おみくんの新人研修も佳境に差し掛かっていたある1週間の中で、わたしは3日連続飲み会があると聞いていた。
元から朝型のおみくんにとって、このような夜が遅くなるようなことはあまりしてはいけない。
ましてや、3日連続となると、本当に彼の体調は大丈夫なのか不安になる。
それに、彼のストレス面も心配だった。おみくんは、そこまでストレス耐性があるわけではないから、心と体、その2つが壊れないかが心配だった。
「元からこの会社は合わないと思っていたし、何年も働くつもりはない」
こう彼は言っていたけど、本当にそれが実現するのかな……?
その不安もあった。
『13時くらいかな』
そんなLINEがわたしのもとに届いた。
昨日、今日とおみくんは会社の合宿に出かけている。
わたしは、おみくんのいない夜を一晩過ごした。
その夜はとても悲しかった。
「みんなにバレたくないから」という理由で、連絡を取っていない。
もちろん、プライベートな時間があればその時に送っていると思うけど、連絡がなかったということは……そういうことなのかもしれないと感じていた。
おみくんはプライベートな時間がないと疲れてしまうため、心配だった。
13時前、おみくんが集合場所に着いた。
「お疲れ様です」
「おつかれ~」
おみくんはひどく疲れ切っていた。
そんな気はしていたから驚きは全くなかった。
「おみくんの会社の同期はみんな帰った?」
「もう解散してるから大丈夫だよ」
「じゃあ、行きましょう」
「そうだね。美晴も待ったと思うから行こうか」
わたしたちは目的の施設に入る。
今回は温泉テーマパークに遊びに来た。
普段から「行ってみたい」と二人とも思っていたけど、それが実現していなかった。
それを実現してくれるのも、おみくんのすごいところでもある。
施設内ではジムも併設されていて、1日楽しめるようになっていた。
でも今日は疲れてるから、お互いお風呂だけにしようと決めていた。
「じゃあ、またあとでね」
「はーい」
まずは温泉に入った。
ゆっくりつかりたいから、特に時間を決めないで入ろうという話はしていた。
おみくんもきっと疲れてるだろうし、何より彼は一人の時間が大好き。
それはわたしにも言えた話だから何も言えない。
でも、彼といるだけで心が穏やかになる。とても優しくて、とても落ち着いてる彼が、わたしは何より好きなのだから……
1時間ほど温泉に入っていた。その後ほどなくして。おみくんもやってきた。やっぱりおみくんの方が少しだけ長かった。
「上で休もっか」
「はい!」
上の階に休憩スペースがある。
そこでわたしたちは体を横にして、二人で合宿の話をしていた。
「合宿お疲れさまでした」
わたしの隣におみくんが座る。
いつもと変わらない光景だけど、場所だけが唯一違っていた。
「合宿はどうでしたか?」
こう聞いた時、おみくんは考えていた。やっぱり、どこかうまくいかなかったところがあったみたい……
「疲れたっていうのはもちろんある。でもそれ以上にあきれたというか、失望したというか……」
彼は、構造などの作りを大事にする、とても素敵な人です。それでありながら権力が嫌いで、「権力で黙らせる人は嫌い」と話してた。
わたしは彼の手に触れる。その手はいつもと変わらなかった。
歩いたとのことで日焼けしているのではないかと思っていたけど、全く日焼けの跡はなかった。
ゆっくりと手をさすっていると、おみくんの古傷である左肘に触れてしまった。
「ごめんなさい!」
わたしは即座に謝った。でも、おみくんはそんなことを気にしてない様子だった。
「美晴なら、いいよ……」
やっぱり、どこかおとなしく、だけどこの空間や時間が嫌だという感じはなかった。
ただ、おみくんは、目がとろんとしていて、甘えたそうにしていた。
「美晴、少しだけ甘えてもいい?ちょっと眠たい……」
「少しだけじゃなくていいですよ。たくさんがんばったのですから、いっぱい甘えてくださいね?」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
おみくんはそのまま寝てしまった。
わたしは、ゆっくりと頭を撫でたり、頬をさすったりする。
