「おはようございます」
「おはよう。美晴」
時刻は朝7:00。僕と美晴が目を覚ました。
「いよいよですね……」
「なんだか……あっという間だったな……」
2人とも、今日という一日を噛みしめていた。
5年前の今日、僕は美晴と結婚しようって約束をした。
今日はその日。
僕らにとって、新たなスタートとなる日。
僕らの式を祝うかのように、空は雲ひとつない晴天だった。
式は午後からと少し遅い。だから、ゆっくりと準備をする。とは言っても、11:00くらいには式場に入って施設内を確かめたりするけどね。
ちなみに、式場は柚葉のお父さんにお願いしてもらった。
ぴったりなところを選んでくると言われたが、果たしてどんな場所なのだろうか……
場所は伝えられていた。ホテルから歩いて20分くらいの距離の場所にあるとのこと。
2人でまずは朝食を食べにフロアへ。
そこでは、色とりどりの食材が並べられていた。
朝食はバイキングみたいな感じで、多くの人が利用していた。
「ねぇ、おみくん」
「ん?」
「和か洋、どっちにする?」
やめて。その質問ほんとやめて。
僕は優柔不断なところがあるから、そんなふうに質問をされると答えるのが難しい。
でも、今日だけは決まっていた。
「洋にしよっかな」
「うふふ、じゃあわたしもそうしよっかな……」
2人でご飯を取る。
パンにもいろんな種類があってすごく優柔不断になっていた。
それをみていた美晴が横で笑っていた。
「ほんと、おみくんはいつも変わらないですね」
「うぅ……」
ようやく僕も食べるものをとったところで席に座って2人でご飯を食べる。
その時に、2人でこんな話をした。
「おみくん」
「なぁに?」
「今日は、誰が来てるのかな……」
美晴も、どんな人が来るのか少し心配していた。
実は僕もなんて言えないけど。
「きっと、みんな来てると思うよ。仕事の人以外はね」
「だといいな……」
そんな話をしているうちに2人ともご飯を食べ終わっていた。
「部屋、戻ろっか」
2人でエレベーターを使って部屋に戻る。
気付けば太陽が部屋を明るく照らしていた。
「おみくん」
「ん?」
ふと呼ばれたので振り返る。
そこには優しい日差しに照らされた美晴がいた。
「今日のこと、覚えてくれてたんですね……」
「もちろんだよ。それに、僕から約束したからね」
こうしてお話をするだけで、ちょっとずつ幸せが満たされていく気がした。
そして気づけばホテルを出る時間になっていた。
「じゃあ、行こっか」
「はい……」
美晴と一緒に、式場まで歩く。
外は少し肌寒いが、太陽が暖かく、過ごしやすい天気だった。
信号で止まっている最中に美晴が僕の方を向く。
「おみくん」
美晴の頭が僕の肩に乗る。
「どうしたの?」
「わたしね……すごくドキドキしてる……」
美晴……もうドキドキしてるの?早くない?って思ってしまう。
でも、それは僕も同じだから、人のことは言えない。
「うん、僕もすごくドキドキしてる……」
素直な思いを伝える。こういうところ、美晴と似てるのかな……なんて思っちゃう。
「うふふ、わたしとおみくんって、なんだか似てるね……」
「そうかな……」
少し恥ずかしかった。
美晴と似てるって言われたこともそうだけど、やっぱりシャイなところはあるんだなって感じた。
それも含めて似てるのかな……ううん、それもきっといいことだよね……
「あ、ここ左だって」
「はーい」
そんなことを話していたら、今日の式場についた。
「ここらしいよ」
「綺麗……!」
歩くこと20分、やってきたのは大きな式場だった。外壁は白で覆われている。
すでに中に何人かいるとのことだったので、僕らも入ることにした。
「おお……」
僕と美晴は一緒に驚きの声をあげる。
式のスタッフの人が僕らに気づいて声をかける。
「準備室がこちらになります」
「ありがとうございます」
「じゃあ、また後で」
「はい……」
2人は別々の部屋に分かれて準備をする。
僕の部屋は、少しだけ大きくて、なんだか別世界に移り住んだかのようだった。
ー1時間後ー
コンコン
僕の方にノックが来る。
美晴かな?
「はーい」
僕はそう返事をする。
「失礼しま……!」
美晴は僕を見た瞬間に驚いていた。
「おみくん……かっこいい……」
僕はベージュのセーターを中に来て白のネクタイをつけたコーデに。
普段からあまり白を着るタイプではないから、それが意外だったのかな……?
