「で、何で煙草なんか持ってきたんだ、西園寺」
ガッシリとした体格の男性教師が、その身体に不釣り合いに狭い生徒指導室で、一人の女子生徒と向かい合っていた。二人の間に鎮座する机の上には、真新しい煙草の箱が置かれている。
扉の外からは、生徒達の発する声や音が騒々しさに変換され、賑わっていた。
「んー、センセイの好みの女性のタイプを教えてくれたら、答えますよ?」
「真面目に答えろ」
「えー。センセイと二人っきりになりたくて、ですかね?」
「真面目に答えろ・・・・・・」
マジメなんですけどねー、と笑みを浮かべながら口にする女子生徒に、体育教師は呆れたように息を吐いた。
「事前に、今日は持ち物検査だと言ってあっただろう。何で持ってきたんだ」
全く、と彼はこめかみを揉む。数ヶ月前から、目の前に座る女子生徒──西園寺は、問題行動を起こすようになった。手始めに髪を金髪にし、制服を着崩しネイルまでしてくる。こうして生徒指導を受けるのも、初めてではない。
今日も校門前で行われた持ち物検査で、わざわざ自分に煙草を差し出してきたのだ。どういう考えなのか、全く読めない。
「その言い方だと、バレなければ良い、みたいに聞こえますけど?」
「そうは言っていない。が、俺たちに知られなければ、こうして指導されることが無いのは事実だ」
立場上名言できないのだろうが、遠回しに彼女の言葉を肯定した。その様子が可笑しかったのか、女子生徒はクスクスと小さく笑った。
「・・・・・・何が可笑しい」
「いえ、センセイってそういうところあるなー、と思いまして」
厳つい外見とまるで正反対な、甘い性格。教育者としては褒められた事では無いのだろうが、彼女の友人の何人かは、遅刻を見逃して貰ったり、反省文の内容を手伝って貰ったりしている。多分、怒るのが得意じゃないんだろうな、と彼女は睨んでいた。
「ともかく、これは預かっておく。それと、悪いが反省文も書いて貰う」
「はーい」
差し出された原稿用紙を、特に反抗せず受け取り、鞄から筆箱を取り出す。シャーペンの頭を何度か叩いたところで、あ、と思い出したように声を出した。
「センセイの好きな銘柄、それで合ってますよね? プレゼントです、吸っていいですよ」
「お前な・・・・・・」
どんな贈り物の仕方だ、という言葉を飲み込み、代わりに溜め息をつく。
「別に、没収品は教師の物にはならないぞ? 特にこういうのは」
「えっ、ウソっ!?」
計算外だったのか、驚いている彼女に再び呆れていると、コンコンと扉がノックされる。
「いま開けます」
そう言って席を立つ体育教師。恐らく学年主任だろう、彼は生徒の処分が軽く済むことを祈りながら、ドアノブに手をかけ、開く。
「・・・・・・まぁ、反省文書いている間は二人っきりだし、いっか!」
学年主任とやりとりしている大きな背中を眺めつつ、彼女は微笑んだ。