飛び上がるくらいうれしかった。そのまま、そっとペアリングを見つめた。
気づけば電車に乗っていて、まもなく東京だった。
「降りるよ」
「はーい」
わたしはマネージャーさんの後ろをついていく。
今は12時だからちょうどお昼時のタイミングだった。
「ここにしようか」
「はい!」
わたしとマネージャーさんは初めてご飯を一緒に食べたお店に入った。
その店主さんも覚えてくださっていて、わたしたちが付き合っていることも知っている。
だから、「マネージャーさんが最後なんですよ」といったら少し悲しそうな感じだった。
だから、少しだけ贅沢した。
もちろん、マネージャーさんのおごりで。
「ありがとうございました」
わたしたちはお昼を食べ終え、外に出た。
「ここから何しようか?」
マネージャーさんが聞いてきた。わたしはこう答えた。
「みんながいない場所でお話ししたいです」
そういって、わたしたちは東京駅の離れたところにあるバーの外に来ていた。
そこで、たくさんのことを話した。
皆のこと、昨日のライブのこと、わたしの今後のことなど、どれも深く心に刻まれることばかりだった。
そんな中にこんなことを聞かれた。
「美晴さんは、僕と過ごしてきた中で何が一番楽しかったとかあるの?」
と聞かれた。そんなこと、わたしの中ではとっくに決まっていた。
「マネージャーさんに出会えたことです」
わたしは笑顔で答える。その瞬間、わたしの意識は飛んでしまった。
何があったかわからないくらい一瞬で、時が止まったような感触だけが残った。
「僕も、美晴と出会えたことが一番うれしいよ」
その瞬間、わたしはほろほろと大粒のしずくが落ちた。
それでも、笑顔だった
「はい……!」
わたしは、ゆっくりと深く刻まれたその思い出に、最後の一瞬を手に入れていたのかもしれない。
でもその一瞬は暖かくて、穏やかで、きっと忘れることのない、永遠の思い出……。その思い出が外にあふれ出た。
「マネージャーさん、大好き」
「うん、僕も」
ちょっとシャイなマネージャーさんだけど、その声はしっかりと私の胸の奥に届いていた。
気づけば日も西に傾いていてマネージャーさんの出発が迫っていた。
「じゃあ、時間ですね。」
東京駅の18番線に顔を合わせた二人。
その顔は共に笑顔だった。
マネージャーさんはわたしに一つの箱を差し出した。
「これは……?」
そう聞いたらマネージャーさんが箱の中身を空ける。
「……!」
「結婚指輪を僕の分も渡しておこうと思ってね。先に渡しておくよ」
「マネージャーさん、これって」
「うん。ここが終わりじゃないよ」
わたしはあふれる感情がどんなものか全くわからなくなっていた。
「美晴」
「はい」
「またな」
「はい、また」
静かにマネージャーさんが乗る新幹線のドアが閉まった。
発車し終わったら、わたしは泣いてた。
「マネージャー、元気だったね」
「うん……」
わたしは気づけば莉子に抱き着いていながら泣いていた。
「よしよし……」
マネージャーさん。頑張って……!
―3月某日の夜―
「もしもし」
「あ、美晴。久しぶり」
「お久しぶりです。試験うかりましたか?」
「合格したよ。心配してくれてありがとう」
「合格したなら何よりです」
「それで、今度4月上旬に仕事で東京に行くけど……」
「そうなんですか?じゃあ、久しぶりに会ってお話ししたいです!」
「美晴さんならそういうと思ってた。じゃあ、また後で連絡するね」
「はーい」
わたしは、今、とっても幸せです。そして、その幸せはこれからも続いていく。
マネージャーさんに早く会いたい気持ちが強くなる。
夜空を見上げた。
夜空に浮かぶ星たちが、わたしたちの未来を明るく照らしていた。
毎日が素敵な日々で幸せになりますように
みなさんこんにちは、おみです。
この度は「3.11 Op.1」を読んでいただきありがとうございます。
このお話はマネージャーをやめたマネージャーと美晴さんのお話です。
このシリーズが最後になると思いますので、是非読んでくださるとうれしいです。
それでは次話もお楽しみに