彼は強いけど、わたしにだけは、弱さも見せてくれる。そのギャップが愛おしいくらい好きで、頼ってくれるうれしさもあった。
それは、彼が甘えることができなかった環境もあるのかもしれない。
だからこそ、わたしはこの時間が好き。ゆっくりと時間が流れ、わたしが、わたしでいられるから……
わたしは彼の頬に口付けをしたが、彼は気づいていなかった。
ちょっと鈍感で、少し天然なところもある、それを知ってるのは、わたしだけ。
ベールに包まれている彼の本当の一面を知っていて、それもうれしく思っていた。
しばらくするとおみくんが起きた。
「ん……んんーっ」
おみくんはゆっくりと背伸びする。
「おはようございます」
「おはよ」
「ゆっくりできましたか?」
「うん、すごくゆっくりできた。ありがとう」
おみくんが笑顔だった。
彼はあまり笑顔を見せない。だからこそ、笑顔がとてもすてきだなって思う。
「この後はどうしよっか?」
「寝て少し疲れたから、お風呂でリフレッシュしたら何か食べよっか」
「いいですね!そうしましょう」
二人は温泉に入る。1日で2回温泉に入るなんて初めてのことだった。
「おまたせ」
今回もおみくんの方が後に上がっていた。
「さっぱりしましたね」
「それに、体の中にあった疲れも少し吹き飛んだかも」
「ふふっ、わたしもです」
おみくんの優しい笑顔が見れる。
それだけでも素敵な1日だと感じる。
「おなかすいたし、何か食べる?」
「私もいいですか?」
「もちろん!」
その後、休憩所で二人はスイーツを食べた。
合宿の話や、その中で起きた話など、いろんなことを話してくれた。
でもその中には、どこか皮肉さも混ざっていて、良い印象はもっていないのかなと感じた。
スイーツはとても美味しかった。
おみくんはレモンケーキを頼んでいて、私はお茶菓子にした。
おみくんにお願いして少し食べたけど、さっぱりして美味しかった。
「おいしかったです!」
「ふふっ、よかった。美晴と一緒に来て」
おみくんは優しい。でも、その優しさは多分、会社では隠しているんだと思う。
だからこそ、余計に輝いて見える。
外は夕焼け空となり、わたしとおみくんも家に着いた。
家について荷物を置いたおみくんはソファーの上で寝てしまった。
「ふふっ、おみくんったら……」
わたしはおみくんの隣にゆっくりと座る。
そっと髪を撫でたり、指輪に触れたりして、心地よく寝ているおみくんをいじる。
「よっぽど疲れていたのね……」
わたしはおみくんの財布に入っていたあるものを見つめる。
それは、会社で渡されていたであろう、企業理念などが書かれた厚紙だった。
わたしはそれを見て、とある友人に電話をした。
しばらくして、おみくんが起きた。
明日は日曜日だからか、ずっとすやすやと気持ちよさそうに寝ていた。
でも、まだ寝たりないんじゃないかっていうくらいの疲労感がそこにはあった。
「おはよ、おみくん」
「ん……おはよ……」
おみくんは重い瞼を開けた。
その後ろから、わたしがそっと抱きしめる。
「おみくん」
「美晴、どうしたの?」
「おみくんにお願いしたいことがあります。」
「お願いしたいこと……?」
わたしはそっと口を開けた。
この気持ちには、嘘偽りなんてないし、嘘偽りのおみくんにしたくない、させたくない思いから発した言葉だった。
「今働いている会社を辞めて、フリーランスで働いてほしいです」
皆さんこんにちは、投稿主のおみです。
この度は、「3.11 Op.17」を読んでいただきありがとうございます。
実はこの話は6月末に上げようと思っていましたが、書ききれませんでした。
本当にすみませんでした。
最近、自分の中で温泉テーマパークにはまっています。
いろんなところに行きたいと思いつつも、行けてなかったりしますが……
もし、おすすめがあれば教えてください。旅行時に使おうかなと思います。
さてストーリーの方は、来年3月の簡潔に向けて少しずつ動き出していこうと思います。
その後のアフターストーリーも含めまして楽しんでいただけたらと思います。
次回はおそらく来月になるかなと思います。
それではみなさん、また次話でお会いしましょう。