親族経営中小企業のセキュリティ・レディは今日もダレる。 作:ウェットルver.2
※主人公は報道内容に毛が生えた程度しか事件詳細を把握しきれていないので、イグニスがどうとかまったく知りません。
『ネットワーク社会の崩壊を目論み、これまでも世界中のネットワークに被害を与えたテロ組織「ハノイ」。彼らは「LINK VRAINS」から全世界のネットワークの破壊を実行する無差別破壊事件「ハノイの塔事件」を起こしたのち、その行方は知れず、現在各国の警察機関がハノイの構成員を捜索中です。』
『国際連合の組織である「ICPO」による公式発表によりますと―――』
「……ごちそうさまー」
「いつもありがとうなあ」
「はーい」
おじいちゃんの食器も片付け、台所に行って食器を洗う。
いつもは油物も扱うので水につけておいて、あとで食器を洗ったりするのだけれど、今日はおじいちゃんの食欲がないので、油物を扱わずに済んだ。
というか、最近は今日も、か。
「ネットワークの破壊、ねえ。」
「
ぼくも、ちょっと気になることがある。
仮に「ハノイ」のテロが成功したとして、大企業が運営するSNSでしかない「LINK VRAINS」がサービスを崩壊させたとしても、そこから別のネットワークへと飛び火させて世界各国のネットワークにも影響を与える、なんてことが可能なのだろうか?
……あくまでも報道された範疇の情報なので、本当にネットワーク攻撃という手段だけを目的としたのかは知らない。あくまでも知っている範囲での推測だ。
たとえば、「LINK VRAINS」と同じクラウドサービスを使用している他の企業のネットワークサービスにも攻撃したいなら、まずは当のクラウドサービスを提供する企業を狙って攻撃すればいい。その企業が「LINK VRAINS」を運営するSOL自身であれば、確かにSOLが運営するクラウドサービスへ攻撃するだけで関係企業のネットワークサービスに大打撃を与えることは可能だ。
そういう趣旨であれば、確かにハノイのテロ攻撃は成功するはずだ。
ただ、ハノイが攻撃したのは、SOL運営のクラウドではない。
SOLのクラウドを使っていたとしても。
正確には「SOLのクラウドを使っているサービス」であれ、クラウドそのものには影響が及ぶかが怪しい「LINK VRAINS」のサーバーへ、なのだ。
「これでよし。
晩御飯どうするー?」
「いやいや、さすがに、そんなすぐには思いつかないぞ、
からからと笑いあいながら、ぼくはリビングを後にする。
「……ま、お肉に味はつけてあるし。
魚でも肉でも問題なし。パソコンやるかー」
彼らが一企業のネットワークサービスに大打撃を与えたとしても、占拠したサーバーからネットワークを介して他企業へと攻撃できなければ、世界各国のネットワークへの甚大な被害を与えるなんてできるはずもない。
第一、「LINK VRAINS」のサーバーだってひとつだけではないはずだ。
その手のソーシャルゲームであれば複数のサーバーを用意しておき、無数のユーザーによる大量アクセスによってサーバーが処理落ちしてゲームを遊べなくなる、なんて事態を引き起こさないように努めるものだ。
国際規模のSNSであれば各国別にサーバーが用意されている。
自分は「LINK VRAINS」で遊んだことなんてない。
似たようなSNSで遊びはするが、少なくともソーシャルゲームの日本サーバーに大打撃を与える程度ならばともかく、他国サーバーにまで影響を及ぼすほどのなにかが日本サーバーで起こった、なんて頓珍漢な事例は聞いたこともない。
やるなら当サービスを提供する本社へ攻撃するはずだ。
「どれどれ……へえ、『Go鬼塚のコラボデュエル、Metoobe*1で配信決定』?」
今見ているネットニュースだって、SOLの検索エンジンから見つけたわけではない。ネットワークシェアを10%以上も牛耳る国際企業は他にもある。
ぼくのは、ずっと昔からある別の企業がサービスを維持する検索エンジンだ。
特定の検索エンジンへの攻撃にせよ、複数の企業の検索エンジンを使うネットユーザーにとって、ひとつの企業が攻撃された程度では「ネットワークが崩壊した!」なんて言われても虚言に近い。サーバーもまた同じだ。
一か所のサーバーが処理落ちした程度では、べつのサーバーに影響がでるなんてことは発生しない。むしろサーバーは、最初からそれを回避するために複数用意される。
「たしか「LINK VRAINS」のユーザーだっけ、SOLも大胆なことをやるなあ。わざわざ他の企業のSNSで活動するVtoober*2事務所とのコラボに外野から手を出すって。
……え、まさか、正気? わざわざユーザーを雇い入れる気なの?」
なんかキナ臭いニュースだった。
実際の危険性はともかく、仮にもハノイに攻撃を受けたのだから、ハノイまたは同レベルの犯罪組織への対抗手段たりえる実力者を雇い入れようと考えるのもわかる。
ただ、その最初の一手はこれの可能性が浮かんできた。ちょっといただけない。
コラボ相手、国外でも人気の高いVtooberなんだけどなー。
それを出汁にする気? Go鬼塚の?
