ついにこの日がやってきた。
僕は今日、4年半苦楽を共にしたバイトを辞める。
それは、美晴も知っていた。
「行ってきます」
「はーい、行ってらっしゃい」
美晴は暖かく送り出してくれた。
それはいつもと全く変わらなかった。
「今までありがとうな」
「大車輪の活躍をありがとう」
「またいつでも遊びにおいで」
僕のバイト先は暖かく、そして笑顔で僕を送り出してくれた。
それが僕は嬉しいと同時に、つらかった。
「ただいま」
「おかえりなさい」
美晴が玄関で暖かく迎え入れてくれた。
「この荷物……何ですか?」
「バイト先の人からもらった」
この中身を開けると、中には僕が欲しいと言っていたネクタイとネクタイピン、そして店長と偶然にも出会った車両キットが入っていた。
どれもこれも思い出に残るものでとてもうれしいと同時に、涙が込み上げた。
僕は一人、自分の部屋で泣いていた。
それを受け入れるのが自分でも辛かったのだろう。
そして経験したことがなかったのだろう。
思えば、最後にこう言った悲しい別れ方をしたのはいつだっけ……
僕は回想する。
そして、気づいた。
それが、10年前であったという事実に。
夜ご飯を食べてる時も、美晴には話さなかった。
というよりは、今日一日、こうして一人でいたいと思っていたから。
お風呂を入り終えた僕は、一人作業をしていた。
それは今後行う機種変更のための作業などをしていた。
それがひと段落したところで、美晴が僕の部屋に入る。
「おみくん、入っていいですか?」
「うん、いいよ」
美晴は僕の部屋に入って、僕の後ろで抱きついた。
それは、ほんのりと暖かかった。
「おみくんは、今、辛いですか?」
わからない。辛いと言えばつらい。悲しいと言えば悲しい。どちらともとれる感情の狭間に僕はいた。
「別れを受け入れることは、辛いです。それが、自らが決断したものであるならなおさらです」
「そうなのかも……しれないね……」
少しばかり元気がなかったように聞こえたかもしれない。
でも、美晴は全部受け入れてくれる。
「おみくんは……今日の別れはどういう風に思っていますか?」
本音を初めて話した。
「辛いと言えばつらい。でも、それは越えていかないといけない別れだから、後悔はない。だからそれを受け入れて、前に進もうと思ってるよ」
「おみくんは……今……感情を押し殺してます」
「え……?」
不感症っていうわけでもないし、感情を閉ざすことは基本していない。
ただ、過去に鬱になったことのある僕が、自然と感情を閉ざしていたのかもしれない。
「おみくん、ありのままの気持ち、全部わたしに吐き出してください」
それは、要約すると「いっぱい泣いていいよ」という意味だった。
だから僕は振り向きざまに泣いた。
嗚咽が漏れる。
美晴がゆっくりと背中をさすってくれる。
こんなに泣いたのはいつぶりだろうか……
暖かく、あふれる気持ちを抑えず、ありのままの気持ちを美晴に零した。
「よしよし……」
美晴の振る舞いがどこかお姉さんらしく見えた。
僕にもほしかった。こんなお姉ちゃんが。
優しくて、受け入れてくれて……暖かくて……
美晴は理想のお姉さんでもあり、僕の最愛のパートナーであることをこの時、知った。
気づけば泣き止んでた。
目元が乾いた感じがしていた。
「泣き止みましたか?」
「うん」
美晴は笑顔だった。
この時、全部を受け入れてくれたんだという安堵があった。
それが何よりうれしかった。
奈良にきて10年、初めての経験だった。
それも全部教えてくれたのは、きっと美晴だけじゃない。
バイト先の皆さんが教えてくれたんだ。
空は暗い。
でもいつまでも暗いわけじゃない。
きっとどこかで……晴れるよね……
「美晴、ありがとう」
「どういたしまして」
「来月の慰安旅行、楽しもうね」
「はい、よろしくお願いします!」
これから先も、きっとどこかで、会うことがあるかもしれない。
あるいは、僕が足を運ぶかもしれない。
今日できなかったことをやろう。
明日の自分が、今よりも幸せであり続けるために……
それを教えてくれた、バイト先に少しでも恩返しをしよう。
未熟で、感情を失った僕を、育ててくれた場所に。
皆さんこんにちは、執筆者のおみです。
久しぶりの更新となりました。申し訳ございません。
リアルが落ち着いたので、少しだけ書きました。
「3.11 Op10」を読んでいただき誠にありがとうございます。
先にも書いた通り、これは2月23日の出来事をほとんど改変せずに書いています。
なので、半分はノンフィクションです。
別れって、本当に辛いです。
このような悲しい別れを経験したのは実に10年ぶりです。
ですが、10年前とは明らかに違うことが1つあります。
10年前は、「自らの意思は関係なく、受け入れざるを得なかった」ですが
今回は「自らの意志で決断し、別れを受け入れた」という違いがあります。
私は後者の方が心に来ました。(人によっては前者の方が心に来る方もいると思います。)
ただ、未熟で、何も知らない私を育ててくれたのは間違いなくこのバイト先でしたし、4年半という長期において苦楽を共にしたのは良い思い出です。
最後に写真撮影をしようと思って忘れたのはここだけの話ですが、それが要らないくらい、とても良い思い出が詰まってます。
私個人の話ですが、学生生活よりもバイト生活の方が充実していたと思います。
家についてから、終わったというよりも終わってしまったという方が強く、泣いてしまっていました。
自然に零れた涙でした。
でもこれは必要な別れです。
それを越えて、強く、気高く、美しくあり続けたいと思います。
バイト先の皆様、この場をお借りして申し上げます。
本当に4年半ありがとうございました。
次に足を運んだ時は、写真撮影をさせてください(笑)
さてバイト先の思い出はこれくらいにしておいて、もうすぐ別れの季節がやってきます。
別れを受け入れるのは本当につらいと思いますし、私は経験したくないです。
でもそれはいずれやってきます。必ず。
私は、別れを受け入れるということは、「前に進むということ、強くなること」を意味しています。
皆さんも、ともに前へ進みましょう。
明日の自分が、今日の自分よりも幸せと思えるように。
重たい話になりましたが以上です。次回お会いしましょう。