いつもの生活そのものが、何気ない一日。
でも、誕生日の日だけは特別に感じられる。
「おみくん、お誕生日おめでとうございます」
「美晴、ありがとう」
いつしか、心に開いていた大きな傷は消えていたように思えたのかもしれない。
それでも、弱り果てた心はまだ癒えきってなかった。
ぼくはゆっくりと目を閉じて回想する。
これまでの全てを、そして、完全に閉じ切ってしまった心を。
でも、それをさせなかったのは美晴だった。
後ろからそっと抱きついてくる。
これはいつものことだけど、今日だけは少し特別に感じた。
「おみくん」
「美晴…….?」
そっと手を握る。
今日も変わらずその手は暖かった。
「うふふ、たまにはこうしてゆっくりしましょう?」
「もちろんそのつもりだよ。また無理してた?」
「そんなことないですけど……甘やかしてくれないなぁって……」
美晴はとっても甘えたがりな人で僕も正直困惑しているところもある。
でも、こうした彼女の良さが僕にとってもすごくいいものであった。
「美晴、最近甘やかしてもらえないからって寂しかったんでしょ?ほら、おいで」
こうしていつも許しちゃってるところがダメなのかなと思いつつも、どうしても甘やかしてしまう。
はぁ……僕はいつからこんな人間になったのだろうか……
でもこうして美晴が幸せでいてくれることが何よりも僕の幸せだった。
……なんて彼女の前では言えないけどね。
「ぎゅー…………」
美晴は僕が休みだとこうして甘えてくる。
もうそれも日常の1つにすっかり入ってしまった。
でもまほろたちもそれを容認してるみたいだからいいけど……
「美晴……」
「なぁに……?」
「壊れた心って戻ってくるのかな……」
「……」
ふとこんなことを聞いてみた。
弱りきって、疲れきって、壊れ果ててしまった僕の心。
心の中では日々のストレスだけが募るばかりで荒れ果てて狂い果てた心になっていた。
「じゃあ……おみくんは、わたしといる時はどうしていたの?」
美晴が口を尖らせながら聞いてくる。
なんだか少し怖くて怯えていた。
「美晴といる時は、ありのままでいようと思って……でもそれが、いつのまにか自分の中で、作っていたんだなっていうのが分かって……本当に壊れ果てたんだなって、その時に初めて知った……」
「……」
しばらく2人は黙り込む。
何を話したらいいのかとかもよく分かってなかったのかもしれない。
しばらくして美晴が背中から抱きついてきた。
「おみくん……おみくん……」
美晴はゆっくりと僕の耳元に囁く。
「……」
「この声が、心に届いてますか……?」
「うん。ちゃんと届いてるよ」
「わたし、わかったんです。マネージャーさんのことはたくさん知ってたけど、おみくんのことは知らなかったんだなって」
「え……?」
「マネージャーさんとおみくんは、同じように見えて、実は別人なんだって思ったんです。でもそれに気付けなかったんだなって……」
誰だって人は装う。
自分だけの世界を作るものだと思っていた。
表と裏がない美晴に、こんなこと言われるのって正直どうなのと思ってしまう。
「でも、美晴は表と裏がない、素敵な人だから……ずっとそのままでいてほしい……」
これは僕からの本当の願いだった。
美晴はしっかりと頷いた。
「じゃあ、わたしからもお願いしていいですか?」
「うん、なんでも聞くよ」
美晴はゆっくりと僕にもたれかかる。
それをしっかり受け止めた。
「わたしと一緒にいる時だけは、ありのままのおみくんでいてほしいです」
「うん」
そっと頭を撫でる。
「おみくんの心の中の支えが壊れて、心の拠り所がなくなって、気づいた時には冷たくなり果てたおみくんの心……わたしが大切に……そしてゆっくり元に戻しますね……?」
「うん……ありがと……」
そう言った矢先僕は「すぅ……すぅ……」と再び寝てしまった。
思えばここ数日は少し疲れ気味だった。
それを見た美晴が少し苦笑する。
「もう……頑張りすぎなんだから……」
美晴は少しため息をつく。
でも、すぐに毛布を被せてくれた。
ー4時間後ー
「あれ……?あのまま寝ちゃった……?」
気づいたら毛布を被せてくれていた。
「あ、おみくん起きました?」
「寝てた……?」
「はい、とっても寝顔がかわいかったのでつい写真撮っちゃいました……」
「もう……何してんの……」
「だってー……」
たまにはこんな惚気もいいのかなってふと思っちゃった。
でも、こうして美晴とイチャイチャしてると、嫌なことも忘れていく気がした。
美晴は少し心配して僕に抱きつく。
「おみくん……」
そっと心の奥に響く声。
その声を、もっと聞いていたい……
「おみくんは、強いですね……」
これについては全く否定はできない。ただ……
「でも、ちょっぴり強がりですね……」
「うん……」
「でも、両親がいなくて、それでもひた前だけ向いて、こうしていつも支えてくれてる……そんなおみくんだからこそ、わたしだけはわかるのかな……おみくんの痛み」
僕はその時、美晴にぎゅっと抱きついていた。
なんだろう、不意に思いついてやっただけなのかもしれない。
でも、ほんの少しの温もりを感じた。
「おみくん……?」
「この痛みも、辛さも……美晴となら、一緒に乗り越えられるのかもしれない……」
その中で、自分がどこか美晴の弟みたいになっているんじゃないかって思ってしまう。
それでも、美晴は何も言わずに頭を撫でてくれる。
「うん……わたしも、できることはたくさんやっていきますね……?」
その時、ありのままの自分に数年ぶりに感情が芽生えた。
無意識の雫が、美晴の手にも届く。
「おみくん……ずっと寂しかった……?」
「うん……そうなのかも……感情がないことが……こんなにも寂しいことだったなんて……」
美晴がぎゅっと抱きしめる。美晴の素直な感情が、僕の元にも届く。
やっと…‥戻って来れたのかな……
メンタルが壊れてから3年、ずっと辛くて、それでも前だけ見て……でもその間に体が壊れ、両親を無くした僕に……そっと手を差し伸べてくれる彼女だけは……今もずっと……変わらなかった……
ほおを伝う雫が自分でもわかるようになる。
その瞬間、どっと疲れが襲ってきてしまった。
「おみくん……?」
「美晴……ありがとう……」
「はい……」
「もう少しだけ……待っててね……」
「わたしはいつだって待ってますよ。付き合い始めたころの、今よりもずっと優しいマネージャーさん……いや、おみくんのことを……」
こうして今も待ち続けてくれる人が今目の前にいることが何よりも嬉しかった。
その嬉しさを噛み締めて、僕は3年分の疲れからか、再び目をゆっくりと閉じた。
(感情がなくなってよほど疲れてたのね……)
美晴は僕の誕生日プレゼントとして買った来年の手帳と万年筆を静かに置いた。
(おみくんの暖かい、温もりのある感情が……戻ってるといいな……)
美晴からのそっとした心の願いは、いつしか僕の心に届いていた。
みなさんこんばんは、おみです。
この度は「3.11 Op4」を読んでいただきありがとうございます。
僕自身の内情を全て吐露した内容になってます。
見苦しかった方がいたらごめんなさい。
わたしは22歳になりました。
今年は健康に気をつけて、過ごしていきたいと思います。
それでは次話もお楽しみに!