コンコンとかかとを鳴らし、ブーツの具合を確かめる。久しぶりに履いたが、問題ないようだ。
扉を開けて外に出ると、冷たい空気が肌を刺す。思わず身震いして、コートの襟を立てた。少し足早に歩き出す。
ポケットに手を突っ込んだまま歩いていると、身体を動かしたからか仄かに温かくなってきた。一息ついて、歩幅を緩める。ふと、懐かしい路地が目に入った。覗いてみると、あまり人気は無い。感慨のまま、路地裏に入って進んでみると、その先はブロック塀で塞がっていた。
「流石にここは変わってるよな」
悲しいとか寂しいよりも、納得の方が強かった。破れた金網をそのままにしておくのは危ないし、撤去して作り替えるのは道理だろう。
時計を確認してみると、まだ約束の時間まで余裕があった。道を迂回し、そのブロック塀の先の道へと向かう。
そこにあるのは、ただの空き家だ。昔の駄菓子屋の形が残されたまま、空っぽになった抜け殻。いや、抜け殻ですら無いか。
「ここで、アイツと出会ったんだったな・・・・・・」
駄菓子屋だった建物に、駄菓子屋だった頃の記憶を重ねて見る。あの辺りにはチョコが置いてあった。あっちには煎餅で、あそこにはグミとかスナック菓子があって・・・・・・そして、店の奥にはおばちゃんが居た。もう色褪せて白黒になった記憶に、目を細める。
「・・・・・・アンタ、そんなところで何してるの?」
相変わらずやや高圧的な声に振り返ると、カーディガンを着込んでマフラーを巻いた、アイツが立っていた。
「別に。ただ、お前と出会った頃のことを思い出していた」
そっけなく返すと、寒さ故か少し赤い顔をマフラーに埋めながら、「あっそ」とソイツは言う。今日もまた、コイツと出かける予定だった。デート、とも言えるかもしれない。
俺の隣に並んだソイツは、無言のままこちらに寄りかかってくる。急かしているのか、と思い、口を開く。
「予定より早いが、行くか?」
「ん・・・・・・もう少し、このまま」
そうか、と短く答えて、再びがらんどうの駄菓子屋へと目を向ける。
子供の頃、孤独から逃れるために訪れた場所。そして、多くの時間を過ごした場所。形こそ残っているが、いずれこの建物も無くなるだろう。そうしたら、残るのは俺たちの思い出だけだ。それは、少し寂しい。
そんな感傷に浸ったまま、ぼんやりと口にする。
「・・・・・・幸せになろうな」
隣の彼女も、同じように思い出に浸ったまま、頷いた。
「うん・・・・・・えっ!!?」
そして、バッとこちらを振り向き、ズザザザザッと距離を取る。一体どうしたと言うのか。
「あ、アンタ、何言って・・・・・・!」
上手く言葉が出ないのか、口をパクパクさせるも言葉を発せないでいる彼女に、俺は首を傾げる。
「・・・・・・そうだった。アンタってそういうヤツだった。動揺したこっちがバカだったわ・・・・・・」
「意味が不明なんだが・・・・・・」
はぁ、と呆れたように息を吐く彼女に、俺は気まずさを覚えて顔を逸らす。普段通りの表情ができているか、自信が無い。
「そろそろ行きましょっか。いつまでもこうしていられないし」
「ああ、そうだな」
先を歩く彼女の背中を見ながら、俺は内心で自己嫌悪を抱いていた。自分の言動を、はぐらかしてしまったからだ。
同時に、改めて決意する。いつか、誤魔化さずにこの気持ちを伝えよう、と。