年が明けた1月5日。
僕らは再び旅行をした。
今回は美晴が全部決めているから、僕は何も知らない。
今までこうして2人で出かけた旅行で、僕が知らないというのはあまりなかったから、少しだけ新鮮に感じていた。
東京駅に向かい、やってきたのは東北新幹線のホーム。
てことは、また東の方に行くということ。
どんな旅行になるのか、少し楽しみな気持ちもありながら、美晴から切符を受け取った。
「はい、ここからはこれを使います」
ここから乗るのは東京8:32発のはやぶさ・こまち7号
今回ははやぶさ側の乗車となった。
旅行そのものは2泊3日となっていて、今日が少しハードとのことだった。
あと、美晴には「オフィスカジュアルの服装で」とのお願いもあった。
美晴と旅行するときは、たいていオフィスカジュアルで毎回行くけどね……
「おみくん、仙台駅に着いたらここに向かいますね」
と言って渡されたのはとある式場か何かの招待券だった。
その式場に覚えはないが、外装が非常にきれいだった。
てことはもしかして……
全ての点が線でつながった感覚を覚えた。
そんな2人を乗せて10:18に仙台駅に滑り込んだ。
今回はここで下車してそのまま美晴が指定した場所へと向かう。
そこには、すでに凛とした女性が待っていた。
「美晴、久しぶり」
「奏、元気だった?」
どうやら美晴の旧友らしい。
笑顔で2人が会話をしているのを見ると、少し和やかな気持ちになる。
「向こうにいるのが未来の旦那さん?」
「旦那さんなんて、恥ずかしい……」
美晴が少し顔を赤くしていた。
そんな美晴と目が合って、こっちに来てほしいと言われた。
「今日はね、ウェディングフォトを撮ってもらおうと思っててね、わたしの高校の同級生でカメラマンをしてる奏にお願いしてるの」
「初めまして。安藤奏です。よろしくね」
気さくな感じの話し方ですごく波長が合いそうな雰囲気がある。
「初めまして。私こういうものです」
と、自分の名刺を渡した。
「元々2人ってどういう関係だったの?」
「美晴のマネージャーを担当してて、その後少しだけ担当を離れていたけど、今は専属マネージャーとなり、今年からは美晴の事務所のIT関連のことも担当することになってます」
と端的に説明した。
「まさか、美晴が年下と付き合うなんて思わなかったわ……」
「そう?そういう奏は?」
「ま、私も年下と結婚したけど」
高らかな笑い声が響く。結局そうなんかいと突っ込みたくもなった。
「さ、入って入って。準備できたら撮影するよ」
「よろしくお願いします」
と言って、僕らは式場の中に入り、着替えをした。
とはいえ、僕は着替えが先に終わっていたから、式場の階段先で外を眺めながら美晴が着くのを待っていた。
5分ぐらい経った後、美晴到着した。
それがわかるかのように、ヒールの音がコツコツと大きくなる。
美晴が僕の左肩に触れたのを見て振り返ると……
薄い緑色の長いワンピースを着た美晴がそこにはいた。
「どう……かな?」
少し恥ずかしそうに美晴が聞いた。
「うん、すごく似合ってるし、美晴らしくて落ち着いてる」
「おみくんも、ぶれない落ち着きがあって好き……」
お互いのファーストミートは少し恥ずかしいものだったけど、それでも落ち着いたものができたのかなと感じた。
「お二人とも、落ち着いた感じで似合ってますね~」
ほどなくして奏がやってきた。美晴の化粧を担当してその片づけをしていたらしい。
「さ、撮影してくよ~!動画のリクエストもあったから、動画もアシスタントの人に流してもらうからよろしくね」
と言って、1日の撮影が始まった。
指輪を開けるシーンや、お互いの手に付けるシーン、ピアノ演奏のシーンや個人ショットなど、被写体として撮影された数、なんと200以上。
動画も150ほど撮っていたとのことだった。
夕焼けの時間には、式場の外に出て撮影も行った。
少し寂しい気持ちを持ちつつも、どこか嬉しくもあった。
17時。長かった撮影も終了……と思ったその時。
「じゃあ、明日は車で志津川までよろしくね」
「おっけー!任せて頂戴!」
美晴と奏の会話を聞いて……
「あれ?明日もあるの?今日だけかと思ってたけど」
「あれ?雅也さんには言ってないの?」
「うん、言ってない。彼はなんでも知りたがるから」
痛いところを突いてくると同時に、明日もあることが決まっていたみたい。
それよりも、美晴と奏が一緒に笑っているところを見ると、どこか懐かしい気持ちにもなった1日目だった。
その日の夜、僕と美晴は仙台市のホテルで泊まった。
そのホテルは、僕らにとっての思い出の場所だった。
「ふう」
部屋に入った途端、疲れがどっと来た。
「おみくん、1日お疲れ様でした」
美晴が荷物を置く。
なかなかなれない服装での撮影ということもあり、疲労もあった。
今日は特に何かあるというわけではなく、このまま終わりみたい。