「はー、やっぱろくでもないかもなあ、SOL」
このように、ほかの企業の動画配信サイトで世界中の動画や生放送を見られるものもあることはあるが、あれだってサーバーがひとつしかないわけじゃない。ひとつしかないサーバーに世界中のユーザーが集まってしまうような真似はさせない。
一億万な御嬢様系Vtooberが本当に一億万な再生数を誇るアクセスを実現したとしても、その程度では動画配信サイトが破綻しない理由がこれだ。*3
はっきり言って、ハノイがやろうとした「LINK VRAINS」の崩壊なんて、あくまでも「LINK VRAINS」の日本サーバーの中での話でしかない……はずだ。絶対に。
本当に「LINK VRAINS」の全サーバーに影響を与えたいのであれば、まずSOL本社のコンピューターやクラウドに攻撃をするはずだ。これほどまでに広大なネットワークの世界を、いったいどうやったら破壊しきれると思ったんだか。
「……いやでも、まさか「LINK VRAINS」のサーバーがひとつしかなくて、本当にサーバーひとつで全ユーザーがどれだけ無茶をしても一切処理落ちを起こさない、なんて冗談みたいな計算能力がSOLのコンピューターに………ある、のかなぁ?」
だめだ、情報が足りない。
昔から世界各国の普遍技術として広まった範疇では、わざわざハノイが「LINK VRAINS」を攻撃して外部ネットワークにも影響を与える、という手段が実行しきれない。
たしかにSOLは国際規模ではネットワークシェアの30%を占める大企業だが、それでもSOL日本国本社のコンピューターやクラウドそのものではなく、かといって外国支部のコンピューターやクラウドでもない、わざわざネットワークサービスのひとつでしかない「LINK VRAINS」をハノイが狙った理由だけが説明できない。
たかがSOLの日本国本社だけを攻撃しても、べつのネットワークサービスを提供する国際企業なら何社でもある。
そう、何社でもある。
これまでハノイが破壊してきた諸外国のネットワーク、それと同数ほどには。
意図的に「LINK VRAINS」のリソースをすべてネットワーク攻撃に回すためならば話はわかるが、わざわざ「LINK VRAINS」を選ぶ理由が理解できない。それならば世界各国のスーパーコンピューターを攻撃して、そのひとつひとつに攻撃プログラムを実行させたほうがクラッキングの成功率は低いが確実だろう。
というか、「LINK VRAINS」のリソースすべてを攻撃プログラムに変換しても御釣りがくるほどの破壊力が得られないのであれば、さきほどの代案のほうが現実的だ。実は「LINK VRAINS」は自社開発の超高性能な世界有数のスーパーコンピューターを使用したものです、などと公開されれば、まだ納得はできるのだが。
すべての問題点を解消するほどのものが、「LINK VRAINS」にあったのか?
この答えとなる情報、『SOLの技術』が公開されないかぎりは説明がつかない。
事件の当事者である「LINK VRAINS」の英雄とか報道されがちなクラッカー(※犯罪者)、Play-Makerなる「LINK VRAINS」のユーザーであれば、詳細を説明できるのかもしれないが、一般のなりきりユーザーも多いので本当に知ろうとすれば骨が折れるほどの苦労を強いられるだろう。
そもそも。
あの企業、なにかにつけて「企業秘密だ」の一点張りで誤魔化すからなあ。
やろうと思えば、Play-Makerの偽物を用意して、そいつに新聞記者やネットワーク記事の記者からのインタビューを応えさせながら、あることないことでっちあげさせる、でも自分たちからは公式発表していないので噂は噂ですよなに犯罪者の言葉を真に受けているんですかばーかばーか、くらいはやる気がする。
ネット掲示板や動画配信サイトのユーザーを雇って噂話を放流しまくるだけでもいい。何か月も続ければ、SOLに都合のいい風説を広めるくらい簡単なはずだ。かつて某海賊漫画の奇天烈な考察が笑いの種として周知されたように、同じようなジョークの都市伝説として「ハノイの塔」事件を茶化しながらユーザーに印象操作をできたはず。
なのに、これまで似たようなサクラやステマの類が出てきていない。
そんなに自分たちのビジネスに自信があるのだろうか。
SOLの株価、だんだん落ちている気がするのだけれど。
一周まわって買い時だろうか。次にでかい事件が起きたら考えようかな?
