入社して2か月が経とうとしていたある日のこと。
僕は、美晴を連れて東京にある芝生のある場所に来ていた。
今日は少し肌寒い。
それも相まって僕はジャケットを羽織り、美晴は少し厚めの服装にしていた。
普段出かけるときはスカートのことが多いけど、今日はズボンだったのは少し意外だった。
二人で東京メトロに乗って、目的の場所に着く。
二人で行こうと決めていた芝生は、子供連れや僕らのようなカップルなどでにぎわっていた。
「ここら辺にしようか」
「そうですね。ちょうど空いてましたから」
二人で席を確保し、そこにレジャーシートを置いた。
レジャーシート、いまだに持ってた、というよりは事務所においてあったものを借りていた。
美晴が「事務所の備品のレジャーシート借りてきます」と言って持ち帰ってくれたものを持ってきている。
デザインは青と白のチェックのもので、そこまで違和感や特徴のあるデザインとはなっていなかった。
「この近くにご飯食べれる場所もあるみたいだし、出し物もあるから、しばらくしたら何か食べよっか」
今日はイベントがあるからか、出し物が多い。
たまにはこうして二人で外のご飯を食べるのもよいリフレッシュになると思って僕が企画をした。
こうしたイベントごとは社内の人がかかわる場合は基本的に開催しないし、参加することはない。
ただ、オフやSNSとなると話は別だ。
ご飯まで少し時間があるので、美晴と一緒に話していた。
最近の仕事のことや新しく事務所に入ってきた子との交流、仕事の愚痴など、たくさん言い合った。
これは、その中の僕のお話……
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「美晴」
「なあに?」
「美晴はさ、同期と一緒にいていやだなって思ったことはある?」
僕は1つの問いを投げかける。
少し考えて美晴はこういった。
「特に嫌だとか思ったことはないです。仲の良い人もいますし、そうでない人もいます。ただ、大学の時の友達が印象として残っているかな~?」
やっぱりそうだ。普通は新しい記憶の方が残っているに決まってる。
「そっか……」
と1つつぶやいた。
「おみくん?」
心配そうに美晴が見つめる。
「実は僕にとって同期とは、仲の良い支え合う人でも、横の人脈を支える人でもない」
「え……?」
「僕にとっての同期は、ライバル関係だと思ってる。だから、ものすごく居心地がよくなかった。それは、歳を重ねるにつれて歪みが深くなっていった。だから、3年後に転職するというのは、同期と早く離れたいというのを意味している」
外の風の音だけが聞こえる。
ただ、張り詰めたような空気はそこにはない。
美晴の手が、ゆっくりと僕の頬に触れる。
「わたしは、そのことを否定しませんし、人はみんな違います。だから、おみくんは、おみくんらしくいてください」
少しだけネガティブな自分がほどけていく気がした。
美晴と一緒にいる、それだけでこんなにも心が軽くなるんだと実感する。
「じゃあ、おみくんは今の会社の同期を結婚式に呼ぶことは考えてないんですか?」
「考えてないよ。それどころか、会社の人には自分が付き合っていることも、言ってない。僕が声優の夜峰美晴と付き合ってるなんて広まったら、取り返しのつかないことになるから。だからと言って美晴が隠すようなことはしなくていいよ」
あくまで隠すのは自分だけ。それは常日頃から心がけていかないといけない。
そして、美晴と交わしたある約束についても、実現するのは転職後のお話。
それまでは、本当の自分を隠すつもりでいた。
「おみくんは、なんで同期が嫌いなんですか?」
「思考の構造の決定的な違いだと思ってるよ。みんなは、未来を100としたときに、今を10ずつ「足して」行くのが、みんなだと思う。ただ、僕はその逆で、未来から「引いて」今の10を考えるという決定的な違いがある。この構造の決定的な差は、埋められないし、埋まらない。そして、少人数の意見はわかってもらえない。これがあるから、僕は同期と過ごすのが好きではない」
これは最近になって知ったことでもある。元から思考構造が逆算思考で異なっていた。それもあって、同期との間に歪みが生じ、それが年々大きくなっていた。
だから、今が苦しい。
だけじゃなくて、会社で一人になれる時間が欲しい。
そんな風にさえ思っていた。
「おみくんは……優しい人ですね」
「え……?」
「おみくんは、この違いを受け入れ、みんなとどうしたらわかりあえるのか努力していたのでしょう。その努力は簡単なことではないです。そして何より、それを続けることもすごいです。わたしがおみくんと初めて出会った時のことを思い出しました。お仕事のことについて話すとき、おみくんはわたしに「こういうことを重点的に取り組もう」と、わたしを導いてくれました。その要因が、この思考構造の違いなんだっていうことを、今日初めて知ったんです」
自分の中では当たり前だと思っていたことが、尊敬される。
それを経験したことがない僕にとって、美晴は明るく道を照らしてくれる。
もちろんその逆もある。
それが、お互いにとって好循環を生み出しているのかもしれない。
「おみくんの今がつらいことはわたしが1番知ってます。だから……何かあった時は吐き出してください」
「ありがとう……また何かあったら言うよ」
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気づけば日も西に傾いていた。
ご飯を食べてからは……何をしていたかは覚えていない。
それでも、時間を忘れるくらい、お互いにとって良い1日だった……これだけは確かに覚えていた。
「おみくん、今日はありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう」
二人がともに休みの日は思っている以上に少ない。
だからこそ、休みがあった時に出かけるのもこれからはもっとしていきたいと思った。
「ねえ美晴」
「なあに?」
「これから、こんな形で月に1回、どこかに出かけよっか?」
「はい!おみくんとたくさんお話したいですし、リフレッシュも兼ねてたくさん行きましょう!」
このプライベート空間に、僕と美晴以外の人を入れることは決してない。
それに、僕はお金の使い方が荒くない。
だから、すぐにお金は貯まる。
そのお金を、あるいは使うことのなかったお金を、プライベートを充実させるために使うことにした。
それは美晴と僕の、これからの幸せのために……
皆さんこんにちは、up主のおみです。
「3.11 Op.15」を読んでいただき誠にありがとうございます。
作成しようと思ったのが今年の5月31日、投稿日が6月4日とハイペースでした。
これはかなり珍しいことなのではないでしょうか。
作中にも出てきた、「思考構造の決定的な差」については、後日Noteでお話します。
そちらもお楽しみに。
さて入社して2か月が経ちました。
楽しいことはあまりないです、というよりは最近無心で仕事をしています。
これが良いのか悪いのかはわからないですが……
それでは次話もお楽しみに!