夜ご飯について全く決めていなかったけど、美晴が「パスタが食べたい」と言ってたので、イタリアンのお店にした。
そうして1日目が終わったのだった……
寝る前に時計を見たら20時だった。
2日目は志津川へと向かった。
その場所で今日は撮影をする。
「美晴、志津川がどうしてわかったの?」
「おみくんにこの場所を教えてもらったの。その時にね、震災遺構として今もある式場があるから、そこで写真を撮りたいの」
まさか自分がきっかけだとは思わなかった。
……にしても、志津川なんて言ったっけ……
別に美晴に言ったから何かがあるわけではないけど……ま、いっか。
この日は海の近くでの撮影だった。
この日はお互い白と青を基調とした服装だった。
とはいえ、僕のズボンの色は黒だったけど。
外での撮影だったから、海風が強い。
だから、美晴は撮影の途中からは髪を結んでいた。
レッスン中は髪を結んでいるみたいだけど、それ以外で髪を結ぶ美晴なんてあまり見ないからか、少し新鮮だった。
撮影は日中いっぱい行われた。
外は快晴だったからか、とても良い心地よさがあり、テンションも上がっていた。
美晴もそれは同じだったみたいで、仙台に戻るまでの帰りの車の中では二人とも寝ていたらしい。
2日間の撮影を終えて、仙台に戻ってきた僕たちはいったんホテルに戻る。
「今日は奏とその旦那さんが来るみたいで、一緒にご飯を食べる予定なの」
ちょっとした打ち上げみたいで面白そうだった。
思えば、最後に打ち上げに参加したのはいつだろうか……
思い出したくても思い出せなかった。
「お待たせ~」
奏の隣には男性が一人立っていた。
背は僕と同じかやや高いくらいで、さらっとしていながら、どこか優しさもある。
落ち着いた振る舞いが特徴の男性だった。
「紹介するね、私のパートナーの安藤康広さんです」
「皆さんお疲れ様です。奏が2日間お世話になりました」
康広さんが挨拶をする。ちなみに後で聞いたら同世代だった。
「さ、今日はみんなで仙台が誇るおいしい焼き肉をたべよ~」
と言って、みんなで焼肉料理店に入る。
ちなみにこのお店、プロのアスリート選手も足を運んだことのある有名なお店だった。
それを象徴するかのように、サインの色紙が並んでいた。
その後は2日間の撮影の話や僕たちの仕事やプライベートの話をしながらおいしいお肉を堪能した。
美晴もとても楽しそうで、ワインまで頼んじゃって、本当にここにきて良かったと感じた。
美晴はお酒をよく飲むけど、今日は控えていた。
「奏、2日間ありがとう」
「こっちこそ、ありがとうだよ!また東京遊びに行くから待っててね~」
「ふふっ、いつでもおいで」
と言って2人と別れ、長い撮影が終わった。
奏たちと別れた後、2人でホテルに入り、仙台の夜景を眺めていた。
「おみくん、2日間お疲れ様でした」
「美晴こそ、企画から何から何まで、全部してくれてありがとう」
美晴の頭が僕の肩に乗っている。
重たくはないし、むしろ心地良いくらいだった。
「おみくん、疲れとか、大丈夫ですか……?」
「良い疲れになってるから、この後お風呂に入ったらすぐに寝ようかな?」
「わたし、もう少しだけこのままでいたいですけどいいですか?」
「うん、いいよ」
今日の美晴はどこか甘えんぼで、声がいつになく優しい。
きっと、ほとんど1年間甘えてなかったからなのかなと感じ、そっと頭を撫でた。
すると美晴さんは「もっとして」と言わんばかりに、視線をこちらに向けた。
そんな甘えんぼな美晴にいじわるがしたいと思った僕は、美晴の唇に口づけをした。
「ん……」
時が止まる。
それくらい優しい時間だった。
目を見開くと、美晴の顔が赤くなっていた。
「おみくん、ずるい……」
「ダメだった?」
「ダメじゃないですけど……ずるい……」
かわいい。すごくかわいい。
美晴が彼女でよかった……
こんな顔、他の人には見せれない……な……
そっと横を見ると、美晴が幸せそうに寝ていた。
やれやれ……という顔をして僕は美晴をベッドまで運んだ。
あと2か月……
長いようで短いんだと感じる。
幸せで満たされなかった空白の9ヶ月を満たすには十分すぎる2日間を過ごした。
新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
この度は「3.11 Op.21」を読んでいただきありがとうございます。
今まで出てきてなかったウェディングフォトのお話です。
少し書き足りない部分はありましたが、それでも書くことができてよかったです。
また、志津川には東日本大震災の遺構として、式場があります。
詳しくは語らないですが、気になる方は是非足を運んでみてほしいと思いますし、
活気ある三陸の街と海の幸を堪能してほしいと思います。
さて寒い時期がまだまだ続きますが、皆さんも体調管理には気を付けて、暖かな春を待ちましょう……
それでは次話もお楽しみに!