12月、僕は会社を辞めた。
今思えば、自分の理想を描けることはできなかったから、この選択が将来的に見ても正しいと感じた。
有給はインフルエンザになったことも相まって8日しかなかったが、それでも8日を有効活用することができた
「ねえ美晴」
「なあに?」
「この先って、自分はどうすればいい?何もなしにフリーランスになってほしいって言ったわけじゃないと思うけど……」
「それについてはわたしの方で考えてますので安心してください!多分、今よりも働きやすいと思っています」
今の会社を辞めた後、何をするかについては何も聞いていなかった。
美晴のことだから何か明確な理由があってのことだとは思っていた。
だが、それがわからなかった。
そんなことを考えていたら、思いもよらぬ人から電話がかかってきた。
そのあて名は……
鳳真咲
そう、美晴が所属する事務所の社長である。
僕はとっさに電話に出た
「もしもし、お疲れ様です」
「もしもしマネージャー、頼もしくなったわね」
言葉1つでわかってしまうあたり、社長はすごい人だと感じる。
そんなことはさておき、僕は社長に聞いた。
「何かありましたか?」
「先日、会社を辞めたそうね。お疲れ様」
「社長の方こそお疲れ様です。話は美晴から聞いていたのですね」
「いえ、私のほうから美晴に提案したわ」
このことを聞いてますます私の頭の中が複雑になる
「どういうことですか?」
「実は私からマネージャーにお願いしたいことがあるの」
「そのお願いって、何ですか?」
社長は一呼吸おいてこういった
「あなたを、株式会社AirBLUEの情報関連の専門職としてフリーランスとして契約したいの」
なるほど、引き抜きだったということか。
それで、身近な人として自分が挙がっていたということか。
「わかりました。よろしくお願いいたします。何か必要なものはありますでしょうか。」
「必要なものは後で送るからそれを見てほしいわ」
「承知しました。また会えるのを楽しみにしています。いつ面談とか行いますか?」
「それについては美晴に連絡しているわ。まずはゆっくり休んでちょうだい」
「わかりました。よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそよろしくね」
と言って電話が切れた。
電話が終わった直後に美晴が寄り添う。
「わたし、おみくんの体調や様子を見てて、いつもと違うと思ったりする日が多いなと感じてました。ため息をつくことも多かったですし、それをわたしに一切打ち明けなかった」
「だからわたしは、おみくんのことを守ってあげたくて、莉子や他のみんなにも相談したんです。その時に社長からこの話が出たんです」
「そっか……」
悲しいという気持ちはなかった。
むしろ少しすがすがしい気分にもなれた。
自分が選んだ道と、美晴が示してくれた道が一致したような気がしたから。
理想の道を歩むにはまだ時間がかかると思っていたが、想定よりも早くできるから。
そして何より、美晴のためというのを全く持って考えれていないことに気づかされたから。
僕はそっと後ろから美晴を抱いた。
「社会人になって、自分の心が日々余裕がなくなって、美晴のことを何も考えてあげられていなくて本当にごめん」
美晴は笑顔で、僕の手をそっと添える。
その手は暖かくて、どこからぬくもりを感じた。
「おみくんが、わたしの道を照らしてくれるから、わたしもおみくんの道を照らしてあげたいなってずっと思っていたんです」
普段から献身的な美晴だけど、そんなことを思ってくれていたなんて思いもしなかった。
それが嬉しかったし、どこか安心した。
その後はお昼ご飯を食べながら真咲さんと話すのがいつになるのかなどの情報を収集して、それらの準備を行っていた。
準備が終わった夕方ごろに美晴を呼んだ。
「ねえ美晴、美晴が考えてくれている旅行っていつ?」
「年明けの1月5日からを予定してます」
まさかの返事だった。年末に行うのかと思っていたのが、1週間ずれていたのだ。
衝撃の返答に驚きを隠せなかった。
「社長もちょうどこの時期休みにしていて、13日までアメリカに行ってるみたい。だから、おみくんと会うのは14日になるかなって言ってたし、彼は頑張りすぎちゃうからフリーランスとして働いてほしいって言ってたから、多分気にしなくていいですよ」
「おみくん、今月ずっとしんどそうだったから年末まではゆっくり休みましょう……?」
「そうだね。あ、僕が企画した旅行も少し日程にゆとり持たせてもいい?」
「もちろんです!」
日程に少しゆとりを持たせた旅行を行いたいのと、体を休めたい……その思いもあったがそれ以上に……静かな空間に行きたいと思っていた。
美晴もそれを知っているのか、何も聞いてこなかった。
でも、この静かな時間が、自分は好きだし、美晴も嫌だとは思っていないはずだと信じていた。
「美晴」
「なあに?」
「旅行する前の日、どこかで1泊しよっか」
「はい!」
「ここ泊まってみたいなっていうところとかある?」
「おみくんが好きな場所でいいですよ」
「いいの?」
美晴はゆっくりと振り返って僕の方を見る
「わたしは、おみくんがつらい思いをしないで生活してほしいです。それに、おみくんが選ぶ場所はわたしは全部好きですから……だからおみくんが決めてください」
「わかった。楽しみにしててね」
美晴の頭を撫でた。
心なしか、少しばかりストレスから解放された気がした。
「ん……嬉しいです」
最近はこうしてスキンシップをすることが少なくなっていた。
それは忙しいからなのかもしれない。
それでも美晴は何も言わずに、僕が忙しいことを受け止めてくれた。
そんな彼女に恩返しがしたい。
だから僕は迷いなくこの場所を選んだ。
-退職日の夜―
「お待たせ。待った?」
「いえ、わたしもさっき着いたばっかりですから……」
この日は水曜日。
夜の東京はさすがに人が多かった。
時刻は19:00を回ったところ。
「この後予定があるので」と他の予定を全部断った。
「おみくん」
美晴は僕のリングケースを持っていた。
そのリングケースにある指輪を1つ1つ、丁寧に僕の指に付けていった。
「ありがとう、美晴」
「うふふ、これからこの指輪たちも、外れることはないですね!」
「それもそうだし、美晴にやっと普段から見せることができるようになって少しうれしい」
「良かったです!」
時間は少しゆとりがあるからまだ大丈夫だが、あまり悠長なことは言ってられない。
「さ、移動しようか」
「はーい!」
と言って乗り込んだのは……
19:36発、とき341号新潟行きだった。
皆さんこんにちは、投稿主のおみです。
この度は「3.11 Op.19」を読んでいただきありがとうございます。
中の人が11月にインフルエンザになってしまいなかなか執筆に時間を割くことができず、投稿が遅くなりました。本当にごめんなさい(実は天使様もまだ2本残っているという……)
今回は仕事を辞めた後のお話に入り、新たなフェーズへと入っていきます(が、そのお話は多分カットするかアフターストーリーで少し書いて終わりになる可能性が高いですが……)
彼らの物語を是非最後まで楽しんでほしいなと思います。
さてお話としては来年3月11日で完結となります。
それ以降はアフターストーリーも出すので楽しんでいただけたらと思います。
完結まで残り短い期間ですが、どうか最後まで楽しんでいただけたら幸いです。
それでは次話もお楽しみに!