21時36分、とき341号は新潟駅に到着した。
平日の少し遅い帰宅ラッシュのため、混雑しているかと思っていたが、意外と空席はあった。
ホームに足を運ぶと、車内の暖かさから一変、ひんやりとした空気が僕たちを襲った。
「寒いですね……」
「そうだね……」
外は曇っているが、路上には雪が積もっていたから、それも相まって寒く感じた。
「ただ、今日のホテルは新潟駅直結のホテルにしてるから、すぐに暖かくなると思うよ。寒いから、急いでいこう」
「わかりました。行きましょう!」
美晴と僕はそのホテルを目指した。
そのホテルの場所はホテルメッツ新潟だった。
このホテルはかつて僕だけが泊まったことのあるホテルだった。
そのホテルに美晴も連れていきたいなと思っていたことがやっと叶ったのが嬉しかった。
ホテルにチェックインして、部屋に入る。
美晴が水回りやそれ以外を全体的に見ていく。
「部屋は、少し豪華なビジネスホテル、ですね……」
「これくらいが美晴にとってもちょうどいいかなって思ったけど、どう?嫌いじゃない?」
「はい。おみくんの選ぶホテルはどこも素敵ですから、嫌じゃありませんよ」
「それならよかった……」
少しほっとした自分がいた。
晩御飯はもうすでに食べていたけど、お風呂に入っていなかったから、順に入った。
その間、疲れからかうとうとしていた……
それと同時に、これまで会社で起きたことが走馬灯のようによみがえった……
どれを振り返っても、自分には環境が合っていなった。それで片付ければ話は早いのかもしれない。
でも、それだけで片付けられない何かがあった。それって……何だろう……
答えが出ないまま、次の日を迎えようとしていたその時……
「……これだったのか」
答えが出た。
僕がお風呂を上がった時、時刻は23時半になっていた。
少しうとうとしていたこともあって、少し長めに入っていた。
「じゃあ、もう寝ましょうか。明日も朝早いですもんね……」
と美晴が言った時
「ちょっと待って」
僕は美晴に言いたいことがあったから、電気を消そうとする美晴を止めた。
「……おみくん?」
美晴はきょとんとした表情で僕を見つめた
「美晴、ごめん。そして、ありがとう」
僕が美晴に伝えたいことの最初の一言はこれから始まった。
「え……?」
「僕はストレスに強くないし、大学時代にもメンブレしていて、自律神経もそこまでよくはないのだと思う。それでも美晴はいつでも僕と一緒にいてくれた……」
美晴はきょとんとした表情になっていた
「でも、社会人になって、さらに心身の疲労があった。その間の期間で何もできなかった、自分のことばかり優先して、美晴のことなんで正直どうでもいいなんて思うときもあった……」
自分の目がわずかにぼやけるのを感じた。
「そんな自分が許せなかった……美晴はずっと僕に尽くしてくれているのに、自分は何もできていなくて……それが本当に嫌だった……」
気づけば美晴がゆっくりと背中をさすってくれた。
「でも美晴は「嫌い」とか「かまってほしい」とか、そんな一言は何も言わなかった。そんな中でも、美晴は僕のことまで考えてくれて、働く場所を変えることを提案してくれた……」
「それが嬉しかった……それと同時に、何もしてあげられなかった9ヶ月が本当にむなしく感じた。だから……」
と言いかけたとたん、美晴が後ろから抱きしめた。
普段よりもずっと強く。そして、肌が触れていることを感じるくらい。
「おみくん、あまり自分を責めないでください」
「え……?」
「わたしは、ちゃんとおみくんからの愛情は届いてます」
自分からしたらすごく否定したい気持ちがあった。
でも今はすっと受け入れた。
「おみくんは、いつも挨拶をしてくれて、忙しい中でもできる家事はしてくれて……いつも編集してる時にもわたしのことを気にかけてくれて……そんなおみくんを見て「当たり前のことが当たり前にできる人って羨ましいな」って思っちゃったんです」
「……!」
「表面上には表れない、でもちゃんと感謝しているのはわたしにも伝わってますし、今もおみくんのことを好きな気持ちは変わらないです」
美晴に言われて、少しだけ安堵した自分がいた。
