三題噺   作:高々鷹々

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遅刻バレンタイン


お題『校門』『煙草』『預かる』

「で、何で煙草なんか持ってきたんだ、西園寺」

 ガッシリとした体格の男性教師が、その身体に不釣り合いに狭い生徒指導室で、一人の女子生徒と向かい合っていた。二人の間に鎮座する机の上には、真新しい煙草の箱が置かれている。

 扉の外からは、生徒達の発する声や音が騒々しさに変換され、賑わっていた。

「んー、センセイの好みの女性のタイプを教えてくれたら、答えますよ?」

「真面目に答えろ」

「えー。センセイと二人っきりになりたくて、ですかね?」

「真面目に答えろ・・・・・・」

 マジメなんですけどねー、と笑みを浮かべながら口にする女子生徒に、体育教師は呆れたように息を吐いた。

「事前に、今日は持ち物検査だと言ってあっただろう。何で持ってきたんだ」

 全く、と彼はこめかみを揉む。数ヶ月前から、目の前に座る女子生徒──西園寺は、問題行動を起こすようになった。手始めに髪を金髪にし、制服を着崩しネイルまでしてくる。こうして生徒指導を受けるのも、初めてではない。

 今日も校門前で行われた持ち物検査で、わざわざ自分に煙草を差し出してきたのだ。どういう考えなのか、全く読めない。

「その言い方だと、バレなければ良い、みたいに聞こえますけど?」

「そうは言っていない。が、俺たちに知られなければ、こうして指導されることが無いのは事実だ」

 立場上名言できないのだろうが、遠回しに彼女の言葉を肯定した。その様子が可笑しかったのか、女子生徒はクスクスと小さく笑った。

「・・・・・・何が可笑しい」

「いえ、センセイってそういうところあるなー、と思いまして」

 厳つい外見とまるで正反対な、甘い性格。教育者としては褒められた事では無いのだろうが、彼女の友人の何人かは、遅刻を見逃して貰ったり、反省文の内容を手伝って貰ったりしている。多分、怒るのが得意じゃないんだろうな、と彼女は睨んでいた。

「ともかく、これは預かっておく。それと、悪いが反省文も書いて貰う」

「はーい」

 差し出された原稿用紙を、特に反抗せず受け取り、鞄から筆箱を取り出す。シャーペンの頭を何度か叩いたところで、あ、と思い出したように声を出した。

「センセイの好きな銘柄、それで合ってますよね? プレゼントです、吸っていいですよ」

「お前な・・・・・・」

 どんな贈り物の仕方だ、という言葉を飲み込み、代わりに溜め息をつく。

「別に、没収品は教師の物にはならないぞ? 特にこういうのは」

「えっ、ウソっ!?」

 計算外だったのか、驚いている彼女に再び呆れていると、コンコンと扉がノックされる。

「いま開けます」

 そう言って席を立つ体育教師。恐らく学年主任だろう、彼は生徒の処分が軽く済むことを祈りながら、ドアノブに手をかけ、開く。

「・・・・・・まぁ、反省文書いている間は二人っきりだし、いっか!」

 学年主任とやりとりしている大きな背中を眺めつつ、彼女は微笑んだ。

 

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