サラッと着こなしている感じは確かにあったけど。
「美晴も、似合ってるよ……すごく美しくて、かわいいよ……」
「ありがとうございます……」
僕はしまっていた1つの手紙を渡す。
「美晴、これ」
「手紙?」
「うん、読んでほしい」
美晴に渡した手紙、送り主の名前は……
夜峰仁
「お兄ちゃん!?」
そう、癌で他界してしまった美晴の実の兄からの手紙だった。5年前、亡くなる前に僕にそっと渡してくれた手紙を、今ここで渡したのだ。
ー5年前ー
福岡市の病院にて
「これを……?」
「あぁ。結婚式当日に美晴に渡して欲しい」
その手紙と同封されていたのは、小さな箱があった。
「この箱の中に入ってるのは……」
「結婚式当日につけてほしいピアスのケース。中身は、その時になったら受け取ってほしい」
「わかりました」
ーーーーーーーーーー
その手紙の内容には、こう書かれていた。
美晴へ
結婚おめでとう。
家族みんな、美晴のことを応援してくれているみんなも、きっと美晴のこと、祝ってくれてるよ。
母から、「美晴は1人だと思い込んでる」って聞いたけど、もう1人なんかじゃない。マネージャーがいる、声優を目指すみんながいる、美晴のことを応援してくれているファンの方がいる。だから、もう1人なんかじゃないよ。
辛いこと、悲しいこと、沢山あっただろうけど、これから待つのは、そんな辛いことでもなく、悲しいことでもなく、幸せなことと、明るい未来がきっと待ってる。
2人でもっと幸せになってほしいし、もっともっと笑ってほしい。
マネージャーと一緒に、前を向いて、美晴がもっと有名な声優になって、ずっと幸せな生活が続くことを願ってます。
がんばれ。
夜峰仁
「お兄ちゃん……」
美晴の目からは涙がこぼれ落ちていた。
「ずるいよ……お兄ちゃん……」
「美晴……?」
「はい……」
少しだけ心配したので声をかける。
「実は、僕、昔に美晴のお兄さんに会ってた。お兄さん、ずっと美晴のこと心配してた。でも、その時に「僕が美晴を幸せにする」って約束したんだ」
「おみくん……」
「これは、君のお兄さんから美晴へのささやかなプレゼント」
僕は美晴に一つの正方形の箱を渡した。
「中身……開けてもいいですか?」
もちろんだよ。開けてみて……
美晴が箱を開ける。その中身には……
「……!」
美晴が「ずっとほしい」って言っていたブランドのピアスが入っていた。
少し上品なもので、高いものだ。
「嬉しい……つけていいですか?」
「もちろんだよ……つけてみて……」
「はい……」
美晴はすぐにピアスをつける。
「似合ってますか……?」
美晴は近くにあった鏡を見ながら僕に聞く。
「すっごく似合ってるよ。美晴らしくて素敵だよ」
「おみくん……ありがとうございます……」
美晴はまだ泣いてた。
よっぽど嬉しかったのだろう。
「よしよし……」
美晴の頭をそっと撫でる。
すぐ甘えたがるけど、今は我慢してるみたい。
「我慢しなくて良いんだよ。これからもっと沢山甘えていいんだよ?」
「じゃあ、もっと甘えますね……」
「いいよ。おいで」
「はい……」
美晴は僕に抱きついてきた。
しばらくは甘えてなかったから、久しぶりに甘えて幸せなんだろうな……
そんなことを考えていたら……
コンコン
「はーい」
誰かが来たので、ドアを開けると、そこにはAiRBLUEのみんなが待っていた。
「マネージャーさん、結婚おめでとうございます!これは、私たちからマネージャーさんへのプレゼントです。こっちが、美晴さんへのプレゼントです」
「陽菜、ありがとう……」
「ふふっ、おめでとうございます」
陽菜はそう言って去っていった。
みんな、来てくれてたんだな……
何だか少し安心する。
「美晴?」
「なんですか?それ?」
「AiRBLUEのみんなからプレゼントだって。はい。こっちが美晴の分」
そう言って箱に「美晴さん」と書かれた箱を渡した。
「みんな……」
「みんなもすごく祝ってくれてるみたいだね」
ぎゅっ。
その瞬間、少しだけ胸が締め付けられた。
「わたし……」
言いたいことはすごくわかる。だから、言ってあげた。
「うん、もう1人じゃないよ」
「はい……!」
すると、美晴はあることに気が付いた。
「ペアリング、外しますか?」
「うん、そうだね。あ、指輪はもう式場の関係者の方に渡してあるから安心して」
「はーい」
2人はペアリングを外し、そっと箱にしまった。その時、スタッフさんから声がかかる。
「もうすぐ時間です」
「じゃあ……行こっか……」
「はい!よろしくお願いしますね!マネージャーさん!」