「わたしたちが幸せになってほしいのは、AirBLUEのみんなも同じなんです。でも、どこかおみくんは幸せじゃなさそうだったのは気づいていたんです。わたしには言わないってことは、多分会社が絡んでるんじゃないかなって思ったんです。わたしは、おみくんが幸せでいるために。何かしてあげられることはないかなって思った時に、提案したのがフリーランスだったんです」
「そう……だったんだ……」
「だからおみくん、もう自分を責めないであげてください……」
気づけば涙が止まらなくなっていた。
いつしか自分責めていて、それがストレスになっていたのだと感じた。
それだけじゃない。
美晴が自分のために行動してくれたことも嬉しかった。
多分、美晴は美晴でいろんなことに悩み続けたんだと思う。
それでも、僕のために答えを出してくれた。それだけでも嬉しかった。
僕の涙が美晴の手に届いたのが自分でもわかった。
「おみくん、たくさん泣いていいですよ」
「うん……お言葉に甘えて……」
その後、僕はたくさん泣いた。
9ヶ月の間、何もできなかった空白の時間を少しばかり埋めてくれたように感じた。
そして、少しばかりかストレスも和らいだと感じた。
「泣き止みましたか?」
「うん、ありがとう」
泣き終わった僕は笑顔だったように感じた。美晴も笑顔だった。
美晴は何やらカサコソと自分のバッグの中身を探す。
そうして僕の後ろに立った。
「おみくん、お仕事お疲れ様でした。これはわたしからおみくんへのクリスマスプレゼントです」
美晴は僕の首にネックレスを掛けた。
そのネックレスは真ん中に1つのパールが入っていた。
そのネックレスを見つめる。
乾いた目に、純白のパールが光って見える。
「ありがとう……すごくうれしい……」
「うふふ、喜んでもらえてよかったです!」
デザインはあまり目立たないもので、とても自分に似合っていると感じた。
それももちろんだが、「次はネックレスを買おうかな」と思っていたところだったので、なんでもわかってしまう美晴が少しばかり羨ましかった。
「ごめんね美晴、こんな悲しい気持ちにさせちゃって」
「いいんですよ……おみくんの気持ちが晴れてくれたら、わたしはそれで充分ですから……」
「とってもすっきりしたよ。ありがとう」
時刻は0時をとっくに過ぎていた。
それを見て二人で笑っていた
「じゃあ、寝ましょうか」
「そうだね、おやすみなさい」
「はーい。おやすみなさい」
僕と美晴は電気を消して眠りについた。
「美晴」
「なあに?」
僕は優しく口づけをした。
「ん……」
美晴もそれに応えてくれた。
これが、僕から美晴へのほんの少しばかりの愛情だった。
―翌日―
「ん、ん……」
僕は重たい瞼を開けた。
時刻に目をやると、7時半だった。
「もうこんな時間だったか……」
いつも寝れてなかったからか、今日はよく寝れたと感じた。
ただ、同時に寝坊もしている。
今日の移動を考えると、別に寝坊してもいいけどね……
「おみくん、おはようございます」
「おはよう、起きるの遅くなっちゃった」
ごめんとは言わなかった。
それを言うことで美晴が気遣うから。
「わたしが起きた時に、おみくんが幸せそうに寝ていたからそっとしたの。ちょっとばかり写真も撮ってさっき莉子に送ったの」
まさか美晴に寝顔を撮られていたとは……
「準備できたら、カフェで朝を過ごそうか。電車までは時間もあるし、今日の行程は全然ハードじゃないからね」
「はーい!」
空は僕の心のように明るくなっていく。
僕と美晴が出した答えが、正しいことを示すかのように……
皆さんこんにちは、投稿主のおみです。
この度は「3.11」Op.19を読んでいただきありがとうございます。
年末も近づいてきましたね。
クリスマス回として書いていますが、いかがだったでしょうか。
あまあまいちゃいちゃさせようかも悩んだのですが、少し大人な感じで書いてみました。
あまり表に出ない彼の感情を少しだけ綴ってみました。
さて予定では今年最後の小説投稿となります。
皆さん今年1年、読んでいただきありがとうございます。
来年も書いていこうと思いますので、是非読んでいただけたら幸いです。
それでは皆様、来たる2026年でまたお会いしましょう。