その翌日、僕らは仙台駅から石巻に向かう。
まずはその途中にある駅の跡地を目指していた。
「人、少ないね」
「まあ東北の平日の昼間だからね」
今日は金曜日で、明日は結婚式。
今日はそこまで長く外に出ることはするつもりはなかった。
その分朝も早く、今日は8時に出発している。
「今日はどこに行きますか?」
「せっかくだし、美晴と一緒に行きたい場所があるからそこに行こうと思ってね」
実は今日については美晴も何も考えていなかったみたい。
だから、代わりに僕がプランを考えたってわけ。
それで突発で僕がプランを組んだけど……喜んでもらえるかな
と少し不安を抱えながら、列車に乗って駅に着いた
「ここで降りるよ」
「ここは?」
「野蒜駅だよ」
「初めて聞きました……」
ということで野蒜駅で下車した。
ここに来た理由は1つ。
「ここから15分から20分くらい歩くよ」
と言って、僕たちは目的地に向かった。
「ここは……もう1つの野蒜駅?」
美晴が驚くのも無理はない。
ついた場所にも「野蒜駅」と書かれていたから。
「ここは東日本大震災遺構の旧野蒜駅。東日本大震災前までに使用していた野蒜駅は実はこっちで、現在の野蒜駅は建て替えられているんだ」
「この場所に、震災があったことを忘れないために……」
「そういうこと。ほかにも東北沿岸にはいろんな震災遺構が残っていて、奇跡の一本松もその1つだよ」
「わたし、奇跡の一本松聞いたことあるよ!」
「今度そっちのほうに行くのもありかもね」
なんて他愛もない話をしていた。
館内に入ると、野蒜駅の歴史や、震災があったことを示す展示物がおかれていた。
そして、旧野蒜駅の周りを1周した。
「なかなか駅の周りを周るなんてことはないから、いい機会になったかな」
「はい!良いものが見れてよかったです」
散策を終えると、お昼時だったので、お昼ご飯を食べた。
どれにしようか悩んでいたけど、せっかく東北にいるならと思い、海鮮にした。
美晴もほとんど同じ感じで決めていたのがなんともかわいらしいと思った。
「ここからどこに行きますか?」
「もう1つ野蒜駅周辺で紹介したい場所があるからそこに行くよ」
と言い、先ほどの野蒜駅跡を過ぎ、歩くこと15分。
やってきたのは目的地、とは程遠いくらい何もない場所だった。
外は晴れているにもかかわらず、日陰となっていた。
「ここは……?」
美晴が不思議になるのも無理はない。
「ここは奇跡の丘だよ」
「奇跡の丘……?」
「2011年3月11日当時、実はこの道は仙石線が走っていたんだ。そんな中、東日本大震災が発生し、車両がここで止まってしまったんだ。津波が来るため。乗客は逃げるしかないと思っていたけど、乗客でいた消防士の方が「ここにとどまりましょう」といったんだ。その結果、津波はこの丘には来ず、乗客は全員無事だったということから名づけられた丘なんだ」
「そんなことが……素敵なお話……」
感動のあまり美晴は涙目になっていた。
それがたまらなく好きでもあった。
ここに連れてきてよかったのかはわからない。
それでも、この奇跡は僕らが出会ったことと同じくらい奇跡なのかもしれない。
「美晴」
「なあに?」
「僕らが出会ったことも奇跡だと思う。だから、この奇跡と軌跡を大切にしていこうね」
「はい……!」
僕らは手をつなぐ。
その手は少し冷たくもあったけど、すぐに暖かくなった。
「おみくん、一緒に写真撮りましょう?」
「いいよ」
この出会いと軌跡を残すために、僕らは写真を撮った。
仙台に戻ると、地元の高校生たちが楽しそうに話していた。
実はこの日はそこまで長く外に出ることは考えていなかった。
現在時刻も16時と早い。
僕らはホテルに戻り、荷物をまとめたりしていた。
夕日が西に傾き始めた時だった。
「美晴」
「なあに?」
「話したいことがある」
昨日美晴にサプライズをされて、僕が何も準備していないわけがなかった。
「美晴はいつも僕のことを気遣ってくれてとても優しい」
「おみくんも、すごく優しいですよ……?」
「僕が与えられたやさしさなんて、半分もないんじゃないかっていうくらいとても優しい」
「恥ずかしい……」
「それに加えて、僕は愛情表現を美晴よりしないから、どう思われてるのかも不安で仕方がなかった」
「5年前に約束した。ここで結婚式をしようって。その道は果てしなく遠く、果てしなくつらく、果てしなく不安だった」
「でも、もう大丈夫。僕がその不安を忘れさせるくらい幸せにする」
僕はジャケットに閉まっていたケースを1つ取り出す。
美晴の目に涙があふれていたのが分かった。
「お待たせ。待たせちゃったね」
「ずっと……待ってましたよ……」
「夜峰美晴さん、僕と結婚してください」
「はい……!」
美晴は僕が開けたリングケースを手に握りながら涙を流していた。
それが美しくて、僕も泣いていた。
「ずっと……待ってました……」
「ごめんね。遅くなって」
「ううん……うれしい……」
美晴は僕の胸に抱きつき、ずっと泣いていた。
そっと頭をなでで、泣き止むのを待っていた。
「おみくん……指輪つけてください」
「うん」
僕は左手の薬指に指輪をつける。
その指輪には小さな緑色の真珠が3つ乗っていた。
「綺麗……」
「この指輪は仁さんが決めてくれたんだよ」
「お兄ちゃんが?」
「実は何度かお話したことがあって、その時に「美晴と結婚するならこの指輪にしてほしい」って言われててね」
「お兄ちゃん……ありがとう……わたし、幸せだよ……」
美晴がすごくうれしそうだったのが目に見えてわかる。
自分が思いを伝えないせいで不安なことが多かったのかもしれない。
それが逆に申し訳ないくらい。
「美晴」
「はい」
僕らは口づけをした。
ゆっくり、深く……そして抱きしめて。
夕日に照らされて、その輝きは少しだけまぶしくも感じた。
皆さんこんにちは、投稿主のおみです。
この度は「3.11 Op.23」を読んでいただきありがとうございます。
お互いの想いの回、今回は僕にフォーカスを当てた回でしたがいかがだったでしょうか。
まあ多くは語らないです。
ちなみに野蒜駅の奇跡の丘の話は本当なので、詳しく知りたい方はぜひ調べてみてください。
さてあとがきはここら辺にしましょうか。
次話もお楽しみに!