2人で歩き出した。
とは言っても、美晴がかなり歩き辛そうだから、ゆっくり歩いてあげた。
「こちらでお待ちください」
そう言われて僕らは所定の場所で待つ。
目の前には、大きい扉がある。
その扉の向こうでは、ざわざわと声が聞こえる。
この先に、きっとみんなが待ってくれている。
「ねぇ、おみくん」
「ん?」
美晴の唇が僕の唇に触れる。
控え室を出る前に塗ったリップクリームの香りがほのかにした。
「うふふ、予行演習」
彼女のずるいところはこういうところで発揮してくる。
今のも完全に不意打ちだった。
「開けます」
ギイィ
目の前にあった大きな扉が空いた。
その瞬間、眩しい光が僕らの目にも入る。
それでも、みんなの暖かな拍手に包まれ、僕らは入場した。
僕らは、牧師の前にたどり着くと、それぞれ誓いの確認が行われる。
「指輪の交換をお願いします」
美晴がグローブを外し、預けていた指輪をもらった。その時、僕はこう呟いた。
「この指輪は、美晴のお兄さんが決めてくれたんだよ」
「……!」
これが、僕から美晴への最後のサプライズ。実はこの指輪は、美晴の兄の仁さんが決めたもの。
正確には、僕も付き添っていたから、僕も関わっているんだけどね。
「それでは、誓いのキスをお願いします」
そう言われて、美晴のベールを外した。
「おみくん」
蕩けた美晴の顔に、少しだけ動揺しそうになったが、なんとか平常心を保つ。それでも、僕から美晴さんへ送る言葉は1つだけだった。
「美晴、これまでも、これからも……幸せになろうね」
「……はい……」
ゆっくりと唇が触れた。
その時間は3秒くらいだった。それでも、この時だけは3秒が長く感じた。
みんなからも、拍手が沸き起こる。
唇を離すと、僕は美晴の頭をポンポンと撫でた。
さっきつけた指輪が少しだけ光り輝いていた。
あの日から15年を迎えた今日、3月11日。14時46分に鳴り響いたのは、悲しみの鐘でもなく、何かを告げるサイレンの音でもなく、悲しいアナウンスでもなく、幸せの鐘の音だった。
ー式後ー
「ふぅ……」
僕は一息ついて時間を確認した。
この後は二次会。少しだけ楽しみ。
でもそれは、美晴もおんなじだった。
「おみくん。お疲れ様」
「お疲れ。疲れてない?」
「さすがに疲れました……」
「だよね。僕も疲れたし、ちょっとゆっくりしよっか」
「はい……」
美晴がゆっくりとソファーに座ると、すぐに僕の膝の上に頭を置いてゆっくり寝ていた。
「すぅ……すぅ……」
「……よっぽど疲れたんだね……」
僕はぽんぽんと頭を撫でる。
ゆっくりと頭をさすりながら、外の夕日を見つめる。
「おみくん……しあわせ……」
寝言かな?
そんなふうに思いながら、ちょっとだけ笑った。
「僕も幸せだよ……これからも……たくさん思い出作ろうね」
そっと静かに見守る。
美晴の頭を撫でながら、幸せな時間を共にしていることが嬉しかった。
外は夕陽が眩しい。
でも、カーテンを閉めようとはならなかった。
「新郎様。来客です」
スタッフの方が僕を呼びにきた。
が、僕はこう答えた。
「用事があるので、今は応答できないと伝えてください」
「かしこまりました」
今はほんのちょっとでもいいから美晴との時間を大切にしたい。
それだけ……それだけでいい……
それが、今の僕にとって、いや、美晴さんにとっての1番の幸せ……
2人だけの幸せな時間がこの先ずっと……続きますように……
僕は、仁さんの手紙をそっと封筒にしまった。
その時、ふと最後の言葉を目にした。
みんな、ありがとう。今、とっても幸せだよ。
これからも、この幸せがずっと続きますように……
みなさんこんにちは、投稿主のおみです。
この度は「3.11 Op.24」を読んでいただきありがとうございます
肝心なお話を1日遅れで出しました
体調不良かつ昨日が資格試験だったので致し方なし……本当にすみません
さて、2020年くらいから約5年ほど長々と書き綴ってきましたが、それもようやく完結です。
いやー、長かった。
長かったですし、途中なかなか書けてなかったりがありましたが、最後まで無事に書けてよかったです。
本当に長いお話にお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。(最初から読んでくれてる人ってどれくらいいるんだろ)
お話そのものはあと6話ほどあります。1話が本編最終話(という名の半分アフターストーリー)、5話が完全なるアフターストーリーです。
年内までに書ければと思ってますのでそちらも是非お楽しみください。