10月某日
おみくんは東京に一時的に戻っていた。
来年春からは私のマネージャーとして活動しながらも、本人も「働きたい」という思いがあるらしく、来年春から社会人として正式に働く予定をしているみたい。
「おみくん、今度はいる会社ってどんな会社なんですか?」
「ITの企業。ただ、別で行きたい企業はあるから、すぐに転職すると思うけどね」
「これからも、わたしたちのことには携わりながらですか……」
「統括の総務的な役割で働いてほしいってこの前社長から相談があってね。だからこういう決断をしたんだ」
その目は輝きを放ちつつも、どこか寂しい顔をしていた。
わたしはおみくんのことをぎゅっと抱く。
「おみくん、わたしたちとかかわりが少なくなること、少し寂しいと思ってますか?」
「もちろん寂しいに決まってる。ただ、僕よりは彼女たちの方が悲しいと思ってるはず。ただ、彼女たちはそれを乗り越える力があると思ってるから、特に心配はしてないよ。それはもちろん美晴を含めてね」
少し肌寒くなっている室内で、暖かなおみくんの手が触れる。
そっか、もう冬になるんだと実感がわく。
「おみくんは、マネージャーとして活躍していた時の思い出ってありますか?」
「そりゃもちろん、全部だね。辛いときも、楽しいときもあった。それが全て思い出だよ」
その言葉を聞きたかったわけではない。
でも、その言葉がわたしの心に透き通っていく。
それを聞いたわたしは、少しだけ泣いていた。
「おみくん」
「ん?」
怖いよ。でも、わたしは言いたいの。
貴方と一緒に歩んだ日々を、これからも続けていきたいということを。
「わたし、少しだけ考えたの。声優を辞めることについて」
「……!」
「もちろん声優っていう仕事は好き。でも、気づいたの。わたしは声優として仕事で歩んできた日々以上に。おみくんと歩んできた日々が、何よりも好きなんだって。」
「それに、結婚してからは、もっと自分のこと、おみくんのこと、そしてこれから生まれる家族のことも、大切にしたいなって」
「うん」
「もちろん、おみくんと結婚することが、この決断になってるとかではなくて、もとより少しだけ考えていたの」
「わたしがこの舞台で晴れやかに過ごしているのは、今そばにいるおみくんがいるからなんだって」
「ただ、それは突然終わるかもしれない。永遠に続くものではない。この仕事も、終わりはやってくる。そう思ったんです」
「おみくん、わたし、30歳になったら声優を辞めてもいいですか……?」
わたしはおみくんに懇願した。
普段から懇願することはあるにしても、こういった相談のような形はこれまでになかった。
それを聞いたおみくんはゆっくりとわたしを抱いた。
「美晴が決めたことで、後悔がないなら、僕は何も言わないよ。それに、それを相談してくれたことが何よりもうれしい。本当にありがとう」
「こちらこそ、聞いてくれてありがとうございます……」
嬉しかった。すごくうれしかった。
「しばらくこのままでもいいですか……?」
「もちろんだよ」
「ありがとうございます……あ、これは2人だけの秘密ですよ?」
「もちろんだよ。時間になればその時に発表するまで秘密にしよう」
肩書に傷をつけたくない。その思いが強いから、わたしはこの決断をしたのかもしれない。
それに、わたしには大切な人がいる。
その人と過ごす日々が永遠に続かないものだからこそ、大切にしたいと思っていた。
それは、わたしのお兄ちゃんが教えてくれた。
ふとしたことでおみくんに何か起きるかもしれない。
それで後悔をしたくない。
それが、この決断の要因になった。
「美晴」
「はい?」
「全然話違うけどさ、卒業旅行、行く?」
気づけば10月、おみくんの卒業まではあと半年もない。
わたしもそろそろ決めないとと思っていた。
おみくんの問いへの答えは決まっていた。
「もちろんです!」
その時、おみくんは笑顔だった。
その笑顔は作り笑顔ではなく、自然なものだった。
「わかった。期待しといて」
「集合とかどうしますか?」
「卒業式の日に動き始める予定でいるけど、美晴に来てもらうのは申し訳ないから、15時30分に〇〇駅に集合しようか」
「わかりました。楽しみです!」
わたしはメモ帳を開き、メモを取った。
約1年ぶりとなるおみくんとの旅行、楽しみだな……
皆さんこんにちは、up主です。
この度は「3.11 Op.9」を読んでいただきありがとうございます。
今回は少し重めの内容としました。
現実世界ではサービス終了(?)しているので、まあこういった話にしてもいいのかなと。
これで良かったのか……?
10月になりましたがまだまだ暑い日が続きますね。
もう少し涼しくなってくれと思っていますがね……
てことでこの小説の次回は旅行編となります。
おそらく更新は4月になると思いますので、気長にお待ちください。
あとそもそもこのシリーズの投稿ペースが遅い理由としては、2人が別々になっていてお互い会える日が少ないという点があります。悪しからずご了承ください。
それでは次回もお楽しみに!