「…………はあ、わけわかんねー。」
おじいちゃんと観た番組のコメンテーターも、その手に詳しい専門家ならば「いわゆるハノイの塔には再現性がなく、ありえない」とは口にしていた。逆に詳しくない他称“専門家”のコメンテーターであれば、やたらとハノイへの恐怖や不信を煽りつつ、「同じ犯罪者が生まれないようにするにはどうしたらいいのか」などという解決策にもならない夢物語を筋書きすらなく口にする始末。
「ほんっと、わけわかんねー。」
考えることが多すぎる。おたがいに。
そうやってぼさっとしていると、スマホが振動を始める。
しまった、マナーモードにしたままだった。おじいちゃんから緊急で連絡が来たらどうするんだよ、マナーモード切っておこう。
「あ、はい、おとうさん?
……は? また? うちの会社に?」
幽霊女がどうのこうのと、いつもどおりの怒号を交えた依頼を口にしている。
どうせ大卒の無職なんだから仕事しろ、お前とくらべて暇じゃないんだ、どうせ暇なら街に出て顔に任せて馬鹿で素直な男でも捕まえればいいのにおまえさあ、などなど、またいつもの説教を交えた依頼である。
やめてよね、そーいうの。
おじいちゃんの介護してるんですけど?
「……はーい、デュエルしまーす…………」
お婿さんのひとりでもいれば、ちょっとは楽になるのだろうか。
いや、そういうのはよくない。というか、そんな理由で恋とか結婚とかクソだと思う。そもそも逃げられてんじゃねえよ奥さんに親父さあ、とかぼくだって思うところあるのを我慢しているのだ。親父から痩せ我慢やめて言い出したら戦争でしょ、戦争。
まあいいや、デュエルするだけで御小遣いがもらえるし。
ヘッドホンをつけ、用意された専用のアクセス権で問題の場所まで移動する。
わざわざVRを使用せずに営業するロートル・スタイルの実家の家業ながら、転じてVRのアバターをわざわざ使用しながら攻撃をする独特な美学を持つクラッカーには有効な「VR未対応」というフィルターで妨害できる強みがある。
本当に旧き良きキーボード操作のスタイルしか受けつけない、という、古臭すぎて今時の新人クラッカーにはまだるっこしすぎる方法が選べるのだ。こういうのマジでSOLの悪影響だろ、なんでVR空間上を歩くだけで物理的にセキュリティ突破できて保護するべき情報もVR空間上のオブジェクトとして出力されるのおかしいだろ仕様がマジで。うち旧式に戻してよかったわホント。
ところが眼前に表示された侵入者は珍しく、キーボード操作による攻撃もこなせる旧き良き玄人でもあるせいで、こちらは事あるごとに企業機密を盗まれかねない。
親父の業界でも有名な「Ghost Girl」なるクラッカーだ。あるいは情報屋としても仕事をしているらしいが、こんなんやってたら情報売れないだろ。
お仕事の信用なめてるんですかー?
いや違うな、マジで反社会的勢力に高い値段でうっぱらっているのかも。
こちらの最終プロテクトがパスワードではなく、デュエルの勝敗である点が救いか。
いやまあ複数回挑戦できない方式でのパスワードのほうが確実で強固なんだけれども、肝心のパスワード情報が流出したら元も子もないからね。
親父、女と酒に弱いから……どこのスナックやらバーやらキャバクラやらにパスワード情報漏らすかがわかんねーんだよね、おねえさんと寝て帰ってきたりするし。あのひとワンマンだけどさ、この情報社会でやっていけるかぼく不安だよ。
そいつが最後のセキュリティをぼくに任せるんだから、まあ、なんだかんだ愛されてるし信用されてるし信頼もされてるってことでいいんじゃないかな。うん。
大卒ニートだけど。大卒ニートだけど。
「……あ、またうちの“金庫”狙いにきたよ、このひと。
いいかげんに諦めてほしいなー! うち中小企業なんですけど!?」
お互い、なんだかんだ浅くも深く知り合った仲だ。
相手の使う「オルターガイスト」カードが強力なのも知っている。
ネカマだかマジで女の子なのか、オバサンなのか知らないけれど、うちの親父に女っぽい名前で擦り寄って毎度情報を盗み取ろうなんて、いい度胸してるじゃん。
―――ぶちのめしてやる。
いつ「オルターガイスト」を使わずに別のカードを使われるかマジわからんし、いちいち「オルターガイスト」専用の対策なんてしないで素直に「墓守」カードを使おうかな?
※本作品は一発ネタの短編です。
※あくまでも彼女の考察は部外者目線での考察にすぎないので、実際のハノイの騎士の動向についてはまったく把握しておらず、ハノイの塔の実態も知りません。
※本作に登場した「LINK VRAINS」以外の言及されたネットワークサービスは原作に登場しない(扱われるはずもない)実在のものをネタとしたもので、あくまでも別界隈のユーザーでしかない点を強調するために扱っております。動画配信サイトがニコニコ動画やYouTube以外にも存在するのと同じ理屈です。
続きがあるなら?
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読みたい
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次で打ち切ってもいい
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無理に書かなくていい